近衛刀太inネギま   作:けるるんくっく

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大推理…のち大勘違い

巨大な鬼の式神が光の粒子となって消滅した残響の中、公園には痛烈な静寂が広がっていた。

 

『ば、バカな……ッ! 我らの召喚した巨鬼が一瞬で消されただと……!?』

 

『あいつは一体何者なんだ……!? ひ、ひぃッ、逃げるぞッ!』

 

奥の手を呆気なく無力化された術士たちは顔を蒼白にし、蜘蛛の子を散らすように背後の木々の中へ逃げ出そうとした。

 

だが――。

 

「残念だが、そこまでだね」

 

低く落ち着いた声が、逃げ道を防ぐように静かに響いた。

 

『な……ッ!?』

 

術士たちが足を止めた瞬間、木々の陰からぬっと現れた数人の黒衣の男たちが、目にも留まらぬ速さで術士たちの腕を取り、地面へ叩きつけて取り押さえた。

 

その中心から、羽織袴を身に纏い、眼鏡をかける整った顔立ちの男性が、ゆっくりと歩み出てくる。

 

「遅くなってすまないね、木乃香」

「お父様……!」

 

木乃香の顔がパッと華やぎ、駆け寄っていった。彼女の父親にして、関西呪術協会の頭領――近衛詠春であった。

 

詠春は愛娘の頭を優しく撫でると、取り押さえられた術士たちを一瞥し、刀太たちの方へと向き直った。

 

「怪我はないかい、みんな。

……改めまして、初めまして。

近衛木乃香の父で、近衛詠春と申します。

今回はうちの協会の者が大変なご迷惑と危険をおかけしてしまい、本当に申し訳なかった」

 

詠春は深々と頭を下げた。

 

「お父様……この人ら、一体何者なん?」

 

木乃香が不思議そうに尋ねると、詠春は苦々しい表情で口を開いた。

 

「……関西呪術協会の中の、いわゆる『過激派』と呼ばれる連中だよ。

彼らは関東魔法協会との和平協定を良しとせず、自分たちの力を誇示するために、潜在能力の高い木乃香を誘拐し、その力を利用しようと企んでいたようだ」

 

そこへ、息を切らせた近衛近右衛門が奥の小道から走って追いついてきた。

 

「ハァ……ハァ……! むむ、婿殿! 捕まえてくれたか!」

「お義父様。ご無事でしたか」

「うむ。

ワシの方に飛んできた式神は、ワシを木乃香たちから遠ざけるための誘導の罠であったわ。

まんまとハメられたわい……。

しかしみんな、無事で本当に良かった」

 

「いいっていいって!

みんなが無事だったなら、それで万々歳だぜ!」

 

刀太はそう言って地面にドサッとあぐらをかいて座り込み、肩で息を整えながら不敵に笑った。

 

「俺は刀太って言うんだ! よろしくな、木乃香のお父さん!」

 

いつもの癖で近衛の苗字は口にせず、あっけらかんと名乗る刀太。

 

その隣で、あやかも乱れた息を整えながら、すっと背筋を伸ばした。

流石に疲労からか手元の扇子を開く余裕はなさそうだったが、それでもお嬢様らしい気品を崩さずに頭を下げる。

 

「ご紹介が遅れましたわ、近衛様。

私は2-A学級委員長の雪広あやかと申します。

……そして、あちらが四葉五月さん、鳴滝風香さん、鳴滝文香さん、長瀬楓さん、そして早乙女ハルナさんですわ」

 

あやかに紹介された面々は、それぞれペコリとお辞儀をした。

すると、後ろで話を聞いていた風香が、我慢できなくなったように目を輝かせて刀太とあやかの元へ突撃してきた。

 

「ねぇねぇ! さっきのって映画とかCGとかじゃないんだよね!?

あれ、みんなどうやったの!? あんなおっきい怪物をドカーンって吹っ飛ばしたりさ!

ねぇねぇ、凄すぎだよーっ!」

 

無邪気に「ねぇねぇ!」と食いつく風香に、はるなが「ちょっと風香、落ち着きなさいってば!」と焦って引っ張るが、風香の興味津々な目は止まらない。

 

そのやり取りを見て、詠春は柔らかく目を細めた。

 

「ふふ、ここで立ち話をするのも何ですし、一度安全で落ち着ける場所に移動しましょうか。送迎用の車を用意させてありますから」

 

詠春の用意した大きな黒塗りの高級車に全員で乗り込み、一行は近衛家のお屋敷へと向かった。

 

車内は、先ほどの戦闘の緊張感から解放された2-Aの女子たちの賑やかなおしゃべりで包まれていた。だが、助手席に座る詠春の頭の中は、先ほどの戦闘の最後の光景で占められていた。

 

(あの少年……刀太君と言ったか)

 

詠春はバックミラー越しに、後部座席で風香たちに揉まれている刀太を密かに観察する。

 

(最後、彼が見せたあの力……巨鬼の構成魔力を一瞬で解体し、無に還したあの技。

……見間違えるはずもない。あれは昔、ナギと共に魔法世界で戦っていた頃に何度も目にした力……)

 

記憶の底から、あの金髪の少女の姿が蘇る。

 

(まさしく、アスナちゃんの使う『魔法無効化能力』そのものだ。

だが……魔法無効化の能力を持つのは、世界広しといえど『黄昏の姫巫女』の血を引くアスナちゃんただ一人のはず。

あの少年は……一体全体、何者なんだ……?)

 

詠春の胸中で、深い謎と考察が静かに渦巻いていた。

車は舗装された街並みを抜け、深い木々に囲まれた山道へと入っていった。

 

やがて車が止まり、ドアが開くと、目の前には朱色の美しい鳥居が連なる長い石段と、その先に広がる広大な土地が広がっていた。

石段を登りきった先に聳え立つのは、歴史の重みが漂う純和風の巨大な邸宅――近衛家の本邸であった。

 

「うっわあああぁぁぁ……ッ!!」

「すごーーーい! お城みたい!!」

 

車を降りた刀太と双子たちが、口をぽかんと開けて屋敷を見上げる。

はるなや五月も、その圧倒的なスケールに「これが木乃香の実家……」と呆然としていた。

 

立派な門をくぐると、ずらりと並んだ着物姿の給仕さんたちが深々と頭を下げた。

 

「おかえりなさいませ、お坊ちゃま、木乃香様」

「ただいま〜! みんな、長旅とお散歩でお腹空いたやろ? お食事の準備、出来とるみたいやで!」

 

木乃香が弾けるような笑顔で振り返ると、双子が「わーい! ごはんだごはんだーっ!」と大喜びで跳び上がった。

広々とした大広間に案内されると、そこには京都ならではの豪華で洗練された料理が所狭しと並べられていた。

 

「うおーーー!うまそうなメシがいっぱいだーっ!」

「刀太さん、たくさん食べて体力を回復してくださいね」

「五月ちゃんも食べてな! ほら、このお豆腐すっごく美味しいで!」

 

和気藹々とした空気の中、みんなで囲む賑やかな食事シーンが繰り広げられた。

戦いの疲れも吹き飛ぶような美味しい料理に、全員の顔に自然と笑顔が戻っていく。

やがて食事が終わり、お茶が振る舞われると、大広間にはホッと一息つく静かな時間が訪れた。

 

そこで、詠春がゆっくりと盃を置き、表情を少し引き締めて刀太の方へと視線を向けた。

 

「さて――」

 

詠春の静かな声に、賑やかだった座がすっと静まり返る。

 

「刀太君。君がここを訪れた本当の理由……君自身の正体について話をする前に、まずは君に尋ねたいことがあるんだ」

 

詠春の真摯な眼差しを受け、刀太は「ん?」と首をかしげた。

 

「俺に、尋ねたいこと……?」

「ああ」

 

詠春は静かに頷くと、刀太の隣や後ろに座っている少女たち――鳴滝風香、鳴滝文香、そして早乙女はるなの三人に優しく視線を向けた。

 

「魔法とは一切関係のない一般人である、鳴滝風香さん、鳴滝文香さん、早乙女ハルナさんの三名についてだ。

……彼女たちは今日、人払いの結界の中で、実際に非現実的な体験に直接触れてしまった。

本来、我々の世界において、一般人がこういった『裏の世界』の存在を知ることは固く禁じられているんだ」

 

「えっ……!?」

 

はるなが息をのんだ。

 

「彼女たちが以前と変わらぬ穏やかな日常に戻れるよう、私の術で今日の戦闘や魔法に関する記憶だけを消去することもできるが……刀太君、君はどうするべきだと思うかい?」

 

記憶を消す――その一言に、三人から一斉に動揺の声が上がった。

 

「え、き、記憶消去……!? 嘘でしょ!」

「今日のあやかちゃんの合気道とか、刀太の綺麗な魔法とか見て、やっとみんなのこと知ることができたのに!絶対嫌だよーー!」

 

風香がブンブンと激しく頭を振り、立ち上がらんばかりの勢いで叫んだ。

 

「わ、私も……楓姉ぇたちのこと、みんなの事を知ることができたのに、忘れたくないです……」

 

文香も不安そうに眉をひそめ、隣に座る楓の羽織の裾を小さな手でぎゅっと握りしめた。

 

三人の必死の訴えを聞きながら、刀太は腕を組み、うーんと深く唸った。

そして顔を上げると、まっすぐに詠春の目を見つめて言った。

 

「なあ、おっちゃん。

俺、古菲って子から『気』のことを教わった時にもちょっと思ってたんだけどさ……」

 

刀太が不思議そうな顔で質問する?

 

 

 

 

「『魔法』とか『気』を知るのって、そんなにマズいことなのか?」

 

 

 

 

「……ほう?」

 

「記憶を消してまで隠さなきゃいけないようなことなのか……なんだかすごく違和感があるんだよな。

なんかそんなに隠すようなことでもない気がしてて…」

 

素朴で、けれど一切の迷いがない刀太の言葉。

それを聞いていた詠春の瞳の奥で、鋭い光が走った。

 

(……ほう。これは興味深いな)

 

詠春は表面上は穏やかな笑みを絶やさないまま、心の中で冷静な観察と深い考察を巡らせていた。

 

(人間は、仮に記憶を失っていたとしても、『人を殺してはいけない』とか『盗みをしてはいけない』といった、幼少期から培われた社会常識や根底の価値観は無意識に残るものだ。

……ならば、今の刀太君の発言はどうだ?)

 

詠春は顎に手を当て、刀太の表情を観察する。

 

(彼は今、心底『魔法を知ることがなぜ悪いのか』と疑問に思っている。

……つまり、彼の中で『周りの人間が全員魔法を知っている環境』こそが当たり前であり、それが彼の根底にある“常識”なのだ。

科学中心のこの一般社会で生まれ育った人間なら、決して出てこない発想……)

 

(彼はおそらく――魔法が日常として存在する世界、すなわち『魔法世界』で生まれ育ち、そこで日常を過ごしていた人間なのではないか……?)

 

一瞬でそこまでの推測を組み立てた詠春は、元英雄のキレ者らしい思考を静かに胸の奥に仕舞い込むと、刀太に向かって優しく微笑みかけた。

 

「……もちろんだとも、刀太君。

君が違和感を覚えるのも無理はない。

だがね、これにはちゃんとした理由があるんだ」

 

詠春は真剣な眼差しで、全員を見渡しながら語り始めた。

 

「現在、私たちが暮らしているこの一般社会は、科学技術を中心に発展し、成り立っている。

もしもここで『魔法』という非科学的な概念が公になれば、世界的なパニックが起き、社会の秩序は一瞬で崩壊してしまうだろう。

そればかりか、強力な魔法技術を巡って国や組織同士での奪い合い……最悪の場合、世界規模の戦争さえ引き起こしかねない。

魔法を秘匿するというのは、こうした科学世界と魔法世界との摩擦を防ぎ、人々の平和を守るための絶対のルールなんだ」

 

刀太は「うぐっ……戦争……」と眉をひそめた。

 

「それにね、魔法とは『無限の可能性を秘めた力』だ」

 

詠春は言葉を重ねる。

 

「良き者が使えば人を救い、世界をより良くする力となる。

だが、悪しき者が使えば、世界はあっという間に崩壊してしまう。

世界規模とまで言わなくとも、もし悪意を持った人間が犯罪に魔法を使えば、警察や科学の力では防ぎきれず、多くの人々が悲しむことになるんだよ」

 

「なるほどな……」

 

詠春の丁寧で重みのある説明を聞き、刀太は顎に手を当てて納得したように小さく頷いた。

 

「戦争とか犯罪とか言われると、確かにちょっと怖ぇけどさ。

……でも、大丈夫だぜ!」

 

刀太はそう言うと、パッと顔を上げてニコッと笑い、チラリとはるなや風香、文香たちの方を振り返った。

 

「まだ短い付き合いだけどさ、この三人なら、もし魔法なんてスゲェもんを知ったとしても、悪いことに使うような奴らじゃないってのは、俺が一番よく分かってるからな!」

 

一切の疑いも迷いもない、まっすぐで純粋な信頼の言葉。

詠春は何も言わず、ただ静かに刀太の目を見つめた。

刀太もまた、力強い瞳でまっすぐに詠春の視線を受け止める。

 

二人の間で、しばしの沈静が流れた。

 

やがて――ふっと、詠春の目元が和らぎ、優しく温かい笑みがその唇にこぼれた。

 

「……ふふ、いい目だね。

よし、分かった。君のその言葉を信じよう。三人の記憶を消すのは取りやめにしよう」

 

その瞬間、息を詰めて固まっていた三人が一斉に歓声を上げた。

 

「やったーーーッ! ありがとう、木乃香のお父さん! 刀太もありがとーっ!」

 

風香がパーッと顔を輝かせて跳び上がり、文香もほっと胸を撫で下ろして楓へ可愛らしく微笑んだ。

 

はるなも「た、助かったぁ……刀太の秘密忘れなくて済んだー!」

 

と、緊張の糸が切れたように脱力して畳に手をついた。

 

「よかったですね、みなさん」

 

五月が温かい笑みを浮かべ、あやかも頷いている。

そんな中、木乃香が少し不思議そうに首をかしげ、自分の胸にそっと手を当てた。

 

「あ、あのな、お父様……。うちはどうなん? うちの記憶も、消さなくてええの……?」

 

その問いに、詠春は少し切ないような、愛おしそうな眼差しを娘へと向けた。

 

「ああ、木乃香。君の記憶も消すつもりはないよ。

……正直に言えば、協会内部にあそこまで強硬な手段に出てくる過激派がいるとは、私の不覚だった。

君の身体に秘められた潜在能力は極めて高い。

今回のような事件があった以上、今後も裏の勢力から狙われる可能性は十分に考えられるからね」

 

詠春は静かに首を横に振った。

 

「自分の身に何が起きているのかを知り、護るためにも、君自身がこの世界の真実を知っておいた方がいいと判断したんだ。

……ふふ、私としては、ずっと普通の可愛い女の子として生きていって欲しかったんだけどね」

 

そう言って寂しげに微笑む父親の深い愛情を感じ取り、木乃香は「お父様……」と胸を熱くして見つめ返した。

 

一連の緊張が解け、大広間には優しく穏やかな安らぎの空気が満ちていった。

 

そうして話がひと段落着いた、まさにその時であった――。

 

 

 

 

 

「――婿殿」

 

静寂を破るように、重厚な声が響いた。

お茶を口に含んでいた近衛近右衛門が、静かに湯呑みを置く。

 

「お義父様?」

 

「今回、ワシが刀太くんをここに連れてきたのは他でもない。

刀太くんの生い立ちや素性について、婿殿であれば何か知っているのではないかと思ってのことなのじゃ」

 

学園長は腕を組み、真剣な面持ちで語り始めた。

刀太が重度の記憶喪失であること。

そして以前、麻帆良学園の象徴である大樹――『世界樹』の根本で、ボロボロに傷ついた状態で倒れていたところを保護されたこと。

 

詠春は静かに耳を傾け、ふむと顎に手を当てて考え込んだ。

 

「なるほど……世界樹の下で、ですか。

ですがお義父様、大変申し訳ないのですが、私は彼と会うのは今日が初めてだと思いますよ。

私と彼に、何か直接的な共通点でも?」

 

「実はの……少し前に判明したのじゃが、刀太くんの苗字はな――『近衛』というのじゃよ」

 

「え……!?」

 

詠春の目が大きく見開かれた。

常に冷静沈着な関西呪術協会の頭領が、素で絶句する。

 

「近衛……ですか? ですが……」

 

詠春は記憶の引き出しを片端からひっくり返すように思考を巡らせたが、やがて困惑したように首を横に振った。

 

「……やはり、見覚えも聞き覚えもありませんね。

私の覚えている範囲では、近衛家の親族の中に該当する少年は思い当たりません」

 

「そうか……。婿殿なら何かわかるかと思ったのじゃがのう」

 

学園長はガッカリしたように肩を落とし、白く長い髭をさすった。

だが、詠春の鋭い眼光は消えていなかった。

むしろ、思考のギアが一段上がったように、静かな熱を帯びている。

 

「ですがお義父様。個人的に、非常に気になる点がいくつかあります」

 

詠春は刀太の方へと向き直り、一つひとつ言葉を紡いだ。

 

「まず第一に、彼が先ほど見せたあの『力』です。

相手の構成魔力を完全に無効化し、消滅させる力……。

あれは現在、魔法世界において『黄昏の姫巫女』と呼ばれる、特別な血を引くお方――アスナ様にしか使えないはずの固有能力なのです」

 

「えっ? アスナ……?」

「姫巫女……?」

 

その名を聞いた瞬間、風香と木乃香が思わず顔を見合わせ、プッと噴き出した。

 

「あはは! アスナが姫巫女だってー!想像したら…ぷぷぷ」

「ほんまやね、ふーちゃん! あのガサツな明日菜ちゃんがお姫様なんて、冗談みたいやわ〜!」

 

まさか、クラスメイトの明日菜のことだとこれっぽっちも思っていない2人はクスクスと楽しそうに笑い合う。

 

しかし、詠春は至極真面目な顔のまま、静かに二人を見つめた。

 

「冗談ではないんだよ、木乃香、風香さん。

……君たちのクラスメイトである神楽坂明日菜ちゃんこそが、その『姫巫女アスナ』ご本人なんだ。

彼女は今、魔法世界の記憶を封印し、一般社会で健やかに暮らすために神楽坂明日菜として麻帆良学園に通っているんだよ」

 

 

「「「「「「えええぇぇぇーーーーーッ!!???」」」」」」

 

 

大広間に、雷が落ちたかのような絶叫が轟いた。

 

あやかは手にしていた扇子をうっかり畳の上にポロリと落とし、はるなは顎が外れんばかりに口をぽかんと開けて固まっている。

あの、いつも蹴りを飛ばして大暴れしているガサツな明日菜が、高貴なお姫様――。

あまりの落差と衝撃に、全員が信じられないといった様子で呆然と顔を見合わせている。

 

「あ、あの明日菜さんが……お姫様……!?」

 

あやかが引きつった笑みで呟くと、ようやく正気に戻った風香が木乃香の肩をゆさゆさと揺さぶった。

 

「ねー! だって明日菜だよ!? パルよりもガサツだもんねー!」

「ちょっと風香! 私の事は関係ねーだろーッ!」

 

真っ赤になったはるなが即座に大声でツッコミを入れ、大広間に一瞬にしてガヤガヤとした賑やかさが戻った。

 

詠春はそんな彼女たちのやり取りに苦笑しつつも、コホンと軽く咳払いをして言葉を続けた。

 

「ふふ、まあ信じられないのも無理はないね。

……さて、もう一つの気になる点。

それは刀太君が『魔法を秘密にする』というルールに強い違和感を持っていたことだ」

 

詠春の目が、探偵のように静かな知性を宿して光る。

 

「科学中心の一般社会で暮らしていれば、魔法など知らなくて当たり前。

だが、彼は『魔法を知っていて当然』という前提の常識を持っていた。

……つまり彼は、魔法が当たり前に存在する環境……『魔法世界』の出身である可能性が極めて高いと考えられるんだ」

 

「魔法世界……の出身……?」

 

刀太は首をひねり、己の手を見つめた。

その間に、近衛近右衛門がすっと詠春の耳元に口を寄せ、小さな声で耳打ちをした。

 

(……婿殿。実はもう一つ、言い忘れておった。

刀太くんは以前、世界樹の下で倒れていた時に謎の『パクティオーカード』を持っておってな。

そこには『雪広みぞれ』という少女の名前で仮契約が結ばれておったのじゃ)

 

(……雪広、みぞれ……?)

 

(うむ。気になって雪広財閥の過去や現在の親族を隅々まで調べさせたのだがな……『みぞれ』という少女は、過去にも現在にも一人として存在しなかったのじゃ)

 

(何ですと……!? 過去や現在の親族を探しても見当たらない……!?)

 

その瞬間。

詠春の頭の中で、バラバラだったすべてのパズルのピースが強烈な磁力で引き寄せられ、ガチリと噛み合った。

 

――過去や現在に存在しない人物と、すでに仮契約を結んでいる。

――ということは、その『雪広みぞれ』という少女はこれから生まれてくる未来の人物……!

――そして、それを所有する刀太君は、謎の多い麻帆良学園の『世界樹』の下で倒れていた……!

 

(……そうか! 彼は過去や現在の人間ではない……!

世界樹が何かを起こしてやってきた『未来人』……そういうことか……ッ!!)

 

元・千の誓約者としての明晰すぎる頭脳が、まずは「彼が未来から来た」という核心へと辿り着いた。

そして、思考はさらにその先へと加速する。

 

――未来からやってきた少年。

――苗字は『近衛』。

――使った能力は、アスナ固有の『魔法無効化能力』。

 

(未来の近衛家の人間で……アスナちゃんの『魔法無効化』を継承している……!?

バカな、そんなことがあり得るのか……!? だが、それならばすべての辻褄が合う……!)

 

詠春はハッと目を見開くと、座布団から膝を乗り出し、刀太の肩をガシッと力強く掴んだ。

 

「うおッ!? な、なんだよお父さん!?」

 

突然の行動に刀太が驚いて目を白黒させる中、詠春は確信に満ちた、極めて真剣な表情で刀太の目をまっすぐに見つめる、

 

「刀太君……! 君の正体が分かったかもしれない!!」

 

詠春は緊張の面持ちで見つめる刀太に対し、こう告げた。

 

 

 

 

「君はおそらく―木乃香と明日菜ちゃんの二人から生まれた、未来の子供なんじゃないだろうか……!?」

 

 

 

 

 

「「「「「「……はいっ!?????」」」」」」

 

大広間に、この日一番の、そして完璧にハモった絶叫が響き渡った。




詠春探偵の大勘違い!!
ちょっと惜しいんですけどね!

そしてこの×アスのカップリングは新しい!
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