どれほどの時間が経ったのだろうか。
深い闇の底に沈んでいた私の意識は、ふっと頼りなく海面に浮上するように覚醒へと向かった。
(……静かだ)
最初に自覚したのは、耳が痛くなるほどの静寂だった。
先ほどまでアパートの窓ガラスを狂ったように打ち鳴らしていた、あの激しい音は完全に消失していた。
遮光カーテンの向こうを吹き抜ける風の音も、遠くを走る車のエンジン音すらも聞こえない。
世界からすべての音が消え去ってしまったかのような、完全な無音。
あの恐ろしい怪異は去ったのだと、そう思いたかった。
しかし、肌を刺す部屋の空気は、安堵とは程遠い緊迫感に満ちていた。
何かが「終わった」のではない。より最悪な何かが、すでに『始まっていたのだ』。
息苦しさを覚え、寝返りを打とうとした。
しかし――体が、動かない。
異変に気づき、悲鳴を上げようとした。
しかし、喉が完全に肉壁に押し潰されているかのように、出たのは微かな呼気の漏れる音だけだった。
頭でどれだけ「動け」と思っても、体は微動だにしない。
まるで冷たいコンクリートの中に全身を埋め込まれてしまったかのような拘束感だった。
さらに、胸の上に目に見えない鉄板でも置かれたかのように肺が広がらず、呼吸すら満足にできない。
浅く微弱な息を繰り返すうち。
私はこれが『金縛り』という現象なのだと気づいた。
人生で一度も経験したことのない異常事態に、私はパニックに陥っていった。
この身動きのとれない地獄の中で、唯一、自分の意志で制御できるパーツがあった。
眼球と、それを覆う瞼だけだ。
私は恐怖に突き動かされるように眼球を動かした。
視界に飛び込んできたのは、見慣れたはずの自分の部屋の天井だ。
しかし、PCの青白い光が消えた暗闇の室内は、昼間とは全く異なる異界の表情を見せていた。
私は動かない頭の代わりに、目だけを狂ったようにギョロギョロと動かして周囲を探索した。
視線を右へ、左へ、さらに限界まで下へと向ける。
暗闇に浮かび上がる机の上に置かれたモニターの影、カーテンの煤けた色彩。そのすべてが、今にも動き出す怪物の影に見えて仕方がなかった。
何かが見えるわけではない。
だが、この部屋の『どこか』に、私以外の別の意志が存在している。
それも、明らかな悪意を持った何かが、じっと息を潜めて私を見つめている。
そんな気がしてならなかった――。
もしも暗闇の奥に『それ』の姿を捉えてしまったら、その瞬間に正気を失ってしまう。
私は恐怖に震えながら、何かが視界に飛び込んでくるのを恐れ、逃げるようにもう一度瞼を硬く閉じるしかなかった。