【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
駆けつけた秋人と冬由は最初血だらけの薫を見て鬼のような形相で綾を睨んだが、聖夜がそれが返り血なことや彼女がもはや半死半生なことを説明すると押し黙った。
「言っておくけど、今回俺は何も悪くないぞ」
と薫が防衛線を張る。秋人がチラリと聖夜を見ると、彼もこくりと頷いたので秋人も胸を撫で下ろした。
「一応死なない程度に治療しとくわ」
と薫と聖夜の治療が終わった冬由が綾に向かうと、彼女はヒステリーを起こして叫んだ。
「冗談じゃないわ!こんな子供に治せる訳あらへん!ごめんやわ」
とのことなので冬由は肩をすくめる。
「じゃあ、これですかね」
着替えた薫が収納から一本の瓶を取り出した。
「エリクサーです」
きらりと瓶が光を反射する。綾はすがるような目で薫を見た。
「うそ、私にそれくれるん?」
感激に瞳を潤ませたが、薫はまったくの無反応である。
【
「は?」
いきなり薫が魔法を唱えたので、綾は硬直した。
「私の質問にちゃんと答えてくれたら売ってあげます」
薫のやりように聖夜がうわーという顔をしている。秋人と冬由は平常運転である。
「匠くんの居場所を知っていますか?」
薫の問いかけに秋人が思わず顔をあげる。何か言いかけるのを薫が手で静止した。
「し、知らへん」
【
ぎゃあという綾の声とともに、彼女の体のすぐ近くに緑色の稲妻が炸裂した。
「私の問いかけに嘘つくと今度は火傷の治療も必要になりますよ」
と冷たい薫の反応に、綾は唇を噛んだ。
「もう一度お聞きします。匠くんの居場所を知っていますか?」
「知ってる」
【
渋々彼女が頷く。
「どこにいます?」
「・・・・・・港」
【
薫の表情が険しくなる。
「誰の差金ですか?」
「・・・・それ言ったら私が殺される」
「ギルドに言って護衛をつけてもらいますよ。さあ」
「優」
【
薫は密かにため息を吐いた。できれば当たってほしくない予想だったのだが。
「なんのために?」
薫の質問に綾はチラリと秋人を見た。
「その子と仲良くなったから、脅迫に使えるから欲しいって申し出がきたんやて」
【
しぶしぶ綾が答える。秋人の表情が泣きそうに歪んだ。聖夜と冬由が心配そうに見つめる。
「実の弟を
厳しい薫の声に綾はびくりと肩を揺らした。
「だって、だって仕方ないやん!お金が居るねん!別にいいやんか!今までだって久宝寺ダンジョンのために働いてたんやから、同じこと他でするだけや!!」
彼女は開き直ったように叫んだ。
「そうや、そのエルなんとかに売ったんよ!三門が売られたんと同じや!!」
「えっ」
秋人が思わず声をあげる。
「どう言うことですか?」
久宝家の諸々を秋人から聞いていた薫も顔を歪めた。久宝三門は久宝家でも尊敬されていた当主ではなかったのか。
「当時なんかおっきな金融危機?とかいうのがあって久宝家は大打撃を受けてん。お金がなくて、それで一部の親族は悩んでたらしいわ。そこにその何とかに所属している女がきて三門を誘惑したんやて」
綾は早口で捲し立てた。
「でも三門は真面目で彼女に靡かへんかった。それで、その組織は困窮しとった連中を金で抱き込んで三門を誘拐したんや」
当時、久宝家の一部の者はかなり堕落していた。しかし、三門は公平な当主だった。ダンジョンの分配に関してそれまでの慣習を廃し、働きがよかったり貢献している一族には分配を多く設定し、あまり進んでダンジョンに関わらないような一族は冷飯を食う羽目になった。
「一部の連中は、三門さえいなければって思ってたんや」
三門の前2代ほどあまりよくない当主が続いており、彼らはその系譜に連なる者だった。そこで連中は三門をこれまでのことを悔い改めるという名目で呼び出し、捕らえたのだという。そのまま彼は救世来神教に売り渡された。
彼がどんな運命を辿ったのか、秋人がその血を引いていることから想像に難くない。
秋人は拳を強く握りしめた。匠がどんな目にあうか想像するだけでも吐き気がした。
薫は杖を突きつけて綾に尋ねた。
「匠くんはどの船に乗せられるかご存知ですか?」
「・・・・・今日の夜、大阪港から中国行きの船に乗せるって聞いた」
【
綾が観念して白状した。
薫は綾にエリクサーの瓶を見せた。彼女はぱっと顔を輝かせて薫を見たが、その瞳は虫ケラでも見るように冷たかった。
「あとで料金は請求させていただきます。きちんと払ってくださいね。750万円です」
「はあ?」
綾が驚きの声をあげる。
「いらないのならいいですよ。代わりにご自分で治療しますか?それとも救急車を呼びます?」
綾は悔しそうに唇を噛んだ。
「わかったわよ!」
綾は薫から瓶をひったくるようにして、受け取った。
「急ぎましょう!」
薫の言葉に秋人たちは頷いて駆け出した。今ならまだ余裕で間に合う時間だ。皆がそう思った瞬間、それは起こった。
「結界!?」
秋人が思わず二度見する。パークを囲むように空の色が変わっていく。抵抗手段を考えるまもなく結界が閉じた。空が夕焼けのような茜色に染まって見えた。
「閉じ込められたの?」
冬由が叫んだ。
「ああ、やっぱり白状しちゃいましたか」
と小首を傾げて現れたのは、優だった。その手には怪しげな球が握られている。
「困るんですよね。商品の出荷を邪魔されるのは」
とにこやかに告げた。それが自分の実の弟だということを全く感じさせない。
「そこをどけ!!」
秋人の両手に魔法の剣が顕現した。
「いいんですか?こんな人がたくさんいるところで、顔見せちゃって」
優が小馬鹿にしたように笑った。
「あなたみたいな幼い少年が、丸腰の人を斬るところ見られちゃったらどうなることやら」
と嘯く。
秋人がそれでも前に進もうとしたので、薫はそれを抑えた。
「秋人は結界を壊して。匠くんのとこへ急がないといけない。冬由ちゃんと聖夜は当夜たちを探して、園内の人の救助を優先して」
「薫!?」
秋人が驚きの声をあげる。薫は1人で敵を相手にできるタイプの魔法師ではないのだ。
「行きなさい!匠くんの人生がかかってる」
薫の言葉に秋人は立ち尽くす。行けるわけがない…でも、行かなくてはならない。
「秋人は
秋人の目が泣きそうに歪んだ。
「絶対死なないって約束して」
「約束する」
薫の即答に、秋人はぐっと俯いたが、
「行こう!」
と声をかけて聖夜と冬由を連れて駆け出した。
何やら攻撃を試みた優の目の前に薫が
「おや、先生は攻撃もできたんですね」
優が少し驚いたように肩をすくめた。
「まあ、私も伊達にSランクではありませんよ」
と薫が笑った。
冬由「エリクサーって750万円もするの?」
聖夜「いいえ、確か500万円だったかと」
秋人「薫の手数料だよ」
冬由「ぼったくり!」