アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー   作:AIのタンクもどき

33 / 33
2026年10月14日、メンテナンスの日です。


第33話:今日は遠慮しておくよ

 秋晴れの朝。中央トレセン学園の駐車場に、独特の重低音を響かせながら1台のトラックが滑り込んできた。無骨なボンネットと、後部に備えられた木製アオリの荷台。現代の一般的なトラックとは明らかに異なるシルエットを持つ、旧日本軍の軍用トラック・九四式六輪自動貨車だ。

 トラックが停車すると、運転席のドアが開いて一人の女性が降り立つ。ふわりと揺れる鮮やかなピンク色の髪に、作業用の上着。片手には重そうな工具箱を下げている。朝練に向かう途中のウマ娘たちが、トラックと女性の姿に足を止め、ヒソヒソと囁き合っていた。

「ねえ、あのお姉さん。どこの業者さんかな?」

「さあ……通信工事の人?でも、あんな古そうなトラックで来るなんて変わってるよね」

 生徒たちの好奇の視線を背に受けながら、女性は慣れた足取りで校舎へと向かい、Tのトレーナー室を目指して歩き出した。

 

 廊下を歩いていたアグネスタキオンは、前方から歩いてくるそのピンク色の髪の女性の姿を視界に捉えた。

「……おや?」

「おはようございます!」

 女性はタキオンに気付くと、気さくな挨拶と共に会釈していった。タキオンはその背中をじっと見送りながら、白衣のポケットに手を突っ込む。

(ということは、今日は……ふむ。今日はトレーナー室に立ち入るのは止めておくとするかねぇ)

 珍しく危機回避の判断を下したタキオンは、踵を返してロビーの方へと歩き出した。

 

---

 

 トレーナー室の扉がノックされ、開かれた。

「おはようございます!明石、修理と点検に参りました!」

 執務机に向かっていたTと、机で書類を整えていた冬月が出迎えた。

「おはよう明石。助かるよ」

「お疲れさまだ」

「予定通り、きっちり診させていただきますね!」

 今日は、トレーナー室に設置されているパソコンやモニター、電話機といった鎮守府側の機器類の点検を行う日であった。明石は手際よく工具箱を広げると、執務机の裏側に潜り込んで複雑に入り組んだ配線の確認を始めた。端子の緩みを締め直し、洗浄液を染み込ませたウエスで機器の埃や汚れを丁寧に拭き取っていく。

「端子の接触も良好。ケーブルの被覆にも傷みはありませんね。ホコリもそこまで多くないし……冬月さんの普段の掃除がしっかりしてるみたいですね」

「ああ。秘書艦として、そこはきちんとしているつもりだ」

 冬月の言葉に、明石が少し笑い気味に返す。

「でも、年末の大掃除をすっぽかそうとしたことがあるんでしょう?」

「なっ……その話を誰から聞いたんだ」

 

---

 

 同じ頃、学園のロビー。吹き抜けの光が差し込む中で、タキオンは同じくロビーに来ていたエアシャカール、トランセンドと雑談を交わしていた。手元のスマートフォンであるものについて検索していたトランセンドが、顔を上げて目を輝かせた。

「やっぱり。あのトラック、映画で見るような古いのだとは思ってたけど、鎮守府が持ってるヤツなんだ。■■トレーナ―のトレーナー室にも鎮守府の設備が色々置いてあるし、興味湧いちゃうなー。いっそ見学に行く?」

「よしたまえ」

 タキオンは即座に手を振り、珍しく真面目な顔で制止した。

「今あの部屋に近づくのは得策ではないよ。間違いなく痛い目を見る」

「なンだタキオン。らしくもねェな」

 横からシャカールが、拍子抜けしたかのように声を上げる。

「過去のデータを学習した合理的な判断と言っておくれ。以前、今日みたいに点検が行われている時に、好奇心からトレーナー屋へ入ろうとしたことがあってね。一瞬で冬月君につまみ出された。君たちもこうなりたいかい?」

 タキオンは白衣の襟首を二人に見せる。首の後ろ側にあたる部分が伸びてシワだらけになっていた。凄まじい腕力で掴まれ、引っ張られたことを物語っている。

「……艦娘が怪力ってのは聞いちゃいたが」

「これは体験したくないなー……」

 シャカールは呆れ果て、トランセンドも苦笑いした。

 

---

 

 午後になり、点検と清掃が全て終了した。明石はドライバーを工具箱に収めて立ち上がる。

「これで完璧です!ただ、ソフトウェアのほうは今回特にアップデートは行ってませんからね。ソフト面は、私よりも夕張さんのほうが得意分野ですし……時折思うんでけど、夕張さんも一緒に呼んだほうがいいんじゃないですか?」

「うーん……それはそうかもしれんが」

 Tは腕を組み、困ったように眉根を寄せた。

「鎮守府の人員や艦娘をこの学園に呼ぶとなると、理事長への申請やら立ち入り手続きやらで大変なんだよ。明石が定期的に来れるようにするだけでも一苦労だったんだ。もう何隻か呼ぶとなるとな……」

「なるほど。それじゃしょうがないですね」

 明石はあっさりと理解を示して笑うと、工具箱を持ち上げた。

「それでは、私はこれで戻りますね!また何かあったら呼んでください!」

「ああ、ありがとう」

「道中も気を付けてな」

 見送られた明石は駐車場に向かい、九四式に乗って学園を去っていった。

 

---

 

 夕暮れ時。夕陽に包まれる旧理科準備室では、タキオンがデータの整理を黙々と進めている。部屋の片隅では、遊びに来ていたジャングルポケットがマンハッタンカフェに小声で囁いていた。

「今日のタキオン、なんか随分と大人しくねぇか……?」

「……ええ。嵐の前の静けさ、でなければ良いのですけれど……」

 二人の声に気づいているのか気づいていないのか、タキオンはキーボードから手を離さず、淡々と画面を見つめ続ける。結局のところ、その日はタキオンがトレーナー室へ足を踏み入れることは一度もなかったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ヒトの強さを無礼るなよ ─ウマ娘プリティーダービー─(作者:嵐牛)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

 「人間がウマ娘に勝てる訳がない」。▼ 自分の、生徒の、そしてレースの未来を守るために、語るまでもないそんな常識を、トレーナー達は何が何でも否定しなければならなかった。▼ pixivで完結させたやつを修正しながらこっちにも載せてみます。▼ 内容的にタグであれこれ迷っているので「これ無いと不味くない?」ってタグがあったらご指摘下さい。▼ 何も考えずに書きました…


総合評価:401/評価:8.5/完結:33話/更新日時:2026年08月12日(水) 20:27 小説情報

存在しないはずのライスシャワーの娘に転生しました(作者:雅媛)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

転生した。▼ウマ娘になった。▼そして母親はライスシャワーだった。▼前世でライスシャワーを応援していたTS転生ウマ娘ピュアホワイトにとって、それだけで今世は大当たりである。▼しかも両親は優しい。▼生活にも困らない。▼身体は健康。▼走れば速い。▼やはり自分は幸運だ。▼多少大外枠ばかり引こうが、妙な事件に巻き込まれようが、そんなものは誤差である。▼不幸だと思う母か…


総合評価:1872/評価:7.91/完結:33話/更新日時:2026年09月15日(火) 18:00 小説情報

ヤン・ウェンリー提督の艦これ日誌(作者:灯火011)(原作:艦隊これくしょん)

運命の日。▼ヤン・ウェンリーは艦これの世界に転生した。▼※試金石です。続きそうなので連載に変更しました。毎日朝7時に更新しておりました。▼※追記 2026.10.14 0700 最終投稿。ヤン提督の艦これはこれからだ!ご覧いただき感謝感激。


総合評価:6369/評価:8.9/未完:49話/更新日時:2026年10月14日(水) 07:00 小説情報

マンハッタンカフェの奇妙な現実来訪(作者:灯火011)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

こっちでカフェさんになっちゃったおっさんのお話。▼20話ぐらい。だったんだけどのびのび。


総合評価:4133/評価:8.75/連載:52話/更新日時:2026年10月14日(水) 21:00 小説情報

【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜(作者:ペンギンって可愛いですよね)(原作:推しの子)

表紙イラスト↓▼【挿絵表示】▼世界的な名声を得た天才外科医は、数え切れない命を救った末、過労によりその生涯を終えた。▼――しかし、目を覚ますと彼は記憶を持ったまま、日本で赤ん坊として転生していた。▼二度目の人生でも迷うことなく外科医の道を選び、再び天才と呼ばれるまでに成長した彼は、都内の大学病院へ勤務することになる。▼病院の近くへ引っ越し、新たな生活を始めた…


総合評価:5535/評価:5.86/連載:69話/更新日時:2026年10月01日(木) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>