【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
夏休みも終わろうかという頃、秋人は美香と冬由を連れて新宿に来ていた。
百貨店の紳士服売り場に十代の少年少女がいるとそれだけで目立つ。秋人は例の眼鏡をかけているので容姿で人目を集めてはいなかったが、それでもかなり浮いていた。
彼が手に取ったスーツは濃いグレーの上質なもので、細いピンストライプが入っているオーソドックスなデザインだ。おそらく絶対に薫に似合うのはわかっているが、秋人はどうにもぴんとこない。
「うーん、やっぱり白がいい」
秋人が形の良い眉を寄せて唸っている。
「でも、秋人くん。白いスーツだと結婚式だよ。ジャケットだけにする?」
美香も同じく困り顔だ。
「アイボリーなら替え上着で使えると思うけど、裁判には向いてないんじゃないかしら」
「ジャケットじゃなくて、探索用の防具系のマントかなんかにしたら白でもいいんじゃない?」
と冬由は秋人が手に取ったのと色違いの上着を手にしながら言う。彼女的にはこの紺も薫に似合うと思うのだが、兄はお気に召さないらしい。
「スーツがいいんだ」
頑なである。
「白にこだわらなければいくらでもあるだろ。あいつ、何着ても似合うんだから」
「まあ、神崎先生はスタイルいいからねぇ」
冬由と美香の言葉に秋人はため息を吐いた。
「やっぱり、服を選ぶなら加賀屋さんに相談するべきだったかなぁ」
本日秋人は美香と冬由に協力を仰いで薫の誕生日プレゼントを探しに来たのだ。
本当は去年の誕生日にも何か贈りたかったのだが、去年秋人の誕生日をスルーしてしまった薫は、がんとして受け取らなかった。なので、今年が初めて薫に誕生日プレゼントを贈れる機会である。
「お前、せっかく来てやった私と美香さんに、その言葉はどうかと思うぞ」
冬由が不機嫌に言うと秋人は慌てた。
「ごめん!違うんだ!そういう意味じゃなくて。正式な様式とかわかんないからさ。できれば仕事中にも着て欲しいなって。そうすると法廷でも着るわけだし、僕じゃ細かいところまではわかんないんだよ」
裁判所のTPOなど秋人にはお手上げである。しかも、どうしても自分は薫に白い服が着せたいらしい。本能的に薫には白だと思ってしまうのだ。法廷で白いジャケットは着ないだろうと分かっているのだが。
「シャツなら白いぞ」
冬由が投げやりにワイシャツを掴むと、秋人は眉間に皺を寄せた。
「できたらジャケットがいいんだよ。僕、薫の大事なジャケットダメにしちゃったから」
秋人は深々とため息を吐いた。
「薫は言わなかったけど、僕が薫と最初に出会った時にダメにしちゃった薫のジャケットは、加藤さんからもらった大事なものだったんだ」
AIの加藤に薫の誕生日プレゼントを相談したところ、昔彼は薫にスーツの上下をプレゼントしたと教えてくれた。その話が出た時、薫が激しく誤魔化したので出会った時に秋人がパラパラにしてしまったものだとようやく気がついたのだ。
「あの時もちょっと不思議だったんだけど、あのジャケットほんのり魔法かかってたんだよね。だから僕、薫が最初まったくの素人だって判断できなかったんだ。加藤さんのプレゼントだったって聞いて納得したよ」
ぼそりと秋人が告げる。二人は秋人の言葉を黙って聞いていた。
「あの後、話を聞いててっきりエリクサー湖に浸けたからかと思ってたけど、防御の魔法式が織り込まれてた。残ったパンツの方こっそり探して見たから間違いないと思う」
クローゼットの奥に、秋人に見つからないように薫がこっそり隠していたそれは、魔法自体はもう抜けてしまっていたが、かなり複雑な魔法式が施されていた。
「あれ着てたから薫はダンジョン最下層まで落ちても死ななかったし、僕の攻撃も防げたんだろうな」
秋人の言葉に美香と冬由はぎょっとした。
「秋人が薫を攻撃したの!?」
冬由の言葉に秋人は頷く。
「うん。一応軽くだけど。薫は吹っ飛んで壁にぶつかってたから。でも流石にその2回で防御魔法は解けちゃったんだと思う。だから僕もそこまで強い魔法だと思ってなかった」
「・・・・・あんなど素人を攻撃するなんて」
冬由は呆れた顔をしたが、秋人にだって言い分はある。あの頃は近づく人間は全て敵だったのだ。
「あの時はダンジョンで出会う人間は、ほぼ敵だと思ってたんだよ。ましてや最下層だよ。普通の人がいるなんて思わないからさ」
秋人にとっては思い出すと転げ回りたくなる後悔の記憶だ。よりによって薫を攻撃するなんて。
もちろん、秋人が以前に当夜に話したように薫にはまるで殺気がなかったから殺すつもりでの攻撃ではなかった。それでも、おそらく一般人の薫相手にはかなり強めのものだっただろうということは、今の秋人にはわかっていた。
「だから、今年はスーツを買ってそれに防御魔法を組み込もうかと思ってたんだけど。なかなかぴんとくるのがないなぁ」
「少し場所を変えましょうか。デパートなら他にもあるし」
美香の提案に二人は頷いた。
◆◆◆
三人で通りを歩いていると向かいから見知った少年がやってきた。少年というには大柄で、体格からすると青年といって差し支えないレベルだ。
「智輝!」
秋人が手を挙げると、智輝はまじまじと秋人を見た。
「秋人か。眼鏡かけてるからピンと来なかったぜ」
智輝が苦笑を浮かべる。知り合いに認識阻害の魔法は効かないのだが、単純に眼鏡付きの秋人の顔に馴染みがなかったようである。
「買い物か?」
「うん、そう。薫の誕生日プレゼント探しにきたんだ。智輝は?」
「ああ、俺はちょっと新しいスパイクを買いに来たんだ。なんだ、お前。両手に花とかまじで許せんな」
智輝は秋人が美香一筋なのは知っていたから、揶揄い半分にそんな事を言い出し、秋人の隣を歩いていた冬由を見て固まった。
「あ、そっか。まだ会ったことなかったっけ? 彼女は僕の妹の冬由」
「・・・・・・・・・」
「えっと、色々あって離れて暮らしてたんだけど、一緒に暮らすことになったんだ」
「・・・・・・・・・」
「轟学園の中学一年生だよ。冬由、この人は僕のクラスメイト。木下智輝。野球部のスーパーエースだよ。甲子園も行ったんだ」
「まあ」
そういえば轟学園に垂れ幕が飾られていたなと冬由は思い起こした。
彼女の環境的に秋人と同じくスポーツを楽しむ文化は馴染みがなかったが、それでもおそらく学校の有名人であろうことは想像がついたので、冬由はさくっと大型の猫を被った。
「初めまして。妹の冬由です。兄がいつもお世話になっております」
鈴が転がるような可愛らしい声でそう挨拶をする。秋人と美香は棒を飲んだような顔になった。智輝は冬由の顔をじっと見つめていた。
「お…」
「?」
「俺と付き合ってください!!」
がしっと音がするかのような勢いで智輝が冬由の手を握る。
「はえ?」
流石に予想外だったのか、アスリートの瞬発力を舐めていたのか、冬由はがっちりと両手を押さえられた。元
「ちょ、智輝、何言って…」
慌てて秋人が仲介に入る。
「お義兄さん!妹さんとの交際を認めてください!!」
「はあ?」
秋人の顔が引き攣った。大音量の智輝の声で耳が痛い。
「絶対幸せにします!俺は本気です!!」
秋人は不愉快そうに眉を寄せた。
「僕は妹の交際相手には誠実さと真面目さを求めます。セフレのいる相手はちょっと…」
「いないから!そういうのは!ほら、見て携帯のアドレス全部消すし」
素早くスマホを取り出す智輝に、秋人は呆れ顔だ。
「すごい数の女の子だね」
「いや、もう関係ないから。お義兄さん!!」
「勝手に
と往来でさんざん騒いで結局、その日はうやむやで終わってしまった。
秋人は自分だけで選ぶのを諦めて専門家を頼ることにした。美香もそうした方がいいとアドバイスをくれたのだ。
「秋人くん、魔法かけるなら尚更加賀屋さんに助言してもらった方がいいと思うわ。もうあまり時間もないし」
ということで秋人は加賀屋凛子を訪ねた。
智輝「前に姉か妹がいたら紹介するって言ったじゃん!」
秋人「その時は冬由の存在自体知らなかったんだよ!」
智輝「知ってても知らなくても関係ナッシング!」
秋人「妹はやらん!!」
美香「いいお兄ちゃんね」
冬由「・・・・・そこそこ」