【叛逆の物語続編創作】魔法少女まどか☆マギカ窮編 慟哭の物語【完結】   作:エルアインス

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第十四話「鹿目 まどか」

 第十四話「鹿目 まどか」

 

 地平線の先まで、無限に続くような空間をひたすらに進み続けると、いつからか、周囲に黒一点すら見つからない、虹色の光が瞬いていた。

 暖かいようで、寒い。自己の境界線が曖昧になって、景色にそのまま溶け込んでしまいそうになってしまう。

 世界が終焉を迎えたら、こんな感じなのかもしれない。そんな風に思える場所だった。

 私たちのすべてに決着をつける場としては、誂え向きだろう。

 少しだけ首を回して、後方を確認する。

 距離感覚を掴むことのできない、虹色の空間が広がっていた。

 よかった。

 美樹 さやか、巴 マミの気配がないことに安堵する。

 彼女たちが私を追いかけてきていないということは、どうにかして杏子が足止めしてくれているということだろう。

 杏子には、感謝しないといけない。

 私とまどかをふたりにしてくれたのだから。

 ……それにしても杏子はなぜ、まどかと私を行かせてくれたのだろう。

 私を否定していた杏子にどんな変化が生じているのか、はっきり言うとわからなかった。

 幸福な世界を否定し、私の心を追い詰めるようなことをしていたというのに、また私の世界が生まれる可能性を宿してくれる。

 表面では否定しながらも、裏では幸福な世界を肯定するような矛盾を抱えているのか、それとも……世界がどちらの手に渡っても構わないのか。

 ただ、杏子が私とまどかを気遣って、誰にも邪魔されないように送り出してくれたのは、彼女が変わったということを教えてくれていた。

 ……これ以上、考えるのはよそう。

 杏子が送り出してくれた。それだけ分かっていればいい、あの子ならそういうはずだ。

 最高速まで達していた飛行速度を少しずつ、落としていく。

 腕の中では、まどかが依然として何も喋らず、人形のように抱きかかえられていた。

 私が円環の理を奪って作ってしまった、深い闇を背負う世界に、あなたは憤り、怒っているのかしら。

 ……いえ、あなたなら私の行動を見て、疑問に思い、哀しんでいるのかしら。

 まどかをそっと、地面のない空間に降ろし、二歩程度進んだところで私は振り返る。

 すると、まどかはゆっくりと顔をあげて、私を哀しげな瞳で見つめた。

 怒りよりも、ずっと深い哀しみが私の心を震わせる。

 まどかの哀しそうな瞳を見るのは、直接、心臓を鷲づかみにされたような、悪いことをしていると本能的に感じてしまう。

 心にある本音をそのまま言えば、まどかに何も告げず、円環の理を奪ってしまいたいという思いが燻っていた。

 でも、それは卑怯なことで、まどかから逃げるということに他ならない。

 いつしか私は負い目を感じるように、まどかから逃げるようになっていた。

 理由なんて、些細なもの。

 本当のことを言ってしまっては、気持ち悪がられてしまうから。

 恐がらせてしまうから。

 どうせ、まどかには納得してもらえないから。

 再び、惨劇を伴う結末になってしまうだろうから。

 私が心の端で、全てを諦めてしまっていたから。

 言い訳を考えれば、それこそきりがない。

 自分を騙すことだけ上手くなって、こんな世界の最果てみたいな奇妙な場所まで行き着いてしまった。

 馬鹿みたい、と自嘲気味に思ってしまう。

 最初は、ほんの少しの希望を抱いた願い……まどかとの出会いをやり直したいという希望で。

 そんな希望から始まって、次はインキュベータに騙される前のまどかを、自分を救って欲しいという願いをまどかに託され。

 私はそのときに誓った。

 

 "絶対にあなたを救って見せる、何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる"

 

 本心の言葉が本当の始まり。

 それから、私は時間の流れを奔走し――いつからか、ひとりぼっちになっていた。

 決して、私がひとりになってしまったのは、まどかの願いのせいじゃない。

 何度も繰り返した結果、私がひとりでまどかを救い出すほうが、まどかの助かる確立は高いと感じたからだ。

 巴 マミと早期に出会ってしまえば、まどかは魔法少女になり、いずれ魔女へ変化してしまう。

 美樹 さやかが魔法少女の真実に気づいてしまったら、まどかは美樹 さやかを元通りの人間に戻してしまう。

 最終的な壁として、ワルプルギスという災厄の魔女までいる。

 どの道を通ろうとまどかへの因果は最悪の形で収束し、私の約束は達成させられない。

 出口のない袋小路……そう思ってしまうこともあったけれど、まどかとの約束が私を突き動かした。

 そうして、まどかは円環の理というひとつの概念に成り果て。

 私の想いもまた、円環の理という存在からまどかを切り離す愛情を抱くまでになった。

 そうした想う気持ちが、まどかとの絶対的な溝を結果的に深めてしまう結果になり、こんなどうしようもない状況になるまで育まれてしまった。

 すれ違いという溝を埋めるために、芯を通した瞳をまどかに向ける。

 私がどうして、まどかの願いを否定するほどにまどかの幸せを願ってしまったのか、例え肯定されなくても言わなければならない。

 まどかの心に直接伝わるよう、氷のように鋭く硬くなった心を溶かしながら、私は言葉を紡いだ。

 それは、私の願い。

 

「まどか、私ね……あなたを守りたい」

 

 自分の口から出たのだと思えないほど、素直な言葉が飛び出した。

 私は本当に折れない希望を持って、覚悟を決めて、まどかに思いを伝えられる。

 そう思ったら、心は走り出していた。

 

「私に、あなたを幸せにさせて……」

 

 懇願するような掠れた声が、次々と言葉を創造していく。

 視線は、まどかを捉えられなくなり、視界が歪む。

 哀しみと愛おしさが心の中でかき混ぜられていく。

 私は、泣いているのだろうか。

 両手を握り締めて、震える心に抵抗しながら言葉を紡ぐ。

 

「あなたは、ひとりぼっちだった私に、光をくれたッ。

 後ろを向いていた私を、前へ向かせるように手を取って導いてくれたッ。

 誰も私に見向きしないのに、あなたは友達になってくれて……私は、あなたという光に幾度となく救われた。

 でもあなたを救おうとするたびに、心はすれ違っていって、あなたはひとりで手の届かないところまで行ってしまった。

 ……私にとってあなたは最愛で、幸せにしたい人なんだよ。

 円環の理のままで居たら、あなたはひとりぼっちで……誰からもその存在を認識されない……。

 そんなの私は嫌!

 私はあなたを救う、守ると誓った!

 だから私に円環の理を渡して、私にあなたを守らせて……幸せにさせて……」

 

 私の、躊躇いのない勝手な言葉はまどかに受け入れてもらえるだろうか。

 心が膨れ上がって、嗚咽をもらしてしまう。

 これまで溜めてしまっていた感情が、いくらでも溢れ出て、止まらなくて。

 目の前がまったく見えない。

 そんな私を、柔らかなものが抱きしめてくる。

 驚きに目を見開いて、確かな暖かさを感じた真横を見ると、まどかが噛み締めるような笑顔を浮かべ、抱きしめてくれていた。

 

「……まど……か」

 

 続けて、弱気な言葉が出そうになるけれど、まどかを抱きしめようと動きそうになる手も、全て押さえ込む。

 しっかりと、私の出した結論に対する答えをまどかから聞かなければならない。

 以前も、こんな風にまどかへ本当の思いを伝えたことがあった。

 そのとき私は余裕がなくて、まどかに気持ちをぶつけるばかりで……答えを聞くことができなかった。

 今度こそ、しっかりとまどかの答えを聞こう……。

 でもまどかの答えが、私の願いを否定するなら私は――。

 

「約束、覚えててくれて、ありがとう。ほむらちゃんの気持ち、とっても嬉しい」

 

 静かで優しげな声が、哀しみに荒む心を撫でて、穏やかなものにしていく。

 まどかは考えるように瞳を閉じ、穏やかな吐息をついてから、哀しげに語り始めた。

 

「嬉しいけど……でも、私はほむらちゃんの思う通りにはなれないよ。

 私の願いは、魔法少女の祈った希望を絶望にしないことなんだ。

 希望を願ったみんなの祈りが絶望で終わるなんて、哀しすぎるよ。

 希望を抱くことは決して間違いなんかじゃない。

 もし私が円環の理から離れたら、希望を祈った魔法少女がまた絶望を背負うことになっちゃう。

 幾万の思いが、誰かの不幸を呼んで、最後には止められなくなる。

 私は、魔法少女の行き着く先がそんなものなんて、絶対に認めたくない。

 魔法少女の祈りは、希望は私が守る。

 だから、ごめんね。

 私は円環の理を渡せない。渡すわけには、いかないんだ」

 

 まどかの芯が通った言葉に、歯を噛む。

 正直に言えば、まどかが私の言葉を否定するのは、分かっていた。

 彼女の中には、明確な信念が存在している。

 円環の理へ至ってしまうことになった世界で、まどかは希望から絶望を背負った魔法少女を見てきた。

 自分には何もできない。そんな卑屈とも言える心の中で次第に培われ、強固に築かれた信念は、まどかを支える柱となっている。

 それがある限り、まどかは絶対に主張を曲げないだろうし、私の願いに頷くこともない。

 自分で納得できる結論を導き出せているから、誰かのために自分を犠牲にし、誰かのために祈れる。

 ふつふつとした怒りが、心と体を疼かせる。

 自分を大切にしてくれる人がいっぱいいるのに、幸福な世界に居ても……まどかは変わらない。

 私には、許せないし、わからない。

 絶対に、まどかは私が幸せにしてみせる。

 意を決して、まどかを両手で突き飛ばす。

 

「……ほむらちゃん?」

 

 突き飛ばされたまどかは、驚いた顔で私を見る。

 まどかの答えを聞いて、私は心を決めた。

 もう、躊躇う必要なんてどこにもない。

 互いの条件が食い違うのなら、私たち魔法少女だったものに残るものは、ひとつ。

 表情を硬く結び、まどかを睨みつけて感情に乗せて言葉を吐き出す。

 

「あなたは……まだ……誰かのために自分を犠牲にするの!?

 まどかが、まだ自分を犠牲にし続けるというのなら、私は……私は――あなたと戦ってでもあなたのために円環の理を手に入れる!」

 

 右手をまどかへ振り上げて魔力を集中し、紫の弾丸を発生させて瞬時に解き放つ。

 

「……っ!」

 

 まどかの横顔を掠り、弾丸は高速で空間の彼方へ飛んでいく。

 信じられないとでも言う風に、呆然とまどかは私を見つめ続ける。

 突然、攻撃されたのだから無理もない。

 ごめんなさい、まどか……私はもう止まれない。

 花畑で聞いたまどかの言葉が、私を突き動かす。

 私は……私の願いを果たす。

 

「嘘……だよね。ほむらちゃん……」

 

 次弾を作り、間髪入れずに発射する。

 迷いも躊躇いもなく、まどかを倒すことに全力を注ぐ。

 あなたが円環の理のままでいるというのなら、私はそれを阻止する。

 弾丸が飛び出すと同時に、まどかは動きだした。

 

 ……

 …

 

 空間の中を自由自在に飛翔するまどかを追いかけて、弾丸を発射し続ける。

 まどかは回避行動を取りながら振り向き、戸惑いを含ませた口を開く。

 

「なんで、どうして!? ほむらちゃん、私たちが戦う理由なんてどこにもないよ!」

「あなたになくても、私にはある!」

 

 そう、私にはまどかと戦う理由が十分すぎるほどある。

 まどかに対する怒りにも似た感情が、自然と口から溢れてしまう。

 

「どうしていつも、あなたは自分を犠牲にしようとするの!?

 自分のことばっかり傷つけて、あなたを大切に思ってる人のことも考えてよ!

 あなたのお母さんも、お父さんも、弟さんも……あなたのことを思い出したらみんな哀しむ!

 あなたが消えるっていうのは、あなただけが納得すればいいっていうものじゃないの!」

 

 私の心を抉ろうとする言葉に、まどかの表情が哀しく歪む。

 家族のことは、本来なら触れてはいけない反則的なところだ。でも、私は絶対にまどかをひとりになんてさせたくない。

 戦うけど、戦いたくない……そんな矛盾した思いが、まどかを失速させるために私の心を曝け出させていく。

 

「あなたは勝手だわ!

 私に助けてって言ったのに、あなたはひとりで手の届かないところまで行ってしまった!

 それがどれほど辛かったか、まどかに分かる!?

 私にとって、あなたを助けることだけが全てだった!

 心が暗闇に覆われたみたいだった……あなたのいない世界は、闇しか見えない……。

 あの世界で、私は……ひとり。

 あなたの声は何度も聞こえていたけれど、私以外の誰もまどかを覚えてない世界で、誰があなたが本当に居ると分かるの……。

 寂しかった。まどかに、傍に居てほしかった……友達としてあなたと笑い合って……何でもない日常を過ごして、何でもない年の取り方をして……そうありたかった!

 そんな風に、私は願ってしまった!」

 

 いつの間にか、私は制止していた。

 私は感情の奔流を止められず、まどかは感情の奔流に呑まれるように、私だけを見据える。

 紫の弾丸を構えて、私と同じにように立ち尽くすまどかを見つめ、頬に湿ったものがつたっているのも感じずに言う。

 感情は、隅から蹂躙するように私の心をまどかに立ち向かわせる。

 

「あなたが私を否定するのなら、私は……あなたと戦う!

 もう二度と、あなたがこの世界から消えてしまわないように、二度と、勝手なことをしないように……!

 私が、あなたに間違いを犯してしまわないように……」

「……ほむらちゃん……」

「あなたは私と一緒に居ればいいのよ……!」

 

 手が勝手に、まどかへ弾丸を発射する。

 弾丸が迫るなか、まどかはふいに顔を俯かせ、呟いた。

 

「ごめん……」

 

 

 第十四話「鹿目 まどか」終わり

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