【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
薫は食卓についてぼうっと夕飯を眺めていた。今日は薫が一番早く家に帰ってきたし、なんなら食事も一人だ。自分一人のためにたいそうなものを作る気にもなれず、冷蔵庫にあった作り置きをいくつか温めて並べているだけの夕飯だ。
「なんか…美味しく無いな」
ふうっと大きく息を吐いた。どうやら自分はいつもの賑やかな食卓に慣れすぎたようだと自重する。ほんの何年か前までここに座ることも惜しんで仕事をしていたし、何なら食パンを齧っていただけの日もあったのに。
「早く誰か帰ってこないかなぁ」
ぽつりと呟く声は寂しさを含んでおり、孤独に押しつぶされそうで若干凹んだ。
「こんなことで落ち込んでてもしょうがないんだけどな」
ため息が溢れた。
目下の薫の悩みは秋人の夢の件だ。
薫自身も詳細を知っているわけではないが、この世界は3度目の世界であることは小姫から聞いて知っている。その原因が秋人と自分であることもわかっている。
薫自身はそのことを受け入れているし、何なら次のやり直しは利かないことも聞いているが、そのことを秋人にも話したほうがいいのかどうかを悩んでいるのだ。
できれば知って欲しく無い。
薫は秋人にはのびのびとした青春を味わってほしいと願っている。せめてそれくらいの幸せをあの子は享受してもいいはずなのだ。
それなのに、変な宗教団体には目をつけられるわ、寿命のえらく長い曾祖母さんは現れるわ、恋人は殺されかけるし、保護者は誘拐され続けている。おまけに本人は人外扱いで、マスコミにも狙われている。
「俺たちの平穏な生活はどこに行けば見つかるんだ」
とぼやきたくもなる。
でも、秋人が悪夢に苦しんでいるのならやはり話してやった方がいいかもしれない。しかし、それは秋人が薫を殺害したであろうという推測も一緒に伝えることになる。夢でさえあれほど取り乱すのだから、事実として話したら優しいあの子はひどく傷つくだろう。
もちろん、薫は秋人がそんなことを望んで行ったとは思っていない。教皇とやらのスキルに「洗脳」の類があるということは判明している。おそらくその所為だと睨んでいる。
しかし、そういった精神干渉系の術はレベルが上のものには効きにくいというのが通説だ。
ということは教皇は秋人より上のレベルを持っているということになる。
秋人の現在のレベルは92。正直、これを超えられる人類がいるのが薫には信じられない。小姫も難しい顔をしていた。どうやら、彼女は何かを知っているらしいのだがあまり喋れないようだ。
「未来を変える助言にはとてつもない代償がいる」
と彼女は言った。それでもできる限り伝えようとしてくれているのは理解している。
先日、久宝
逮捕勾留されているがかなり精神的にダメージを受けており、病棟での拘束となっているらしい。彼の手紙は支離滅裂で検閲した者も首を傾げていたが、薫は優が必死に告白しようとした内容を読み取った。
「いつから弟を憎んでいたかわからない」
「なぜ、そんなことを思ったか切っ掛けも覚えていない」
「あの子は狙われている。どうか力になってやってほしい」
主な要点はこの三つだった。
薫はそこに救世来神教の関与を嗅ぎ取った。優はさほどレベルの高い
薫はじっと冷めた夕飯を眺めながら思考の海に沈んでいた。
「薫、いくらなんでも冷えちゃってるよ。温める?」
不意に傍からそんな声が聞こえて薫は飛び上がった。
「あ、秋人!おかえり」
「うん、ただいま。どうしたの?ぼーっとして」
心配そうな少年の顔を見ると薫は悩んでいたことを告げる勇気が持てなかった。ただでさえ年齢の割に苦労も心配も多いのだ。これ以上の重荷を背負わせたくは無い。
「いや、少し考え事をしてたんだ」
「考え事?」
首を傾げる秋人に向かって薫は若干難しい顔をした。本当のことは言えない代わりに、もう一つの重大な悩みを打ち明けた。
「秋人は、工藤さんをデートに誘う時、なんて言って誘うの?
「へ?」
秋人が目を丸くして聞き返す。
「いや、桜子さんをデートに誘いたいんだけど、なんか難しくて」
「そんなの、一緒にご飯食べに行きましょうとか、夜景の綺麗なところを案内しますよとかでいいと思うけどな」
頼りになる同居人のアドバイスを薫は心に刻んだ。相手が十六歳であることはこの際横に置いておく。情けないことに、男女の正しいお付き合いとしてはおそらく秋人のほうが進んでいる。
「秋人は工藤さんとどんなことしてるの?」
「僕は基本部活は一緒だし、趣味も同じだからね。美術館に行きましょう。帰りにご飯食べに行きましょうでだいたい済んじゃうもん」
とのことでどうやら秋人の作戦は薫には使えないらしい。
「俺、そういえば桜子さんの趣味とか知らないなぁ」
ダメ彼氏である。
「今日は師匠はいないの?」
凹む薫を見かねて秋人は話題を変えた。
「今日は長野のダンジョンに行ってる。一週間くらいかかるだろうって」
「結構長いね。深いのかな」
秋人は首を傾げたが、おそらく康子が聞いたら額に青筋立てて怒るだろう。アークエンジェルの遂行能力は高い。これでも破格の短期間征伐なのだ。神崎家が異常なだけである。
「当夜は?」
と再度秋人が話題を変える。薫は若干目を逸らしながら
「匠君と飲みに行った」
と告げた。
秋人は匠にもらった手紙の通り美味しいお店に連れて行ったのだが、甘味処ではやはり合わなかったらしい。匠は
「わあ、そうやった!お前未成年やったわ」
と嘆いたという。その後はもっぱら彼の飲みの相手は当夜である。
「いいなあ。僕も早く大人になりたいよ」
秋人が深々とため息を吐いた。
「僕だけ未成年でお酒飲めないし、美香とも結婚できないし」
ぶすっと頬を膨らませる秋人を見て、薫は少しだけ胸が暖かくなった。
最近の秋人は自分がこうしたい、ああしたいという願望のようなものを口にする機会が増えた。それだって全然控えめで当たり前の要求なのだが、それでもジュースの一本も選べなかった頃に比べると雲泥の差だ。
ふっと薫は笑って秋人の頭に手を乗せた。
「?」
いきなりのことに秋人は大きな目をさらに大きくして薫を見る。
「せっかくまだ子供なんだ。早く大人になんかなったらもったいないぞ」
と薫が笑いながら言うので、秋人は唇を尖らせた。
「そういうの、大人だから言えるんだよ」
ぷんすこ怒っている秋人に薫はさらに笑みを深くする。
やはり言うのは止めておこうと薫は決心した。それで多少まずいことになったとしても対処可能だろうと薫は判断した。
後に、薫はこの判断を激しく後悔することになる。
秋人「美香、今日は画塾ない日だよね?渋谷のカフェ行こう。新しいの出てるって」
美香「ああ、もうすぐマロンパフェ始まるわね。でもダメでーす」
秋人「なんで!?」
美香「秋人くんの作品の進捗がよくありません」
秋人「ふぎゃ」