アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー 作:AIのタンクもどき
午後のトレーナー室。ノックの音に続いて扉が開くと、鮮やかなツインテールを揺らしながらダイワスカーレットが姿を現した。手には丁寧に包装された小さな紙袋を提げている。
「失礼します!タキオンさん、いらっしゃいますか?」
長机の前のソファーから、タキオンがひょっこりと顔を上げた。
「おや、スカーレット君じゃないか。どうしたんだい?」
「商店街のお店で、紅茶にすごく合いそうなマドレーヌを見つけたんです。お裾分けにと思って持ってきました!」
「ほう!それは素晴らしい心遣いだねぇ。感謝するよ、スカーレット君!」
「ふふっ、喜んでもらえてよかったです!それじゃ、アタシは次のトレーニングがあるのでこれで失礼しますね!」
快活に一礼したダイワスカーレットは、満足げな笑みを浮かべて扉の向こうへと去っていった。
扉が閉まるや否や、タキオンは電気ケトルに水を注ぎ、スイッチを入れた。湯が沸くのを待つ間、執務中のTと冬月に見せびらかすように紙袋を掲げる。
「スカーレット君は本当にできた後輩だよ。成績優秀、気配りも完璧、まさに非の打ち所がない優等生じゃないか。それに引き換え、冬月君はどうだね?少しは彼女から愛嬌というものを学んだらどうなんだい?」
「考えておく」
冬月は自分のパソコンから目を離さないまま、慣れた様子で適当に相槌を打った。
(ダイワスカーレットは何事においても一番を目指して妥協しないと聞く……鎮守府にもそういうのが居るが)
Tがぼんやりと考えていると、執務机の端に置かれた鎮守府直通の黒電話が、けたたましい音を響かせた。Tは素早く受話器を取る。
「■■だ」
<<大淀です。緊急というほどではないのですが、少々困った事態が発生しまして……白露さんが、問題を起こしました>>
「は?」
頭の中で白露の顔を思い浮かべていた矢先の報告に、Tは思わず眉をひそめた。
「白露が問題を起こした?航行中の事故か何かか?」
<<いえ、そうではなく……本日、非番だった彼女が佐世保の市街地へ出かけていたのですが、立ち寄ったコンビニで偶然、強盗事件に遭遇したんです>>
「強盗……!?」
<<はい。白露さんはその場で強盗を取り押さえ、駆けつけた警察に現行犯として引き渡したそうです>
Tは受話器を握ったまま、ぽかんと目を丸くした。
「……いや待て。それだと白露自身が問題を起こしたわけではないんじゃないか?」
大淀が受話器の向こうで深々と溜め息をつく。
<<捕まった強盗犯が学生だったんです。以前から度々問題を起こしていた不良らしく、今回も刃物を所持していたそうですが、未成年だったこともあり『民間人に手を出した』『警察がやるべきこと』と、各方面から抗議の声が殺到していまして>>
正当防衛の範疇ではあるだろうが、司法組織の警察ではなく軍事組織の鎮守府の一員の行動で、相手が民間人だったこともあり、話が拗れてしまったらしい。
「わかった。すぐに戻って対応に当たる」
受話器を置いたTは執務机の上を素早く片付け、上着を手に取った。
「冬月はトレセン学園に残ってくれ。諸々の対応でしばらく鎮守府へ戻る」
「了解」
「……まぁ、問題の対応というなら仕方ないか」
タキオンの若干不満そうな様子を背に、Tは急ぎ学園を後にした。
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数日後。警察や関係各所との調整を終え、中央トレセン学園のトレーナー室へと戻ってきたTは、優雅に紅茶を飲んでいたタキオンに声をかけた。
「タキオン、ダイワスカーレットの居場所を知らないか?」
「スカーレット君かい?私からLANEで連絡すれば呼べると思うが……何か用かね?」
「会わせたい相手がいてな」
Tはタキオンに頼んでスカーレットを呼んでもらうと、事情を飲み込めずに小首をかしげる彼女を連れて学園の校門へと向かった。校門の脇には、Tが乗ってきた鎮守府の公用車が停車している。車から降りてきたのは白露だった。
「貴女がダイワスカーレットさん?」
「え?ええ、アタシがダイワスカーレットだけど……」
スカーレットが瞬きをすると、白露は頭を下げる。
「あたしは白露型駆逐艦1番艦の白露!ダイワスカーレットさんに、どうしても直接お礼が言いたくて!」
「お礼?貴女、アタシと会うのは初めてよね?アタシはテレビのニュースで貴女の顔は見たりしたけど……」
戸惑うスカーレットに対し、傍らのTが苦笑交じりに説明を挟んだ。
「実は数日前、夕方のニュース番組で白露の一件が取り上げられたんだ。その時の都内での街頭インタビューで、君が答えていただろう」
「あ……!」
スカーレットはポンと手を打った。
「確か『コンビニ強盗を艦娘が取り押さえた件についてどう思うか』って聞かれて……『もしアタシがその場に居たら同じことをしてたかも』って答えたわ」
「それ!」
白露は目を輝かせて頷いた。
「あのインタビューが全国放送で流れたおかげで、GⅠウマ娘がそう言うならって世間の空気が変わって、鎮守府に来てた抗議も止んだから……本当に助かったんだ!」
「そ、そうだったの……?アタシはただ、思ったことを素直に言っただけだから、そんなに大層なお礼を言われるほどのことじゃ……でも、悪い気はしないわ」
スカーレットは嬉しそうにはにかんだ。
白露を見送り、スカーレットと別れ、トレーナー室へ戻ってきたTを迎えたのは、ニヤニヤとしながら待ち構えていたタキオンだった。
「やあやあ、一部始終は窓から見させてもらったよ!やはりスカーレット君は素晴らしい!鎮守府の窮地を言葉一つで救ってみせたんだ、盛大に表彰でもしたらどうなんだい!」
「なんでそんなに誇らしげなんだ……」
冬月が手元の書類を整えながら、淡々と切り捨てた。