アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー 作:AIのタンクもどき
秋風が吹き抜ける新千歳空港。飛行機から降りたホッコータルマエは、ひんやりとした北の大地の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「ふぅ。やっぱり、こっちの空気は落ち着くなぁ」
ローカルアイドル活動……通称「ロコドル」としても活動する彼女は、地元である苫小牧でのイベントに出演するために帰郷したのだ。トレセン学園での日々のトレーニングも大切だが、故郷の魅力を発信し、苫小牧を盛り上げる活動にかける情熱は人一倍強い。
そんなタルマエの背後から、不意に聞き覚えのある声が降ってきた。
「やあ、タルマエ君じゃないか。奇遇だねぇ」
「えっ……? タキオンさん!?」
振り返ったタルマエは、思わず目を丸くした。そこに立っていたのは、学園で見る時と同じように飄々とした様子で立つアグネスタキオンであった。
「ど、どうしてタキオンさんが北海道に……?羽田からの便、一緒だったんですか?」
「ああ、君の後ろの席に座っていたよ。気圧の変化による血液循環の変異を測定するのに夢中でね、声をかけるのが遅れてしまった。なに、ちょっとした野暮用でね。北の地でしか得られない刺激というものがあるのさ」
「は、はぁ……そうなんですか。相変わらず研究熱心なんですね……」
タルマエは少し引きつった笑みを浮かべる。タキオンと別れると、足早に苫小牧行きのバスが発着する乗り場へと向かった。
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その日の午後、苫小牧市内の海沿いにある公園。潮風が吹き抜ける広場では、翌日の催事に向けた機材の設営や、物産ブースのテント張りが着々と進められていた。タルマエも会場に到着し、スタッフたちと明日に向けての準備に取り掛かろうとする。
「それでは……えっ?」
ふと視線を海に向けたタルマエは、港の埠頭に接岸している異様な船の姿に息を呑んだ。苫小牧港には普段から巨大なフェリーや貨物船がひっきりなしに出入りしているが、そこに居たのは現代の商船とは明らかに異なる無骨な船体だった。甲板に巨大なデリッククレーンを備え、船尾には何やら大きなハッチのような構造を持つ。陸軍特殊船の神州丸だ。
ガコン、ガコンと、重々しく金属が軋む音が港に響き渡る。巨大なクレーンがゆっくりと旋回し、甲板から吊り上げられたのは九七式中戦車 チハであった。1両ずつ、岸壁へと慎重に降ろされていく。
「な、ななな……何あれ!?戦車!?なんで苫小牧港に戦車が……!?」
目の前に広がる光景に、タルマエは腰を抜かさんばかりに狼狽した。苫小牧では陸上自衛隊による演習のため、市内を戦車が走行したり、港で戦車の積み降ろしが行われることがある。だが、戦車をクレーンで吊り下げる様子や、チハの茶褐色や黄色の迷彩塗装をタルマエは見たことが無かった。自衛隊とは違う、よく知らない部隊が展開していることに驚いているタルマエの元に、背後からひょっこりと影が伸びる。
「やあタルマエ君。見事な作業だよねぇ」
「ひゃああっ!?タ、タキオンさん!?また貴女ですか!」
驚愕して振り返るタルマエに、タキオンは溜め息をついた。
「苫小牧港の施設を一部借用して、鎮守府の部隊の演習が行われると聞きつけてね。私のトレーナー君が仕事をしているところを見るために馳せ参じたのだが、『演習の邪魔をするな!』と怒鳴られて追い出されてしまったんだ」
「……ええっ!?トレーナーさんを追いかけるためだけに、わざわざ飛行機に乗って北海道まで来たんですか!?」
「彼の提督としての姿はトレーナー室で見られるけれど、こうやって直接指揮しているところは私の身分では中々見られないからね」
タキオンの常識外れな行動力に、タルマエは開いた口が塞がらなかった。
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翌朝。前日のクレーンによる戦車の積み降ろし作業という見慣れない光景と、タキオンの妙な行動の余韻で、タルマエの頭はまだ少し混乱していた。それでも、澄み渡る秋晴れの下で催事が始まると、意識を一瞬にしてプロのロコドルへと切り替えた。
「こんにちはー!苫小牧の美味しいハスカップ、ぜひ食べていってなー!」
「応援ありがとう!これからもけっぱるべ☆」
華やかな衣装に身を包んだタルマエは、満面の笑顔で立ち、訪れる市民やファンのひとりひとりに丁寧に言葉をかけ、握手を交わしていく。地元を愛し、元気を届けようとするその眼差しには、迷いなど微塵もなかった。
そんな賑わう広場から少し離れた場所で、タルマエの活動を遠目に見つめていたのはTと冬月であった。
「やあトレーナー君、冬月君。こんなところで油を売っているのかい?」
どこからともなくふらりと現れたタキオンが、Tの隣に来てニヤリと笑う。
「君たちのような者が華々しいロコドルの活動に興味を示すとは、珍しいこともあるものだねぇ」
「次の予定までの空き時間だったから、少し見物に来ただけだよ」
Tは苦笑しながら答えた。
「あの子の地元に対する熱意は立派なものだな。演習の物々しさでイベントを台無しにしてしまわないか心配していたが、杞憂だったようだ」
「ああ。堂々としている」
冬月も頷く。
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午後を回り、海沿いの風が一段と冷たさを増した頃。埠頭では陸揚げされていた九七式中戦車たちが再び神州丸のクレーンによって吊り上げられ、1両ずつ艦内へと収容され始めていた。
「それでは、私は一足先に空港へ向かって帰るとしよう。これ以上この寒さに晒されては手が悴んでしまうからね」
「気をつけて帰れよ」
ひらひらと手を振って去っていくタキオンを見送ると、Tと冬月は休憩しているタルマエの元へと歩み寄った。
「お疲れ様」
「あ、タキオンさんのトレーナーさん!それに……」
タルマエはぺこりと頭を下げつつ、Tの隣に立つ冬月を見て少し身構えた。
「タキオンから事情を聞いたよ。港での演習の日程が、君の大切な催事と重なっていることに事前に気づかず、連絡も無かったせいで驚かせてしまった。申し訳ない」
「い、いえ!港のほうでのことでしたし、イベント自体は大成功でしたから、大丈夫です!」
恐縮するタルマエの前に、冬月がすっと一歩進み出た。その手には、紙袋が提げられている。
「お詫びの印だ。受け取ってくれ」
「えっ……?私に、ですか?」
タルマエが恐る恐る袋の中を覗き込むと、そこにはミルクキャラメルの箱がいくつも入っていた。
「……あの、どうしてキャラメルなんですか……?」
不思議そうに小首をかしげるタルマエに対し、冬月は静かに埠頭の神州丸へと視線を向けた。
「『甘いものを食べれば幸せ』と、神州丸が言っていたんだ」
「神州丸?あの大きな船のことですか……?」
「ああ。いつもそう言って、キャラメルを配るんだ」
港のほうへ戻っていくTと冬月を見送るタルマエ。キャラメルの箱が入った袋を握りながら、不思議な感覚に包まれていた。