七海side
あの日の前の夜は酷く騒がしかった。
五条先輩たちと灰原が部屋に深夜に訪ねてきた。桃鉄99年をやろうなんて言って。
「貴方たちは今何時だと思ってあるんですか。そんなのやっていたら次の夜までかかりますよ。」
「まぁまぁ、そう言わずに一回七海もやってみないかい?」
「やろうよ!七海!4人でやると絶対楽しいって!」夏油先輩に続いて灰原が深夜に関わらず相変わらずのハイテンションでそう言う。
「楽しい楽しくない以前の問題です。」
「ごちゃごちゃ言わずに先輩の言うことは聞けよ、七海。」
五条先輩が廊下でポテチを食べながら顔を覗かせ言う。
「尊敬できる先輩の言うことは聞きますがそんな先輩はいないので」
「灰原は私たちのこと尊敬してるもんね?」
「夏油先輩は尊敬してますよ!」
「だってさ悟。」
「あ"ぁん?喧嘩売ってんのかよ七海。」
ナチュラルに煽る同期とすぐ煽ろうとする先輩とすぐ喧嘩腰になる先輩。こんなのが先輩だと認めたくはない。
「喧嘩は売っていません。事実を言ったまでです。早く帰ってください。」
「へー、いーんだもんね。お前が来ないなら明代誘うからさ。」
「は?」
「やった!明代まだ起きてるかな?」
とんでもないことを言い出した五条先輩に無邪気に灰原が携帯で連絡しようと取り出す。
「……いや、いやいや。灰原。常識的に考えてください。こんな時間に、しかも女性を男子寮に誘うなんて明らかにおかしいですって。」
「でも明代こないだ。いつでも連絡してねって。こないだもゲームしに男子寮に来てたし。」
「いやいやいや。待ってください灰原。それはいつのことですか。あの人も警戒心というものがないんですか?」
「完全にセコムと化してるじゃんウケる」
「なら、ついでに硝子も誘おうか。」
なんて言い出している先輩たちと灰原をなんとか説得して追い返して眠った夜のこと。
次の日の朝やはりというか灰原は起きていなかったので置いてきた。
しばらくぼうっとしていると教室の扉が開いていつもの時間通りに彼女はやってきた。
「おはよう七海くん。……あれ、灰原くんは?一緒じゃないの?」
そんな彼女にはもちろん一部を除く事実を伝える。そっか、と素直に人を疑いもせず受け入れる彼女に心配になりながらも、席に着いた彼女をそっと横目で見やる。
その横顔を見て改めて綺麗な人だと思った。
瞳やその横顔はもちろん綺麗だが、外見だけのじゃなくてその内側、心の話だ。
ふと、不安になった。
この間将来の話をしたが、彼女は2人が生きていればそれでいいと言っていた。
私はその時思ったことがあったのに言えなかった。
確かに私たち同期を大切にしてくれるのはわかるが、なぜそこに自分も含まれないのだろうと。
彼女はその術式からわかるように自己犠牲の節がある。
普通、人は自分の命を第一優先にする。
なのに彼女は自分はその次に他人を守ろうとする。
あの時も自分がいなくても2人が無事ならそれでいいと言うように聞こえた。
言えなかったのはまた彼女が今にも泣き出しそうな顔をしていたから。
昔何があったのかなんて検索はしないが前言っていた通り大切な人がいなくなってしまった経験があってそれが元で彼女は自分は二の次で大切な人のことを第一に考えているのではないかと思う。
胸が最近もやもやするのだ、彼女を見ていると。
彼女を、灰原を守りたいと強く願った。
でもそれ以上に彼女を知りたい、もっと貴方のことを理解したいと思う。
この気持ちが何なのかもう少しで知れるような気がして。
だから、私は彼女と放課後に少し話をしようと思った。もうすぐ灰原が来るのと、この気持ちをもう少し時間をおいて整理して話そうと思ったから。
それが後に最悪の後悔となることを知らずに。