アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー 作:AIのタンクもどき
ビエンホアの滑走路を蹴って高度を上げたF-16、ミラージュ2000、MiG-29、F-4Eの4機は、洋上へ向けて機首を揃えていた。
海沿いの市街地上空を通過する際、眼下のブンタウ空港に置かれたPMCの分遣基地から、1機のターボプロップ機……EMB-314 スーパーツカノがゆっくりと滑走路を離れるのが見えた。他の機体は整備中か、あるいは高速迎撃に向かない低速機ばかりであり、緊急で稼働できるのはあの機体だけだったようだ。
無線の向こうで、ミラージュ2000を駆るバロンが軽薄な笑い声を響かせた。
<<分遣隊の機はあれだけか。まあ、僕が全部落としてあげるから問題ないけれどね!>>
<<ほざけ!そいつらは俺のスコアだ、横取りすんじゃねえ!>>
MiG-29のスクラッチが即座に怒鳴り返す。
沿岸を抜けて青黒い洋上へと出た瞬間、各機のレーダーが多数の敵機を捉えた。南沙諸島方面から突進してくる深海棲艦の航空群。B-25で構成された中型爆撃機編隊と、それを取り囲むP-40、F4Uの戦闘機群である。
基地からの射撃管制指示など待つ気もないF-16が、猛然と編隊を飛び出した。
<<こちらシェリフ!目標確認、ウェポンズフリー!行くよ!>>
<<おいコラ、ウマ娘!勝手に突っ込むな!>>
スクラッチの制止も聞かず、F-16の翼端からミサイルが放たれる。白煙を一筋引いたミサイルはB-25に正確に突き刺さり、黒煙と爆炎を吹き上げてへし折った。
<<ちくしょう、撃ち漏らしを掠め取ってやる!FOX2!>>
スクラッチも悪態を吐きながらミサイルを発射。西側の機器を強引に後付けしたアビオニクスが悲鳴を上げつつも、ミサイルは別のB-25の胴体を粉砕した。
<<おやスクラッチ。サイドワインダーがちゃんと発射信号を受け取ったんだ?奇跡もあるもんだね!FOX2!>>
バロンがからかいながら放ったミサイルが、更に1機のB-25を爆散させる。
<<がはは!若いってのはいいもんだな!FOX2!>>
編隊の最後尾から悠然と追いついてきたF-4Eの老兵、フォーギーが笑い飛ばしながらミサイルを放ち、B-25を一撃で叩き落とした。
編隊が乱れた隙を突き、シェリフはF-16の機動性を活かして格闘戦へ突入した。強烈なGに顔色一つ変えず、爆装したF4Uの背後を鋭い旋回で奪うと、20mmのガトリング砲……バルカンが火を噴き、特徴的な逆ガル翼を吹き飛ばした。
<<ウマ娘の体幹には敵わないよ。あれだけの高G旋回を平気でこなすんだからね!>>
バロンは舌を巻きつつも、ミラージュ2000のデルタ翼を生かした鋭角的な旋回で敵戦闘機を追い詰めていく。
<<負けてられるかよ!MiGをなめんな!>>
スクラッチも負けじと強烈な機動戦へともつれ込んでいった。
3機が前方でアクロバティックに敵戦闘機とドッグファイトを繰り広げている間、フォーギーのF-4Eは隊列を崩して迎撃態勢が上手く取れないでいる残存のB-25をチマチマと確実に撃墜していった。
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中央トレセン学園のトレーナー室。緊張感が張り詰めていた室内のモニターに、ベトナム空軍経由で連絡があった。冬月がパソコンを操作し、表示された文字を読み上げた。
「敵航空隊は全機撃墜、残存戦力なしとのことだ」
Tは執務机の前で小さく息を吐いた。直後、執務机のパソコンのメールボックスに新着通知が1件届いた。送信元は先ほどのPMCの責任者。本文は極めて簡潔で、「目標の完全排除を完了。契約に基づく防空任務は滞りなく終了した。以上」という、挨拶の一つもない事務的な文面だけであった。
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戦闘を終え、熱風の吹き荒れるビエンホア基地へ帰投した4機。収支を確認しながら格納庫に戻ってきたパイロットたちを待ち受けていたのは、工具を握りしめて怒髪天を衝く若いウマ娘の整備員だった。
「フォーギーさんのファントムは計器もエンジンも極めて良好です……なのに、そこの3人!なんですかこれは!制限Gギリギリまで機体をぶん回しましたね!?」
「あいたたた……怒鳴るな嬢ちゃん、耳が痛い」
スクラッチが耳を塞ぎながら、苦々しい顔で愚痴をこぼした。
「ちくしょう。フォーギーのおっさん、一人だけ爆撃機を悠々と仕留めて整備費もかからずで。俺は赤字になりそうだってのに、いいご身分なこった」
「シェリフに対抗して無意味な機動戦に付き合って、爆撃機を放っておくからだよ」
バロンが呆れたように言うと、ヘルメットを抱えたシェリフがフンと鼻を鳴らした。
「どうせ私に旋回戦で勝てっこないのに、無駄に燃料を使って機体もガタつかせて、バカみたい!」
「んだとぉ!」
彼らにとってはいつも通りの罵り合いが、格納庫の騒音の中に溶けていった。
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夕暮れ時の府中市。警戒態勢が解除されたトレーナー室の扉が開き、タキオンが何食わぬ顔で戻ってきた。
「やあトレーナー君。随分と生臭い話が終わったようだねぇ」
ソファーの前の長机に寄りかかりながら、タキオンはニヤリと笑った。
「ウマ娘の聴力だからね。廊下の外まで、PMCの報酬がどうの、撃墜スコアがどうのというやり取りが漏れ聞こえていたよ」
「……聞いていたのか」
Tは執務机の上の報告書を片付けながら、深々と肩を落とした。
「深海棲艦が暴れ回るこういうご時世でも、逞しく生きていると言えばいいのかやら……」
「生きるために貪欲なのも、悪い事では無いんじゃないかな」
タキオンの軽口を聞き流しながら、Tはほうじ茶を一口啜り、ため息を漏らすのだった。