【書籍化】3S探索者の叛逆無双譚 災厄前の世界に帰還した天才少年探索者は、最強魔法使いと共に剣と魔法で無双する(11月20日発売予定)旧名:3S探索者の代理人 作:かんだ★
数日後、長野から桜子が帰ってきた。
「ただいまー。お土産買ってきたよ」
という、どこかに出張に行った帰りのような帰還だった。
「お帰りなさい」
と薫が少しほっとしながら言う。桜子は怪我一つなくぴんぴんして帰ってきた。
「今回は思ってたより大変だった」
とぼやきながらドサリと居間のソファに腰を下ろした彼女を、薫は笑顔で迎えた。
「あれ?秋人は?」
きょろきょろと辺りを見渡す彼女に薫は苦笑を返す。
「今は文化祭の準備で帰りがかなり遅くなってる」
と薫が説明すると「ああ」と手を打った。去年彼女も轟学園の文化祭に出かけているので秋人が大変なのは知っている。去年もずっと遅くまで学校にいたし、もっと直近になると終電終電終電とブラック企業のサラリーマンのような生活をしていたのを思い出した。
「今年もお化け屋敷するの?」
と彼女が少し眉を寄せて尋ねるので、薫は「ぷはっ」と小さく吹き出した。
「もう!仕方ないでしょ!暗いところ苦手なんだから」
「はいはい。ご飯は?」
薫がぽんぽんと憤慨する桜子の頭を撫でた。
「まだ、食べてない」
「じゃあ、一緒に食べましょう」
薫の言葉に桜子は破顔して頷いた。薫が自分の帰りを待っていてくれたのが分かったからだ。
今日の夕飯は桜子の好きなものばかりだった。薫の心遣いがくすぐったくて桜子は自然と笑顔になる。
「いただきます」
と両手を合わせた。
「冬由ちゃんは?」
と彼女は空席について聞いた。秋人はともかく冬由は中学生なので文化祭は関係ないはずだ。
「何か莉音ちゃんと対戦?をするとかで先にご飯を食べて今は部屋に」
「相変わらずゲーマーなんだ」
との言葉に薫は軽く頷く。
「当夜くんは?」
とさらに彼女が尋ねると薫は首を傾げた。
「最近、悪い友達ができましてね。よく飲みに行ってます」
「へえ、意外」
桜子は眉を顰める。
「年も近いし、彼は大阪出身なので東京の美味しいところに連れて行けって言われてるみたいです」
薫の言葉に桜子は「ああ」と頷いた。
「久宝くんか」
「今は竹山くんですね」
「名前変わったんだっけ」
「ええ」
桜子は少しだけ暗い顔になった。
「あの子は逃げられて本当に良かった。だいたい跡取り以外の子が強いと酷い目に遭うからね」
ふうっとため息を吐く。
「それは、蔵まわりの話?」
と薫が問いかけると桜子はこっくりと頷いた。
「五十年前のダンジョン顕現からこっち、蔵の血筋もだいぶ弱ってるから、跡取り以外の強い
くるくると桜子はフォークを回して呟く。桜子は
坂田がギルドマスターの時はどうする気もなかったようだが、後藤は例の赤城のことを盾に色々と聞き取り調査を行なっているようではある。しかし、ギルドと蔵の間には協定があるのでなかなか難しい問題なのだ。
お家自慢にSランク相当の実力者を派遣してくる蔵関係者は、通常の探索者を見下す傾向がありタチが悪いのも多い。今回もその所為で内部分裂して酷い目にあったのだという。
そういう関係者の中では匠は全然マシな方だった。悪ぶってはいるが実力者であり、向上心を持ち真面目に取り組んでいた。おそらくあの擬態は家族に遠慮しているのだろうと桜子は感じていたのだ。
「秋人ほどじゃないけど、親兄弟に搾取されてる実力者が結構いるんじゃないかなぁ」
そういう桜子も似たような境遇だ。
「強すぎるとさ、やっぱ怖がられるからね。仕方ないけど」
少し寂しそうに桜子は言う。
彼女は肉親からの愛情が薄い。もしも自分がここまでの力がなかったら、もう少し家族として愛してもらえただろか?とそう思ったことが無かったといえば嘘になる。
代わりに家への忠誠を嫌と言うほど叩き込まれる。それはもう何世代にもわたって行われてきた慣習のようなものだ。あの竹山大善でさえ抜けられなかった鎖だ。薫は暗い顔の桜子を心配そうに見つめて、慰めるように微笑んだ。
「匠くんは大善さんの養子になったので、この先はもう大丈夫でしょう。大善さんは引退されるとのことだけど、近々匠君がSに昇格するみたいですしね」
薫の言葉に桜子はうんと頷いた。その顔が力なくて薫の心を騒がせた。こんな弱い表情の彼女を見るのはあまりない。
「血縁だけが家族じゃないですよ。アークエンジェルの皆さんは桜子さんのことを家族のように思ってるし、俺も秋人も血は繋がってないけど家族ですし、俺はあなたのこともそう思ってます」
薫がいつになく真剣な顔で桜子を見たので、彼女はちょっと心臓がどきりと高鳴った。
「その、桜子さん」
薫が緊張感を漂わせる表情でずいっと彼女に近づいた。
「は、はい」
桜子の頬が赤く染まる。
「俺と・・・」
「はい」
薫が桜子の手を握ったので彼女も握り返す。
「ただいまーーーーーー!」
玄関から元気な声がして、二人は慌てて飛び退いた。
「あれ?師匠おかえり?何してるの?」
テーブルの端と端に座って明後日の方向を見ている二人を見て、秋人は少し首を傾げたが「あっ」という顔をして
「ごめんなさい!僕、ご飯は食べてきたから続きをごゆっくり!!」
とトドメを刺して去っていこうとするのを二人は真っ赤になって引き留めた。
「いや、秋人!お土産!お土産買ってきたんだ。長野のりんごパイ、一緒に食べよう?」
「秋人!おかえり!一応秋人の分のご飯もちゃんと用意してあるから、一緒に食べよう?」
大人二人があたふたと言い訳するのを、秋人は困った顔で見つめる。
「薫、もうちょっと頑張らないと、いつまでも師匠にデート申し込めないよ」
ずばっと切り返されて薫が口をぱくぱくしていると、秋人の言葉を理解した桜子もあわあわしだした。
奥手な保護者カップルを憐れむ目で見つめる秋人だった。
秋人「師匠をデートに誘いたいんでしょ?日付決めちゃおう」
薫「え?あ?いやその・・・」
秋人「師匠、空いてる土日はある?ないなら夜でもいいけど」
桜子「いや、え、でも・・・・」
秋人「はっきりする!!」
薫・桜子「はい」
ちなみに、秋人は美香ちゃんと二人きりの誕生日パーティーはしっかり終わらせています。
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