【叛逆の物語続編創作】魔法少女まどか☆マギカ窮編 慟哭の物語【完結】   作:エルアインス

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第三話「世界のイレギュラー」

 第三話「世界のイレギュラー」

 

 黄金を彩るように夕日で塗装された歩道を、私は俯きながら進んでいた。

 横を走りすぎる車を耳障りに思い、思考をさらに奥深くへ導かせる。

 どうせ、車に轢かれたところで死にはしないのだから、考える場所は問題にはならない。

 もし、事故が起こってしまってもその人の記憶を改竄すればいい。

 私自身、まどかの力に関しては分からないことが多いから多少の異変が起ころうとも、世界の改変をもう一度しようとは思わないけれど、ほんの少し、力を行使する躊躇いよりも、まず時間が惜しい。

 私に魔法少女姿のまどかを見せた人間は、私の心をよく理解している。

 それは、私とまどかの関係性を知っていることに他ならない。

 まどかに何かがあれば私が動揺し混乱することを知っている人間が、事象の根本に存在するはずなのに、人物が絞り込めない。

 無限に張り巡らされた糸が私を絡めとり、それを手繰り寄せようともがいても、その人物のところに繋がる手がかりがまったく見つからない。

 私に与えられたヒントとも言えるものは、インキュベーターがこの件に関わっていないこと、この世界に存在するまどかは魔法少女となっていないということだけだ。

 私が知り得る中で、問題となる人間は、巴 マミ、佐倉 杏子、美樹 さやかの三人だ。

 私以外のみんなが記憶を失っている世界なのに、私とまどかの繋がりを知っているものがいる。

 この中で、もっとも記憶を取り戻した可能性が高いのは、美樹 さやかだ。

 

――暁美 ほむら、あんたが悪魔だってことは忘れないッ!

  

 そう世界改変後に宣言した彼女は、私の影響で記憶を失って、志筑 仁美、上条 恭介と挨拶を交わせる何気ない日常を過ごしている。

 それは、円環の理に繋がっていたときはできなかった、美樹 さやか自身の幸せだ。

 まどかは願いを叶えることで、美樹 さやかの幸せを成し遂げさせた。

 私は願いを踏みにじることで、美樹 さやかの幸せを無理やり叶えさせた。

 二つとも幸せという観点からいけば同じ結果なのに、過程も何もかもが違う。

 美樹 さやかが記憶を取り戻したら、真っ先に私の中にあるまどかの力をどうにかしようとするはず。

 彼女が私に魔法少女姿のまどかを見せるなんて、卑劣にも似た手を使うとは考えにくいけれど、私はまどかの願いを裏切った存在だからなりふり構っていられないのかもしれない。

 私にそんなものを見せて、何が目的なのか理解はできないものの、次に接触する人物は決まった、と視界を広める。

 

「……」

 

 信じられない光景が眼前に公開されていて、自然と足を止める。

 絵画を彷彿とさせるような色濃い空間に、無数の絵が浮かび、人形のような外見をした物が踊り、狂う。

 突然の光景に、一歩後ずさり、目を見開いて周りを見渡す。

 有名な絵画を取り込んだ空間で、私を包み込む絶望感にも似た倦怠感のほかに、もう一つ本能的に背筋が震える恐怖を感じる。

 突然のことに乾いた喉を鳴らして、声を絞り出す。

 

「魔女の、空間……」

 

 私のよく知る感覚で、今は私しか知ることのない魔女が作りだした、人を誘い込むための空間が広がっていた。

 しばらく呆然としていると、私を見据えるように、凱旋門が現れる。

 この魔女は、よく覚えている。

 私が初めて出会った魔女で、私が魔法少女を知るきっかけとなった芸術家の魔女だ。

 

「なぜ、魔女が存在しているの……」

 

 絶望に身を任せて、口が勝手に呟く。

 魔法少女のまどかが出現したことも十分イレギュラーな存在なのに、魔女も現れたとなると、世界が完全に狂っていることを肯定しているようなものだ。

 完璧な、幸せがたくさんある世界だったはずなのに、繊細なガラスが粉々に崩れかけようとしているように見えてしまって、息がつまる。

 そもそも、希望を持つ魔法少女が現れたから、絶望を持った魔女が生まれたはずなのに、順序が狂っている。

 この世界に魔法少女は、私と……記憶を失った美樹 さやかしか存在しないはず。

 それなのに、魔女が現れている。

 私が魔女でなければ、消去法で美樹 さやかが魔女になったことになってしまう。

 美樹 さやかが芸術家の魔女になるなんてことは、あり得ない。

 彼女が成るとすれば、それは人魚の魔女のはずなのだから。

 立て続けに起こる私の世界を追い詰めるための、不可解な事象に、目が眩み尻餅をついてしまう。

 凱旋門が空間に苦しみの詰まる声を響かせて、動きだす。

 獲物を狩る動物のように、様子を見ながら凱旋門は近づいてくる。

 このまま行けば、私は魔女に食われて死ぬのだろうか。

 まどかの恐れを抱いた瞳が記憶からふと、浮上する。

 そう、死ねばあんな瞳を見ることもなくなって、楽になれるのかもしれない――。

 

「でも……私はまだここで終わるわけには、いかないのよ……まどかの幸せを……まどかが救われることを、祈って私は魔法少女に――悪魔になったんだからッ!

 存在が許されない魔女が立ちふさがっても、ここで殺されるわけには、いかないわ」

 

 足に力を込めて立ち上がり、魔女の結界から体に進入しようとする絶望を跳ね除けようと、ひたすらにエゴの肯定を重ねる。

 相手の目的が、私の心を砕くつもりなら見事な策謀だと褒めることしかできない。

 世界を単純に壊すのではなく、私を取り囲む世界を少しずつ溶解しようとしているのが、魔女を見て確信できた。

 私がどこかで降参するのを待っているのだろうか、なんて悪趣味な作戦だろう。

 ただイレギュラーが発生したくらいでへこたれるなんて、そんな弱さ、許されるわけがない。

 もし、こんなことで完全に折れてしまうのなら私は今までの道のりで既にぽっきりといってしまっている。

 弱さを払拭するため、威圧的に芸術家の魔女へ左手を向けて、ダークオーブを取り出す。

 ソウルジェムが、私の絶望で再構築されたダークオーブは、まどかの力の一部と私の力を封じ込めた宝石だ。

 魔法少女に変身しようとした瞬間――高らかで、透き通った声が響き渡る。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 また、思考が止まる。

 高速で打ち出された巨大な弾丸は、吸い込まれるように芸術家の魔女へ直撃して、魔女を消滅させる。

 制御されるべき主をなくした魔女の空間は、見滝原市の街並みへすぐに変貌する。

 芸術家の魔女を葬った彼女は、遥か上空から私の目の前に降り立ち、ティーカップに注がれた紅茶を優雅に飲んでから呟いた。

 背後から見ても、誰かは一目瞭然だ。

 

「久々だったけど、上手くいくものね」

「巴……マミ……」

 

 見滝原中学校三年生で、魔法少女としても先輩の巴 マミがゆっくりと、微笑みながら振り返る。

 

「なにかしら、暁美さん」

 

 何気ない一言なのに、心が痛くなるほど懐かしい言葉が、頭を駆け巡る。

 私のよく知る魔法少女としての巴 マミが、そこにいた。

 

 第三話「世界のイレギュラー」終わり

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