まだ生まれていない者と、生きていてもその時間軸でパスが繋がっていない場合は、パクティオーカードの枠が消えるという扱いにしています。
夏凛先輩は、この時代その辺彷徨っていると思いますが、仮契約していない時間軸なので、まだ繋がっていません。
重厚なマホガニーのデスクの上に、扇を広げるようにして並べられた7枚のカード。
麻帆良学園の学園長室。窓から差し込む午後の光を浴びて、そのカードに描かれた精緻な絵柄がかすかにきらめいていた。
学園長である近衛近右衛門は、組んだ両手の上に顎を乗せ、眼鏡の奥の目を険しく細めてそれらを見つめている。
その対面に立つ魔法先生、高畑・T・タカミチもまた、静かにそのカードへと視線を落としていた。
そのカードの名は――『パクティオーカード』。
魔法使いと、その身辺を護衛する従者(パートナー)との間で結ばれる「仮契約」の儀式。
それを経て互いの魂の絆を固定化した際、従者側に発現する魔法のカードのことである。
これを持つ者は、契約主である魔法使いの魔力の供給を受け、カードに記された固有の特殊能力や強力な魔法道具(アーティファクト)を召喚して戦うことができる、いわば魔法世界の最高峰の証明書のようなものだった。
「……それが、トータくんの持ち物ですか」
高畑が静かに尋ねる。
近右衛門は深く息を吐き出し、ゆっくりと頷いた。
「いかにも。あのトータくんが、全身ボロボロの状態で初めてこの麻帆良に現れ、気絶しておった時にな……。
彼の衣服のポケットに、この7枚がひっそりと入っておったのじゃ」
近右衛門は白く長い髭を片手でさすりながら、当時のことを回想するように目を伏せる。
「あの時点では、彼がどこから来た何者なのかも分からず、最悪の場合、学園を脅かす敵の可能性すらあった。
そのため、カードを使って強力な仲間を呼び出されたりせぬよう、警戒のためにポケットから密かに抜いておいたのじゃよ。
……その時は、そういった理由があって預かっておったのじゃがな……」
近右衛門はそこで、少し言葉に詰まるように視線を泳がせた。いつになく歯切れの悪い学園長の様子に、高畑は小さく小首を傾げる。
「返してあげても良いのではないかと思いますけどね。
私も時折見ますが、いい子ですよ。
それに、このカードがきっかけで失われた記憶が戻るかもしれませんし?……それとも記憶が戻ると、何かまずいことでもあるのですか?」
部屋を支配する、短い、けれど重苦しい沈黙。
やがて、近右衛門はゆっくりと顔を上げると、高畑に向けて「2つの指」をすっと立てて見せた。
「……実はな、高畑先生。ワシにも分からんのだ。ただ、どうしてもトータくんにこれを返せずにいるのには、2つ困ったことがあってのう」
近右衛門はそう言うと、並べられたカードのうち、6枚を指先でトントンと叩いた。
「まず1つ目じゃ。高畑先生……『桜雨キリヱ』『時坂九郎丸』『結城夏凛』『飴屋一空』『佐々木三太』『結城忍』……この6人の名前に、何か心当たりはあるかね?」
高畑は記憶の糸を手繰るようにしばらく考え込んだが、やがて静かに首を横に振った。
「いえ。それがその仮契約の相手でしょうか?
残念ながら、私の知る魔法世界の有識者や、学園の名簿にもそのような名前は存在しませんね。存じ上げません。
……おや? 6人ですか? カードは全部で7枚あるようですが、後の一人は?」
「……『雪広みぞれ』という女の子じゃ」
近右衛門が口にしたその名字に、高畑の眉がピクリと跳ね上がった。
「雪広……。雪広と言えば、現在2-Aに所属している雪広あやかくんの名字ですね。雪広財閥といえば世界的にも有名ですが……」
「うむ。ワシもすぐにそう思い、雪広家の血縁や本家・分家に至るまで、徹底的に調べさせた。だがな……調べた結果、どこをどう探しても『みぞれ』などという名の娘は、今の雪広家には存在しなかったのじゃよ。
……とはいえ、雪広財閥とはまったく何の関係もない、たまたま雪広という苗字なだけの人の可能性もあるからの。
ただ、どうにもなんの関係もないとは思えない気がしてのぅ……」
近右衛門は眉間を揉み、なんとも言えない釈然としない様子で言葉を濁した。高畑もまた、その不可解な状況に小さく頷き、思考を巡らせる。
近右衛門は立てていたもう1本の指を示し、さらに声を低くした。
「そして、2つ目じゃ。これが、ワシが最も恐れている事実なのだが……。ここにいる7人の仮契約者たち、その全員が――もうこの世に生きてはおらん」
「……全員が、ですか」
高畑は声を荒げることなく、ただ眼鏡の奥の目をわずかに細め、静かにカードを見つめ直した。
近右衛門は、机の上のカードの『縁(ふち)』のあたりを痛ましそうに指でなぞる。
通常のパクティオーカードには、契約者の生命力や魔力の繋がりを示す、特殊な『魔力の枠(ふち)』が存在している。
それが輝いている限り、パートナーが健在である証拠となるのだが――。
「見ての通り、全てのカードから、あるはずの『枠』が完全に消失しておる。つまりこれは、魔法の契約関係が物理的に切断された……契約相手が全員、すでに死んでしまっておるという明確な証明なのじゃよ」
「なるほど……」
「トータくんは、まだ自分の過去を何も思い出しておらん。
もし、カードを返した拍子に記憶が戻り、それと同時に『自分の仲間たちは全員死んでしまった』という凄惨な事実を知った時……あの若さで、その絶望を受け止めきれるかどうかが分からんのじゃ。
それゆえ、ワシの独断で持ったまま、返すべきなのか否かを迷っておってな」
近右衛門は小さく首を振り、苦渋の決断を迫られていることを明かした。
「そこでじゃ、高畑先生。君に頼みがある。学園の生徒や、他の魔法先生たちにそれとなく聞き取りを行い、この7人に関する情報を極秘に収集してほしいのじゃ」
「分かりました。返す返さないの判断を下す前に、まずはトータくんがどこから来て、誰と戦い、どのような経緯であれほどボロボロの状態になっていたのか……その背景にある真実を、まずは知るべきだ、という判断ですね」
「うむ、頼めるかね」
高畑は眼鏡の位置を正し、引き締まった表情で深く頷いた。
「学園長のお悩み、もっともです。さっそく、動いてみましょう」
「あ、それとじゃな。その6人の中にいる『時坂九郎丸』という名じゃが……カードの絵柄や雰囲気からして、どうも『神明流』の剣士である可能性がある。そちらの方面にも、それとなく聞き取りをしてみてくれんか」
「神明流、ですか。分かりました。そちらの線でも調べてみましょう」
高畑は一礼すると、重苦しい空気が満ちる学園長室を後にした。
トータの失われた過去、そして死に絶えたはずの7人の仲間たちの謎を解き明かすため、彼の聞き取り調査が始まろうとしていた。
学園長室を後にした高畑は、さっそく預かった7人の名前が記されたメモを手に、学園内での極秘の聞き取り調査へと乗り出した。
まずは、「雪広みぞれ」という名前に最も繋がりの深そうな人物――中等部2-Aの委員長であり、雪広財閥の令嬢でもある雪広あやかを放課後の校舎裏に呼び出した。
「雪広くん。少し個人的な質問をしたいのだが……君の親族や、あるいは雪広の血縁関係者に『みぞれ』という名の女性に心当たりはないかね? もしかしたら、トータくんの知り合いかもしれなくてね」
あやかは突然の質問に少し目を丸くしたが、すぐに端正な眉をひそめて記憶をたどるように首を横に振った。
「みぞれ……ですか? いえ、私の知る限り、雪広の本家にも分家にもそのような名前の親族はおりませんわ。高畑先生、一体どうされたのです? その方が何か?」
「いや、少しね。……そうか、やはり心当たりはないか」
高畑が納得したように頷き、話を切り上げようとしたその時、あやかは何かを思い出したようにハッとして人差し指を頬に当てた。
「……あ。そういえば、少し気になることが」
「何かな?」
「以前、トータさんにお会いした時のことですわ。
私があの方に『雪広あやか』と名乗った際……トータさん、ほんの一瞬ですが、動きを止められたんです。
まるで、私の『雪広』という苗字に強い聞き覚えがあるかのように、少し驚いたような表情をされて……。
当時はただの気のせいかと思っていましたけれど、もしかしたら、その『みぞれ』という方は、トータさんの知り合いだったのかもしれませんわね」
「なるほど……貴重な情報をありがとう、雪広くん」
あやかとの会話を終えた高畑は、手帳に「トータ、雪広の姓に反応あり」と書き加えた。やはり、まったく無関係の他人というわけではなさそうだ。
続いて高畑は、神明流の剣士である可能性が浮上した「時坂九郎丸」について調べるため、2-Aの桜咲刹那を訪ねた。
「時坂九郎丸……ですか」
刹那は愛刀の柄に手を置いたまま、真剣な面持ちでしばらく沈黙した。だが、やがてすまなそうに頭を下げる。
「不勉強ながら、我が神明流の門下や、本山・分家の名簿にそのような名の剣士は存じ上げません。
隠れ里の者たちまで含めても、私の耳に届いたことのない名です。お役に立てず、申し訳ありません、高畑先生」
「いや、いいんだ。気にするな、桜咲くん」
その後も高畑は、普段からトータと仲の良い四葉五月にもそれとなく話を振ってみたが、
「ん~、トータくんからそんな名前、一度も聞いたことないなぁ。
キリヱちゃんとか九郎丸くん……だっけ?
響きがちょっと変わった名前が多いね。
トータくん、いつも自分の過去のことは『さっぱり思い出せねぇ!』って笑ってるし、本当に何も知らないみたいだよ?」
五月は不思議そうに小首を傾げるばかりだった。他の魔法先生たちにも一通り聞き取りを行ったが、誰一人としてその7人の名前にピンとくる者はいなかった。
「……完全に成果なしか」
夕暮れ時の学園の敷地を歩きながら、高畑は手帳を閉じ、ふぅと小さくため息をついた。
手がかりになるかと思われた雪広の線も神明流の線も、これ以上は完全に手詰まり。トータがどこから来て、何のためにあの7枚のカードを持っていたのか、霧は深まるばかりだった。
手の中のメモを見つめながら、高畑は思考を巡らせる。
(学園外の魔法社会にも登録がないとなると、これ以上の調査は困難を極めるな。
……待てよ。この学園の中に、もう一人、常識外れの知識を持つ者がいたな)
ふと、高畑の脳裏に一人の少女の姿が浮かんだ。
(エヴァンジェリン――)
麻帆良学園の結界に呪いで縛り付けられ、何十年もこの敷地内から出られずに暮らしている、最古参の吸血鬼。
(……いや、さすがに無理があるか。
彼女はずっとこの学校に縛り付けられている身だ。外の世間の情勢や、ましてやトータの過去に関わるような人間たちのことなど、知るはずもないだろう)
普通に考えれば、完全にダメ元だ。情報の仕入れ先としては一番不向きな相手に思えた。
しかし、彼女の持つ数百年の生に、高畑は一縷の望みを賭けてみることにした。
「一応、聞いてみるだけでも損はないか……」
高畑は踵を返すと、夕闇が迫る学園の森の奥――彼女がひっそりと佇む、古びたログハウスのような家へと足を向けるのだった。
夕闇が完全に学園の森を包み込む頃、高畑はエヴァの住む古びたログハウスの前に立っていた。
扉をノックして中に入ると、暖炉の微かな灯りの中に、相変わらず少女の姿をした最古参の吸血鬼が退屈そうに佇んでいた。
「エヴァ、ちょっといいか」
高畑は部屋に入ると、親しげな、しかし引き締まった調子で声をかけた。
「ふん、高畑か。わざわざ何の用だ。」
エヴァンジェリンは興味なさげに鼻で笑い、紅茶のカップに目を落とした。
「……実は、ある魔法関係者の名前について少し調査をしていてね。何人かの名前に心当たりがないか、一応名前を読み上げさせてもらってもいいかい?」
「勝手にしろ。ただし、茶を飲み終えるまでにしろよ」
高畑は手帳を開き、書かれた名前を一つずつ、静かに読み上げ始めた。
「『桜雨キリヱ』、『時坂九郎丸』……」
エヴァは頬杖をついたまま、退屈そうに視線を泳がせている。
やはり何も知らないのだろう。そう確信しながら、高畑は次の名前を口にした。
「――『結城夏凛』」
その瞬間。
ピクッ、とエヴァの肩が微かに跳ね上がった。
カップを持とうとしていた彼女の手の動きが、ほんの一瞬、完全に凝固する。
高畑の鋭い観察眼が、その僅かな変化を見逃さなかった。眼鏡の奥の目を少しだけ細め、高畑は静かに問いかける。
「……エヴァ。今の方に、何か心当たりがあるのか?」
エヴァはすぐに表情をいつもの傲慢なものへと戻し、フンと顔を背けた。
「……いや、何でもない。ただの他人の空似の類だろう。カリンなどという名前はどこにでもあるしな。その『結城』とやらも、私の知っている者とは到底結びつかん」
「そうか……」
やはりこれ以上の情報は得られないか。高畑はそれ以上追及することはせず、手帳をパタンと閉じた。
「夜分に突然邪魔して悪かったな。じゃあ、私はこれで失礼するよ」
高畑が背を向け、扉へと歩き出した。
その時だった。
「……おい、高畑」
背後から、いつもより少しだけ低く、どこか落ち着かない様子の声が上がった。
高畑が足を止め、振り返る。
エヴァは暖炉の炎をじっと見つめたまま、組み換えた足の爪先を少しだけ神経質そうに揺らしていた。
「……いや、一応、な。一応、その顔を見ておこうかと思ってな。……そいつらの『写真』か何か、手元にあるのか?」
「写真、ではないんだが……」
高畑はコートのポケットに手を入れ、預かってきたあの7枚のカードを取り出した。
「これならある。彼らの姿が描かれたとある魔法使いの持つ『パクティオーカード』だ」
高畑がそう言って、カードをテーブルの上へと静かに並べようとした瞬間、エヴァの視線がその中の一枚へと、吸い寄せられるように釘付けになった。
テーブルの上に滑り出すように並べられた7枚のカード。
その中の一枚――『結城夏凛』と書かれたカードの絵柄を見た瞬間、エヴァの動きが完全に止まった。
だが、次の瞬間、静まり返ったログハウスの室内に、彼女のけたたましい声が響き渡った。
「ハハハ……ッ、ハハハハハハハハ!!」
突然、お腹を抱えて大笑いし始めたエヴァに、高畑は怪訝そうに眉をひそめた。
「……エヴァ? どうしたんだ」
「いや、あまりの可笑しさと驚きにね! まさかこんなところで、カリンの顔をみることになるとは!高畑、この娘、私の知り合いだ」
エヴァは細い指先で『結城夏凛』のカードをピシッと叩いた。
「イシュト・カリン・オーテ。
……昔、私がまだ外にいた頃、私のことをそれはもう熱狂的に崇拝して、健気に慕ってくれていたいい子でね。もう一人のおっさんと三人で一緒に魔法世界へ行って、さんざん暴れ回った仲さ」
「魔法世界で、お前と暴れ回った……?」
「そうさ。だがな、真祖の吸血鬼バアルの野郎に襲われた時……カリンは体に不気味な木の種を埋め込まれて封印され、私もそのまま連れ去られてしまってね。
そこで離れ離れになってそれっきりだったのさ。
てっきり、今でもどこかの山奥で哀れに木の肥やしにでもなっていると思っていたんだが」
エヴァはそこで言葉を区切ると、愛おしそうに、そしてどこか誇らしげに夏凛のカードを見つめた。
その唇の端が、自然と優しく綻んでいく。
「そうか……。あんなに死にたがりで、自分の生を呪って頑なだったカリンが。また誰かと『仮契約』を結んで、生きてみようと思えるような……そんなパートナーに出会えたわけだ」
ぽつりと、エヴァの口から漏れた言葉。
その瞬間、笑顔を浮かべた彼女の大きな瞳から、大粒の涙がつーっと頬を伝って流れ落ちた。
「エヴァ、君……泣いているのか?」
高畑が驚きに目を見開くと、エヴァはハッとして自分の頬に触れた。指先に着いた涙を見て、彼女の顔が一瞬で真っ赤に変色する。
「な、何を見ている高畑!! ぶち殺すぞ!!」
エヴァは乱暴に袖で涙を拭い去ると、鋭い八重歯を剥き出しにして高畑を怒鳴りつけた。
「今のはただの気のせいだ! 目にゴミが入っただけだ!
いいか、見なかったことにしろ! 誰かに一言でも漏らしたら、お前のその生真面目な顔面をスクラップにしてやるからな!」
「分かっている。他言はしないさ」
高畑は苦笑しながら両手を挙げ、エヴァの剣幕をいなした。
だが、すぐにその表情から笑みを消し、静かに、一歩踏み込んだ現実を告げる。
「……だが、エヴァ。非常に言いにくいんだが、そのカードの『魔力の枠』は完全に消失しているんだ。魔法の契約が物理的に切断されている……つまり、彼女も含めたこの7人は、全員すでにこの世にはいない可能性が高い」
「……」
一瞬の静寂。
しかし、エヴァはショックを受けるどころか、フンと鼻で笑い、今度は天井を仰いで盛大に高笑いした。
「アハハハハハ! バカを言うな高畑! あのカリンが死ぬだと!? どうやったらあいつを殺せるのか、逆に私が教えてほしいくらいだ!」
エヴァは不敵な笑みを浮かべ、確信に満ちた目で高畑を睨み返した。
「いいか、あいつの不死性はそこらの化物とはワケが違う。
神様のバカ野郎が直々に世界を滅ぼすレベルの手を崩したって、あいつだけは無傷で生き残るさ。
カードの枠が消えているだと? フン、おおかた魔力が絶対に外に漏れないような特殊な空間に封印されているか、現代では把握できない場所にでも飛ばされているんだろうよ」
エヴァはそう断言すると、カードを愛おしそうにひと撫でし、高畑の手元へと押し戻した。
「あいつはあの後別の人生を歩み始めたのか……ふん、思わぬところで最高のニュースが聞けた。あの娘が、私以外の『主(あるじ)』を見つけて元気にやっていたと分かっただけで、今日の茶は最高に美味い」
すっかり上機嫌になったエヴァは、椅子から飛び降りると、部屋の奥にある魔法の実験机へと歩き出した。
「おい、いつまでそこに突っ立っているんだ高畑。用が済んだならさっさと帰れ。私はこの登校地獄の呪いを解くための研究で忙しいんだ。お前のような男に構っている暇はない!」
「ああ、お邪魔したな。ありがとう、エヴァ」
高畑は並んだカードを回収してポケットにしまうと、そっとログハウスの扉を閉めた。
夜の静寂が満ちる学園の森。
高畑は一人、夜空を見上げながら歩いていた。
(イシュト・カリン・オーテ。あのエヴァがそこまで断言するほどの『不死の存在』か……。だとすれば、カードの枠が消えているからといって、本当に死んだとは限らないな)
手がかりは、予想もしない形で繋がった。
トータが持っていた7枚のカード。
それは単なる過去の遺物などではない。
エヴァの親友であり、世界を揺るがすほどの規格外の『不死者』が、トータという一人の少年の周りに集っていたという紛れもない証拠だ。
(トータくん……。君は一体、どんな過酷な運命の中で、彼らと絆を結んだんだ?)
ポケットの中のカードの重みを感じながら、高畑は学園長室へと戻る足を速める。
まだ見ぬ真実の断片を胸に、記憶を持たない少年の壮大なバックボーンに、高畑は確かな希望と、隠された世界の大きさを感じるのだった。