【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
病院に駆けつけた大善は弟子の状態を聞いて人目も憚らず秋人に土下座した。
「こんなことを頼むのはルール違反だとはわかっとる。でもあんたが
後藤には
おそらくダンジョンの深層だろうと大善は見当をつけていた。
自身はもうかなり足腰が弱っており引退も考えていた。その時はそれゆえ断ったが今は別だ。これが最後のダンジョンアタックになるだろう。
秋人が戸惑っていると、薫が秋人の肩を叩いた。
「連れて行ってあげなさい。おそらく、彼しか匠君を治せる薬は貰えない」
自分たちも匠のことは好ましく思っている。でもそんな短期間の想いでは「足りない」のだ。
「堪忍や」
大善は泣きそうな顔の秋人に謝った。
白い珠を使えばすぐに新潟に跳べる。秋人は大善とともに新潟の姫の元に向かった。
彼女は相変わらず例の美しい木のところにふわふわと漂っていたが、秋人の姿を見て苦笑した。
【今度は爺連れか、童】
「ごめんなさい。頼まれてしまって」
【で、あろうな】
呆れ半分に姫は大善を見た。大善は大善でいきなり秋人が何かした途端に場所が切り替わって驚嘆した。
桜のような美しい花が咲き、目の前には同じ色の髪の美女が半分透けるようにして浮いているのだ。
「あ?」
驚嘆で声が出なくても不思議ではないだろう。
秋人が膝をついたので、慌てて大善も倣った。
「
「お願いいたします!!」
秋人の言葉に合わせるように大善は地面に額を擦り付けた。弟子が治るなら何をするのも躊躇いがなかった。
子供のいなかった大善にとって、匠は我が子のようなものだった。彼が元に戻るなら命をかけても惜しいとは思わない。
【通常のものではダメなことは、そなたの龍珠の予測通りじゃ】
姫の言葉に秋人はやはりと思うと暗い気持ちになった。
【そして、さらに予測通りで、そなたの想いでは届かぬ】
秋人は唇を噛んだ。
「ならば!わたしの何かで代えられるのでありましょうか?」
大善が叫んだ。彼女の言葉でなぜ秋人や薫が己を連れていくことを選んだか理解した。おそらく何かしら対象の深い関係者でしか得られないものなのだろう。
【ふむ…よい心がけじゃ】
姫はふふふと笑って大善の腕に触れた。
【これをいただけまいか?】
「な!」
秋人は思わず叫んだ。てっきり今回も物だと思っていたのだ。何か匠との大事な思い出や、もしかしたら大善自身が大切にしているものに替えるのだと思っていた。
【毎回物とは言うとらん。それにこの御仁はあまり物には執着がないようだしの】
「お姉さん!それはあんまりだ」
秋人が叫んだ。しかし、大善は収納魔道具からなんの躊躇いもなく太刀を取り出した。
「こんな老耄の腕一本で弟子の未来が贖えるとも思えませぬが、よろしくお願いいたします」
そして、一呼吸であっさりと利き腕を切り落とした。血が吹き出し、大善の体が傾ぐ。姫が何かしらしたのか、噴き出た血は止まったが、流れたものは返らない。大善は大量の失血で膝を突いた。
「そんな!!」
秋人が慌てて大善を助け起こすが、彼はその介助を拒み、切り落とした腕を前に揃え、さらに地面に額づいて見せた。
「これこの通り、奉納させていただきます」
秋人が泣きながら姫を見る。姫は肩を竦めてみせた。
【本当になんの躊躇いもなく落としたのう。
「匠のことは、息子とも孫とも思っております。あの可哀想な子がこれ以上泣くのは忍びないのです」
大善は言い募った。
いや、救われていたのは自分の方だろう…と大善は思い返す。
Sランクの
腹立たしく、憤ろしく、情けなかった。
それでも、槍持ちとしての因習から抜け出せない自分に何よりも失望していた。
鬱屈を抱えて生きてきた大善に、まるで捨て犬のような状態で預けられたのが匠だった。
本家では鍛えられないから鍛えろとただそれだけ。すでに大人の誰も信用しておらず、傷ついていた匠を前に途方にくれたが、少しずつ少しずつ長い年月をかけて2人の関係は変わっていった。
匠があれほど努力し、犠牲を払っているというのになんの見返りも返さない本家の連中にはほとほと嫌気が差していた。
それでも、どうしても裏切れなかった。
久宝家の血筋に対する絶対服従を叩き込まれていた精神が、匠を連れて逃げ出すという方向に進めなかった。ぼろぼろに消耗していく弟子を救ってやれないことから、とうとう探索もできなくなっていた。
もしも、あの時自分にもっと勇気があれば、今ごろ匠はこんな目にはあっていなかったのだ。
こんな腕一本であの子の未来が救えるなら、なんの惜しみもなかった。
万感の想いを込めて大善はその精霊のような女に再度深く頭を下げた。
「どうか、匠をお助けください」
【ふむ、まあ、そんなもんじゃろうな】
との無情な言葉に秋人が激昂する。
「お姉さん!酷いよ!!」
【怒るな童。連れてきたのはお前だろう】
ほらっと金色の小瓶が投げ渡された。
【そなたの愛と献身はしっかりと受け取った。この腕はそうだな、枝にでもしようか】
新潟の姫が手を翳すと大善の切り落とされた利き腕は大樹の方へふわりと浮き上がり、そのまま樹に吸い込まれるように消えた。
【うむ、美しいの】
先程までなかった一振りの枝が顕れ、美しく咲き誇っていた。
「え、この樹って…」
思わず秋人が嫌そうな顔をする。
【そなたのチョコレートはあの辺じゃ】
と姫が指し示す部分を秋人はぐぎぎと歯軋りして眺めた。
【あ、それからな】
姫はまるで軽い感じで付け加えた。
【別に腕は治療してはならんとは言うておらんぞ】
「え?」
秋人と大善が同時に声を上げる。
【まあ2、3日安静にはせねばならんだろうがな。ホレ、ちょうど童の妹が欠損回復の修行中じゃろ?実地訓練にもってこいじゃ】
「お姉さん…」
秋人がバツが悪そうな顔になったので、彼女は破顔した。
【無論、治してもいいよ!なんて覚悟を見せてもらう前に言うわけないがのう。ま、おまけじゃ。この前久宝寺ダンジョンで姫の1人を助けてくれたじゃろう。あれの分もすこーし入っとる】
「ありがとう、ございます」
秋人が再度ひざまづいて礼を言う。大善は呆然としていた。
【そなたのような堅物は「代償として支払ったのだから治療などもっての外」とか言い出しかねんから先に言うておくが、それはやめておけ。弟子の心に取り返しのつかない傷をうむぞ】
大善は心の中を見透かされてぎょっとした。
【ま、治療を受けてちょっとかっこ悪い想いをするとこまでがせっとじゃ】
と姫はウィンクしてみせた。秋人はなんとも言い難い表情で姫を見つめる。言いたいことがわかるような、わからないようなである。姫の言動が前より若干砕けているのは、自宅地下にいる小姫の所為だろうか。
【久宝寺の件、大義であった。そなたの弟子にして主人にもようお伝え。お勤めご苦労であったと。一族の中でも有数の当主であった。立派であると蔵の主人が申しておったと告げるがよい】
と姫が告げたので、大善は彼女をふり仰ぎ、再度深く、深く頭を下げた。
秋人「お姉さん、僕のチョコレート枝にしちゃったの?」
姫【もらったものをどうしようと妾の勝手じゃ】
秋人「ひどいよ!僕、探索者のレベル100のお願いにそれ取り返すつもりだからね!」
姫【・・・・・・そうじゃな、そうできるとよいのう】
秋人「ぐぬぬ」
姫【ところで、新たにもらったほうはもう食べたのかえ?】
秋人「まだです」
姫【ほほほ、告げ口してやろうかのう】
秋人「やめてよ!ひどいよ!」