【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
薫が杖を構える。しかし、優は慌てなかった。
「もしかして、先生は私には攻撃力がないと思ってます?」
優はニヤリと笑った。手の中の球が怪しく光。
「別に私は魔法が使えないわけじゃないですよ。商人なんてふざけたジョブを与えたダンジョン以外の恩恵をうけてますからね」
「その球か?」
薫が静かに尋ねると、彼は嬉しそうに頷いた。
「ええ、私に素晴らしい力を与えてくれるのです。これのおかげで匠にも勝てた」
「へえ」
気のない薫の返事に優が顔を顰めた。
「本気にしてませんね。見せてあげましょう」
優は笑いながら球を掲げる。するとそこに光が集中し、一気に放たれた。放たれた光は大きな遊具の一つにぶつかり半分ほど消滅させた。薫はその暴挙に柳眉を逆立てる。
「お前!!」
しかし、薫の怒りをものともせず優は微笑む。
「あ、安心してくださいね。今は使っていない遊具です。中に人は居ませんよ」
優はうっとりと手にした球を見つめた。
「素晴らしい力だ。魔法っていいですね。何でもできる気がします」
ああ、そうそうと優は付け加える。
「この玉のあるところに
ニヤリと優は笑う。優越感に満ちた笑みだった。
「魔法なんてさして便利でもないと思うけどな」
薫は静かに首を振った。
「使いすぎると頭は痛いし、疲労感ハンパないし、制約があったり、時間制限があったりもするしな。使い方次第ってとこじゃないか?」
薫の言葉に優は得たりと破顔した。
「そうなんです。凡人の魔力は才能などというふざけたものに左右される。あの坊ややあなた、愚かな匠のように潤沢に魔力が備わっている者もいれば、私や綾のようにミソッカスも生まれる。大変不公平なシステムです」
薫は優の言葉を黙って聞いている。
「でも、この球は違う。これは魔力の量などという不確かなものに左右されない。魔石のように使ったら消えたりもしない。永遠に使い続けられる永久機関なのです」
優の言葉に薫は首を傾げた。
「そんな便利なものがそんな小さくできるのか?」
「ええ、
「その球、名前はある?」
「龍玉というそうです」
うっとりと優はそれを見つめた。薫は深いため息をつく。
「それ、もしかして久宝寺ダンジョンのやつ?」
薫たちが敢えて残してきたものだ。
「そうです。彼らが最後に取り出してくれたのです」
優が笑いかけるも、薫は微動だにしない。どうやらあの閉鎖寸前のわずかな合間に彼らはそれを行ったらしい。最下層のボス部屋だったので、あまり索敵をしなかったのが拙かった。
「この周囲の結界はいくら如月秋人といえども簡単には消せないと思いますよ。魔力を弾く特殊な仕様です。秋人くんの魔力が強ければ強いほど、結界は破れない」
「色々考えるねぇ、ほんと」
薫はしばしため息を吐いた。時間稼ぎもここまでだ。
「お待たせしました」
声とともに現れた人影に優が悲鳴をあげた。
「朽木巌!どうしてここに」
「最初から園内で待機してましたからね」
「君は魔法的な物にだけ気を付けていたみたいだけど、普通にこの世には発信機ってものがあるんだよ」
薫はポケットから一つの小さな四角い箱を取り出して見せた。
「どうせ、
薫は悲しそうな顔をした。じりっと優が後退る。巌の闘気に押されたのだ。
「君は匠くんに勝ったってさっき言ってたけど違うと思うよ」
「何をバカな!匠は、あの愚かな弟は、私の力に打ち据えられ簡単に膝を折った」
優の反撃の言葉に、薫は憐れむような表情を浮かべた。
「君を攻撃できなかっただけだ。彼はお兄さんを大切に思っていたからね」
「・・・・・バカな」
優は不意に思い出した。
対峙した時の弟の悲嘆に満ちた瞳を。
あれは自分に負けることへの恐怖だと思っていたが違うというのだろうか。
薫は静かに言葉を続けた。
「聖夜の弟の当夜は、聖夜が料理人ってジョブを得てもずっと兄を尊敬してたし、自分の存在が彼を苦しめることを苦く思ってた」
巌が刀を構える。じりっと優は後退った。何か取り返しのつかないことが起こるような恐怖からだ。
「だから、愚か者のふりをして実家を逃げ出した。でも匠くんは逃げることができなかった。なぜなら彼が逃げたら無駄死にとわかってても、兄が久宝寺ダンジョンに捧げられなければならなくなるからだ」
優の顔が歪む。
優の脳裏につい先日の様子がリプレイされる。
彼が匠へ攻撃を加えようとした時、彼は剣を下ろした。無気力な笑みを浮かべていた。
「もう、どうでもいい」
とその唇から声が発せられた。
あれは負けを覚悟した自暴自棄故の言葉だと今の今までも思っていたが、違うと言うのだろうか。
「うそを吐くな!!あのバカは私を見下していた!自分ばかりが優秀だとせせら笑っていたのだ!!」
そうでなければならないのだ。彼らがだってそう言ってたのだ。
瞬間一つ昔の思い出が浮かんだ。
出産時に母親を死なせたことで父や姉に邪険にされてきた匠は、ほんの気まぐれで話しかけた優に異様に懐いた。大善のところに修行に出されるまで、鳥のひなのように自分の後をついてまわったのだ。
「兄ちゃ」
と歯の抜けた笑顔で笑いかける弟が脳裏をよぎった。
そういえば、自分が商売を始めたのは弟を連れて逃げ出すためだったのではないか?
連れ去られたあの子を取り戻そうとしたのではなかったか?
「私はいつから…?」
巌が刀を振り抜く。
【朽木流 神影一断】
太刀筋にしたがって地面が大きく割れ、進行上にあった障害物が全て消滅し、さらに衝撃波で周囲の建物が揺れ、優の腕ごと球が真っ二つになった。
「ちょ、巌さん!もう少し抑えてくださいよ!ああ、しかも球切っちゃったんですか!?」
「すいません。しばらく実戦やってなかったもので」
「あなた、後藤さんに怒られたの絶対秋人のご両親の所為じゃないですよ!!」
薫が怒鳴ると反省してるのかしてないのか分からない巌がにこりと微笑んだ。
「いやあ、久しぶりに全力で振り抜きました。あはは、爽快爽快」
「そうかいじゃねえええええええ」
と薫が杖を握りしめて唸り声をあげる。
切られた球から魔力が立ちこめる。それもあまりよくない気配が濃厚だ。
小姫はもう独立した龍玉は秋人の家にあったものが最後の一つだろうと言っていた。なので薫はあの龍玉をダンジョンからもぎ取ることはしなかったのだ。
おそらくあれはダンジョンと繋がっており、下手したら違うダンジョンを呼び込んだり、まったく関係ない場所をダンジョン化してしまうのではないかと思ったからだ。とにかく嫌な予感しかしなかったが、どうやらだいたい予測は当たりらしい。
幸いなのは、あの龍玉がもうほとんど威力を失っていたことだ。秋人の家で見つけたものは綺麗な虹色に輝いていたが、久宝寺ダンジョンのものはもうほとんど色が抜けていた。
おそらく薫の一撃で何とかできるだろう。
「巌さん、30秒保たせてください」
「承知!!」
巌が刀を構える。次々とモンスターが生まれ出す。
「優さん?!」
と薫が声をかけるも彼はどうやら怪我だけではなく動けないらしい。呆然と佇んでいる彼の中から魔力がすっかり抜けている。球に全てを持っていかれたのだろう。
「だから言わんこっちゃない」
薫は舌打ちした。代償のない力など存在しないのだ。どこか何かを犠牲にしている。
「あんたらは全員あとで説教だ!!
【
薫の魔法が龍玉に向かって炸裂した。
巌「あー、なんか壊れた」
春彦「巌さあ、もうちょっとこうコントロールしようや」
夏実「そうよ。せっかくのドロップ品が半分じゃない」
巌「細かい作業は苦手なんだよ」
春彦「ぜってー後藤さんに怒られるだろ、これ」