【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
秋人がその店を見つけたのはほんの偶然だった。たまたま雨宿りで軒先を借りたのがきっかけだ。
「こんなところにケーキ屋さんがあったんだ」
と秋人が思うくらい、小さな店だった。ただ、藍色の木製のドアが秋人の審美眼的に非常にヒットしたのだ。
それで、雨宿りの代わりにケーキを買って帰って大変気に入った次第である。珍しく薫も「美味いな」と言ってたくらいなので、ここのケーキは相当に美味しいと秋人は思っている。
秋人の愛読書は『東京スイーツ百選』だが、この店はそれに載っていないごくまだ新しい店だ。もちろん、秋人は本に載ってない店もチェックしている。独自のデータベースを作って記録もしていた。これは委員長の作原に教えてもらって作っている趣味の記録だ。
そこで、この数ヶ月秋人の中で堂々の一位に君臨しているのが、この『パティスリー・アルフレド』である。
パティシエはまだ若い青年で、アシスタントは製菓学校のバイトの青年が一人。昼間はパートのおばちゃん、夕方は女子大生のバイト数人をシフトで回している。そのくらいの人数で回しているごく小さな店である。
それでも、秋人が気に入るだけはあって最近人気が出てきた。特に祝日の混み具合はだんだん今の人数では手に負えなくなりつつあり、店先に『バイト募集』の貼り紙がなされたのだ。それを秋人は覚えていた。
先日、薫の事務所でバイトしたいと言った時に、薫にアドバイスされた内容もあって、秋人は「ケーキ屋さんでアルバイト」に非常に乗り気だったが、店主の香川駿は最初迷っていた。
「高校生かぁ」
「ダメですか?」
秋人は自分ではまったく気がついていないがしょんぼりした顔になると、とたんに相手にものすごく罪悪感を与える表情になるのだ。
「えー…と」
店主が困っていると、アシスタントの長野が横から援護射撃をしてくれた。
「いいじゃないですか、店長。やってみてもらって無理だったらその時考えたら」
「うーん、じゃあお試しで」
というわけで、秋人は無事『パティスリー・アルフレド』でアルバイトができることになった。アルフレドは遅くまでやってるケーキ屋だったので、平日は週2回、週末は土曜に入ることになった。
当初、秋人はもちろんバイト代で美香に誕生日プレゼントを買うということが主な目的だったのだが、そこは彼もケーキが大好きなこともありすぐに作る方に興味が湧いた。
「美香の誕生日のケーキを手作りしたら喜んでくれるかな?」
と桜子に朝の稽古時に相談したところ、
「そりゃあ、喜ぶさ。下手な物よりきっと嬉しいと思うよ」
という回答を得たので、それ以来店長や長野に基礎の部分を教えてもらうようになった。秋人は非常に熱心な生徒で、覚えも速かった。
「16歳で彼女に誕生日ケーキ作るまでは、まあ100歩譲ってあるかもだが、そのためにケーキ屋で修行するのは理解できん」
というのが店長の感想だったが、長野は面白がって色々なお菓子の作り方を伝授していた。
しかし、秋人がバイトに入り出した頃から店側が想定してなかった事態が起こった。
徐々に客足が増え出したのだ。圧倒的女性客の増加である。
「いらっしゃいませ」
とにこやかに微笑む美少年が相手をしてくれるのだ。
最初は常連の客がその影響を受けた。いつもなら2つ選ぶところ、つい3つ4つ個買ってしまったり、一週間に1回だったのが2回、3回と回数が増えたりし始めた。
「なんか、今日は完売早かったですね」
と売れ残りは貰って帰っていいよと言われている秋人が残念そうに呟いた。
「そうだなあ。特にケーキがいるようなイベントのある日でもないのにな」
と呑気に長野も構えていた。
だが、徐々に秋人の人気は猛威を振るいだした。
「いらっしゃいませ、あれ?智輝?どうしたの?」
秋人が首を傾げる。野球選手を目指す智輝は食生活もストイックで、あまりこういった脂肪分の多い甘味を食べないのだが。
「そりゃあ、お前。ダチがバイトしてんだから買いにくるだろ。普通」
「へー、そういうもんかぁ」
秋人は不思議そうに首を傾げた。バイトのことをそういえば今朝教室で話したのだ。
「お前、呑気にしてるけど、明日からまあまあ大変だと思うぞ」
と智輝は謎の言葉を発して去っていった。
翌日から、轟学園の女生徒の攻勢が始まった。
なにしろ、日頃はあまり笑わない秋人が営業用とはいえ輝くようなスマイルで迎えてくれるのだ。これを逃す手はない。
秋人は美術部副部長でもあるので、秋には文化祭が控えている。なので、毎日入っているわけではないのだが、そこは彼女たちには調べる術がない。流石に彼のシフトを店に電話して聞くというような愚行は、秋人がバイトをクビになってしまう可能性があるので控えたが、彼女たちは一か八かの賭けでアルフレドにやってくるのである。そして、一部の幸運な女子たちの
「ラッキー、今日は如月君に接客してもらえた!」
というRINEが飛び交うことになる。そうなると「次こそ私も!」という女子が増えるのだ。
「でもさ、割と迷惑なんじゃない?」
「何が?」
「いや、だって店の外に行列できてたし」
とは冬由の発言である。今日は莉音と二人で買いにきたのだ。冬由は兄のシフトは冷蔵庫に書かれているので見放題である。おそらくこの情報は売れると密かに冬由と莉音は思っている。付属中学校にも秋人のファンは多い。
「売れるのはありがたいんだけどねぇ」
長野も苦笑をこぼした。
「あれ?彼女もしかして秋人くんの妹?」
「はい」
「へえ、よく似てるね」
「・・・・よく言われます」
冬由は不愉快そうに顔を歪める。
「秋人兄ちゃん、眼鏡かけてた方がよかったんちゃう?」
「・・・・・うーん、確かに」
莉音の提案は今少し遅かった。認識阻害アイテムの眼鏡自体が貴重品なので、今更装着しても違和感しか残せないだろう。
「学校だけで済めばいいんやけど」
とは莉音の言葉である。秋人は意味がわからなかったが、その場の全員はだいたい察した。
ケーキ屋と美少年は相性がいい。
バエるのだ。
「雑誌の取材申込があった」
と店長が渋い顔をして告げたのはそれから一週間後だった。
「へえ、すごいですね。TAROですか?SEVY?」
秋人はスイーツ特集の雑誌は必ず買っているので、掲載されそうな2誌をあげたが、店長の顔は渋い。
「5誌きてる」
「わあ」
と秋人は目を輝かせたが、店長と長野の目が死んでることに気がついた。
「全誌、秋人くんがバイトしている時に取材したいって言ってきてる」
と店長が告げた時点で秋人は顔色が変わった。
「君は悪くない」
先持って店長が秋人が謝るのを阻止した。
「あの、僕、その…じつは、雑誌とかに載るのはちょっと具合が悪くて…」
「だよな?確か保護者の方がそう言ってたよな」
店長は一度だけ会ったあの世にも美しい顔を思い出して頷いた。
「あの、店長。それこっちで預からせていただいてもいいですか?」
「ん?」
「薫は弁護士なんです」
「ああ、そっか!」
どこかで見たことがあると思っていたら、霧崎桜子との会見だ。
「サバ味噌の!」
と店長は思わず叫んでしまい、秋人は笑うしかなかった。
それまだ続いているんだ…と思わずにはいられなかった。
相手弁護士「くそー、またサバ味噌に負けた」
薫「いや、もうそれでもいいけどさ」
相手弁護士「お前みたいな女ったらしがいるから俺にまで彼女が回ってこないんだよ」
薫「不当な訴えだな」
相手弁護士「俺だって霧崎桜子みたいな美人の彼女が欲しい」
薫「すでに言いがかりの域に到達している件」