魔法少女世界に転生した俺、魔法少女たちから重たい感情をぶつけられる。 作:Tスプーン
思いつき一発ネタ。
「
ある日、俺───健太《けんた》が暮らす孤児院にぬいぐるみを大事そうに抱き締める金髪碧眼の可愛らしい幼女、光城ヒカリがやって来たことで、俺はこの世界が自分が視聴していたアニメの世界だと確信した。
「あっこれ『魔法少女マジカル・カンナ』だ」
『魔法少女マジカル・カンナ』はその名の通り、魔法少女を題材としたアニメで、「魔法少女ものといえば陰鬱なストーリー」という昨今の風潮に抗うような「明るい魔法少女」を題材としたこの作品だ。
魔法少女に憧れるごく普通の小学生「
マスコットは願いを叶える力を持つ古代文明の遺物「アーティファクト」を輸送中に宇宙船が爆発し、「アーティファクト」が二十個の欠片となって地球に散らばってしまったためであった。このままでは欠片となった「アーティファクト」が無秩序に願いを叶えて地球に混乱を巻き起こしてしまう。
そのことを知ってマスコットとともに「アーティファクトの欠片」を集めることにしたかんなは魔法少女として「アーティファクトの欠片」が引き起こす事件を解決しながら困っている人を助ける。
という勧善懲悪を体現するようなストーリーだ。
時にシリアスな展開があるものの、ライバルの魔法少女「
ちなみに俺もそんな惨い昨今の魔法少女もので心に傷を負った視聴者のひとりであり、このアニメは推しキャラが出てきた数話後に無残に泣き叫びながら惨殺されるというトラウマを負った俺の心の傷を癒してくれた。
ヒカリちゃんは主人公のかんなちゃんよりも人気のあるキャラクターであり、俺の推しキャラでもあった。
第一期におけるライバルキャラとして登場した魔法少女で、第二期以降ではかんなちゃんの友だちで頼れる仲間となるというベタなキャラクターだ。
活躍するのもそうだが、クールな性格ながらも天然ボケを披露したり、友だちになったかんなちゃんを他の子に盗られたくないと嫉妬しちゃう可愛らしい一面があり、そのギャップから人気がある。
その人気からヒカリちゃんが主人公を務めた公式スピンオフ作品が劇場アニメで公開され、コミック化・ノベライズ化そして単独でのラッピングバスやラッピング電車になったほどだ。
特に大人になって美しい金髪ロングヘアーのオッドアイ美女に成長した第四期からはその美貌と容姿からエロ同人が大量に流通し、お台場の祭典をこの作品が席巻してお台場の女王と呼ばれた時期もあるほどだ。
そんなヒカリちゃんだが、その生い立ちはかなり悲惨だ。
・裕福な家に産まれるも幼い頃に両親を事故で失う。
・遺産目当ての親戚にたらい回しにされて遺産をすべて奪われたあげくに孤児院に送られる。
・高過ぎる魔導師の才能から魔力の軽い暴走を引き起こして他の孤児たちからは恐れられ、大人たちからも避けられてひとりぼっち。
・そのせいで人間不信になる。
・第一期の黒幕にその才能を目につけられ、孤児院から引き取られて騙されて悪事の片棒を担がされる。
・黒幕に引き取られた後も愛情を与えられることなく、広い屋敷のなかでひとりぼっちで過ごし、ただいいように利用される。
・黒幕に引き取られている間、小学校にも通っていない。
・主人公の天野かんなちゃんに出会うまで友だちもいない。
・第一期と第二期の間に友だちのかんなちゃんと一緒の小学校に通い始めるも、第二期が始まる少し前に魔導師としての修行のためにテクノスフィア星へと留学しに行くことになる。
・しかも留学する理由は第一期の黒幕の養女となったことで、関係者として監視するのが目的。
・第二期中盤でようやく地球に戻れたものの能力に制限を付けられたうえに監視は継続される。
・第二期では能力の制限故に苦戦する場面が多く、ボロボロになってしまう。
など、小学生編とも言える第二期まででもあまりにも悲惨過ぎる境遇だ。
だからせめて俺だけでも彼女の友だちになろうと考えた。
最初は人との関わりを拒絶していたヒカリちゃんだったが、俺が積極的に話しかけたり一緒に遊びに誘ううちに、徐々に俺に心を開いてくれるようになり、ヒカリちゃんの方から話しかけてきたり、遊ぶようになった。
それが嬉しくてもっとヒカリちゃんと、ヒカリと仲良くなろうと努力した。ヒカリと一緒に話し、一緒に遊び、一緒に寝るなど一日中ずっとヒカリと過ごすようになった。
次第にヒカリは明るくなり、他の孤児たちとも遊ぶようになった。笑顔で他の孤児たちと遊ぶヒカリを見て少しは良い方向に向かっている気がした。
だが、そんな時に事件が起きた。
「な、なにこれ?ねぇ健太……起きて……起きてよ……!ち、違……違う……違う……違う……違う!わ、わた、私……私こんなことするつもりじゃ……い、いや……!いやぁ!健太!健太ぁ!」
全身が痛い。たぶん骨が折れてる。血もいっぱい出てるだろう。地面に倒れて動けない俺のぼやける視界では半狂乱になったヒカリと、遠くに駆け寄ってくる大人たちの姿が見える。
いつものように俺と遊んでいたヒカリの左目が突然紅く染まり、ヒカリの目の前に丸い玉のようなものが現れた。小さな孤児たちが不思議そうに玉に触ろうとしており、ヒカリもそれが何なのかわかっていない。
そのことに気がついた俺はとっさに駆け出した。
『魔法少女マジカル・カンナ』において、魔導師は体内に魔力を蓄積しており、長い間魔力を使わずに限界まで魔力が体内に蓄積してしまうと魔法が勝手に発動して暴発する魔力暴走を引き起こすことがある。
原作で語られたヒカリが起こした魔力暴走だ。
この事件が切っ掛けでヒカリは孤児院で孤立することになる。
他の孤児たちをヒカリの持つ魔力が引き起こした魔法から助けるためにヒカリたちの前に飛び出して庇った。
その瞬間に魔法が爆発してもろに爆風を受けた俺は吹き飛ばされた。
この頃のヒカリの魔力量が少なかったからなのか、俺の運が良かったからなのか、俺は命に別状はなく、左腕の骨折と複数の打撲と裂傷程度の怪我、そして頭を数針縫うくらいで済んだ。
ヒカリや他の孤児たちも爆発に驚いて転んだくらいで大きな怪我はなかったから本当に良かった。
だが、それからヒカリがかなり病んでしまった。
ヒカリはあの爆発が自分が引き起こしたものだったと察したのだろう。あれから自分の部屋に引きこもるようになってしまった。
あれだけ一緒に遊んでいた孤児たちを避けるようになり、俺を見る度に泣きそうな顔で必死に謝ってきた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私、私……!」
そう言いながら必死に謝るヒカリを俺は慰めた。
せっかく幸せになれそうだったのに、孤独ではなくなったのに、たったあれだけのことでそれを失うなんて俺は我慢ならなかった。
……今思えば正直やり過ぎた。
言葉を尽くし、行動で示して必死にヒカリを慰めたところまでは良かったが、どうやら俺が思ったよりも心に大きな傷を負ってしまっていたヒカリは俺にドップリと依存してしまった。
「何があっても俺だけはヒカリの味方でいる。何があってもヒカリの側にずっといるから」
慰めるつもりで掛けた言葉は思いのほかヒカリの心に突き刺さり、そのせいで開けなくてもいいヒカリの心の扉まで開けてしまったらしい。
常に俺の側にいて怪我で不自由な俺を介助してくれた。
喉が渇いたと思えば水を持ってきて、物を取りたいと思えば俺の代わりにそれを持ってくる、果てにはご飯を食べる時はヒカリが手ずからフォークやスプーンで食べさせてくれるなど、甲斐甲斐しく俺の世話を焼いた。
怪我が治る頃にはヒカリの介助なしに行動できるようになってもヒカリは以前にも増して俺に対してかなり距離感が近くなった。
物理的にも精神的にも俺にものすごく近い。
俺の側を離れず、トイレでもお風呂にでもどこまでも一緒について来て、寝る時も同じベッドで眠ろうとする。
何とか説得を試みたが、泣きそうな顔で嫌がり、説得しようにも聞かなかった。
そして一番困ったことに───
孤児院では年下の子と遊んであげるのが決まりだ。
鬼ごっこ、かくれんぼ、おままごとなど、小さな子どもたちと遊んでいると、ふらふらとヒカリがやって俺の身体をガシッと掴む。遊んでいた子たちへと顔を向けると子どもたちは悲鳴を上げながら逃げ去っていく。
ヒカリに掴まれた肩がギリギリと万力のように締められてかなり痛い。
「どうしたの?痛いんだけど───「ねぇ健太」───ひ、ヒカリ?」
ゆらりと顔を俺の方に向ける。
ヒカリの顔からは表情と生気が抜け落ちており、その端正な顔立ちから精巧にできた無機質な人形のように思えた。
「今の何してたの?遊んでたの?私以外の子と遊んでたの?ねぇなんで?ねぇねぇねぇ?なんで?なんでなの健太?答えてよ。健太が遊ぶのは私だけでしょ?私の味方は健太だけなんだよ?健太もそうでしょ?健太の味方も私だけだよね?だから健太は私だけのものなんだよ?
それなのになんで?なんで健太は他の女と遊んでるの?この前ちゃんと私以外の女と話したら許さないって約束したよね?ううん、ごめんね。わかってる。わかってるから。健太は優しいから。あの子のワガママを聞いてあげただけなんでしょ?悪いのは全部あの子なんだよね?嫌々遊んであげてたんでしょ?健太は優しいから拒絶できなかっただけだよね?私は健太のことぜんぶわかってるから。健太は私のものだってちゃんとあの子に教えたのに。マーキングが足りなかったのかな?そうだよね。うん。健太は私のものだってしっかりマーキングしなきゃ。私のものだって印を付けなきゃ。健太は私のものだってしっかり示しておかないとダメだよね?」
ヒカリが抱きついてくる。ヒカリからほんのり甘いお菓子みたいな匂いが漂ってきてドキドキしてしまう。
「健太。健太、健太、健太。健太はいつもいい匂いするよね。私ね、健太の匂いを嗅いでるととっても安心するんだよ?健太の匂いが好きなの。健太もそうだよね?健太も私の匂いに安心するよね?私の匂いが好きだよね?そうに決まってるよね?健太もそうだもんね?ううん、やっぱり言わなくてもいいよ。わかってるから。健太も私の匂いが好きだもんね」
死んだ目で俺を詰め寄ってくるヒカリの左目が紅く染まっている。魔力が使われている証拠だ。魔力によって虹彩の色が変化するのだ。
魔力で強化された握力でギリギリと掴まれる肩が痛いし、ヒカリに詰められてキリキリと胃も痛い。
───あの魔力暴走事故以来、ヒカリはとんでもなく病んでしまった。
あれから俺に執着して依存するようになったヒカリは常に俺の側から離れず、四六時中ずっと俺を監視するようになった。
万が一、俺が誰かと話したり、遊んだり、近づこうものならこうしてその人を追い払い、排除しようするようになった。
さすがに物理的排除をしようとしたら大人たちから止められて怒られることを知っているヒカリは次々と手を打った。
他の孤児たちや大人たちに俺とヒカリの関係をあることないこと噂を流し、少しずつ少しずつそれが事実であるとみんなに吹き込み、ヒカリにとって都合の良いように言い包めた。
アニメの描写的にヒカリはアグレッシブな天才だということはわかっていたが、ヒカリはその才能を遺憾無く発揮し、孤児院の人々の人心を掌握した。
俺がその噂に気がついた頃にはもう孤児院の人々は俺とヒカリは付き合っていて将来結婚することが事実になっており、女の子たちは俺の側に近寄ることなく、徹底的に避けられるようになり、男の子たちも最低限の接触だけで俺に近寄る人はほとんどいなくなった。
そのことに気がついた俺が噂を否定しようとしても恥ずかしがっていると孤児たちから茶化され、周囲の大人たちも照れ隠しだと温かい眼差しで見てくるようになった。
そして、大人たちはヒカリが何をしようとも大好きな男の子(俺)を盗られたくないヒカリちゃんの子どもっぽい行動だと思い込んで温かい目で見て注意もしない。
正直ここまでされてようやく俺はヒカリが怖くなった。
わずかに数ヶ月の間に孤児院を俺を閉じ込めるヒカリの王国に作り替えた手腕に心底恐怖した。
「私たち、ずぅ〜と一緒だよ?」
今日も朝から同じベッドでヒカリは俺に満面の愛らしい笑顔で微笑んでくる。
ネットリと絡みつくような美しい紅と碧の瞳で俺を見つめるヒカリから逃げたくなった。