アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー 作:AIのタンクもどき
中央トレセン学園ではここ数日、生徒たちの間で奇妙な噂話が囁かれていた。
「ねえ、あの白い髪の人、雰囲気変わった?」
「あ、やっぱり?なんか前より髪が短くなって柔らかい感じになったよね。髪型切ったのかな」
「いやいや、顔立ちもちょっと違うし別人じゃない?外部の業者さんか何かの人で、担当者が交代したんじゃないの?」
学園の生徒や大半のトレーナーにとって、Tに帯同している冬月の存在は「なんか白い髪人」程度の認識でしかない。そのため、冬月が機関整備のために鎮守府のドックへ入渠し、代わりに姉の涼月が秘書艦として学園にやってきても、その正体に気づく者は皆無だった。ただ単に雰囲気が変わった、髪を切った、担当者が代わった、などと大雑把で適当な噂がひとり歩きしているのが現状であった。
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昼下がりの学園内の食堂。活気あふれる賑やかさの中で、涼月はテーブル席に腰掛けて昼食をとっていた。彩り豊かな定食を前に、その表情には温和な笑みが浮かんでいる。そんな涼月の姿を、離れたテーブル席からじっと見つめている二人組がいた。ジャングルポケットとダンツフレームである。
「なあ……ダンツ……」
ジャングルポケットは手に持った箸をピタリと止め、背筋にゾクゾクと走る妙な寒気に肩をすくめた。
「あの白いヤツ……なんか、前のヤツと違くねぇか?」
「そうだねぇ。髪型も少しふんわりしてるし、雰囲気もなんだか優しそうだけど……」
ダンツフレームも首をかしげながら涼月を見つめた。
「でも、ポッケちゃんは相変わらず苦手そうだね」
「いや、前のヤツを見た時も思ったけどよ……なんていうか、オバケとは違うんだけど、人間でもウマ娘でもねぇ変な気配があんだよ。普通に飯食ってるところを見ただけで、なんかこう、ゾクゾクすんだって……!」
「うーん、やっぱり何か理由があるのかな。後でタキオンちゃんに会ったら、あの人たちのこと聞いてみようか」
「……おう、頼む。マジで心臓に悪ぃ……」
ジャングルポケットはブルッと身震いをひとつすると、自分の定食へと逃げるように意識を逸らそうとするのだった。
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夕方を迎えた校舎の廊下。仕事を終えて書類を抱えた涼月が歩いていると、曲がり角の先からすっと影が伸びてきた。マンハッタンカフェだ。鉢合わせる形となり、自然と足を止める。
(……この気配。冬月さん……?いや……違う……)
カフェの研ぎ澄まされた霊感が、涼月から漂う気配を察知していた。普段見かける冬月に比べると、目の前に立つこの少女は、どこか包み込むような温かみのある気配を纏っている。カフェが静かに佇んでいると、涼月のほうからふわりと柔らかい笑みを向け、丁寧にお辞儀をした。
「こんにちは。驚かせてしまいましたか?」
「……いえ。大丈夫です」
カフェは落ち着いた声で短く答えた。涼月は嬉しそうに目を細め、胸の前で書類を抱え直す。
「こちらの学園の方々は皆さんお優しくて、私のような外部の者もとても快く受け入れてくださるので、本当に助かっています」
「……そう、ですか」
「ええ。それに、学園の食堂のお食事も本当に美味しくて。お冬さん……あ、妹のことなのですが、この学園のことをいい場所だと言っている理由がよく分かりました」
親しみやすい態度で語る涼月に対し、カフェは静かに耳を傾けていた。その立ち振る舞いには一切の害意も攻撃性もなく、ただ純粋な善性と感謝が滲み出ている。
「それでは、私は行きますね。お引き止めてしてしまってすみませんでした。失礼いたします」
「……お気をつけて」
涼月はもう一度深々と礼をすると、軽やかな足取りでトレーナー室の方へと去っていった。
一人残されたカフェは、去り行く涼月の後ろ姿を無言で見送っていた。
(……やはり、あの方も……常人とは違う、重い存在感を持っている……)
カフェは以前、アグネスタキオンに対して、艦娘という存在には注意するように忠告したことを思い出していた。彼女たちがヒトともウマ娘とも異なる異質な存在であるという認識そのものは、今も変わっていない。
(……けれど)
先ほど交わした短い会話。あの温和な微笑みと、素直な言葉。
(……意外と、ちゃんと話の通じる相手なのかもしれません)
カフェはふと、一度もまともに言葉を交わしたことのない、本来の秘書艦である冬月の姿を脳裏に浮かべた。いつもTの傍らに控え、無口で冷徹にタキオンをつまみ出しているあの少女。
(あの『お冬さん』と呼ばれていた方も……本当は、あんな風に話ができる人なのでしょうか)
「……戻ってきたら、少しだけ……話をしてみましょう」
カフェは小さく独りごちると、静けさの増す廊下を寮の方へと向かってゆっくりと歩き出すのだった。