リアンがワートリ世界に行ったらってだけ 作:teoto1303
新1
私には苦痛しかありません。それ以上の…」
「はあ…疲れるな。」
ずっと指令に従ってきた人生だった
最後の最後で大切なものに気づき、自分の意思で執着してみたが届かなかった
空虚な人生だと思う
だが、やり直しは効かない
指令が嫌というほど聞き慣れた機械音を鳴らす
(ピープ音)
【カドゥケウスで自殺しろ】
もう大切なものも遠く、手の届かないところにいってしまった
この指令に背く理由はなく、カドゥケウスを手に取り武器を顕現させる
そこには本来なら現れるはずがないフォプーンがあった
「はは…」
私は確かに空虚な人生を送ってきた
「ははははは!」
その中にある数少ない娘との思い出
「娘…どうやらお前は…」
それすらも
指令は汚すみたいだ
「お湯を掛けて融かしてくれるのを…」
だが、過ちに気づくのが
「忘れたみたいだ」
遅かったみたいだ
暗い
何も聞こえず、感じない
死とはこういうものなのか
多くの者に与えてきたものだが、自分で体験したことはなかったな
もう指令に縛られることもないと思うとそう悪いものではないようにも思える
これがいつまで続く、あるいは永遠なのかはわからないが
(ピープ音)
?
音が聞こえる
私が人生で最も聞いてきた音が
だが私は死んだ
肉体は存在せず、魂も抜け落ちたはずだ(そも存在していればだが)
だから聞き間違いに違いな──
(ピープ音)
……
聞き間違いではないのだろう。
仕方がないので起きようとしてみる
…
知らない天井だ
いや、正確には天井が半分崩落しているが
胸元には親切にも先ほど私を死の安寧から起こしてくれた端末機が入っている
(ピープ音)
【近界民を殲滅しろ】
死してなお指令からは逃れられないらしいな
だが不貞腐れても仕方がないので指令について思考してみる
近界民?少なくとも私の人生で初めて聞く言葉だな。そも指令というのは超常の存在だ(と私は結論づけている)。私の理解が及ぶ範囲を超えているのはもう嫌というほどわからされている
幸いにも期限は設けられていないらしい、ということはまた生涯をかけての指令になることもあるかもしれないな
その辺りでこれ以上の思考は無駄であると結論づけ、その崩落しかけた家を出る
その風景は今まで見たことがない…わけではないがどこか雰囲気が違って見えた…
空は青く、空気は澄み、なんというか…殺伐としたような雰囲気は感じられない…というべきか
まるで都市ではないような…もちろん外郭などでもなく全く別の世界のように感じられた
だが妙なことがある
私が出てきた家も含め、ここら一体の家が壊れている部分が多すぎるようだ。生活感がなく人の気配も全く感じられない
「…」
とりあえずここがどこかすら分からない以上ここらを散策し、状況を前に進めるしかないだろう
そう思い立ち、足を進める
やはり、ここら一体が廃墟のようになっている
これほどの規模で住む家を放棄するとはよっぽどの事情があったことが推測される
家だけで判断するのは早計だと分かってはいるが…明らかに都市の文化とかけ離れている家がやはり目立つ
その私の目を引いた数奇な形状の家が1つであれば奇人で済むだろうが、それが何軒も並んでいれば話は別だ
つまりそれは個人の嗜好ではなくその地域の文化ということだろう
そうして考えを巡らせながら足を進めていると障害物にぶつかる
どうやら私の考えは多少合っていたようだ
ここは何かしらの脅威が存在するために人々が放棄した場所だったらしい
その証拠に有刺鉄線で人が誤って入らないよう規制してあるみたいだ
これを破って入ろうとする輩はいないだろうな
わざわざペンチやらを持ってきて危ない場所に入りに行くバカはいない
くだらない思考に蓋をし、有刺鉄線を乗り越える。ここからがこの世界、もしくは地域の生活圏か
ひとまずは情報収集だ
ここがどこなのか理解する、都市なのか、外郭なのか、はたまたどちらでもないか
そして近界民のこともついでに聞ければ上々といったところだな
今の時間は分からないが、少なくとも明るくはあるため人がいれば活動している時間帯だろう
そして閑静な住宅街を1人歩く
家の数の割には静かだが、私はこの静けさは嫌いではない
もっとも情報を得たい今、それは少し困ることではあるが
なんらかの店があれば自然と会話することができるため、やはりそれが狙い目だろう
普通の家に突然押しかけてこの場所のことを聞くのはあまりいいこととは言えない。状況が掴めない今目立つべきではない
すると願いが叶ったのか右手に曲がった先の突き当たりにお店らしきものが見えた
(あれは…何を売っているんだ?)
そして店の形態を見ればなんとなく判断は着くと思ったが当てが外れたか。遠目では何の店なのかわからない
店の前に着いてしまったがいきなり入るのは少しリスキーだと判断し、他の客が入る様子を見ることにした
(とりあえず他の客の様子を見てから入店しようか…いきなり挙動不審な行動を取れば質問もしづらくなってしまう)
そしてお店に気を取られていたせいか、もしくは都市でも同じ風景があったからか、車が走っていることになんら疑問を抱かなかった
(どうやらこの店、車、家を見るに文明レベルは都市と少なくとも同等レベルはありそうだ)
「コンビニ、入らないんですか?」
「!!!」
後ろからの声に反射的に反応し、逆方向に大きく跳躍する
周りにいた学生のような格好をした少年らが不審者を見るような顔でこちらを見ている気がするが、今はそんなことを気にしている場合ではない
「いや…そんな大袈裟に反応されるとこっちが悪いみたいじゃないですか…」
「とりあえず困ってるんじゃないですか?お菓子でも食べながら話、どうです?」
そういいながらサングラスをかけたどこか胡散臭い青年は見慣れないお菓子を差し出した
この時のリアンはかなり混乱していた
罠?いや、なら私が背後を許した時点で終わっている
それになにより──
「なぜ、私の事情を把握しているような口ぶりをしている?」
「いや〜さっきから挙動不審でしたし、それにコンビニ入るためにそんな覚悟決める人いないっすよ」
「…」
ふむ…そんなに挙動不審だったか…どうやら開放感ある風景に気が緩んでいたのかもな
そしてこのお店はどうやらコンビニというらしい
まあどうでもいいことだ
それよりこれはチャンスではあるだろう
このサングラスを掛けた青年は少なくとも私に害を与えるような素振りは見えない。その気があってももう油断することはない。
もうこの青年が私の脅威たり得ることはないと判断し、彼に話を聞くことにする
「…では…いくつか質問していいか?」
「いいですよ。話するんなら…ぼんち揚食います?」
「…いや、いい。一つ目の質問というかお願いなのだがこの世界のことを教えてくれないか?」
「いいですよ」
そういうと、青年は余裕そうな達観しているような表情のままこの世界について喋る
「まあこの場所は大きく分けて2つくらいに分けられますかね呼び名は」
「1つは地球。俺らって宇宙と呼ばれるバカでかい空間に浮かんでる地球ってとこに住んでるんすよ。だから地球」
まあ俺らが勝手につけた名前だから地球って名前自体どうなんだろうねーと興味なさそうに肩をすくめた
「2つ目の方が多分リアンさんに関係ある名前だと思うんだけどそれが玄界」
「これは宇宙とはまた別の空間があって、そこには近界っていうのがあるんだ。そこにいる人々、近界民が主に俺らに使ってる名称かな」
ちょー簡単に言うとってだけなんであんま参考にしすぎないでくださいねーと青年は言う
なるほど…とりあえずこの場所が都市と全く関係のなさそうな場所だということは理解できた
それに近界民についての情報も得られた。この青年…私の欲しい情報が全てわかっているかのようだったな。ん?
私の名前を彼に教えたか?
教えていないはずだ。私は名乗っていないし、彼の名前も聞いていない
これは…
「一ついいか」
「なんですか?まだ聞きたいことがあればなんでも」
「なぜ私が名乗っていないのにも関わらず私の名前を知っている?」
青年に厳しい視線を向ける
確かに私が必要な情報は提供してもらった。だが、これはこれでそれはそれだ
ましてやこの世界で現状私は私のことを誰かに伝えたいことがない。にも関わらず存在を知っているとなれば…
超常の類か、世界が違う以上考えにくいが人差し指の関係者という可能性もありえるといえばあり得る
人差し指の関係者ならば…消すしかあるまい…
「あー。マズったなあ。そういえば名乗ってなかったですね。まだ」
やっちゃったーとあまり深刻そうにはせずに青年は頭をポリポリ掻いた
「説明できるのか」
少し考える素振りを見せてから青年は話す
「うーん…言っちゃってもいっか。まあ端的に言えば俺は未来が見えるんですよね。例えばあなたの胸ポケットに入れてるその端末機。何やら故障してるような音を鳴らすことが特徴みたいで」
未来が見える…にわかには信じがたい話だ。似たようなもので言えばヴァレンチーナの予知眼があるがそれと比べものになりそうもない
だが確かに未来が見える、少なくとも青年と超常の力が関係しているのは間違いないとみてもいいかもしれない
しかしそれでは一つの疑念が晴れない
私が人差し指の神託代行者という高い地位にいる以上、指令が送られてくる端末機の存在がバレていてもおかしくはないからだ
「…確かにそうだ…だがそれでは私の懸念が晴れないんだ。だから1つ確かめるために質問に答えてくれ」
私の言葉にも彼は全く動揺を見せずに答えた
「もちろん」
「では目を瞑り、後ろを向いてくれ」
「はいよ」
そしてカドゥケウスを取り、顕現させる。
「今私が右手に握っているものはなんの形状を取っている?」
その時、顕現したのなフォプーンだった
私のカドゥケウスの変形先を知っていたとしてもこれを当てることは不可能だろう
「スプー…いやフォークかな?とりあえずその2つの混ざり物みたいな見た目してるかな。正確な名前はちょっと分かんないな」
そしてそれをピタリと青年は当ててみせた
ズルを見逃すほど衰えてはいない
故に彼はおそらく清廉潔白だろう
カドゥケウスを消し、ポケットにしまう
「なるほど。疑って悪かったな。改めて私はリアン。それ以上のことは状況が掴めない以上何も言うことはできない」
「俺は迅悠一。ボーダーっていう組織に所属してる実力派エリートってとこすかね」
実力派エリートと自分で名乗るあたりかなり実力に自信があるようだ
実際、未来が見えるのだとしたら負けはないだろう
「悠一か…いい名だな」
「ありがとう。リアンさんもいい名前だと思うよ」
私は少し目は細める
リアンという名前に付随した都市の星、神託代行者という肩書に感情を持たれることはあれど、リアンという名前自体に感情を投げかけられるのは初めてだった
なんというか…少し新鮮で悪くない気分だと言っておこう
「それで…これからどうするとか決まってるんですか?」
「いや…特には決まっていないな。だが目的はある」
「それは?」
「私は近界民を滅ぼさなくてはいけない」
迅は一瞬黙るが、すぐに元の調子を取り戻し飄々とした態度で言う
「それならいいとこを紹介できますよ。俺が所属してるボーダーに入ればその目的に1番近づける」
「未来が見える俺が保証します」
「なるほど…それは何とも心強いな…」