アグネスタキオンと冬月、あと提督兼トレーナー 作:AIのタンクもどき
トレセン学園の旧理科準備室。この部屋は二つのスペースに分けられており、半分はフラスコや機器がひしめくアグネスタキオンの研究室、そしてもう半分は静かな空気の中に様々な品が並ぶマンハッタンカフェの私有スペースとなっていた。
コト、と微かな音が室内に響く。カフェはいつものように、丁寧に淹れたブラックコーヒーを口に運んでいる。そして同期のウマ娘に向けて、感情の起伏の薄い物静かな声を投げかけた。
「……タキオンさん」
「なんだいカフェ。この角砂糖山盛りの紅茶が気になるのかね?」
「いえ……少し、お聞きしたいことが……タキオンさんがよく言っていらっしゃる、冬月という『方』は……一体、何者なのですか?」
その唐突な問いかけに、タキオンは紅茶を飲む手をぴたりと止めた。
「軍事機密に関係するようなことはあまり軽率に話さないようにと、トレーナー君から厳しく釘を刺されていてね。私は品行方正なウマ娘としてその約束を守っているのだよ」
タキオンはおどけた調子で茶化してみせたが、直後にその口元を歪な笑みへと歪め、妖しい瞳を光らせた。
「……だがねぇカフェ。君ならわざわざ私に尋ねずとも、既に分かっているんじゃないのかい? 君は今『冬月という方』と言ったね。冬月君は学園関係者ではなく、あくまで学園内での自由な行動を許されているだけの部外者に過ぎないというのは、前にも話しただろう。でも君は、『人』という単語を避けるために『方』という丁寧な呼び方を選んだし、身分や立場の説明を明確に求めるのではなく『何者』と曖昧な言い方をした。意図的に含みを持たせた発言、そういうことだろう?」
二人の間に沈黙が訪れる。少しして、カフェは机に置いたマグカップを見つめたまま答えた。
「……そうですね。しなやかな体を持ち、腰の下まで伸びる長く白い髪。普通に見れば、私たちと同じような少女の姿をしている。けれど、昨日廊下ですれ違った瞬間、わかりました。あの方はヒトではないし、ウマ娘とも違います」
カフェは小さく息を吐き、静かに続ける。
「『艦娘』と呼ばれる存在が、霊的な性質を多分に宿しているという噂は、以前から聞いていました。それでも、ああして実際に対面すると……何とも言えない、不思議な感覚がありました」
「はは、流石はカフェだ」
タキオンはティーカップに口をつける。カフェもコーヒーを一口飲むと、その場で視線をタキオンへ真っ直ぐに向けた。
「……鎮守府の指揮官である提督が、なぜかトレセン学園に出向してタキオンさんのトレーナーを務めている。それは学園内でも周知の事実です。彼が、わざわざこの学園でそのようなことをしている……その理由を詮索するつもりは、私にはありません。ただ……」
カフェの声が僅かに低く、より真剣なものになる。
「あの冬月さんを含めた艦娘と、彼女たちが海で交戦している深海棲艦には、気を付けたほうがいいかもしれません。あれらは、私の知る幽霊たちよりも、ずっと深く、昏い場所から、やってきているように思えるのです」
深海棲艦。海の底からやってくるとも言われ、その武力でもって世界中を攻撃している、兵器の形をした人類の脅威。その正体についてはともかく、カフェがかなり危険視しているということは、その危険性は武力としてだけではないのだろう。しかし、タキオンはその思考を口に出すことはなかった。
「……分かっているさ。忠告には感謝するよ」
そして、加熱してもいないのにゴボゴボと沸騰する怪しい液体が入った瓶を棚から取り出すと、満面の笑みでカフェに見せつけた。
「お礼と言っては何だがね!昨日完成したばかりの特製栄養ドリンクだよ!これはかなり前に作った薬品の改良型で、ピーをパーするところを調整してポーがペーの部分を」
「要りません」
カフェは心底嫌そうな顔でパッと視線を背けた。