成り代わりナツは無条件でモテたい   作:雨天

1 / 3
第一話

 

 

 

 どうも、ナツと申す者です。

 実は二度目の生を享受する転生者であることは周りには秘密にしている。

 ちなみに自分が主人公であることは認識している。

 アニメ・漫画は広く浅くをモットーに楽しむ派閥な俺だからこそFAIRY TAILのナツと言えば聞いたことがあった。

 王道系主人公で、実は黒魔道士のゼレフの血縁だったとかいう爆弾を抱えてると聞き及んでいる。

 ヒロインは確かルーシィだったか。胸がデカいのは知ってる。星霊魔法を扱う魔導士で、金髪の美女って情報を俺の頭はしっかりと記憶している。

 後なんか猫がいる。二足歩行で魚が好きな奇妙な猫だ。

 

 その程度の原作知識で俺は主人公へと転生してしまった。

 目が覚めたら目の前にドラゴンがいた時の心境を答えよ。正解者には俺の投げキッスをプレゼントしよう。

 とまあそんな訳で、俺は食い殺されねえかビビりながらもドラゴンと共に暮らしていた。

 育て親のドラゴン─イグニールは俺に言語やら文化やら魔法やらを教えてくれた。

 英語とかさっぱりだった俺にアルファベットから教えてくれる優しさには涙が出ますよ。食い殺されそうとか思ってごめん。それはそれとして怖いわ。

 掌をくるくるひっくり返しながら、俺は魔法の習得にも努めた。

 

 魔法とは体系化され、原理さえ理解すれば誰でも扱えるからこそ魔法なのだと理解し、滅竜魔法の原理を解明しようと努力した。

 その成果として炎の滅竜魔法を習得した。それでもまだまだ滅竜魔法の真髄には程遠い。

 

 これから滅竜魔法を極めていくぞ!と意気込んだ矢先、イグニールが失踪した。

 俺に様々な知識と思い出を与えて忽然と姿を消したのだ。

 

 子供とはいえ、サバイバルの知識は教えて貰っていたので生活には困らなかった。

 巣立ちの時が来たのだと、そう理解しようとした。

 けれど、どうしても心に空いた穴は塞がってくれず、俺は結局イグニールを探す旅に出ることにした。

 ついでに魔導士ギルドに入れれば良いな、なんて思いながら。

 

 それから暫く一人で旅をして、無事に魔導士ギルド『フェアリーテイル』に入ることができ、原作通りにハッピーと出会い、依頼を熟しながらイグニールを探す日々を送っている。

 今日も仲間から噂話を聞いたのでハルジオンまで足を運んでいる。

 

 移動は勿論列車で。乗り物が極端に苦手な滅竜魔導士が列車に乗れば、当然の法則としてグロッキーになる。

 俺は列車の窓から外を眺めながら、清々しい気持ちでゲロを吐いた。

 

 列車の窓からゲロが外へと放出され、地面に飛び散る。それを見た乗客が悲鳴を上げる。

 そんな大惨事が目の前で起きてるにも関わらず、ハッピーは呑気におやつの魚を食んでいた。

 

「ナツ、苦しそうだね?」

「滅竜魔導士は乗り物が弱点だからな。列車なんて乗れる訳ない。オロロロロ…」

「魚食べてる時に吐かないでよ。食欲なくなるから」

「お前が勝手に…食い出したんだろ……俺には、関係ない……」

 

 食うのをやめろとは言わんが、後から食い出した癖に文句を垂れないで欲しい。

 そんなことより早くハルジオンに着かないかな。胃の中身が空っぽになる前には列車を降りたいところだ。

 

 そんな風に必死に吐き気から意識を逸らして、俺は乗り物酔いに耐えるのだった。

 

 

 

 

「あ、あの…お客様……だ、大丈夫ですか?」

「あい。いつものことなので」

 

 心配する車掌にハッピーが答える。

 確かにいつものことだが、大丈夫かどうかは俺が決めることじゃなかろうか。

 そんな文句も今は口に出せず、俺は列車を降りてふらふらと壁に凭れ掛かる。

 

「情報が確かならこの街に火竜(サラマンダー)がいる筈だよ。行こ」

「本当にいんのかぁ?眉唾だろ。此処までして来る必要あったかね」

「でも、少しでもいる可能性があるなら探さないと」

「それもそうかぁ。骨折り損は避けたいな」

 

 軽口を叩きながら街中を散策し始める。

 街の様子は至って普通。特に変わった様子も見られないし、騒ぎが起きてる気配もない。

 一般的な港町って感じだな。

 

「そういや、何も食ってねえな。店見つけたら適当に入るか」

「でもうちらお金ないよ。列車代は使えないし」

「なぁハッピー。火竜ってのはイグニールのことだよな?」

「露骨に話題逸らしたね。火の竜なんてイグニールしか思い当たらないよ」

「だよな。ちょっと元気出て来たぞ!」

 

 俺は両手を上に掲げて元気をアピールする。

 その時、「火竜」という単語が俺の耳に届いた。

 慌てて声の方を振り向けば、そこには人集りができていた。

 

「噂をすれば何とやらだ!行くぞハッピー!」

「あい!」

 

 俺は人集りに割って入って中心を目指す。

 そして影が見えたところで声を掛けた。

 

「イグニール!!」

 

 目の前に現れたのは額の右側に刺青をした男だった。

 全然違うやんけ。誰だコイツ。

 

「誰だお前?」

「火竜と言えば、分かるかね?」

「帰るぞハッピー」

 

 俺は人混みを抜けてハッピーと共に列車の方へと足を向けた。

 塩対応に怒る女性陣が俺を無理矢理連れ戻す。

 

「まあまあ、その辺にしておきたまえ。彼とて悪気があった訳じゃないんだからね。僕のサインだ、友達に自慢すると良い」

「いや、いらん」

「何なのよアンタ!!!」

「どっか行きなさい!!!」

「うごっ…!」

 

 俺は人混みから放り出されて地面を転がる。

 ハッピーが可哀想なものを見る目を向ける。

 

「人違いだったね」

「扱いが酷えよ。何で俺がこんな目に…」

 

 火竜と名乗った魔導士は炎の魔法で浮き上がり、集まっている女性達を夜の船上パーティに誘うと去って行った。

 

「何なんだアイツ」

「本当、いけすかないわよね」

 

 不意に背後から声が聞こえて振り返る。

 そこには金髪の胸がデカい少女がいた。

 少女は笑みを浮かべると礼を口にした。

 

「さっきはありがとね」

「何のことだ?俺はなんもしてねえよ?」

「その辺含めて詳しく話すから、取り敢えず何処かお店行きましょ」

 

 俺は火竜の噂の当てが外れてやることもなくなったので取り敢えず少女について行くことにしたのだった。

 

 

 

「私の名前はルーシィ。貴方達は?」

「俺はナツ、コイツはハッピー」

 

 ルーシィか。ヒロインとは此処で出会う訳だ。

 ルーシィはさっきのお礼にこの店での会計は自分が持つと言った。俺達はその言葉に甘えてガッツリ飯を食う。

 ハッピーもさっきおやつ食ってたのに魚を頭から食べ始めた。

 

「あの火竜って男、魅了(チャーム)っていう魔法を使ってたの。この魔法は人々の心を術者に引き付ける魔法なのね。何年か前に発売が禁止されてるんだけど……あんな魔法で女の子達の気を引こうだなんてやらしい奴よね。あたしはアンタ達が飛び込んで来たお陰で魅了が解けたって訳」

「成程」

 

 確かに魔法で相手の気を引こうだなんてやらしい奴に違いない。おれはそんなこと考えないぞ。多分、きっと、恐らく、メイビー。

 まあ、俺はそこそこイケメンだし強いから、魅了の魔法なんて使わなくてもモテるし。

 

「こー見えて一応魔導士なんだー、あたし。まだギルドには入ってないんだけどね。あっ、ギルドってのはね。魔導士達の集まる組合で、魔導士達に仕事や依頼を仲介してくれる所なの。魔導士ってギルドで働かないと一人前って言えないものなのよ」

「まあ、デカい仕事は普通ギルドに回すからな」

「でもね!!でもね!!ギルドってのは世界中に一杯あって、やっぱ人気あるギルドはそれなりに入るのは厳しいらしいのね。あたしの入りたいとこわね、もうすっごい魔導士が沢山集まる所で。あぁ、どーしよ!!入りたいけど厳しいんだろうなぁ…」

 

 ルーシィの話は延々と続く。まるで濁流である。

 人に話すのが好きなタイプなのかな。

 

「でも絶対そこのギルド入るんだぁ。あそこなら大きい仕事沢山貰えそうだもん」

「ほ、ほうか…」

「良く喋るね」

「そういえば、アンタ達誰か探してたみたいだけど……」

「あい。イグニール」

「火竜がこの街に来るって聞いたから来てみたは良いけど、別人だったな」

「火竜って見た目じゃなかったんだね」

「見た目が火竜……ってどうなのよ……人間として……」

「ん?人間じゃねえよ。イグニールは本物のドラゴンだ」

「そんなの街の中にいる筈ないでしょー!!」

「え゛、そうなの?」

 

 俺は当たり前のことを見落としていたらしい。

 ドラゴンに育てられるのが普通じゃないとは分かっていたが、そこまで一般的にドラゴンがいないとは。

 通りでマスターが渋い顔をする訳だ。

 

「あたしはそろそろ行くけど、ゆっくり食べなよね」

「ご馳走様です!!!」

「恥ずかしいからやめてぇ!!……い、良いのよ。あたしも助けて貰ったし……おあいこでしょ?ね?」

「あまり助けたつもりがないのが何とも…」

「あい。歯痒いです」

「そうだ!ギルドに入りたいんだよな?何処に入りてえか知らないけど、困ったらウチ来いよ!」

「アンタも魔導士なの!?」

「おう。マグノリアに俺の家があるから、困ったら尋ねて来いよ」

「マグノリア……分かった。本当に困った時は助けて貰うわ」

 

 そうして俺達は一食のお礼を約束して、ルーシィと別れた。

 

 

 

 

 俺達が飯を食い終わる頃には既に夜が訪れ、街を照らす光は街灯だけとなっていた。

 ハルジオンを散策して回る。折角足を運んだのなら楽しんでいかなければ勿体ないという心持ちである。

 ハッピーが遠くの船を見て口を開いた。

 

「そいや、火竜が船上パーティーやるって。あの船かなぁ?」

「うへぇ。船は無理だ。絶対に無理」

 

 俺が拒絶の意を示していると隣で火竜についての話が始まった。

 何となくその会話に耳を傾ける。

 

「今この街に来てる凄い魔導士なのよ。あの有名なフェアリーテイルの魔導士なんだって」

「フェアリーテイル?フェアリーテイル……」

 

 仲間達の顔を思い起こす。しかしどれだけ仲間を思い浮かべても火竜とやらの顔はなかった。

 つまり、奴はフェアリーテイルを騙っている。

 

「ハッピー」

「あい!カチコミです!」

 

 ハッピーは俺の意図を汲んでそう宣言する。

 俺は港の方まで駆けていった。

 浜辺まで来るとハッピーが空を飛んで運んでくれる。

 

 船の真上に来ると俺はそこでハッピーから手を離して落下する。

 床を破砕して中に入る。そこには捕えられたルーシィがいた。

 

「ナツ!!?」

「おぷっ…気持ち悪っ…」

「えー!!かっこわるー!!」

 

 ルーシィが俺の無様な姿に絶叫する。

 ハッピーが空からルーシィに状況を尋ねる。

 

「ルーシィ、何してるの?」

「ハッピー!?騙されたのよ!!!フェアリーテイルに入れてくれるって…それで…あたし…てか、アンタ羽なんかあったけ?」

「細かい話は後回しっぽいね。逃げよ」

 

 ハッピーがルーシィを連れて逃げる。

 自称火竜が逃さんと炎を放出する。間一髪でそれを避けたルーシィ達だが、ハッピーの魔法が解けて海に沈んだ。

 

 俺は壁を這って立ち上がり、火竜(偽)の顔を見る。

 改めて見てもその顔に見覚えはなかった。

 

 俺が口を開こうとした直前、唐突に船が流された。

 船は港まで突っ込み、揺れが止まる。

 

「一体…何事だ!?」

 

 焦る偽火竜に対し、俺は冷静に声を掛けた。

 

「お前が、フェアリーテイルの火竜だって?」

「何だ小僧。人の船に勝手に乗って来ちゃいかんだろぉ?あ?オイ!さっさと摘み出せ!」

 

 破落戸が俺に向かって走って来る。

 俺は上着を脱ぎ捨てて拳を構えた。破落戸の動きに合わせて拳を顔面に叩き込む。

 

「俺はフェアリーテイルのナツだ。オメエなんか見たことねえ」

「なっ、あの紋章!」

「本物だぜ、ボラさん!」

「ば、馬鹿!その名前で呼ぶな!」

「ボラ…紅天(プロミネンス)のボラ。数年前、巨人の鼻(タイタンノーズ)っていう魔導士ギルドから追放された奴だね」

「オメエが悪党だろうが善人だろうが興味はねえ。ただ、フェアリーテイルを騙ることは絶対に許さねえ」

「ええい!ゴチャゴチャ五月蝿えガキだ!」

 

 ボラが魔法で火を放つ。

 俺はそれを正面から受けて、食い破る。

 

「不味い火だな。オメエ本当に火の魔導士か?」

「ば、馬鹿な!?火を食った!?」

「ナツに火は効かないよ」

「食ったら力湧いて来た」

 

 俺は大きく息を吸った。

 そして火焔として一気に吐き出した。

 

「よーく覚えとけ。これがフェアリーテイルの魔導士だ!」

 

 俺は炎を拳に纏い、ボラの顔面に突き刺した。

 ボラは地面に倒れ伏し、破落戸共は逃げ惑う。俺は弱い者虐めは趣味じゃないが、コイツらはフェアリーテイルを騙った罪がある。

 徹底的に船ごと破壊して全滅させる。

 

「良し、帰るぞ。ハッピー、ルーシィ」

「私も…?」

「フェアリーテイルに入りたいんだろ?歓迎してやるよ」

「い、良いの?」

「ルーシィは良い奴だしな!」

 

 それにギルドに可愛い子が増えるのは喜ばしいことだ。

 俺がモテる為にも可愛い子は多い方が良い。

 ロキよりもモテる為に。

 

「ほら、来いよ」

「うん!」

 

 そうして俺はルーシィを連れてギルドに戻るのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。