推しの心の傷になりたい!!   作:じんさんぽ

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ついに推しを曇らせるぞ!

 

 

任務を受けて来た森は異様なほど静まっていた。

「……変ですね。」

七海が呟く。

「鳥もいないね。」

明代が言う。

動物の気配すらない。皆が警戒する。

異様な空気感の中・・・

その瞬間。地面が、空気が揺れた。

メギメギッっと木々が裂ける音。

巨大な影が見える。

「なっ……!」

「嘘だろ……!」

・・・二級などではないその圧倒的な存在感、呪力。

産土神。その名に相応しい化け物だった。

 

戦闘は一方的に産土神の蹂躙だった。

攻撃の隙がなく、ただただ相手の攻撃を避ける、いなすことで精一杯だった。

だからだろう。限界もすぐそこだった。

「ぐあぁっ!!」

1番最前列にいた灰原が吹き飛び、血が舞う。

「灰原ぁ!」

「……っ!」

近くにいた七海がなんとか灰原を受け止める。抱き起こすも片腕はありえない方向に曲がり、腹も裂けて血が出ている。

明らかに重症だった。

「逃げて!!」

明代がそう叫ぶ。

灰原を抱きながら何とか避ける七海。

産土神が灰原たちの状態に構わず攻撃してくる。このままでは三人とも死んでしまう。

ここは逃げるしかない。

必死に走るもこのままではいずれ追い付かれてしまう。

なら一人残るしかない。

明代は足を止めた。

 

産土神が大地を砕く。

木々が吹き飛び、地面が捲れ上がる。

こちらに向かってくる産土神。

七海は灰原を抱えながら振り返った。

「明代さん!」

そこには先ほどのところから一歩も動かず逃げずにいた明代の姿があった。

明代はゆっくりと七海のほうへ振り返る。

その顔に恐怖はなかった。

ただ穏やかな笑みだけがあった。

「七海くん。先に行って」

明代は決意を込めた瞳で言う。

「私がアイツをここで止める。」

「な、何を言って……!」

「三人じゃ逃げきれない。」

「違う!」

七海が叫ぶ。

「一緒に!」

「無理だよ。」

「できます!」

明代は首を振る。

「できない。だって」

灰原は重症。

七海は灰原を運びながら戦えない。

明代は軽症。

答えは一つ

「行って。」

「嫌です……」

「七海くん。」

「嫌です!」

初めてだった彼がこんなに感情わら露わにしたのは。

産土神が咆哮する。もう時間がない。

「灰原をお願い。」

「明代さん!」

 

「__術式、開示」

膨大な呪力が明代から溢れた。

七海の表情が変わる。

「やめろ!」

空気が震える。地面が軋む。

七海は彼女がしようとしていることを悟った。

明代の足元から、黒い光が何本もの帯になって空に伸びる。

同時に明代の右腕がさらさらと粒子となり崩れ始めた。

産土神が突進してくる。

「じゃあ……」

明代は一歩踏み出す。

「まずは右腕。」

その瞬間、轟音が響き渡った。

見えない衝撃が産土神を飲み込み、その巨大が何百メートルも弾き飛ばした。

森が一直線に抉れた。

七海は息を呑む。

(一撃で……!?)

あの化け物を追い返した。

だがまだ終わらない。

産土神は立ち上がっていた。

「そうだよね。」

明代は少しだけ肩を落とした。

「産土神だもん。これだけじゃ駄目だよね。」

左腕も光になり始める。

指先から肩にかけて粒子へと変わっていく。

数珠のブレスレットが落ちる。

「今度は左腕。」

「やめろォ!!」

世界が白く染まる。

衝撃波が周りを巻き込み爆音が鳴る。

大地が割れ、山肌が崩れ落ちる。

産土神の半身が吹き飛ぶ。

絶叫する産土神。

彼女はもはや両腕がない。

それでも彼女は笑っている。

「七海くん。」

震える声で呼ぶ。

「私、七海くんと灰原くんの同期でよかった。」

「二人は何に代えても守りたい大切な人だから。」

「………」

七海は何も言えなかった。

言葉にならず、胸が締め付けられる。

「だから、」

少女は息を吸う。

「生きて。」

産土神が最後の力で突っ込んでくる。

静かに目を閉じる。

「最後。」

胸から下がゆっくりと砂のように崩れ始める。

轟音。今度こそ塵一つ残さずに産土神が消え去った。

「明代さん……。」

「七海くん。」

少女は笑う。

泣きそうな顔で、優しく。

「死なないでね。」

「………」

「私が死んだ時にさ。」

腰が消え、足が消え、体ら胸元までしか残っていない。

「……泣いてほしいから。」

七海の頬を涙が伝った。

彼女はそれを見て本当に嬉しそうに笑う。

「よかった。ちゃんと……」

息が途切れ、声も弱くなる。

「泣いて…くれた。」

彼女の身体は胸まで消えた。

残るのは首と顔だけ。

とてもか細い声で彼女は途切れ途切れになりながらも言葉を紡いだ。

「……私ね。」

優しく、誰よりも愛おしそうに七海を見つめながら。

「七海くんのこと。」

ほんの少し照れくさそうに彼女は笑って。

「好きだったよ。」

その言葉を最後に彼女の頬が、瞳が、髪が、春の風に消える花びらのように静かに消えていった。

そこに残ったのは、血でも遺体でもなく彼女がいつも身につけていた制服と数珠のブレスレットだった。

 

 

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