そしてついにその日は来た。
しかも最高なタイミングで。
朝、いつも通り教室に行くと七海1人だけが席に着いていた。
「あれ、灰原くんは?」
いつも2人揃って寮から登校しているというのに。
「灰原は昨日五条先輩たちに絡まれて夜遅くまで遊んでいたせいでギリギリまで起きてこなかったんです。」
なのでおいてきました、とそう淡白に言い放つ七海に苦笑いになりながら私も席に着く。
「「・・・」」
普段はよく喋る灰原がいないため、しばらく沈黙が続く。
「……明代さん。」「はい?」
七海の方を向くと真剣な眼差しと目が合った
「今日、あの、少しあの……」
「?」
「……時間をもらえませんか。」
「うん。いいよ。」
七海が珍しく歯切れ悪く言う。さっきまで合っていた目はいろんな方向にキョロキョロとしている。手も開いたり閉じたりも繰り返している。
(あぁ、これ。キタな。)
これは、たぶん告白だ。
推しが私を好きになっている。
自惚れとかじゃなくて分かる。
いつもこちらを向く視線の色も、距離感も、気遣いも、全部。
異性に対する好意が滲み出ている。
でも___
(ごめんね。その想いだけは受け取りたいけど、受け取れない。)
だって私は……貴方の一生の傷になりたいから。
その日の午後。三人で任務が入っていた。
「対象は二級呪霊。問題なく祓えると思います。」そう補助監督は言って資料を渡してきた。受け取り、資料を見て目を見開く。
(これだ。)
これが例の産土神の呪霊討伐だと確信した。
静かに息を吐く。柄にもなく緊張している自分がいる。
ようやく、ようやくだ。
やっとこの時が来た。
曇らせ第一幕、開演である。
七海side
私には二人同期がいる
一人は底なしに明るく元気な男子と、もう一人は底なしに善人な優しい女子がいる。
男子は灰原雄。初対面からいきなり距離を詰められ始めは狼狽したが、今は明るく元気な犬のように無邪気で愛想のあるいいやつだと分かる。その明るさに何度救われたかわからない。
女子は明代凛音。初対面の時から分かる優しく温かく物腰柔らかな雰囲気の持ち主。
いつも笑みを絶やさず、左手首に数珠のブレスレットをつけている彼女。
初対面で驚いたのが右目につけられた眼帯だった。聞けば幼い頃、両親が巨大な呪霊に襲われたときに、まだ術式もよく理解してなかった頃で無意識に術式を使ってしまい。片目を犠牲に呪霊を祓ったとのこと。
一般家庭出身の彼女はその時から術式を理解し使えるようになったと話していたが、同時に両親は離れていったという。
幼い頃から見えないものが見えると言われ、しかも原因不明で急に片目をなくした娘を気味悪がり、暴力こそ振るわれなかったもののネグレクトの時期があったらしい。
両親からは受け入れられなかったものの母方の祖母が同じく見える人でそこに預けられてから今まで不自由な生活はしていないと言う。
彼女はとにかく優しく相手を思いやれる心の持ち主で、呪霊によって被害にあい心に傷をおった者に寄り添い、亡くなった遺族にも罵倒を浴びせられようが構わず必ず謝罪に出向いていた。
一度言ったことがある。こんなことをして何になると、こんなの続けていればいずれ壊れるのは貴方じゃないかと。
彼女はそれでも、と言うのだ。
「私がやりたいと思ったからやっているんだよ。だって辛いよね。大切な人がもう二度と帰ってこないって気持ち。よく分かるからさ。」
彼女はそうどこか遠くを見つめて泣きそうな顔で言っていた。
彼女はどんな人も平等に接していた。教師にも私たちにも補助監督にもあのクズの先輩たちにも。
彼女を見ていると思うのだ。
こんな善人がこの呪い蔓延る、暗い世界でもまだ生きているのだと。
狂っていないとやっていけないと言われる呪術界で私は2人の光を見た。
この光は決して消してはいけないと。
私が守らればいけないのだと。
……だから、だから。
__こんな現状を認めたくないのだ。