愉悦の選択肢   作:ひまなめこ

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第一話 選択の結果列車に乗ることになりました。

「ふぁ〜ねむ⋯。」

 

思い切り欠伸をしながら、俺はゆらゆらと揺れる電車の中で吊り革につかまりながら立って次の駅への停車を待つ。

俺は何処にでもいる男子大学生名前は()(どう)(めぐる)

受験勉強をサボったせいで第一志望に落ち、家から電車で片道一時間半の大学へ通う事になったしがない若者である。

 

そんな俺は一時間以上もある極めて暇な通学時間を利用して勉強⋯なんて面倒な事はせず、最近ハマってるソシャゲをスマホで起動して暇を潰す。

 

最近ハマってるソシャゲというのは言わずもがな崩壊スターレイルの事である。

友達から勧められて始めてみたら、登場キャラが皆俺好みだったのであっという間に沼にハマってしまったのだ。

 

今日も俺は日課であるスタレのデイリーをこなそうとログインするのだが、タイミングが悪い事にアップデート直前のメンテナンスが来てしまい、ログイン出来なかった。

 

「うわっタイミング悪⋯。」

 

俺はログイン画面で固まるスタレを前に少し苛立ちを覚えながらスマホの電源を切る。

そして、そのタイミングで俺が電車を乗り換える駅に停車したので、荷物を背負って電車から降りる。

 

大学最寄りの駅に着くのに三回くらい乗り換えないと行けないため、先ずは一回目の乗り換えを済ませるために駅のホームをトボトボと歩く。

そんな時、異様な雰囲気を醸し出す謎の物体が階段の隅に落ちているのを見かけた。

 

「何だあれ?」

 

通勤ラッシュで無数の人混みが行き交う中を掻き分けて、俺は階段に落ちてた謎の物体を拾い上げる。

 

「これは⋯カセット?」

 

拾い上げて見てればその謎の物体は何かのカセットである事が分かった。

それも、ファミコンで使われるかなり古く大きなカセットだ。

 

「何でこんな物が?誰かの落とし物かな?」

 

俺はそのカセットを駅員さんに届ける為に一旦懐にしまい込む。

 

しかし、その直後カセットがいきなり一人でに動き出して俺の胸の中にめり込んだ。

 

「うわっ!なんだこれ!」

 

人目を忘れて俺は駅内で叫ぶ。

通勤の為に駅を歩く人達からの奇異な視線が痛々しく突き刺さるが、そんな事を気にする余裕は俺には無かった。

 

「ぐぅうう⋯何だ⋯急に目眩が⋯。」

 

胸にカセットが刺さった直後、俺は突然の目眩に襲われる。

何か異物が頭の中に入り込むような不快感が俺に強烈な吐き気を催させる。

 

そして数分⋯いや、数十分の時間が経過し、やっと目眩が収まった時、俺の視界に妙な光景が浮かび上がった。

 

選択肢

 

1:京浜東北線に乗り換える

2:武蔵野線に乗り換える

3:???に乗り換える

 

「何だこれ?選択肢?」

 

突然現れた選択肢に俺は大いに混乱する。

 

目の前に選択肢が現るなんてまるでゲームのようだ。

何でそんな物が急に⋯?

いや、原因は分かりきってる。

さっき俺の胸に刺さったカセットだ。

あれが俺にこんな奇妙な光景?幻覚?を見せているんだ。

 

混乱する頭で状況を整理していると、今度は俺の視界に選択肢以外の文字が浮かび上がる。

 

《残り時間30秒を切りました。直ちに選択肢の中から一つ選択しないとあなたの脳を破壊します。》

 

「え?」

 

現れた文字に対して俺は更にこの状況に混乱し、焦りを覚える。

 

ヤバい!早く選択しないと!でも⋯武蔵野線も京浜東北線も俺の通学路範囲外だし⋯。

こうなったら、一か八か???ってやつを選ぶしかないか⋯。

 

俺は急いで選択肢の中から「???に乗り換える」を選択する。

 

「これでどうだ?」

 

選択した直後俺は身構える。

何が起きるかわからない以上油断は出来ない⋯。

 

そして次の瞬間、俺の体がいきなり勝手に動き出す。

 

 

「うえ?」

 

体の自由が効かず、まるで傀儡のように何者かに操られるかのように体が勝手に動いて駅内を走りまわる。

やがて、その先に何もない行き止まりの壁が目の前に現れ、俺の体はその壁に向かって突っ込む。

すると、次の瞬間俺の体が壁をすり抜けて、謎の空間へと抜ける。

 

「ビビった⋯。」

 

壁に思い切り体がぶち当たる未来を想像していたが、不思議な力で体がすり抜けた事で最悪な未来が回避出来た事に俺は安堵する。

 

だが、安堵するのも束の間新たな問題に俺は直面する。

それはズバリここは何処なのかについてだ。

 

???の選択を選んだ直後に体が勝手に動いて壁をすり抜けてやってきたのはアンティークな雰囲気を醸し出す高級感溢れる謎の空間だった。

 

明らかにさっきまでいた駅とかけ離れた空間に俺の頭は度重なる混乱の最中遂に半分思考を停止させる。

 

「ここは何処だ?なんか⋯どっかで見たような気が⋯。」

 

今まで来たこともない謎の空間⋯である筈なのだが、何故がこの空間に見覚えがある様な気がした。

 

「あら?今日は来客の予定は無かった筈だけれど⋯。」

 

その瞬間、俺の背後にカツカツと甲高いヒールの足音と共に妖艶な雰囲気の女性の声が聞こえてきた。

 

急いでその声がする方へ振り向くとそこには白いドレスに黒いコートを着た赤毛の美しい女性が立っていた。

 

「え?え?」

 

俺はその姿を見てさっきまで半分残っていた思考を完全に停止させた。

何故ならそこにいたのは、最近ハマっていたゲーム崩壊スターレイルのキャラで⋯。

 

「あんた何者?」

 

あの星穹列車のナビゲーターの⋯。

 

「あら?黙りかしら?それとも人に名前を聞くなら先ずは自分から名乗れと言うのかしら?なら私から先に名乗って上げる。」

 

赤毛の女性は妖艶な笑みを浮かべて一拍を置いた後俺を見つめて口を開く。

 

「私は姫子。この星穹列車のナビゲーターよ。」

 

 

どうして、この空間に見覚えがあったのか分かった。

ここは星穹列車のラウンジだ。

ゲームで親の顔よりも見たと言っても過言では無いほどに何度も何度も目にしたあの星穹列車の中だ。

 

「ほら、ちゃんと名乗ったんだからあんたも名乗りなさい。あんたは何者なのかしら?もしかして泥棒?」

 

「えっと⋯俺の名前は⋯城藤巡⋯です。決して怪しい者では⋯いや、あるな⋯。えっと⋯怪しいですけど、泥棒ではありません。」

 

「じゃあ、何の為にここに来たのよ?」

 

「それは俺も分かりません。さっきまで普通に通学の為に駅にいたら変なカセットを拾って⋯そしたらなんか勝手に体が動いて駅の壁をすり抜けて、ここに来ました。」

 

俺は姫子さんからの質問に素直を答える。

 

「⋯何を言ってるのかさっぱりだわ。壁をすり抜けて列車に乗ったて⋯どういう事よ?」

 

「俺にもわかんないですよ⋯。本当に俺にも何が何だか⋯。」

 

「あんた出身は?何処の星から来たの?」

 

「地球です。」

 

「地球⋯聞いたことも無い星ね。」

 

地球と言う単語を聞いて姫子さんは興味深そうに顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 

地球の対して何も知らないのか?

 

俺は今の姫子さんの様子を見て少し違和感を覚える。

俺が住んでいた世界とは違うとは言え、同じ星穹列車のナナシビトであるヴェルトは地球出身の筈だ。

なのに姫子さんが地球を知らないなんておかしい⋯。

いや、もしかして⋯。

 

「あの?姫子さん。」

 

「何かしら?」

 

「ここにはあなた以外の乗員は⋯。」

 

「いないわよ。この列車には私以外は乗っていないわ。」

 

成る程⋯通りで地球の事を知らない訳だ。

恐らく星穹列車に乗って故郷を飛び出て直ぐの頃なのだろう。

今の星穹列車にはまだヴェルトもパムもいない。

だから、今の姫子さんには地球を知る機会が無いのだ。

 

「⋯ねえ、あんた壁をすり抜けたらここに迷い込んだと言っていたわね?」

 

「はい⋯。」

 

「正直信じ難いけれど、私にはあんたが嘘を付いているようには見えないわ。」

 

「当然ですよ!嘘なんか言っていません!」

 

「わかったから落ち着きなさい⋯。こう見えて私は人を見る目には自信があるの。あなたはきっと悪意があって列車に乗り込んだ不届者では無い⋯と私の直感が言っているわ。」

 

直感⋯。

割とゲーム内で姫子さんが口にする台詞だ。

姫子さんは列車のナビゲーターとしてかなりの修羅場を潜っている。

その為、その豊富な経験値によって裏付けられている鋭い直感と確かな審判の目を持っているのだ。

しかし、それはあくまで主人公が列車組に加わって物語が始まった時点での話。

今の星穹列車には主人公は愚かヴェルトもパムもいない。

つまり、姫子さんはまだまだナナシビトとしての経験は浅いということになる。

 

一応疑われる立場の俺が言うのも何だが、彼女の直感は本当に当てになるのだろうか?

 

「感って⋯。そんなんで俺を信じて良いんですか?」

 

「なら、逆にあんたは私に疑われて、列車からつまみ出されたいの?言っておくけれど、今の列車は次の停車駅に向かって行路を走っているわ。つまり今は宇宙のど真ん中よ。あんたがどうしても宇宙浴をしたいと言うなら止めないけど。」

 

「冗談です!俺を疑わないで!信じてください!」

 

宇宙に放り出されるとか俺死ぬじゃん!

嫌だ!死にたくない!

姫子さんが俺を信じるなら、それに甘えさせていただこう。

元の世界に帰る方法も帰れるかもわからない今、俺の生殺与奪の権は姫子さんに握られてる。

今は変な事を言って機嫌を損ねないようにしよう。

 

「ふふっ!冗談よ。次の星に止まるまではあんたを追い出す気はないわ。」

 

「ほっ⋯。」

 

「それよりも提案なのだけれど、正式に列車の一員になる気は無いかしら?」

 

「え?」

 

姫子さんは自分が何を言ったのか分かってるのだろうか?

一応俺不法侵入犯なんだけど⋯。

それを仲間に引き入れるって正気の沙汰とは思えない。

 

「さっきも言ったけど、この列車には私以外に誰も乗っていないの。正直話相手がいなくて退屈していた所よ。だからあんたさえ良ければ正式にナナシビトになって貰えないかしら?勿論嫌なら次の星で降りても構わないわ。」

 

「⋯。」

 

俺は顎に手を当ててわざとらしく考える素振りをする。

しかし、答えは決まってる。

勿論イエスだ。

ゲームと言うことで忘れガチだが、スタレの世界はディストピアと言っても過言ではない。

 

カンパニーの市場開拓部、星核、裂界、絶滅大君⋯他にも沢山の化け物達が宇宙中に蔓延っている。

俺みたいなモブは簡単に淘汰されるのだ。

そんな中、星穹列車の一員になってその庇護を得られるのなら、願ったり叶ったりと言うやつだろう。

 

そうして考えをまとめた俺は姫子さんに返事を返す為に口を開く。

しかし、その瞬間俺の目の前に再びあの選択肢が現れた。

 

選択肢

1:「はい!喜んで」と言う(好感度+10)

2:「お断りします」と言う(好感度-1)

3:姫子の胸を思い切り揉んで「うるせえ!雌豚」と言う(ゲームオーバー)

 

⋯何これ?

 

好感度?

そんな物あんの?

あと、3つ目の選択肢は論外過ぎるだろ。

 

兎に角例え選択肢が現れようと答えは一つ。

1の「はい!喜んで!」だ。

 

「はい!喜んで!」

 

「ふふっ!快い返事が聞けて良かったわ。これからよろしくね。巡。」

 

こうしては俺は紆余曲折あって星穹列車の一員となるのだった。

 

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