アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー 作:AIのタンクもどき
秋の冷気が足元をかすめる旧理科準備室。扉が音を立てて開かれ、白衣を翻したタキオンが入ってきた。その眉間にはあからさまな不満の皺が刻まれている。
「……また、ですか」
静かにコーヒーを飲んでいたマンハッタンカフェが、カップを傾けながらぽつりと尋ねた。
「まただよ。つまみ出される前に退室してきたのさ。まったく、少しは担当ウマ娘にも構ってほしいよ」
一方、トレーナー室。執務机のモニターには人工衛星から撮影された画像が映し出されている。太平洋、ハワイ諸島とアメリカ大陸西海岸のほぼ中間点にあたる海域に、突如として深海棲艦の大規模な洋上基地が出現したという報告が入ったのだ。画像を拡大すると、そこには巨大なメガフロートのような構造物が浮かび上がっていた。長大な滑走路や、大口径の沿岸砲群が設置されている。
「……51cmクラスの連装砲、それと施設の構成から見て……泊地水鬼だな」
Tが腕を組み、険しい表情で呟いた。
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翌日。情報の整理を終えたTは、鎮守府へ戻って艦隊の編制と作戦指揮を執るべく、書類をまとめ始めていた。だがその矢先、外線用電話が鋭く鳴り響いた。電話の主は、アメリカ国防総省の高官だ。
<<There is no need to deploy your forces, Admiral ■■. The U.S. Armed Forces will handle this hostile fortress.>>*1
「……なんですって?」
一方的に告げられて通話は切れた。直後、作戦要目の暗号化ファイルを受信した。ファイルを確認したTは、ディスプレイに並んだ参加部隊と投入兵器のリストを見て、思わず言葉を失う。
「『Operation THUNDER ARROW』……なんだこれは。どういうつもりだ?」
首を傾げるTの横で、冬月もまた眉を寄せて画面を見つめていた。
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アメリカ西海岸、カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地。砂漠の熱気を切り裂いて、戦略爆撃機・B-1B ランサーが轟音を発しながら離陸した。ステルス戦闘機・F-35A ライトニングⅡの編隊も合流し、洋上へと針路をとる。
さらに作戦海域には、前日の報告を受けて急行していたニミッツ級原子力空母3番艦カール・ヴィンソンを旗艦とする第1空母打撃群が、作戦海域へと展開しつつあった。
トレーナー室の執務机では、アメリカ国防総省の専用回線を経由して、監視衛星や無人偵察機、各部隊の戦術データリンクから送られてくる映像とデータがリアルタイムで映し出されていた。画面を覗き込んでいた冬月が、傍らの机から身を乗り出して指を差す。
「……展開している部隊のデータを確認しているが、これは一体?」
「何がやりたいんだろうな。俺にも解らん……」
Tは低く唸る。
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作戦が開始された。高高度を旋回する早期警戒管制機・E-3 セントリーが、泊地水鬼の滑走路から発進する機影を捉える。
<<Abyssal reconnaissance craft detected. Cross-referencing data... identified as "Dinah".>>*2
観測データは即座にカール・ヴィンソンから発艦していた艦上戦闘機・F/A-18F スーパーホーネットへと転送された。
<<FOX3>>
F/A-18Fの主翼下から、空対空ミサイル・ガンスリンガーが切り離され、白煙を引いて飛翔する。空対空ミサイルの中でも巨大かつ長射程を誇るそのミサイルは、敵偵察機を一方的に、かつ一撃で粉砕した。間髪入れずに電子戦機・EA-18G グラウラーが露払いのために前進。E-3が特定した電波の放射源のデータを受信する。
<<Magnum>>
号令と共に対レーダーミサイル・HARMを発射。泊地水鬼の各種レーダー群が次々と爆炎を上げて沈黙していく。そして、外部パイロンに空中発射型弾道ミサイル・ARRWを懸架したB-1Bが泊地水鬼への攻撃に入った。
<<Fire ARRW. Make sure to keep a detailed record.>>*3
極超音速で泊地水鬼へと突入したARRWは、沿岸砲として設置されていた20inch連装砲の基部を貫通。炸裂すると内部の弾薬を誘爆させ、完全に破壊した。
砲台が沈黙した瞬間、海上の第1空母打撃群が動いた。
<<Consecutive Tomahawk launches.>>*4
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦13番艦プリンストンを筆頭とする随伴艦のVLSから、大量の巡航ミサイル・トマホークが打ち上げられる。飽和攻撃によって滑走路や燃料集積所が吹き飛び、要塞が猛火に包まれつつ崩壊を始めた。
ドックからは、深海棲艦の駆逐艦や巡洋艦が統率を欠いた状態のままで脱出を図る。それを狙ったかのようなタイミングで飛来したのは、アメリカ陸軍の無人攻撃機・MQ-1C グレイ・イーグルと、空中給油機の支援を受けて待機していた空軍のF-35Aの編隊だった。
<<Attack! Attack!>>
MQ-1Cは翼下の対地ミサイル・JAGMを、F-35Aは胴体ウェポンベイを開いて巡航ミサイル・JSMを斉射。残存艦艇をことごとく撃沈していった。
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作戦が終了し、通信回線が静まり返った頃には、東京はすっかり夜の帳に包まれていた。執務机の椅子にもたれかかったTは、モニターに映る戦果報告を眺める。
「……AIM-174B ガンスリンガー、AGM-183A ARRW、AGM-179 JAGM。どれも明確な実戦配備の話はまだ聞いてないぞ。B-1が機外のパイロンを使うのも、F-35がウェポンベイからJSMを発射するのも、今まで実際にやってるところを見たことが無い」
「まさか、実戦試験ということか?」
机の前で腕を組んでいた冬月が尋ねる。
「ああ、そうとしか思えんな。深海棲艦の要塞の出現にかこつけて、開発中だったり適合試験中のものを一気に試したんだろう」
「なぜそんなことを……」
「……派手な戦果が欲しかったんじゃないか。宣伝か、議会向けの予算獲得の口実かは知らんが」
Tが呆れたように息を吐き出すと、トレーナー室の扉が開き、白衣のタキオンがぬっと顔を覗かせた。
「そう、研究には宣伝による理解や予算の獲得も重要さ!トレーナー君も私の研究をもっと理解してくれると嬉しいんだがねぇ!」
「……勝手に廊下から立ち聞きするんじゃない」