アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー 作:AIのタンクもどき
昼時が近づく頃のトレーナー室。ソファーに深く身を沈め、アグネスタキオンはすっかり我が物顔でくつろいでいた。この部屋には、彼女が勝手に持ち込んだ紅茶の茶葉や専用のティーカップが並べられている。
タキオンはおもむろに立ち上がると、電気ケトルで湯を沸かそうと、棚に近づく。ふと視線を棚の一角へと落とすと、そこには常備されているほうじ茶の茶筒が収まっていた。
「ふむ……」
タキオンは口元に怪しげな笑みを浮かべると、冬月が座る机へとつかつかと歩み寄った。
「冬月君。少々尋ねたいことがあるのだがね」
冬月はペンを走らせる手を止め、冷徹な白い瞳でタキオンを見上げた。
「……なんだ。できれば手短に頼む」
「そう邪険にするなよ。他愛のない科学的疑問さ。少し前に、君の代わりに涼月君が秘書艦代理として学園に来ていただろう?」
「……ああ」
「あの時、トレーナー君が鎮守府と電話で話していた内容が、私の耳に少々入ってきてねぇ。君の機関部……体内と表現するべきかい?そこに大量の煤塵が溜まっていたとか言っていたね。原因は、学園に長期滞在して通常の食物ばかりを摂取していたせいだと」
タキオンは執務机でパソコンの画面を見つめているTをチラリと見やり、再び冬月に顔を近づけた。
「ヒトの食べ物で煤が溜まるのなら、君が毎日飲んでいるそのほうじ茶は大丈夫なのかい?そもそも、艦娘にとっての『正規の食事』とは一体?機関を動かすための純度の高い炭化水素……つまり、石油の類をそのまま飲用しているんじゃないのかね?」
「おいタキオン」
執務机から、Tの鋭い声が飛んだ。
「お前のその目は良からぬことを考えてるときの目だ。艦娘用の補給物資を学園に持ち込んでみろ、お前が面白がって成分抽出したりと悪用するのが目に見えている」
「心外だなあ!私はただ、純粋な化学的興味から」
「致し方ない」
ガタッと音を立てて立ち上がった冬月が、有無を言わさずタキオンの襟首を掴み上げた。
「待ちたまえ冬月君!まだ紅茶を淹れていないんだがね!」
「研究室で飲めばいいだろう」
ズルズルと引きずられていったタキオンは、そのままトレーナー室の外へと放り出され、扉は無情にも閉ざされた。
扉の鍵を閉めると冬月は自席の机へと戻ったが、その表情には先ほどまでの毅然とした態度とは裏腹に、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。執務机に座るTもまた、深々とため息をついて頭を抱えていた。
「……やれやれ。あいつの鋭さには本当に参るな」
「すまない。私の機関の不調が、余計な詮索を招く引き金になってしまった」
「いや、冬月が謝ることじゃないさ。だが、問題なのは事実だしな……」
Tは腕を組み、唸るように天井を仰いだ。先日のように、冬月の機関系統が煤塵だらけになってドック入りする事態は、可能な限り避けなければならない。艦娘は通常の食事からもエネルギーを摂取できるが、それはあくまで補助的なものに過ぎず、長期間にわたって通常の食物のみに頼ると不完全燃焼を起こし、体内の機関に煤が堆積してしまう。
「涼月に交代してもらった時も、理事長や関係各所への手続きと根回しで相当骨が折れたからな。秋川理事長は快く融通を利かせてくれたが、外部の者を学園に立ち入らせる以上、毎回そう簡単に代理を立てられるわけじゃない。それに、涼月だっていつでも学園に来られるほど暇じゃないしな」
「ああ。涼の手をこれ以上煩わせるわけにもいかない。だが、燃料を学園に持ち込むのも……危険物としての管理責任や学園側への説明もだが、アグネスタキオンの目が光っている以上、保管場所を嗅ぎつけられて何をされるか分かったものではない」
「全くだ。重油から薬を作るとかは流石にやらないとは思うが、今日みたいに色々問いただしてくるだろうし」
「しかし……学園から戻った涼の機関を点検した際も、やはり僅かながら煤塵の付着が確認されたそうだ。通常の食事を続けている限り、この問題は解決しない」
堂々巡りの議論に、揃って重苦しい沈黙へと沈み込んだ。
「考えてたら腹が減ってきたな……」
Tは執務机のパソコンをスリープ状態にし、立ち上がって上着を羽織った。
「もう昼だし、とりあえず食堂へ行くか。対応を考えるのはそれからでもいいだろう」
「そうだな……」
空腹のままでは頭も回らないしと、Tと冬月はひとまず食堂へ向かうのだった。