【叛逆の物語続編創作】魔法少女まどか☆マギカ窮編 慟哭の物語【完結】 作:エルアインス
第六話「私と慟哭の世界」
すっかり日が沈んだ夜の街中を私はひとり、足取り重く歩んでいた。
楽しそうに手を繋いで歩く家族の喋りや、カップルの軽やかで甘い口調や、女性同士の仲睦まじい会話が耳を圧迫していく。
誰も私に気づかず、素通りして幸せな世界へ浸っている。
誰も世界の異変なんてものには気づかず、ただ漫然とこの当たり前の幸せを過ごしていることに一抹の陰りを覚えた。
顔をあげると、街頭と店先の明かりが目障りなほど目について、鬱陶しいことこの上ない。
どうしてこの世界を、こうも空虚に感じてしまうのか。
――巴 マミと戦いので私は、肩と背に受けた傷の痛みから気を数時間ほど失っていた。
「……ッ」
歩みを進めながら顔を俯かせて、悔しさに唇を強く結ぶ。
何が悪魔よ。
私は弱い人間の頃と何も変わっていない。
いくら決意を重ねても驚愕に値する真実が浮かびあがってしまったら、まるで砂でできたように決意は脆く崩れ去ってしまう。
強い言葉を重ねても次の瞬間には、泡のように消える。
私は何度も決意して、覆しようのない真実に打ちのめされてきた。
そんな弱いときのままだ。
表面上は気丈に振舞っても、心の奥底ではやっぱりダメなのかと思考してしまう。
この世界だってそうだ。
巴 マミの放った一言は、私にこの世界を空虚に感じさせるには十分な一言で、この世界はもうお終いなんじゃないかと思ってしまう。
その証拠をつきつけるように、店頭でテレビを見ていた男性と女性の何気ない声が耳に鋭く届く。
思わず、その内容を確認するために足を止める。
会話の内容自体は、何らおかしいものではない。
人間社会に置いては至ってシンプルなもので、よくあることをニュースキャスターは報道していた。
そう、本当によくあることだった。
今日の夕刻に、男性が家屋から飛び降り自殺をしたというニュースで、自殺をした原因は不明であり男性は交友関係も職場関係においても何ら自殺する要因はなかったらしい。
一見、無害そうな人がある日突然、狂ったように心の闇から自殺してしまう。そうなる理由を私たち魔法少女は知っている。
希望を抱いた魔法少女たちの成れの果て……絶望を抱かされた魔女がこの事態を引き起こしたに違いない。
証拠に、手の中にあるダークオーブが疼き、魔女が現れたことを知らせてくれている。
巴 マミの言っていた円環の理から魔女が溢れ出てくるというのは、真実だったのだろう。
次々と問題が浮かび上がってきすぎて、立ち止まりたくなる。
この世界で幸せに暮らすまどかとは別人でありながらも、私に本当のまどかだと認識させる魔法少女の姿をしたまどかや、記憶を取り戻して私の前に立ちはだかった巴 マミ……そして、その全てに糸を引いているものが存在しているはずなのに、それを考えさせる時間をくれない魔女の出現は、私を焦らせ、心を折るには十分すぎるものだ。
明るく輝いていた世界に、黒い染みが広がっていまや世界を覆いつくそうとしてしまうのではないかと錯覚する。
でも、こんなところで悩み、苦悩し足を止めるわけにはいかないことも頭の中では理解していた。
明確な敵意として、この世界に牙を向く魔女が現れた以上、こんなところで悠長にしている時間は存在しない。
もし、このまま立ち止まってしまったら今度、魔女に狙われるのはまどかの可能性もある。
それだけは阻止する。まどかだけが、私に残った最後の希望なのだから。
私は沈む心を抑えて、まどかを守るという使命感に突き動かされて、報道のあった家屋へ急いだ。
……
月明かりだけが地面を照らし出す道端を進んで、家屋を発見する。
家屋の外観は至って普通のもので、外壁にはコンクリートが使われている単なる綺麗な一軒屋だった。
「……いる」
何もなさそうなところだけど、ここに魔女がいることをダークオーブは闇色に光って知らせてくれる。
それに感覚として、心の中へ絶望が入り込んでくるのだ。
絶望を抱いた魔法少女の悲しい思いを感じさせる、重い空気が。この感覚は何度経験しても慣れない。
どうやら、警察は既に調べを終えたあとらしく、誰もこの辺りには残っていないみたいだ。
調べている間に巻き込まれている人がいなくて、本当によかった。
警察が張り巡らせた進入禁止と書かれている表札を避けて、家屋に侵入しようとドアノブに手をかけたところで、体が魔女の空間に引きずりこまれた。
やっぱり居た。
あっちから呼んでくれたのなら、むしろ探す手間が省けたと言える。
不気味なほど色とりどりに変わる景色を見ながら、魔女の登場を待つ。
白一面の世界が広がったと思えば、青空のように透き通った世界に移り変わる。
そこで、変異は止んだ。
ああ、この空間は……私が魔法少女として初めて戦った――セーラー服を着用し、不気味に六本腕が生えた首のない、委員長の魔女だ。
何の因果なのか、芸術家の魔女に続いて委員長の魔女なんて、何かの嫌がらせなのだろうか。
暴走して、魔女を放出している円環の理というのは、私がよっぽど憎いらしい。
こんな風に魔女を当てられたら、昔のことを思い出してしまう。
勝手に浮かび上がってくる記憶を押さえつけるように唇を噛んで、私は委員長の魔女へ突っ込んだ。
空を駆けてスケート靴を履いた下半身だけの手下を片手間にいなしながら、心の底で思いは勝手に加速していく。
あの頃の幸せは私の元に二度と返ってくることは、永遠にないだろう。
魔女との戦いも日常でも、前を見ればまどかと巴 マミが先頭を走ってくれていた。
先導して走る姿は、私の希望そのもので。
でも、今の私はたった一人、誰との繋がりもなく魔女と戦っている。
それがどこか寂しくて、心が震えてしまう。
私が自ら選んで導きだした最良の選択なのだから、迷う必要なんてないはずなのに。
いつも、いつも迷ってばかりで情けない。
委員長の魔女まであと少しというところまで接近した私は、左手にあるダークオーブを右手で出し、悪魔へと変身した。
体は黒い、陰鬱とした悪魔のような黒い服装に覆われる。
変身により、異変を察知した委員長の魔女は悲しく聞こえる笑いを轟かせながら、空間から椅子や机を雨のように降らす。
絶望に身を落とされた魔法少女は、人を守る存在ではなく人を狩る存在にしかなることはできない。
希望を願った魔法少女に対する仕打ちとしては、こんなに残酷なものはない。
「魔女になるっていうのは、本当に苦しくて辛いことね……」
右手を体から水平に横へ振って、魔法の力によるエネルギー弾を作りだし、私を狙って振ってくる机や椅子と相殺させる。
相殺によってできた煙を縫って、委員長の魔女の目と鼻の先まで接近し、右手で優しく魔女に触れた。
「円環の理の元に帰りなさい。お願いだから、もうこの世界を蝕まないで……」
触れられた魔女は不気味に笑いながら、空気へ溶け込むように分解されていく。
それと同時に異変だらけの空間も通常の空間へ回帰する。
その間に変身を解いて、地面へ緩やかに着地する。
「ふぅ……」
いつもの癖で長い髪をかきあげて一息つく。
一体の魔女と出会っただけなのに、激しい疲労感が私を襲っている。
こんなことで、戦っていけるのか、私は。
円環の理からでてくる魔女から、まどかを守るために魔女を倒していくことなんてできるのか。
「なーに暗い顔してんのさ、ほむら」
月の光もない暗闇の道路からすっぱりとした声が聞こえてきて、目を見張る。
どうやら世界は、私を休ませてはくれないらしい。
「巴 マミに続いて、今度はあなた?」
暗闇の中から姿を現したのは、踊るように長く赤い髪をした少女――佐倉 杏子だった。
第六話「私と慟哭の世界」終わり