【叛逆の物語続編創作】魔法少女まどか☆マギカ窮編 慟哭の物語【完結】   作:エルアインス

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第九話「円環に導かれし魔法少女」

 第九話「円環に導かれし魔法少女」

 

 杏子と花畑で話をして、自分なりの答えをだしてから一夜が明けた。

 太陽が昇り、眩い陽光が世界を照らすなか、私は断続的に現れる魔女の退治に追われている。

 魔女の出現感覚は時間が立つほどに短くなり、今や一時間に一回はどこかで魔女が現れ、世界を乱し始めていた。

 やることは、委員長の魔女を撃退したときと同じように、円環の理へ円環の理の力で送り返す。

 たったそれだけの単純なこと。

 本来、魔女を送り返す意味なんてものは、存在しないのかもしれない。

 でも、私たち魔法少女の慣れ果てだった魔女から、円環の理という寄り添う場所を奪ってしまったのは私だ。

 この世界を守る、続ける決意をしたと言っても、魔法少女たちの帰る場所を消してしまった事実に変わりはない。

 それは胸に残るしこりとなり、私の心に罪悪感という爪痕を残していた。

 罪悪感となって心を支配する感情からか、私は魔女を円環の理へ何度も送り返してしまっている。

 きっと、魔女は倒してしまっても構わないのだろう。

 以前の記憶を取り戻し、全てを知っている杏子、美樹 さやか、巴 マミでも、躊躇なくこの世界に現れる魔女を倒すはずだ。

 いずれ魔法少女の成れの果てとして自分自身がそうなるとしても、魔女が人の世を乱す存在であり続ける限り、彼女たちは戦い続けるだろう。

 そうあることが、自分たちの存在意義であると言わんばかりに。

 もしかしたら、暴走した円環の理から送り返した魔女たちは再び現れるかもしれない。

 魔女が現れているのは円環の理からで……そこに送り返せば、再び送り返されてくることもあり得る。

 心に映りこむ言葉が私を蝕んで戒める。

 

 自己満足の罪滅ぼし。

 

 そうとしか言いようのない勝手なものだけど……私には送り返すことでしか、絶望を経て希望を手に入れた魔女たちに顔向けできない。

 決意を経ても、私は自分の甘さを捨て切れないらしかった。

 ただ、甘くても下を向かずに済むだけ、前よりは成長しているのかもしれない。

 

 ……

 

 小鳥が囀る早朝、見滝原中学校へと至る通学路に私は待つように佇んでいた。

 冬独特の寒々しい風が頬に突き刺ささり、駆け抜ける。

 息を吐くと、白い靄が現れて世界に溶け込んでゆく。

 

「……まだかな」

 

 ふと、通学路を見てみる。

 白髪で、無邪気そうな顔をした小学四年生くらいの女の子が、私の前を走り抜けた。

 少し年季の入った赤いランドセルを揺らし、幸せそうな笑みを浮かべている。

 

「あれは……」

 

 何か頭に訴えかけられる気配と既視感を覚え、通りすぎた少女が何者なのか、思い出そうとする。

 何処かであったような気もするし、話をしたこともあるような既視感が脳裏に移りこむ。

 しかし、いくら考えても靄がかかったように答えは浮かんでこない。

 元々知るはずのない人間で、私の思い過ごしなのか。

 見滝原中学校に来る前の私は、いつも臆病で下を向いてしまう性格で、ろくに友達を作ることもできなかった。

 ダメね、思い出せない。

 どっちにしろ、思い出すことができないということは、特に重要なことでもないのだろう。

 私は、頭の中にしこりを残しつつも結論づける。

 

 それからは魔女が現れる気配もなく手持ち無沙汰から、抜けるように青い空を見上げていると世界がとても狭く感じられた。

 見回していると、のっぺりした青の壁紙が貼られている空の奥に、雨雲がちらりと見えて呟く。

 

「今日は雨が振りそうね……」

 

 私にとって雨というのは、悪いことが起きる予兆だ。

 誰もが不幸を抱えて折れそうなときに、雨はひたすら落ちる心を後押しするかのように降り注ぎ、器を満たし、心をどす黒くしていく。

 険しく眉を寄せて雨雲を見ていると、軽やかでありながら確かなリズムを刻む足音が風に乗って耳に届いた。

 私は悪い予感を捨て去り、待ち焦がれた人物に顔を向ける。

 

「おはよう、まどか」

 

 話しかけられた人物は、足を止める。

 

「お、おはよう、ほむらちゃん。こんなところでどうしたの?」

 

 少し怯えたように、まどかは身をすくませる。

 私が恐ろしいのね……。

 まどかと会えなかった数十時間で何が変わるわけでもなく、まどかはいつものように私へ畏怖の感情を抱いているらしい。

 怯えられることが分かっていながら、まどかへ会いにきたのには、理由があった。

 かなり個人的なことだけど、まどかに会いたかったから待っていたのと……世界を続けると決意した私の心が折れないか確認するためだ。

 今も尚、まどかの顔を見ると希望を奪い取ってしまったことに心が激しく鳴り響き、痛むような感覚が体を駆け巡る。

 世界を変化させつつも決意を固められていない頃の私は、まどかを見ることに罰を受けているような気がして、顔を背けてしまっていた。

 それでも決意を固められた私の心は折れることなく、まどかを心から見つめる。

 

「いえ、まどかと一緒に学校へいこうと思って、どう?」

 

 言葉は詰まることなく、自然と心から流れでた。

 私はもう、あの目に怯えずまどかを幸せにする決意を鈍らせない。

 でも、まどかと会って話すのはこれで最後にしよう。

 私が居てはきっとまどかはずっと怯え続ける。

 希望を奪ったのが私だと知らず、ただ無意識に怯えを与えるなんてこと、私は望んでいないのだから。

 まどかは数回、驚いたように目を瞬きしたあと怯えなど感じさせない笑顔を浮かべた。

 

「うん、いいよ。でも、どうしたの? 突然一緒に行こうなんて……。

 ほむらちゃんと私ってあんまり、お話したことなかったよね」

 

 この世界のまどかと話した回数は、片手で数えられる程度しかない。

 それは、まどかの幸せを願いながらもまどかに会えば、心が痛みに苛まれると知っていたから。

 もし、まどかに優しい言葉をかけられてしまったら、以前の私は心を瓦解させていただろう。

 でも今は違う。

 ちゃんと彼女の目を見て話すことができる。私にとって誰よりも大切な彼女の目を真摯に見つめられる。

 

「ええ、でもまどかとお友達になりたくって。

 私なんかじゃ、ダメ、かしら?」

 

 この世界で、やっと紡げた私の本心からの言葉が胸に入り込む。

 やっと、言えた。

 

「ううん、全然そんなことないよ!」

 

 まどかは、大袈裟に首を横に振る。

 あなたは本当に優しい人ね。

 自然と唇がほころびてしまう。

 私が円環の理の力を奪ってしまったというのに、あなたは私と友達で居ようとしてくれる。

 いつでもまどかは誰かと話し合い、誰かを理解しようとしてきた。

 美樹 さやか、佐倉 杏子、巴 マミ……そして私。

 誰かが絶望へ落ちようとするとき、落ちてしまったとき、自分を犠牲にしてまで他人を助けようとする心をあなたは持っている。

 例え、自分が犠牲になることで他人が泣いても他者を救うことをやめない。

 そんな優しすぎるあなただから、私を救ってくれた。

 私が転校してきた当初、誰と友達にもなれず……ひとりぼっちだった私と友達になってくれた希望の光、それがまどか。

 まどかを救ってみせる……そう誓った心に、私はやっと向き合えた。

 

「ありがとう。こんな私と友達になってくれて」

 

 まどかに微笑みかけると、彼女は私の目を見て瞳の奥に怯えを浮かべながらも、それに抗って笑顔をくれる。

 ああ、これが私の望んでいた日常に違いない。

 他人から見ればちっぽけな幸せでも、私にとっては掛け替えのない幸せだ。

 ……今日だけは、いいわよね。まどかと一緒に幸せな夢を見ても。

 行きましょうか、そう呟こうとしたとき、頭の奥に違和感が走り、髪をなびかせて振り返った。

 通学路ではなく、この街全体の空気を感じるように注視する。

 この感覚は……ショッピングセンターからだ。

 どうやらこの世界は、私に少しの幸せすらも与えてくれないらしい。

 そう仕組んだのは私なのだけど、こんなときに魔女が現れるなんて、本当に無粋だ。

 

「……えっと、どうかしたの? ほむらちゃん」

 

 心配するまどかを安心させるように、彼女を見据えて微笑む。

 大丈夫、何があっても私はあなたを守ってみせるから。

 

「ちょっと野暮用を思い出したの。だから、まどかは先に――」

 

 紡いだ言葉を最後まで言い切ることはできなかった。

 魔女の気配が、ほんの少しの間に消えてしまっている。

 一体誰が……?

 可能性として考えられるのは、巴 マミ、佐倉 杏子、美樹 さやかの三人だが、いくらなんでも魔女を消滅させるのが早すぎる。

 私の知らない強力な力を持っている魔法少女が現れたか、それとも――。

 

「きゃっな、なにっ!?」

 

 思考を巡らせていると、まどかの驚いた声と共に突風が吹き、自分の髪が乱れて前が見えなくなる。

 揺られる髪を右手で抑えて、一瞬目を瞑った。

 目を開けられないほどの強風なんて、突発的に出るものじゃない。

 何かが、起きている。

 確かな確証を掴むと同時に風は止み、自然と目を開ける。

 

「……ッ!」

 

 通学路の奥、そこには先ほどまではその空間に存在すらしなかった、見滝原中学校の制服を着た魔法少女がいた。

 彼女は笑顔で走ってきて、元気よく手を掲げる。

 現れたのは、私が知りうる限り見滝原市に存在する魔法少女、美樹 さやかだ。

 そういうことなのね。

 私の目の前に現れてくれたおかげで、魔女を倒した人間の見当がついた。

 おそらく、現れたばかりの魔女を対処したのは美樹 さやかなのだろう。

 円環の理と繋がっている彼女は、現存している魔法少女の中でも唯一無二の力を持っているから、魔女を片付けるなんて造作もないことのはずだ。

 

「まっどかー!」

 

 私には目もくれず、美樹 さやかはまどかの前で綺麗に止まる。

 

「み、美樹さん……?」

「おはよう、まどか!」

「お、おはよう、美樹さん」

「やだな~まどか。私のことは美樹さんじゃなくて、さやかでいいよ――それと」

 

 美樹 さやかは、まどかとの会話に一区切りつけ、笑顔ながらも瞳の奥では怒りを込めた視線を向けてくる。

 

「久しぶりだね、ほむら」

 

 円環の理の力を奪ったせいで、出会ってすぐに突っかかってくるかと思いきや、彼女は思ったより冷静らしい。

 やはり、私の知る美樹 さやかより幾分冷静のようだ。

 

「えぇ、本当に、久しぶりね。元気だった?」

「……あんたのことを許せないくらいには、ピンピンしてるよ」

「そう。それはけっこうなことね」

「……」

 

 私の皮肉からしばらく、美樹 さやかと視線をぶつけ合う。

 譲らない視線に、自然と思いがこもる。

 あなたが円環の理の力を私から奪って、まどかの幸せを妨害するというのなら容赦はしない。

 あなたたち魔法少女と戦うことになろうとも、私はもう迷わない。

 睨みあいに埒が明かないと判断したらしい美樹 さやかは、まどかに向き直った。

 

「さ、まどかっとっとと学校にいかないと遅刻しちゃうよ」

「えっ……? あっ! 今日はいつもより早くでたのにー」

「あはは。ほら、とっとと走るー!」

 

 さやかは、まどかの背中を押して駆け出そうとするが、まどかは私に振り向こうと首を回す。

 どうにも私とまどかが一緒に居ることを美樹 さやかは許容してくれないらしい。

 私がしでかしたことを考えたら、当たり前ではあるのだけれど。

 

「ほむらちゃんは?」

「あー、ほむらは用事があるんだって、ね」

 

 私に振り返り、美樹 さやかはあくまで自然を装う。

 もう少し一緒に最後の時間を過ごしたかったけれど……いいわ。

 美樹 さやか、あなたの手のひらの上で今だけ踊ってあげようじゃない。

 

「ごめんなさい、まどか。用事を思い出してしまって。先に行っていてくれる?」

 

 まどかは目を瞬きさせて、心配そうな顔をする。

 私にまだ、そんな顔を向けてくれるのね。

 

「どんな用事かわからないけど……学校にはちゃんと来てね?

 いつも、ほむらちゃんどっか行っちゃうから……」

「えぇ、行くわ。授業もきっちり受ける、約束する」

「うん、じゃあほむらちゃん。またあとで」

「……さようなら、まどか」

 

 去り行くまどかの背中が本当に遠く見えてしまって、まどかへ聞こえないよう、まどかの進行を妨げるように吹いてきた逆風の風へ思いを乗せる。

 こんな言葉が耳に入ってしまえば、まどかはこんな私でも心配してしまう。

 私は自分で作った、まどかを幸せにできる世界を守る。

 あなたの心が私と幾星霜も離れてしまっても、この世界で繋いだ手は離さない。

 もう彼女を一人ぼっちになんて、させない絶対に。

 去り際に、さやかは私にだけ聞こえるようにして口を開いた。

 

「……放課後、屋上で待ってるから」

 

 それは誘いだった。

 

「それに従う必要が私にある?」

「あんたがこの狂った事態を早期に解決したいと思うなら、来ざるを得ないと思うけど。

 んじゃ、伝えたから。来るも来ないも、あんた次第だよ、ほむら」

 

 言うことだけ勝手に言って、美樹 さやかはまどかを追いかけて行く。

 美樹 さやかに従って屋上に行けば、なんらかの情報は得られると考えていいのかもしれない。

 魔女を退治しているだけで、この世界に起きた根本的な不具合の原因は判明するわけでもなく、今の私は情報を持っていない、八方塞の状態だ。

 そこに美樹 さやかが道を示すのなら、罠であろうとも誘いに乗ろう。

 屋上で戦闘になることは避けられないだろうけど、美樹 さやかは私にとっても、魔法少女の姿をしたもうひとりのまどかに匹敵するほどの懸案事項だ。

 彼女が円環の理と繋がり、以前とは比べ物にならないほどの力を現在も保持していることは、魔女を退治した素早さからも確定だろう。

 その力は決して侮れるものじゃない。

 今の私に宿る力も、円環の理と繋がっているから流れ出ている世界から外れた力だ。

 この力の異質さはよく分かっている。

 世界のルールすら書き換えられる力と繋がっている相手がいるのは、脅威に値する代物だ。

 相手が真正面に向かってきてくれる間に、もう一度封じておきたい。

 だから私は、美樹 さやかの誘いを受け入れよう。

 ひとつずつ、この世界を元に戻していくことこそが……まどかの幸せを守る一歩なのだと信じて。

 

 第九話「円環に導かれし魔法少女」終わり

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