アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー   作:AIのタンクもどき

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第1話の続き、タキオンがつまみ出された後のお話です。


第2話:強行突破作戦

 昼過ぎ。Tの全身を覆っていた鮮烈なエメラルドグリーンの光は綺麗に収まっていた。発光現象そのものはあれから数十分程度で沈静化し、人体への目立った後遺症も見受けられない。ひとまず安心したTは、パソコンの画面に並ぶ鎮守府からの定時報告へと視線を戻していた。

 ドンドン、ガタガタ。

「開けたまえ、トレーナー君!冬月君!廊下に放置するだなんて酷いじゃないか!」

 数分おきに頑丈な扉の向こうから聞こえてくる、少々情けない声。つまみ出されたタキオンが中に入れてもらおうと、鍵の閉まった扉を叩いて必死にアピールを続けているのだ。

「提督、次の書類だ。承認を頼む」

「ああ、ありがとう」

 だが、Tと冬月は完全に無視していた。これほどまでに冷静な態度が取れるのは、タキオンとの長い付き合いがもたらした「いつものこと」という慣れ以外の何物でもない。薬品を投入されたのとは別の容器の茶葉でほうじ茶を淹れる冬月。ノック音と抗議の声が響く中で、秘書艦として淡々と実務事務をサポートし続けていた。

 

 もっとも、一日中部屋を封鎖し続けるわけにもいかない。トレーナー室には、学園内の他のウマ娘の担当トレーナーたちが情報交換や業務連絡のために度々訪れてくる。誰かが訪ねてくると冬月がそっと扉の鍵を開け、迎え入れと送り出しを行っていた。タキオンはその瞬間を狙って滑り込もうと何度も画策する。だが、その度に冬月の鉄壁の防御によって防がれては、目の前で無情にも扉が閉められていた。

 

 そして夕方。情報交換のためにTのもとへ訪れていたダンツフレームのトレーナーが、一通りのやりとりを終えて立ち上がった。

「いつもタキオンがそちらにご迷惑をおかけしているようだ。本当にすまないね」

 Tが苦笑交じりにそう声をかけると、ダンツフレームのトレーナーは恐縮したように会釈を返し、退室するために扉へと向かった。冬月が再び開錠して扉を開ける。

 その瞬間だった。

「ここだぁっ!」

 ダンツフレームのトレーナーが退室し、扉が閉まりきるコンマ数秒前の隙間を突いて、泥棒猫のような俊敏さで白衣の影が室内に滑り込んできた。ウマ娘の優れた身体能力を利用して、滑り込んできたタキオンだ。彼女は床に膝をつきながらも、勝利の笑みを浮かべて両手を広げる。

「あははは!ついに牙城を崩したぞ!見たかいトレーナー君!」

「はぁ……本当に往生際が悪いな、お前は……」

 Tは深くため息をつきながら、床のタキオンを見下ろした。冬月もまた、静かに眉をひそめて「もう一度つまみ出すか」と手を伸ばそうとする。

「おっと待ってくれたまえ冬月君! 暴力は良くない!今の私は見ての通り完全に丸腰、怪しい薬品の類は一切所持していないよ!ほら、ポケットもこの通り空っぽだ!」

 タキオンは慌てて両手を挙げてアピールした。確かに、彼女の白衣のポケットにはいつもの怪しげなフラスコやアンプルは見当たらない。

 Tが部屋の隅の打ち合わせデスクに目をやると、タキオンが持ち込んだ研究用の端末と、手書きの実験データがびっしりと書き込まれたノートが、つまみ出されてから一度も手を付けられないまま残されていた。

「……仕方ないな。端末もノートも置きっぱなしだったし、今回は入室を許そう。ただし、こんなやり方での突入はもうするなよ。みっともないから」

「おや、話が分かるじゃないか。やはりトレーナー君は度量が広いねぇ!」

 タキオンは顔を輝かせるとそそくさとデスクへ向かい、ようやく手元に戻ってきた端末とノートを抱え込んだ。

 

 そんなタキオンの前に、冬月がすっと無言で近づいていく。その手に握られているのは、朝方にタキオンが試薬を仕込んだと宣言した、あのほうじ茶の茶葉の入った金属製の容器。それが、コト、とタキオンの目の前のデスクに置かれた。

「……?これは、朝のほうじ茶の容器だね。私に返品してくれるのかい?」

「違う」

 短い言葉で否定しながら、冬月がタキオンを見つめる。

「朝の件、そして茶葉に試薬を混入させて台無しにしたことについてだが」

 続けてTが自分の手を机の上で組みながら、タキオンに告げた。

「試薬を飲ませるのはいつものことだからそれは不問とする。ただし、だ。その茶葉に混入している試薬の効果が発生しないよう、お前の手で完璧に調整し、飲んでも体が発光しないよう無効化するんだ」

「ふぅン……無効化、かい?せっかくの私の最新の研究成果を、ただのほうじ茶に戻せと言うのだね?」

 タキオンは不満そうに唇を尖らせる。しかし冬月がその背後に立ち、静かに上から視線を落としてくるのを感じると、タキオンは渋々と容器を引き寄せた。

「……わかったよ。試薬の効果は十分に確認できたことだし、ここはトレーナー君の寛大な処置と、冬月君の……その、つまみ出さないでおいてくれることに免じて、私の技術でただのほうじ茶に還元してあげようじゃないか」

「頼むぞ。もうこれ以上、仕事中に発光させないでくれ」

 夕暮れのトレーナー室で、タキオンは不満げな、しかしどこか嬉しそうなため息を吐く。こうして騒がしい一日の終わりと共に、いつものトレーナー室の奇妙な平穏が少しずつ戻ってくるのだった。

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