魔法少女世界に転生した俺、魔法少女たちから重たい感情をぶつけられる。 作:Tスプーン
ヤンデレとかストーカーの描写ムズい……
孤児院がヒカリのお城になってから少しした後、俺はとある家庭に引き取られることになった。
ヒカリはオレが里親に引き取られるのは当然断固反対。大いに泣き叫びながら暴れ回って大変だった。
「ヒカリちゃん、健太くんとバイバイしようね」
俺にしがみつくヒカリを大人たちが宥めている。
「ヤダ……やっぱり健太と離れたくない……」
「ヒカリ、約束覚えてる?」
「……うん」
俺が引き取られる「如月」さんの家が孤児院と同じ街であったことからヒカリとふたつ約束した。
・毎日電話すること。
・週に一度会いに行くこと。
「俺が約束破ったことある?」
「ないけど……やっぱり健太とお別れしたくない」
「また会いに来るからさ。もうそろそろ行かないと」
ぐずるヒカリを宥める俺を見て如月さんは微笑ましそうに、そして少しバツが悪さそうにこちらを見ている。
「……会いに来てくれる?」
「約束する」
「絶対?」
「うん」
泣きじゃくるヒカリにこのことを約束をして何とか離れてもらった俺は新しく家族になる如月のお義父さんが運転する車に乗って孤児院を出る。
ヒカリが見えなくなるまで手を振って、孤児院が見えなくなる。
海岸線を走る車の音に混じって海鳥が鳴く声が聞こえ、海と潮風の匂いが開けた窓から入ってくる。
俺たちが住んでいる「観埼市」は関東にある海に隣接した街だ。都心に近いこともあって夏場は特に海岸が賑わいを見せ、街中にはちょっとした有名店も多い。
孤児院では危ないからと子どもだけでは自由に海に行けず、年に数回しか行ったことがなかった。それに子どもたちがはぐれないようにあえて海開き前に行くこともあって海に入れなかったな。その時はいつもヒカリと砂遊びをしたっけ。
「さぁ着いたよ」
海岸線を抜けて街に入り、街を眺めていると、一軒の家に着いた。
豪邸とまではいかないものの、かなり大きな家に住んでいる。綺麗な花が咲いている花壇と芝生付きの庭もある。如月さんの家はお金持ちに分類される家庭で、お義父さんの如月大悟さんは有名大学の教授、お義母さんの如月涼子さんはパート主婦だという。
「私は仕事であまり家に居てあげられないが、電話はするから何か不自由なことがあったら気軽に言ってほしい」
大悟さんは日々忙しく講義や学会などで各地を飛び回っていた。年に数えられるほどしか会えないが、週に一度はテレビ電話で顔を合わせて話をする。
「自分の家だと思ってね。私たちはこれから家族になるんだから何でも言ってちょうだい」
涼子さんはとても優しくて綺麗で料理上手だ。昼間はとあるお菓子屋で働いていて、たまにそこのお菓子を持って帰ってきてくれる。
ふたりとも養子の俺のことを「家族」として愛してくれていることはわかる。俺も家族になるためにふたりに素直に甘え、家のことを手伝った。
この世界に生まれる前は一人暮らしをしていたからある程度の家事はできたし、失礼にならない程度にワガママをした。
俺が「如月健太」になってから一年ほど経った春、俺は観埼市にある私立の小学校に入学することになった。
俺がこれから通う小学校は私立の大学附属校ということもあってけっこういいとこの学校だ。入学費が高いのもそうだが、入学する生徒たちもいいところのお坊様やお嬢様も多い。まぁそう言うお金持ちの子どもたちは特進クラスというところに入ることが多いらしいが、普通科の生徒として入学した俺との接点はそんなにないそうだ。
「きゃ〜!可愛いわよ健太!後で大悟さんにも制服姿の健太の写真を見せてあげなきゃね!」
「や、やめてください……!」
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ!よく似合ってるわ!」
制服姿を見せるのはなんとなく気恥ずかしい俺の写真を涼子さんは俺を褒めながらパシャパシャと撮ってくる。スマホではなく、一眼レフカメラでだ。なぜスマホではないのかと言えば涼子さん曰く「特別なイベントなのにいつも通りスマホで撮ったら風情がないから」だそうだ。
入学式は特に大きなイベントはなく、つつがなく終わった。
緊張した面持ちを浮かべたり、落ち着かなさからソワソワしている俺と同い年の子どもたちと並んで会場に入場する。
「ひゃっ……!」
「大丈夫っ?」
偶然隣になった女の子がタイミングが遅れた前の子にぶつかって倒れそうになったその子を咄嗟に助ける。
「あ、ありがとう」
ブラウンの髪の毛をツインテールに束ねた可愛らしい女の子だ。制服はぶかぶかで袖が長くて小さな手が隠れてしまっているが、それもチャームポイントになっている。
顔つきもたいへん可愛らしい。ヒカリのように絶対に美人になるとわかってしまうような子どもながらに整った顔立ち。
「き、気にしないでっそれよりも早く進もうっ!」
その女の子の顔を見て、俺は驚きながらも小声でその子を急かすように前に進ませる。
俺は初めて会うこの子のことをよく知っている。
好きな食べ物、嫌いな食べ物、将来の夢、そしてこの子がどんな思い出を作って、これから何が起きるのか。そして、大人になったらどんな女性に成長するのか。
その子のことはすべてを知っている。
この子の名前は
この世界「魔法少女マジカル・カンナ」の主人公だ。
好きなアニメの主人公に会えた喜びから眠れなかった俺はそのまま入学式の翌日にある初登校の日を迎えた。
教室には新鮮な緊張感が漂っている。
まだ名札をつけたばかりの子どもたちが忙しなく動き回り、いろんな子と話している中で、緊張しているのか立ち上がることなく自分の椅子にぎゅっと座っているかんなちゃんの姿があった。
色々な子に話しかけられると、緊張が解れたのか持ち前の明るさを発揮したかんなちゃんは楽しげに話をしている。
しばらくするとチャイムが鳴って、教室に少し太った優しそうなおばさんが入ってくる。確か、アニメに出ていた担任の先生だったはずだ。どうやら一年生の時からこの人がかんなちゃんのクラスの担任だったらしい。
とあるベテラン声優と同じよく聞き覚えのある優しげな声の先生がオリエンテーションを始める。
あそこは危ないから近寄らないこと、下校時間になったらすぐに帰ることなど、よくある注意事項が終わり、自己紹介の時間になる。
今日は自己紹介が終わったらそのまま学校を見回って終わりらしい。
「───はい、それじゃあ自己紹介は窓の近くにある席から順番ね。最初は「あ」だから天野かんなちゃん。かんなちゃん、こっちの方に来てくれるかしら」
「は、はい!」
担任の先生の声に促され、隣に座っていたかんなちゃんが立ち上がり、テコテコと緊張が伝わってくる足取りで黒板の前に立つ。
少し照れてるような仕草をしているかんなちゃんは手を胸の前で組み合わせて何度も深呼吸していた。やがて意を決したように顔を上げる。
「あ、天野かんなです!わたしのおうちは和菓子屋さんをしてますっ!おもちとか、お団子とか、羊羹とかいろんな和菓子を売ってるので……!みんなもよかったら来てください!」
かんなちゃんは言葉と一緒に両手で「もち」っぽい感じの丸を描くジェスチャーをしているのが可愛らしい。
「えっと……それから……えと、え〜と……お、大きくなったら魔法少女になりたい、ですっ!」
かんなちゃんの言葉を聞いて教室がざわめく。
小学生にもなって魔法少女なんてとクスクス笑っている子もいる。
どうやら今の小学生は前世の俺が小学生だった頃よりもマセているらしい。そりゃそうか。小学校に入る前からスマホを持っているネットネイティブ世代だ。そう言ったフィクションと現実の違いなんて幼稚園児でも知っているだろう。
しかし、俺はかんなちゃんがこれから本当に魔法少女になることを知っている。なんならこれから十年後には魔法がこの世で一般化して、宇宙人との交流が始まることを知っている。
「魔法少女なんているわけないよ!」
「い、いるもん……!ぜったい魔法少女はいるもんっ!」
かんなちゃんを茶化す男子に必死に抗議するかんなちゃん。確かこの男子はかんなちゃんに一目惚れしてて、第一期の時に「アーティファクトの欠片」を拾って事件を起こすんだったか。たぶん好きな女の子にイジワルしちゃうタイプなんだろう。
「魔法少女、素敵な夢ね。ほらみんな拍手」
ケンカが始まりそうな空気を察した担任の先生がやんわり仲裁に割って入る。
「あ、あと……えっと……い、以上ですっ!」
「はい、それじゃあかんなちゃんの次は「う」だから───」
ぽつぽつとした拍手を受けながらかんなは恥ずかしいそうにすぐに自分の席に戻ってちょこんと座る。かんなちゃんは顔を恥ずかしそうに真っ赤にしている。
「……素敵な夢だね」
俺がボソリと言うとかんなちゃんがちらりと俺の方を見る。
目が合った瞬間、緊張で固まっていた彼女の頬がほころぶ。魔法少女になる夢が肯定されてよっぽどうれしかったのか、かんなちゃんは可愛らしい笑顔を浮かべている。
「あ、ありがとう……え、えと」
「如月健太。よろしく」
「うん!よろしくね健太くん!」
それから俺とかんなちゃんは隣の席ということもあって、よく話をするようになった。
朝教室に入るとかんなちゃんが「おはよう健太くん!」ととびきりの笑顔で挨拶してくれる、たまに授業中にかんなちゃんと手紙回しをして遊び、移動する時はニコニコ笑顔のかんなちゃんとおしゃべりしながら移動し、お昼になるとかんなちゃんとお弁当を食べながらお話しする。帰りはバス通学の俺とバス停までかんなちゃんとおしゃべりしてバスが来るのを待ってから別れる。
前世の記憶を持っていて小学校の授業なんて楽勝だった俺はうんうんと頭を悩ませているかんなちゃんに勉強を教え、この頃から放課後に教室に残ってかんなちゃんに勉強を見てあげるようにもなった。
好きなアニメの主人公と会えて嬉しくて学校に行くのが楽しみになった。
しかし、その頃からよく背中に視線を感じるようなった。
学校にいると常に誰かが俺を見ていて尾行されている気がする。そして、気がつけば俺の使っている文房具などが失くなるようになった。
かんなちゃんといつも一緒だからかんなちゃんのことが好きな男子からやっかみを受けてサッカーとかで勝負したことはあるが、物を盗むようなこんな陰湿なことをするような子たちではない。
心当たりがないのが本当に怖い。
俺は試しに犯人を確かめることにした。
比較的生徒たちがあまり通らない静かな廊下に向かい、曲がり角を曲がったフリをしてその場で立ち止まり犯人を待ち伏せた。
静かな廊下だから犯人らしき足音がよく聞こえてくる。もうすぐ側まで足音が近くなり、曲がり角に近寄ってくるのを感じる。
俺は思い切って曲がり角から飛び出す。
「きゃっ!?」
ドンと犯人とぶつかり、犯人らしき女の子が倒れる。
「いたた……あっ!け、健太くん!?」
「あっ!?ご、ごめん!」
俺とぶつかったのはかんなちゃんだった。かんなちゃんと目が合うとニコニコといつもの可愛らしい笑顔を向けてくる。可愛い。
「か、かんなちゃん?どうしてここに?」
「健太くんがこの廊下通るなんて珍しいなぁ〜って思って、ついてきちゃったの」
かんなちゃんはそう言うと「いつもみたいに一緒に帰ろ!」と俺の手を握る。
もしかしてかんなちゃんが?と疑念を抱くも自意識過剰かと思ってその疑念を振り払う。
俺は「魔法少女マジカル・カンナ」の天野かんなという女の子についてはよく知っている。いつも前向きで明るくて天真爛漫な女の子である「天野かんな」がこんなことをするとはとても思えない。ましてや俺なんかをストーキングするなんてことなどあり得ないだろう。
帰り道かんなちゃんとお話しながら今日はたまたま犯人ではなく、かんなちゃんが偶然後をつけてきたに違いないとそう結論付けた俺はそう思うことにした。
しかし、残念ながら一度抱いたその疑念が確信に変わったのはそう時間がかからなかった。
「じゃ〜ん♪この前たまたま健太くんが使ってるの見つけたから買ったんだ!健太くんとお揃いだね♪」
気がつけばかんなちゃんが使っている鉛筆もノートもペンケースも俺とお揃いのものとなっており───
「健太くんってこれ好きなんでしょ?もしよかったら毎日私が健太くんのお弁当を作ってあげるね!」
お弁当の時間になると、そう言ってかんなに教えていないはずの俺が好きなものがたくさん詰め込まれたお弁当からおかずを俺に渡してきて───
「あっ健太くん、これ返すね!」
そう言って失くしたと思っていたものを必ずかんなちゃんが手渡してくる。
学校では毎日ずっと俺の側を離れず、授業中も移動中も常にかんなちゃんの視線を感じていた。
俺の行く先々に先回りしているかんなちゃん。
体育の時間の時、ずっと遠くから熱心にこちらを見つめているかんなちゃん。
「これ……やっぱりただの偶然じゃないよな……」
かんなちゃんにストーキングされている。そう確信するのに時間はかからなかった。
「け〜ん〜た……くんっ!」
「───うわぁっ!」
そしてある日の放課後。下校しようと靴を履き替えていると突然背中を突かれた。振り向くとそこには真っ赤なランドセルを背負ったかんなちゃんが立っていた。かんなちゃんは俺の真後ろにぴったりとくっついていて、振り返った俺の真正面にイタズラっぽい笑みを浮かべたかんなちゃんがいた。
「お、脅かさないでよっビックリしたじゃないか!」
「えへへ〜ごめんね♪実は健太くんとおんなじ本見つけたから買ってみたの!こんなむつかしい本読めるなんて健太くんは大人だね。憧れちゃうなぁ♪」
かんなちゃんは可愛らしく謝るとゴソゴソと自分のバックから一冊の本を取り出した。取り出したのは小学生には似つかわしくない小説だった。
「ね、ねぇかんなちゃん。一つ聞いてもいいか?」
その小説を見て、俺は恐る恐るかんなちゃんに訊ねる。
満面の笑みを浮かべるかんなちゃんを見て背筋に悪寒が走る俺が声を震えさせる。
「なあに?」
かんなちゃんは可愛らしく小首をかしげる。
「どうしてその本のこと知ってるの?」
「これ?先々週の土曜日のお昼くらいかな?健太くんが駅前の本屋さんでこの買ってるの見たの。健太くんがずっとバスで読んでたから気になっちゃって私も買ったんだ!」
笑顔のかんなちゃんが見せてきたのはこの間の土曜日に本屋で買ってから通学のバスで呼んでいる小説だ。
学校では一度も読んだことも取り出したこともない、しかもそのことを他人に話したことがない本だ。当然かんなちゃんにも見せたことも話したこともない。
「な、なんでその事を知ってるの?」
「え?健太くんのことは全部知ってるよ?」
「……は?」
「だって、私ずっと健太くんのこと見たもん。初めて会った時、助けてくれたでしょ?それに自己紹介の時もみんなが私の夢を笑ったのに健太くんは笑わなかったでしょ?素敵な夢だって言ってくれたよね。その時に絶対に健太くんが私の白馬の王子様なんだってわかったんだよ」
「白馬の、王子様……?」
「うん。だってそうでしょ?これは運命だよ。健太くんを初めて見た時にそう思ったんだ。健太くんは私の王子様なんだよ。健太くんもそう思ったよね?私の王子様だもんね?私と運命を感じちゃってるもんね」
いつもの可愛らしい笑顔を浮かべるかんなちゃん。
その目に宿る何かドロドロとした危ない光、よくヒカリが見せていたあの目をしている。
「私ね、健太くんのぜんぶが知りたくていっつも健太くんのことを見てたんだよ。二週間前の水曜日の放課後のこと覚えてる?ふたりっきりの廊下で私のこと気がついてくれたよね?あの時ね、健太くんが私に気がついてくれて嬉しかったなぁ。それでね───」
次から次へと俺をストーキングして知ったことを心底嬉しそうに話すかんなちゃんがわからない。現実を受け入れられない。
「───そう言えば、よく健太くんがお出かけして会ってる女の子、確かお名前はヒカリちゃんだっけ?」
ヒカリの名前が出た瞬間かんなちゃんの声色が冷たくなり、俺の背筋がさらにゾワりとした。
「あの子。ヒカリちゃん。ねぇ健太くん。あの子は健太くんの何なの?小さい頃健太くんに怪我をさせたって聞いたよ?危ないよね。危険だよね。私だったら健太くんを怪我させちゃったら絶対に近寄らないよ。普通そうでしょ?それなのに幼馴染だからって健太くんにベタベタベタベタ。健太くんの優しさに甘えて、健太くんの優しさに付け込むなんて。許せない。絶対許せないよ。健太くんは私の白馬の王子様なのに。私だけの王子様なのに。あんな危ない子なんか健太くんの側にいてほしくない」
よくある子ども特有の独占欲。しかし、その奥底にはとてつもなくドロドロとした真っ黒い何かを感じてしまう。背筋が凍る。震えが止まらない。言葉が出てこない。
「あ、バス来ちゃったね!私は帰るね!それじゃあね健太くん!また明日!」
バス停にバスがやってくると、かんなちゃんは何事もなかったかのようにバス停から飛び出して行ってしまう。
呼び止める間もなく去っていくかんなちゃんの背中を見て呆然と佇む俺の胸にじわりと恐怖とも期待ともつかない感情が広がっていた。かんなちゃんからヒカリと同質のヤバい何かを感じる。
「もしかして俺……ヤバい奴に目をつけられてるんじゃないのか……?」
たぶん続かないです