【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
加賀屋凛子のデザイン事務所は渋谷のオフィスビルにある。
ひと昔前まで倒産寸前だった彼女のブランド「エレンディール」は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの人気となった。そんなブランドの社長兼デザイナーでかなり忙しいはずなのだが、秋人が会いたいと連絡するとすぐにも時間をとってくれたのだ。
「やあ!秋人くん!久しぶり!背が伸びたね!男っぷりも上がったんじゃない?うちのモデルにならない?名前は出さないよ」
と会って五秒でそんな勧誘を受けた。薫の誕生日プレゼントのための訪問だったため、本日は薫がいない。怖い保護者抜きで秋人に会えることは滅多にない故に、凛子としてはどうにかこうにか秋人を丸め込んでモデルしたいのだ。3S探索者としてではなくても、秋人のビジュアルなら人気が出ること請け合いだ。
しかし、秋人は苦笑で凛子の誘いに首を振った。
「遠慮します」
「ああん」
がっくりと肩を落としたが、凛子は気を取り直した。
「ささ、座って。今日の相談は何?」
「実は…」
秋人はダメにしてしまったスーツのことと、薫の誕生日に新しくプレゼントしたいのだと話した。
「そのダメにしたスーツのパンツは持ってきた?」
「はい」
秋人はいそいそと収納魔法からそれをとりだす。薫に内緒でこっそり持ち出したのだ。
「ははーん。こりゃあ確かに、なかなかの代物だね。うんうん」
凛子は魔法式を見て唸った。美しい魔法式だ。
「他ならぬ秋人くんの頼みだもの。大急ぎで作るよ。どんな形のジャケットだったか覚えてる?」
「こんな感じでしたけど、同じじゃなくてもいいです。でも、同じくらいの防御魔法はつけたいです。あと、薫が仕事で使えるようにしたいです」
秋人の要望をふむふむと凛子はメモを取る。
「あと、色は白がいいんですが、やっぱりダメですか?」
「うーん。薫ちゃん弁護士だからねぇ。仕事でも着たいならちょっとダメかなぁ」
「そうですかぁ」
秋人はため息を吐いた。
「なんでまた白なんだい? 探索者のケープも白で作ってたよね?」
去年、薫が過労で倒れた後、秋人は凛子に頼んで薫用の防御ケープを特注で作ってもらったのだが、それは秋人たってのお願いで白だった。ダンジョンでは目立つ色なので凛子は当初別の色を勧めたが、秋人がどうしても白だと譲らなかったのだ。
「なんか、夢に見るんです」
秋人はぽつりとつぶやいた。
「夢?」
凛子が予想外の理由に思わず聞き返す。
「薫がすごく綺麗な白い衣装を着て、サンダードラゴンの杖を持って僕の前に立つんです。神様みたいに綺麗だった。僕はそれを見て『ああ、やっと終わる』ってすごく安心して…それで…」
秋人が額を押さえて呻く。
「秋人くん?」
慌てて凛子が秋人の顔を覗き込んだ。顔色が真っ白だ。
「それで…僕は…僕は薫を…」
薫をどうしたんだろう……
秋人の中に何度もリプレイされる映像がある。
崩れ落ちる薫。手の中の感触。抱き止めた体から命が流れていく。
さらに、もう一つ。最近は別のバージョンも存在する。
薫が目の前にいるのは同じだ。
でも、秋人は動かない。薫が辛そうに顔を歪める。そして彼の杖が秋人に向けられる。秋人は笑って
「ありがとう、薫」
と目を閉じた。
ぱんと乾いた音がして凛子が両手を叩いたのだ。秋人は夢から冷めたようにびくりと体を揺らした。
「白はやめよう!」
凛子は大きな声で呟く。
「え、でも…」
「それはきっと、白い衣装はよくないってお告げだよ!秋人くん、予知能力あるんじゃない?」
「いくらなんでもないですよ」
秋人は苦笑を浮かべた。
「それでも!白はやめよう!グレーがいいんじゃないかな?法廷だと暗めの色がいいかもだけど、薫ちゃんはたくさん持ってるでしょダークスーツは。少し色を軽めにしてさ、紺色のネクタイも一緒につけるのはどう?」
凛子は生地見本を秋人に見せた。秋人も話して気が楽になったのか、確かに白は無理だなと思えるようになって、生地のサンプルを真剣に吟味し出した。
◆◆◆
凛子から薫に電話がかかってきたのはその晩だった。
彼女からの連絡は碌なことがないので3回取らなかったのだが、4度もかかってきたので薫は渋々電話に出た。
『居留守とはいい度胸じゃないか、クソ弁護士』
「大株主に対して酷い言いようですね、切りますよ」
薫の返事に凛子は大きく舌打ちする。
『待って、秋人くんのことで話がある』
「モデルはさせませんよ」
『わかってるよ!日頃の行いが悪いから仕方ないけど、ちょっと真面目に聞いて』
凛子の声音の真剣さに薫はこほんと咳払いした。
「わかりました。ご用件をどうぞ」
薫が態度を改めたのがわかったのだろう、凛子は躊躇いがちに話し出した。
昼間の秋人の訪問についてだ。少し迷ったのは秋人がサプライズでスーツを用意しようとしているところだが、おそらくこの聡い男が、それに気がついていないはずがないと思い直して電話を決意した。
『実は、昼間に秋人くんがうちに来て…』
と凛子はその時の秋人の様子を語った。
『
秋人は予知はないと笑っていたが、凛子にはどうしてもあれが単なる夢だとは思えなかたのだ。しかも自分にも何か、頭の片隅にちらちらと警告されているような不快感があった。もしかしたら、自分の
「加賀屋さん、ありがとうございます。知らせていただいて感謝します」
薫は凛子に対して最大限の謝意を示した。
「秋人のことを気にかけていただいてありがとう」
ああ、きっとこれが彼女の後悔だったのだろう…薫はそう思った。
「その件は私が預かります。だから安心してください」
『そう…か。うん、わかった。頼むよ』
凛子は長い間の胸の支えが取れたような気持ちになった。
『ところで、薫ちゃんは秋人くんから誕生日プレゼントを贈られても、まったく知らなかったふりをして受け取れるヨネ?』
凛子がいつもの調子で薫に言い放った。薫は小さく笑い声をあげる。
「もちろん! そういうのは得意ですよ。職業柄できてあたり前の技術です」
『かー、相変わらずやな男だね! それじゃよろしくね!』
がちゃん!電話は一方的に切れた。薫はしばらくスマホの画面をぼんやりと眺めていた。
「夢…か」
薫はそれが夢ではないことを知っていた。小姫から微かにだが聞いていたからだ。どうやら、1度目の自分は秋人に殺され、2度目の自分は秋人を殺したことは確定のようだ。
「3度目は、どちらもお断りだな」
薫は静かに目を閉じた。
◆◆◆
薫の誕生日は秋人、当夜、桜子、冬由の5人だけで行われた。秋人はたくさん人を呼ぼうかと思ったのだが、その準備になぜか薫が奔走する羽目になる未来しか思い浮かばなかったので、身内だけのごくごく小さい集まりにしたのだ。
秋人が贈ったスーツにしっかり驚いて見せた薫の演技は完璧で、誰も薫がそれを知っていたなど分からなかった。
試着してと皆からのリクエストにのって薫がそのスーツに着替えてくると、秋人は眩しそうに目を細めた。形は少し違うが色は加藤が贈ったものとよく似ていた。出会った当初の頃を思い出す。思えば随分あの頃と変わった。
「加藤さんからのプレゼント、ダメにしちゃってごめんなさい」
秋人がそう囁くと薫は苦笑して秋人の頭を撫でた。
「気にしなくていい。先生はそんなことで怒るような人じゃない」
と懐かしそうに薫が微笑んだのを見て、秋人はほんの少しだけ胸が痛んだ。薫の中に死んでなお加藤の存在は大きい。
「でもなんでダンジョンにそんな大事なスーツ着て行ったの?」
と桜子がもっともな質問をすると、薫は困ったような表情を浮かべた。
「先生が、なぜか『ダンジョンに行く羽目になったらこれを着て行きなさい』って言い添えてプレゼントしてくれたんだよ。たぶん、
と薫が呟く。実際は婚約者にまんまと騙されて行ったのだが。
「しかし、あれにそんな魔法がかかってたとはね」
薫もびっくりの新事実である。
「って、あれ、秋人これもしかして魔法かかってるの?」
薫は相変わらず魔法感知能力はゼロなので、もらったスーツの威力が今ひとつ分からない。桜子と当夜は薫の救援要請の視線をさっと避けた。二人はこのスーツがだいたいどれほどのもので、どれくらいのお値段か察している。野暮なことは言いっこなしだ。
「ナイショ」
と秋人が笑った。
「秋人、これいくらかかったの!?」
と薫が少し強い口調で尋ねるも、彼の被保護者は笑顔で黙秘を貫いたのだった。
凛子「ところで、この仕様だと流石にうちの職人だときっついから外注だすけど」
秋人「あ、そしたら人間国宝の大塚さんに連絡とってください」
凛子「相変わらずぶっとんだ名前突っ込んでくるわね。あの辺にお願いすると予算は青天井よ」
秋人「大丈夫です。薫には予算制限掛けられてないので」
凛子「それは、たぶんごく当たり前のつもりで言ってないだけかと思うが、まあいいでしょう」
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