【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
秋人たちは結界が崩れてからすぐに集合することができた。薫は優と綾の2人を地面に転がした状態で誰かに電話をしていた。
「ええ、そうです。今ユニバーサル・フィルム・ジャパンなんですが、久宝家の優さんと綾さんにひどい目に合わされました」
『それは、その…ご苦労様です』
電話の相手は当然後藤である。
「それと
『無論』
「よかった!いやあ、ダンジョンじゃないので我々には逮捕権がないのでね。では匠くんの救出はギルドの依頼ということで、これで3件完了ですね」
『え?ちょっと!神崎先生!?』
「では、これで失礼します」
ぶつんと音を立てて無情に電話は切れた。おそらく東京のオフィスで後藤は頭を抱えているだろう。
「それじゃあ、大阪港に行こう」
薫が声をかけると秋人、当夜、巌が頷いた。
「片伊勢さんたちと冬由たちのことお願いします」
と薫が聖夜に頼むと彼は頷いた。どうせ久宝兄妹たちの始末や、ここで起こったことの事情聴取もあるだろう。そういうめんどくさいことは概ね聖夜が得意とすることだった。
全員で身体強化を使って走る。ものの10分ほどで大阪港に到着することができた。
「まだ、出航してないといいんだが」
薫の懸念は
「こっち」
秋人が指さす方向はコンテナの積まれた船だった。
「この中にいると思う」
秋人はどうやら匠の魔力の型を追っているらしい。彼の後をついていくと胡乱な様子の船員に当たった。
「あ?なんだお前ら」
いかにもチンピラ風情な声を掛けられたが、薫はふっと小さく笑った。
「ここに誘拐された久宝匠さんが囚われているとタレコミがありましてね」
そう言うと男の顔つきが変わった。さきほどまでと打って変わってプロフェッショナルな戦闘員へと変化する。躊躇なくナイフを振ってきたが、そこは秋人の敵では無いので簡単に押さえ込むことができた。
「匠はどこだ?」
秋人が静かに尋ねるも男は答える気がないようだ。秋人は眉を寄せて男を見たが、容赦なく延髄に手刀を叩き込んだ。
「別にいいけどね。僕、分かるし」
秋人は見えない地図をたどるようにコンテナを掻き分けた。そこから一つのコンテナの前に立った。
「これだと思う」
当夜が一応薫の許可を取るように顔を見たので、薫は少し笑った。
「開けて」
「おっしゃ」
薫の言葉に当夜が反応して、扉に手を触れた。ぐっと力をこめるとコンテナの金属製のドアがひしゃげる。
「パワーが余ってるな」
と伯父が嘯く。
「今回のモンスターは数多かったけどそんなに強いのはいなかったっすからね」
とは当夜の言い分だ。
「匠!!」
秋人がコンテナに慌てて飛び込んだ。中にはやはり久宝匠がぐったりとした状態で倒れていた。
「匠!しっかり」
秋人が駆け寄って匠を抱き抱えた。ぎょっとするくらいその体は熱かった。
「熱が!!」
「真夏のコンテナに人間入れて放置とかどうかしてる!」
熱中症でかなり危険な状態の匠に秋人は慌てたが、薫が収納からエリクサーを出して秋人に渡した。
「秋人は匠くんを病院に連れて行って。俺は大丈夫だから」
と薫が告げる。少し迷った後、秋人は頷いた。さっきと違って今回は当夜と巌がいる。秋人は匠を抱き上げ、駆け出した。
「さて、目的を回収しましたので、
と薫が宣言し、作戦が終わったのはそこから20分後の事だった。
◆◆◆
病室のドアをノックすると「どうぞ」と小さな返事が返ってきた。
「よ!」
ベッドの上で匠が力なく笑う。秋人はその様子に眉を寄せた。明らかに無理して笑っているのが見てとれたからだ。匠は自力で起き上がれない状態で、ベッドの背中を起こしてそこにもたれた状態だった。
「お、なんや。花か。花よりなんか食べるもんもってきてーや。腹減って死にそうやねん」
匠がおどけながら秋人の見舞いの品を受け取る。受け取った手が微かに震えている。花の重さでさえ辛そうだった。
「きれーやな」
どこか壊れそうな雰囲気の彼に秋人は何も言えなかった。
「匠……その」
言葉を探して戸惑う秋人に、反対に匠の方が申し訳なさそうな顔をした。
「わりいな。気ー使わせて。俺はやっぱダメやなぁ」
薄紅色のトルコキキョウの上にぽたぽたと彼の涙が落ちた。
「匠は偉いよ。偉かったよ」
秋人がそっと告げた。
「頑張ったよ。すごく頑張った。匠の頑張りはもしかしたらあんまり人に気が付かれなかったかもしれないけど、久宝寺ダンジョンの姫も、大善さんも知ってる。僕も、薫も知ってるよ」
秋人の言葉に匠の涙が止まらなくなった。自分よりうんと幼い少年にこんな風に慰められるなんてかっこ悪いこの上ないのだが、どうしようもなく泣けて泣けてしょうがなかった。
匠は病室で医師の説明を聞いた。熱中症で肉体にかなりのダメージを受けており、おそらくもう
父には親子関係を否定され、兄には憎まれ、姉には疎まれ。せっかく修行した何もかもがなくなった。
一族も解散するそうだ。そりゃそうだ。当主一家がこの有様では。
それに三門の件も聞いた。彼がどうなったか、秋人が一族の血を引いていることからも推して知るべしだ。そんなことを知ってて隠していた当主一家に、誰がついていきたいだろうか。
大善でさえ、顔を出さないのだ。きっと槍持ちとして流石に腹を立てているに違いない。
死んだ方がマシだった。
そう思うが目の前の少年にそんなことを言うほど、匠は落ちぶれてはない。彼が危険を顧みず助け出してくれたのだとわかっていた。こんな自分にそこまで手間をかけてくれるのは彼くらいだろう。
「これ、飲んで」
秋人が手渡した瓶を見て、匠は驚嘆した。
「これ、お前…」
それは
「大善さんはこれを取りに行ってちょっとお見舞いに来れないんだ。だから僕が代わりにもってきた」
秋人は平静を保った声を装っていたが、匠はその金色の瓶を呆然と見つめていた。
何をいじけていたのだろう。あの豪快な男が見舞いに来ないはずがないではないか。
来ないのは、理由があるからだ。
「秋人、師匠は?師匠に何があったんや?」
匠の言葉に秋人は項垂れた。
後藤「あっさり3つの依頼の権利を使い切ってしまった」
秘書「勿体ない」
後藤「いや、でもそもそも俺が神崎先生に口で勝てる訳がないしな」
秘書「戦う前に逃げてどうするんですか!?受けて欲しかった依頼が他にもあるんですよ!」
後藤「有料だけど他のSランクに頼もう」
秘書「それがまずいんじゃないですかあああ」