【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
「初めてダンジョンに一人で行ったのはどうして?」
「赤城さんに行けって言われて。最初は小さい、簡単な仕事だったんです。ポーションの原料になる薬草をとってくるとか、モンスターの魔石をいくつとってこいとか」
秋人は少し眉を寄せた。昔のことすぎてあまり覚えていない。
「だんだん、命令がエスカレートしてきて、半年しないうちにどっかに出現したCランクのダンジョンを征伐してこいって言われました」
「それは、まさか一人で?」
「はい。でも、運良く?かな、その時はうまくいってなんとか帰ってくることができたんです。僕は母から迷宮核を取り除く魔法を教えられていたので、それを持って帰ったのが失敗でした」
赤城はそれに目の色を変えた。迷宮核のそれも完全な形状のものなどほとんど手に入らないのだ。オークションに出せば数千万円の高値がつく。
「それからは、もうあちこちのダンジョンに行けって言われて」
秋人は苦笑して話しているが、薫の表情は暗い。同じく小金井も眉を寄せている。
「最終的にSランクのダンジョンをソロで征伐してこいって言われました」
「それは、僕からしたら『死んでこい』って言われてるのと同じだと思うんだけど」
不快そうに小金井が尋ねると、秋人も大きく頷いた。
「おそらく、赤城さんにはそういう意図があったんだろうと思います。今思えばですが。でも当時の僕にはそんな判断能力はなかったので、怖かったけど行きました」
秋人は今でもあの絶望的な恐怖を思い出すことがある。あの当時はまだ恐怖を感じていたのだ。
「でも、僕には幸いちょっと変わったスキルがあって…自分の体限定ですが再生することができたんです。それで、なんとか最初の一つをクリアすることができました」
「どのくらいの怪我をしたの?」
「……んー、まあ死ぬ手前くらい?」
秋人はもうこの話は薫にもしたことがあるので大した感情は芽生えなかったが、聞いていた大人は皆顔を顰めた。チラリと小金井は薫を見る。薫は無表情に佇んでいた。
「でも、帰ってきたら赤城さんはめちゃくちゃ腹を立てて『なんで死ななかったんだ!』って。それで、ああこの人は僕に死んで欲しかったんだなって思いました。それからは、もう何も考えなくなりました」
秋人はたんたんと告げた。
赤城という人は両親にはとても優しくて親切な振る舞いをしていた。だから秋人への態度はもしかしたら親切のつもりなのではないかと幼い心は思い込もうとしていたのだが、そうではなかったのだ。
秋人はその当時の冷たい、心が冷えて固まるような気持ちを思い出すと、ぎゅっと胸が苦しくなる。
昔は思い出したりもしなかった。最近、時々思い出すのだ。優しい人に囲まれて、「お前は幸せになっていいのだよ」と言われ続けたことで、少しずつ、昔秋人に対して施されていた行為が酷いことだったのだと自覚するようになってきた。
「その後は、赤城さんの他に坂田さんも加わって、まあ時々殴られたり蹴られたりしながら、言われたミッションをこなすだけでした。もう粛々と」
「殴られたりしたんだ…」
「ええ、まあ。憂さ晴らしだと思います。僕その頃にはもうかなり頑丈だったんで」
秋人はヒヤリとした空気を感じてふっと薫の方を見る。薫はものすごく努力して顔に出さないように努めていたが、かなり怒髪天をついている。ひたひたと漏れ出る魔力で薫の周囲が帯電しているようだった。薫の隣にいる二人は一般人なので魔力は感知できないはずだが、不穏な空気は察しているらしい。
「薫…!」
秋人が思わず声をかける。
「もう、昔の話だよ」
「分かってる」
薫は憮然とした顔で答えた。
あの二人はもうすでにこの世の人ではない。そうでなければ、薫は今すぐこの場に引き摺り出して、秋人に土下座させてから特大の雷神の雷鎚をお見舞いしたい気分だった。
「僕はもうその頃はあまり何かを感じたりはしなくなってて。だから、二つ目のSランク……小金井さんの故郷のダンジョンもそんなふうに命令されて征伐したんです」
秋人は困ったような、申し訳なさそうな顔をした。
「だから、その…恩に感じたりはしなくていいんです。僕が決めてやったことじゃない」
「いいや、それは違うよ、秋人くん」
小金井は即座に首を振った。
「それは違う。いや、もっと悪い。君が決意してソロで新潟を征伐してくれていたら、僕らはありがとう、感謝してるでよかったかもしれない。でも、そうじゃなかった。君は強制されて行かされてたんだ」
「でも、それは高位の
「だが、彼らは自分が決意して
苦しそうな小金井に、だが秋人は静かに首を振った。
「……僕は
「それは……」
小金井は秋人を見つめる。ふわりと彼は笑ってみせた。
「今も昔も
秋人は背筋を伸ばし、前を向いた。
「でも、僕は人間です。正義の味方ではない。葛藤はあるし、迷いもあります。先日のユニバーサルでの戦闘時、自分を残して救助に向かえって薫に言われた時は本当に辛かった。薫は魔法師で、それもどちらかというとあまり攻撃向きではない魔法師です。なのに、一人で置いて行けっていうんです。そうしないといけないのは分かっていても、身を切られるようだった」
「秋人くん」
「それでも、今僕は自分の意思で
「それは、あの人?」
と小金井が指さすと、秋人は綺麗に破顔した。
「そうです。薫は僕の命の恩人です。赤城さんたちからの命令に疲れ果てて、もうどうしようもなくなって追い詰められていた時に、僕を助けてくれたヒーローです」
「そうなんだ」
「他にも僕を助けてくれている人が何人もいます。あの頃僕はひとりぼっちだった。今は違います。薫の他にもたくさんの人が僕を励まし支えてくれています。辛い時とか苦しい時とかたくさんあるんですが、それでも僕は彼らが自慢に思えるような存在でいたいと願っています」
秋人は凛とした表情でそう締め括った。
小金井は圧倒されて言葉が出ない。胸が苦しい。少年がここまでの決意をするのにどれほどの葛藤があったか、わからないほど愚かではないつもりだ。
「今君は幸せ?」
「はい」
少年は小金井の質問に迷うことなく即答した。なぜか、その時小金井は何か叫びたいような衝動に駆られた。
「今日は、ありがとうございました」
「いいえ。僕の話を聞いてくださってありがとうございます」
秋人は小さく微笑んだ。小金井は、秋人が己の涙には気がつかないフリをしてくれたことに気がついて、さらに深く頭を下げた。
小金井「編集長、俺目赤くないですかね?」
編集長「目は赤くないが、鼻の頭が赤い」
小金井「くっ、泣いたのバレる」
編集長「大丈夫、俺も偉いさんももっと泣いてたから」
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