【叛逆の物語続編創作】魔法少女まどか☆マギカ窮編 慟哭の物語【完結】   作:エルアインス

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第二話「まどかの幸せ」

 第二話「まどかの幸せ」

 

 雪が踊るように舞い散る花畑を見つけて、降り立つ。

 ここに、私たちの運命を定めることになったインキュベーターがいるはず。

 私の心は不意にまどかと出会ったことで、混乱していた。

 まどかが再び魔法少女となって、目の前に現れ、私にあの柔らかで友好を感じさせる尊い笑顔を向けてくれた。

 今の私はまどかに微笑みかけてもらえるようなことをしていないにも関わらず。

 まどかが転校してきた日もそう。

 両親の都合で海外から転校してきたまどかは、どこか怯えた様子で私を見つめていた。

 あの瞳は友好の視線ではなく、畏怖がこもる視線で……心の奥底にある感情がずきっと痛んだのを覚えている。

 今、私の望む笑顔は、暖かな家族に注がれている。自分もその輪の中に入りたいと心が疼くのを何度も感じていた。

 それでも、私は進むことをやめることはできない。

 一度まどかの願いを否定した私が、何を今更立ち止まれるだろう。

 まどかの幸せを守るために、私はこの世界に起きたあり得ないこと――魔法少女姿のまどかが現れた元凶を突き止めなければいけない。

 一番に、このような事態になることを望むのは誰か?

 私にまどかの幻覚を見せて、混乱させる。

 そんな状況で誰が得をするのか、勝手に頭は想像していた。

 真っ先に思い浮かんだのは、インキュベーターの存在だ。

 インキュベーターは、いつでも私たち魔法少女の心を踏みにじってきた。

 そんな前例があるから、真っ先に自然と足がインキュベーターに向かってしまっている。

 彩りの悪い花畑で、目標を見つけた私は人形のように愛らしい体を、震わせているインキュベーターを乱暴に掴みあげる。

 力なく揺れる体からは、まったく生気が感じられない。

 私が睨みつけると、インキュベーターはさらに萎縮する。どうやら、生きてはいるらしい。

 

「インキュベーター! 一体何をしたの……? 私を惑わせて何が目的なの!?」

「……なんだい、ほむら。僕は何もしていないよ。する気もない、それは君が一番わかっていることだろう?」

 

 いくら怯えさせても、インキュベーターの絶対的な上から目線は変わることがない。

 この声は、聞いているだけでも体の芯が熱くなって頭に血を昇らせる。

 

「まどかが魔法少女になって現れたのよ!? いつも、いつも、私たちが不幸になる原因を作りだしてきたのは、あなたたちだわ。私たちを希望という罠に陥れる魔法少女の契約――魔女のいなくなった世界で、魔女を作りだそうとする人体実験。

 どれもこれも……根本にはあなたたちの策謀があった」

「身に覚えがないけれど、今度も僕がやったと言うのかい? わけがわからないよ。

 君が世界を作り変えたときに言ったはずだよ、僕は君たちから手を引くと。その言葉は今でも覆らない、不変の言葉だ。もう君たちには干渉しないさ」

「それを信じられると思う? 今まであなたのしてきたことは、私たちを裏切ることばかりだったのよ」

「いつ、僕が嘘をついた? 僕は限りある真実しか述べていないよ、ずっとね」

 

 インキュベーターは自然と息をつくように、私たちに条件をつきつけてくる。魔法少女になることのメリットは説明してもデメリットは訊かれなかったと、答えない。

 対人関係において、それは罠とも言える行為であるものの、インキュベーターは、決して嘘をつくことはない。

 彼らに、嘘という概念は存在しないのだろう。

 だから、今回の現象に関しては本当にインキュベーターは知らず、何を言ってもおそらく無駄で時間の浪費だ。

 

「そうね、あなたたちはそういう奴らね」

 

 インキュベーターを持ち上げていた右手の力が自然と抜けて、力なくインキュベーターは地面に落ちた。

 花畑は衝撃で桜色の花を舞い散らせ、それは目の前で私を笑うように踊る。

 月光を受けて艶かしいまでに輝く桜色の花びらが、まどかを連想させて私の心をさらにかき乱す。

 これまで、いつもと同じ日常が続いているはずだった。

 まどかが笑い、みんなが笑う、夢物語みたいな世界は緩やかな水のように続いていたのに、急激に押し寄せた抗いようのない波がそれを飲み込んでいく。

 私はそれに巻き込まれない立場のはずなのに、いつの間にかその輪に組み込まれている。

 いや、そもそも巻き込まれているのは私だけなのかもしれない。

 満月にならなくなくなった、半月を見上げて私は独り言つ。

 

「今の世界を壊そうとしているのは誰? まどか……あなたなの?」

 

 問いかけは、虚空へ吸い込まれるように消えていった。

 

 ……

 

 翌日。私は早朝から見滝原中学校の教室で、自分の机に座っていた。

 どんなに因果が変わろうとも、ここが私の席であることは変わることもない。

 机に肘をついて教室の外を眺める。

 時間が早いこともあって人はまばらながらも、少しずつ活気が増えてきた。

 何気ない日常を生きる彼らは、どの世界であっても事象を知らない幸福な存在だ。

 その光景に、心が羨望へ染まった気がした。

 

「……何を考えているの、私は」

 

 私は何も知らない幸福な姿に戻りたいとは思えない。

 今まで培ってきた記憶を捨ててまで、幸福を得ようなどとは考えない。

 積み重ねがなければ、まどかに出会うこともなく……誰かと接点を持つこともなかっただろうから。

 思考が過去へと引きずられようとしていたところに、優しい待ち人の声が耳に届けられる。

 

「みんなーおはよー」

 

 首を捻り、姿を確認する。

 特徴的な赤いリボンで、髪を二つに結んだ優しい雰囲気の女の子――まどかだ。

 昨晩のように魔法少女姿ではなく、見滝原中学校が指定している制服を着ている。

 まどかは、慣れた手つきで床と一体化している机をだして鞄をかけ、同じように現れた椅子に座った。そのまま、隣席の子と親しげに話だす。

 海外からやってきたまどかは、美樹 さやかと接点がない、そのため誰とも知らない子と友達になっている。

 楽しげな様子からして、この世界に存在することが当たり前の何も知らないまどかのようにしか捉えられない。

 まどかを見つけた私の心は、焦っていた。

 昨日のことを訊かなければならない。私が見たまどかが、本物だとすればそれは正さなければ。

 元の、何も知らないまどかに戻ってもらわないといけない。

 席を立ち、まどかの机まで移動する。

 

「ちょっと時間いいかしら、まどか」

 

 私が話しかけると、女神のような笑顔が消えて、まどかはぎこちない笑みを浮かべる。

 私にだけは、友好の眼差しは向けられない。

 きっと心の奥底では、私がしでかした……まどかの願いを否定した記憶が疼いているのだろう。

 それでも、まどかは精一杯、私に笑顔を向けてくる。それがどこか罰を受けている気がして、まともに顔を合わせることができない。

 

「う、うん。いいよ、ほむらちゃん……」

「歩きながら話しましょう」

 

 用件だけを伝えて、とっとと教室から出る私を、まどかは戸惑いながらも追いかけてくる。

 しばらく無言で歩いて、周囲がガラスで張り巡らされている渡り廊下に訪れた。

 ここは、いつも人通りがなく何かを話すのには最適の場所で、何かの始まりを告げている場所なのかもしれない。

 立ち止まった私が何も喋らずに考え事をしていたからだろう。痺れを切らしたまどかが声をかけてきた。

 

「ほむらちゃん……話ってなにかな?」

「少し訊きたいことがあってね、昨日の夜、まどかはどこに居た?」

 

 振り返り、それとなく訊いてみると、戸惑いながも口を開いてくれた。

 

「家で勉強してたよ。 私は海外から転校してきたでしょ? だから日本の授業に頑張ってついていかなきゃって思って」

 

 本来なら、答える必要がある質問でもないのに律儀に答えてくれる。

 どこまでも私の知ってるまどかで、そのまどかを疑っている自分が悲しくなる。

 私は精一杯の愛想笑いを顔面に貼り付けた。

 まどかが相手でも、私は笑うことができない。まどかの前に居ると、心の底で罪悪感が、私を雁字搦めにしていく。

 

「そう、変なこと聞いてごめんなさい。昨日の夜、まどかみたいな人影を外で見かけた気がして、それで聞いてみただけなの」

「あはは、そうだったんだ。それは私じゃないと思うよ、外には一歩もでてないから」

「……まどかは、この世界が尊いものだって前に言ったよね。今でも、その言葉は変わらない?」

 不思議そうな顔をしながら、目を閉じて少し考える素振りを見せる。

「うん……尊いと思うよ。私はこの世界のみんなが大好きだから」

 

 言って、まどかは、畏怖を瞳の奥に晒しながらぎこちなくはにかむ。

 まどかは基本的に嘘をつけない人間で。

 それは、あらゆるまどかを知っている私だからこそできる一つの確証だ。

 そのあと一言、二言交わしてから、まどかは教室に戻っていく。

 私は身を翻し、まどかとは正反対のところへ歩み進める。

 昨日の夜は勉強をしていたと、まどかは言った。なら、昨晩現れた魔法少女のまどかはこの世界に生きるまどかじゃない。

 それが得られただけでも、私の心は青い空のように澄み渡った。

 まだ、いける。

 悪魔となってから、ずっと体中を支配する倦怠感の中で、力が漲ってくるのを感じ、私は前を見つめた。

 まどかが何にも巻き込まれず、幸せなら私はまだ戦える。

 この手で掴んだまどかの手を離すわけにはいかない。

 次にこの手を離したら、まどかは本当の手の届かない遠くに行ってしまうに違いないのだから。

 

 第二話「まどかの幸せ」終わり

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