【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
例のインタビュー記事が東都新聞に掲載された。
大々的に宣伝するでもなく、ひっそりとそれは始まり、何日かに渡って掲載された。非常にシンプルな体裁で内容もあの場で話したもの以上でも以下でもなかった。
もちろん、掲載内容は薫も秋人も事前にチェックさせてもらったし、そのチェックした内容から変更されたりもしなかったのでどういう記事が載るかもわかっていたが、実際読んだ人はどう感じるのだろうと秋人は少しばかり不安も感じていた。
秋人は三つのSランクダンジョンを征伐したことを誇っていないし、そのことを評価してほしいとも思っていない。自分はさほど偉い人間ではなく、どちらかというと利己的でわがままだと思っている。
そして、薫は秋人がそんなふうに自分のことを考えていることもよく知っていた。だから、これをきっかけに秋人が少しでも自分を評価してくれるようになればいいと願っていた。
『大反響で朝からすごいことになってますよ』
と東都新聞の小金井が薫の事務所に電話してきた。
「電話、大丈夫なんですか?沢山かかってきてるんでしょ?」
と薫が水を向けると小金井は「ははは」と乾いた笑い声をあげた。どうやら読者からも同業者からも、果ては同じ東都新聞内からさえも問い合わせが殺到しているらしい。
『まあ、仕方ないですよ。社内でも数人しかしらないトップシークレットで進めてましたからね』
小金井と編集長は相談して関わる人間を最小限に抑えた。今、日本でマスコミが一番取材したい相手は如月秋人に他ならない。その彼と差しのインタビューだ。どこから横槍が入るか分からなかった。
ただ、小金井も編集長も彼のような若輩者を、秋人と薫が選んだ理由を正確に理解していた。
「誠実」
それだけを求められたのだ。
真摯に秋人の事を想い、彼の役に立ちたいと願った小金井の心意気を買ってくれたのだと、彼らはわかっていた。だから、その期待に応えたかった。小金井は自分には難しいところは編集長に頼んだ。編集長は編集長で色々な
『まあ、同業者から何か言われたら編集長にこう言えってアドバイスされまして…』
「どんなふうに言うんですか?」
小金井の言葉に薫は首を傾げた。
『それはですね…』
「東都新聞の記者さんはですね『自分の安泰な生活も命も不要』と仰いましてね、取材の申し込みをなさったんですよ」
薫は加藤法律事務所の前に現れた大勢の記者に向かって、にこやかにそう告げた。
「あなたがたのうち、そんな度胸のある方が何人いらっしゃいますか?」
薫の言葉に、砂糖に群がる蟻のように集まったマスコミの連中は顔色を変えた。
「彼、この前のユニバーサルでの秋人の戦闘に一般人ながら参加されて成果を上げられましたよ? ギルドから表彰されたのご存じじゃない?」
薫はニコニコと笑って連中に向かう。
「色々と大切なものをなくされたようです」
しんみりと薫が悲しそうな顔で語ると、自分たちにも取材をさせろと息巻いていた連中はじりじりと後退った。小金井が無くしたのは父の形見の万年筆だが、薫の言い方では肉体的な欠損に聞こえなくもない。記者たちの顔が引き攣った。
「そういう覚悟がおありなようでしたら、どうぞアポイントを正式にとってください。私、彼からのアポを拒絶したことはありませんよ。あの記者会見の後、きちんと正式な取材の申し込みをされたのはあの駆け出しの青年だけでした」
薫は少し厳しめの表情で彼らを見つめた。それだけで、怜悧な美貌は鋭いナイフのような切れ味を持つ。
「あなた方と彼では己の職業についての覚悟も矜持もレベルが違いすぎる。取材の手配や記事を書く技術などは、確かに彼より上の方はここにいらっしゃるかもしれない。ですが、あなた方の誰一人として、マスコミとしての本質で彼に遠く及ばない。先達としてのプライドがおありなら、このような無様を晒す前に、もう一度よくご自身の適性を確認なさった方がよいのでは?」
完膚なきまでに叩き潰されて、すごすごと帰っていく連中に、薫はフンと鼻を鳴らした。
「……てなことがあったらしいぜ」
と先輩に言われて小金井は首をすくめた。
「えらい褒められてんな、あの美人の先生に」
と先輩に揶揄されたが、小金井はそれこそ薫のことをよく知っている。正確に薫のその時の気持ちをキャッチしていた。
「いやあ、それはたぶん俺を褒めたんじゃなくて、あの先生は覚悟もなくずるいずるい言ってきた連中に怒ったんだと思いますよ」
「ちがいねえや」
どっと記者先輩たちは笑った。
「だが、まあお前の記事悪くなかったぜ」
ぽんと肩を先輩が叩く。
「覚悟が足りてねえっていう弁護士先生の言い分はもっともだ。俺たちもお前の爪の垢でも煎じて飲まねえとな」
そんな言葉と共に東都新聞社会部の記者たちの目の色が変わったことに、編集長は気がついていた。
「負けてられない」
「新人に後れをとるな」
と全員がやる気を出していた。小金井は少々その気合に面食らっていたが、この新人がやり遂げたことに対して、皆が敬意を払っていた。
誰も彼もが己の安全と安泰を慮って尻込みした中、この新人だけが体当たりでぶつかっていったのだ。
「いい記事だ」
インタビューの掲載の後に少しのスペースを割いて小金井の記名記事が載っていた。
秋人に対しての想い、
けして綺麗事だけではなく恐怖や葛藤についても書かれていた。それでもどうしても伝えたかったのだということが伝わるよい記事だった。
文章などはもっと上手く書ける先輩はいるだろう。要領が良ければもっと金にもなっただろう。こんな偉業を達成したというのに、おそらく小金井が受けるのは社長賞の金一封くらいのものだ。(これについては編集長宛に薫からこっそりと、もしそういうものが出るならちゃんと受け取るように助言してあげてほしいと言われている)
「俺ももういっちょ頑張ってみるかね」
と編集長は苦笑をこぼした。
◆◆◆
「やってられるか!」
カンと甲高い音を立てて酔った勢いで蹴り飛ばした空き缶が転がった。東都新聞のライバル旭新聞の記者橋本聡はイライラしていた。編集長にしこたま説教されたのだ。
「東都新聞の小金井って記者は、てめーと同じ歳だってのに、体当たりで特ダネとってくる根性がある!お前は何やってんだ」
というわけだ。
「知らねえよ!おれは死にたくねえだけだよ!!」
口の中で文句を言うも腹の虫が治らない。だいたい、自分のような小童ではなく大先輩たちがいくべきだろう。もう出世も将来も希望がない連中が、体をはればいいではないか。
橋本は唇を尖らせた。
「俺は別に記者なんかになりたかったわけじゃねーんだよ」
昨今では新聞社はあまり人気のある就職先ではない。大手だからという理由だけで就職試験を受けて、橋本はここしか受からなかった。新聞記者など適当にインターネットで見かけた面白そうな投稿をAIにかけて改変して掲載するだけの楽な仕事だと思っていたのだ。
「取材、取材、取材って言いやがって」
東都新聞の小金井は加藤法律事務所に何十回と足を運んだという。それも通常業務をこなしながらだ。
最初はケンもほろろだった神崎弁護士も最終的には熱意に負けたということらしい。それも、法律的にもルール的にも問題ないレベルでのしつこさだったとか。もしも違法なやり方で押しかけていたなら、例の契約が発動していただろうと件の弁護士は集まったマスコミに説明したという。
「あー、くそ」
あの綺麗な顔のど真ん中に向かっていると想像して再度缶を蹴ってやった。
ぐしゃ
と何かに当たる音がした。
「へ?」
橋本は暗がりに目を凝らした。
「誰かいるのか?」
繁華街の路地裏だった。いつのまにか変なところに紛れこんだようだ。橋本は恐る恐る辺りを見渡した。
不意に外界の音が遮断された。
暗闇に白い貌が浮かび上がる。さきほど想定していて美しい顔がそこにあった。
「いや、おれはその…」
慌てて言い繕うとしたとき、相手の足元に誰かが倒れていることに気がついた。目の前の悪魔のような男の頬に赤い色が散っている。
返り血だ
そう気がついた時、彼は魂からの悲鳴をあげた。
小金井「秋人くん!君の記事で社長賞の金一封が出たんだ!ご馳走するよ」
秋人「小金井さん、貯金した方がいいよ」
小金井「ええ!嫌だなぁ。お兄さんは大人だからね!全然大丈夫だよ。焼肉?ステーキ?それともホテルオークレのスイーツビュッフェ?」
秋人「・・・・・薫、どうしよう」
薫「うーん。ケーキセットでも奢って貰えば?」
秋人「心が痛いよ」