【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
薫は目を覚ました途端に深いため息をついた。流石に誘拐されすぎだろうと悲しい気持ちになる。ふっと横を見ると聖夜もいたのでホッとした。一応無事なようだし、そうなるとばらばらに監禁されていれば困るところだった。
あたりに目をやるとどこか園内の使われていない建物のようだった。
「あら、お目覚めやね」
しっとりとした女性の声である。薫は声の主を確かめようとして顔を顰めた。体がうまく起こせないのだ。何とか首だけ動かして声の聞こえてくる方向を見た。
「Sランク
謳うように言葉を紡ぐ綾を見て薫はさらに顔を顰めた。
「綾さん、なんの真似です?」
薫の冷たい質問に彼女はニヤリと笑って見せた。
「ちょっと筋肉に支障が出るような薬入りのドリンクをご馳走しただけやし」
との答えに薫は愕然とした。
「そんなもの飲ませるとかどうかしてますよ。死んだらどうするんです」
思わず本気で抗議の声をあげた。
「だってえ、あなたたちに本気で抵抗されたら、私みたいな底辺
今度は無邪気に笑って見せたが、言ってる内容は狂気じみている。
「大丈夫よう。先生が初めてじゃあらへんから。前にも何度かいいなって思った
「最悪ですね」
薫の返答に、綾は眉一つ動かさない。
「あたしの誘いを断るなんて許せへんわ」
女王然とした発言である。薫は彼女の異名を思い出した。女郎蜘蛛となんだったっけ?と頭が痛い。
関西の
そんな薫の思考など気にせず、綾はくるくると手に取った薬瓶を回して見せた。
「これでも気ぃ使ったんやで。秋人くんには使こうてへんやろ」
「はあ?」
「あの子の方がお金持ちやし、審議官とか料理人とかのショボいジョブちゃうやろうから、ほんまはあっちがええんやけどやっぱ歳が若すぎるわ」
綾は薫の横に寝そべって顔を寄せた。
「なあ、先生。私をお嫁さんにして?」
「ご冗談を」
薫が本気で顔を歪める。
「お父様は私のこと娘じゃないって言うし、優は何考えてるか分からんくて気持ち悪いし、匠はばかだしね。もう久宝の家に未練はあらへん」
綾は無表情に告げる。
「でも、贅沢はしたいねん。お金持ち以外は嫌やわ」
つつっと綾の指が顔の頬を這う。
「だから、先生のお嫁さんにしてほしいねん」
左目の下でその長い爪の指が止まった。
「ねえ、知ってる?欠損回復の魔法では短期間にそう何度も同じ部位を再生できないって」
「断固拒否します」
薫の返答に迷いはない。この女と結婚するなど片目になっても御免だ。
「やっぱダメかぁ。先生みたいな人って脅しの代償が自分だとまったく気にかけへんもんね」
ふうっと綾がため息を吐き、薫から離れる。そのまま今度は傍でまだ意識を取り戻していない聖夜に向かった。
「でも、大丈夫。綾は賢い女だからちゃんと準備してるねん」
自画自賛しながら今度は聖夜の腕を取った。
「彼、努力家やねんてね。あんなショボジョブなのに武芸の腕を磨いてAランクまできたってねえ。関西でもえらい褒められよったわ」
との言葉の中に侮蔑をあからさまに匂わせる。
「でもあたしは違う。努力なんか大嫌い。ほんまは回復魔法師なんてなりたなかった。めんどくさいし、覚えなあかんこと山ほどあったし」
ふうっと綾は低い息を吐く。
「だから、あたしはヘボ回復魔法師なんよ」
にこやかに彼女は嘯く。
「たとえば、聖夜くんのこの鍛錬された立派な腕を切り落とした場合、先生ならどうする?」
綾はスラリとした刀を抜いて見せた。
「お友達のリサちゃんにお願いする?でもね、先に私が上級回復魔法をかけたらどうなるやろね。うふふ。歪な腕が仕上がるんちゃうかな。せっかくの努力が台無しやねえ」
だって、私ヘボ回復魔法師だもの
と彼女は自慢げに笑った。
「ねえ、キスして」
刀を薫の顔の横に突き立てながら綾が囁く。片手で器用にスマホを構えた。
「ほら、動画取ってあげる。霧崎桜子に送ってやるねん。眠っている先生とのキスシーンじゃ効果ないやろうから起きるの待ってたんやで。あのスカしたいい子ちゃんが嫉妬で怒り狂うの見られへんのが残念やわ」
綾の目が嗜虐的な思考で歪む。
「なあ、先生。ええやろ。ほら、愛してるって言うて?」
綾の手が薫の白い頬に伸びる。そして唇を重ねようとしたその時
【切断】
という声が響いた。
「は?」
綾が慌てて飛び起きるより聖夜のスキルの方が早かった。ざっくりと音を立てて彼女の刀が彼女自身の腕を切りつけた。
ぎゃあああああという悲鳴が部屋中に響く。
聖夜がゆるりと立ち上がる。彼の手が綾の持つ刀に触れていたのだ。
「やっぱり包丁じゃないと断ち落とすところまではいきませんね」
と血まみれで転がり回っている綾を見て冷たく言い放った。
「遅い遅い、聖夜。あやうく俺の唇が奪われるところだったじゃないか」
薫の文句に聖夜はふうっと息を吐いた。
「無茶言わんでくださいよ。身体強化かけて無理やり動かしてるんですからね」
いててと聖夜が顔を歪める。綾の血で血だらけになりながら薫が体を起こした。
「あ、ほんとだ。身体強化かけたら動けた」
「あ、だめですよ。先生の筋力では明日筋肉痛で動けなくなります。明日の予定が狂ったら秋人くんががっかりするじゃないですか」
明日は皆で海行館に行く予定になっているのだ。若者は元気である。
「これ、どうします?私のスキルなら細切れくらいまでならできるかと思いますが」
などと、聖夜が収納魔道具から愛用のオリハルコンの包丁を取り出して恐ろしいことを言うので、薫は苦笑いである。どうにも朽木の家の人間は思い切りが良すぎる。
「どうもこうも。捕らえて訴えるしかないでしょう」
ぼやく薫の携帯が鳴った。
「あ、秋人だ」
薫はため息を吐いた。またも誘拐されてしまった言い訳を必死に模索する。
今回は不可抗力だし、聖夜も一緒だし、何なら自分を安売りもしなかったので、怒られる筋合いはないのだが。
「絶対怒られるな」
と頭を抱えた。
薫「聖夜くん、秋人がきたら一緒にごめんってしてくれる?」
聖夜「たぶん、とんでくる秋人くんは私のことなんて目に入りませんよ」
薫「そこを何とか一緒に謝ってよ」
聖夜「そもそも、先生悪くないでしょ。被害者ですし」
薫「理屈じゃないんだよおおおお」
聖夜「先生のご職業は?」
薫「…弁護士です」
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