スリーさんは透き通るCODEを作りたい 作:頂きに立った
衝動書きです
この作品は仮面ライダーゼッツのネタバレを含みます。ご注意ください。
目が覚めて、視界が開ける。
体が重い。自分の体じゃないのかと思うくらい、動くのに違和感があった。
「……ここは、どこだ?」
あたりは鬱蒼とした何かの施設? だった。明かりなどは一切無く、草が壁や地面にも生えている。
廃墟と言ったところか。
俺はボロボロのソファの上にぽつんと座らされていた。
状況が全く分からない。俺は、昨日まで会社で仕事を片付けていた筈だ。
夢かと思って頬をつねってみる。……痛い。どうやら夢ではないらしい。
混乱する頭で何とか冷静になろうと努めたが、それは目の前のテーブルにある
「えっ……これ、ロードインヴォーカーじゃん。……いや、なんかデカくね? まさかプロップ版!?」
テーブルの上に置かれていたのは、特撮番組『仮面ライダーゼッツ』にて敵組織が使用するアイテム「ロードインヴォーカー」だった。ワインレッドのボディに金の装飾が施されており、市販されているDX版より一回り大きい。
それだけではない。
ブレイカムブレイカー
エクストラカプセム
イレイスカプセム
クリアカプセムまで……
揃いも揃って全て劇中サイズ。一度手に取って確認してみるが、俺が持っている玩具とは明らかに違うことがよく分かる。
質感も、重さも、全くの別物だ。
その異様な光景を見つめているうちに、ある最悪な予感が脳裏をよぎった。
ソファからガバッと立ち上がると、自分の身体の違和感に気付いた。
「この服装、間違いなくあの人の服じゃねぇか……」
黒を基調としたスタンドカラージャケットに襟ピン。右人差し指には「3」と刻印されたリングが嵌められている。
いや、まだ決めつけるのは早い。まだ服装が同じってだけであの人と決まったわけじゃない。
何か顔を確認できるものは無いかとあたりを見回したが、鏡どころか水溜まりすら見つからない。
「どうしたもんか……」
そう呟きながらポケットを探ると、硬い手触りがあった。
引っ張り出してみると、それはCODEのエージェントたちが使用する通信端末「コードフォン」だった。
俺は恐る恐るカメラアプリを起動し、インカメラに切り替えて自分の顔を映し出す。
(頼むから外れてくれよ、俺の予想……!)
しかし、画面の映し出されたのは、見慣れた自分の顔ではなかった。
綺麗にパーマのかかった髪。目の下に濃く刻まれた隈。しかし、ひどく整った顔立ちをした大人の男──
「──はい、スリーさんですね〜」
知 っ て た。アイテムも服装も全てスリーのものだった時点で薄々察してはいたが、いざ現実を突きつけられると乾いた笑いしか出ない。
にしてもスリーさんかー。
仮面ライダーゼッツにて登場するヴィラン。合理的で冷酷な性格な反面、非常に強い支配欲を持ち合わせており、本編では因果応報とも言える末路を辿った。
というか、ゼッツ終盤の惨状はこいつが引き起こしたと言っても過言ではない。そういう意味じゃ戦犯キャラとも言えるだろう。
本編では純粋な悪として描かれていたけど、ビジュとopの
ん? じゃあここはゼッツの世界なのか? 嘘だろ!? だったら今はどういう状況!?
この感じ、転生したんだよね!!?
莫は!? ノクスは!? 誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
──えー落ち着きました。
あの後なんとか冷静さを取り戻した俺は、コードフォンを使ってこの世界の情報を調べることにした。もしここがゼッツ世界なら、今本編でいうと、どのあたりなのかを知らないといけないからな。
しかし、調べているうちに、ここがゼッツ世界じゃないことはすぐに分かった。
まず、この世界には「人間の大人」がいない。
「モモッター」とかいう既視感しかないSNSアプリで調べてみたところ、どの写真にも写っていたのは、JK JK ロボット JK 獣人 JK──といった感じで俺の知る世界とは全く異なるものだった。
さらに、どうやら高校生の女の子が各地域で自治を行なっているらしい。
その規模は様々で、『ミレニアム』『ゲヘナ』『トリニティ』といった大規模な学園にいたっては、もはや国と言えるほどの人口と面積を誇っている。
はっきり言おう。異常だ。
年端もいかない少女たちが政治や自治を行うなんて、いくら彼女たちが優秀だとしても限度がある。長年の経験や勘など、知識だけでは補えない要素が政治には必要な筈だ。
さらにこの世界、銃がその辺のショップで普通に販売されている。
どうやらこの世界の少女たちは肉体が異常に頑丈らしく、銃弾が直撃しても「痛い!」程度で済むらしい。
なんだその理不尽な耐久力は。ポケットに入っていた銃にビビり散らかしていた俺が馬鹿みたいじゃないか。
話を戻すが、その理不尽な耐久力も相まって、ここ『キヴォトス』ではあらゆる事象が過激だった。
銃撃戦は日常茶飯事、テロ行為も当たり前。どうやら『ブラックマーケット』と呼ばれる無法地帯もあるらしい。
うん、治安がどうかしてるぜ!
大人たちは何をしてるんだよ!!
……はぁ、調べれば調べるほど頭が痛くなってきた。
いくら俺の手元にロードインヴォーカーがあるとはいえ、変身(擬装)する前に襲撃されたら元の子もない。ここでは「変身中は攻撃しない」というニチアサのお約束も通用しないのだ。
こんな修羅の世界で、俺は生き残れるのだろうか……。
俺は手元のロードインヴォーカーに視線を戻す。
表面の金属は冷たく、持っているとずっしりとした重みを感じる。エクストラカプセムもあるので、やろうと思えばロードスリーに擬装できるかもしれない。
ずっと、夢を見ていた。
男の子なら誰しもが一度は抱くであろう「仮面ライダーになる」という夢。当然、俺もその一人だった。
変身ベルトを腰に巻いて、誰もいない部屋で何度も何度も変身ポーズを練習した。
その少年心は、いつまでたっても捨て去ることはできなかった。
高校生になり、大学生になり、社会人になった。
周りからは冷ややかな目線で見られることもあった。
その度に心にダメージを負いながらも、俺はひたすら特撮を見続けた。
そして今、目の前に本物の変身デバイス*1がある。
あまりに現実離れした状況のせいか、今の俺の心境は、不安5割、諦め3割、──そして、期待2割だった。
……コードナンバースリー。冷酷非道なCODEのエージェント。
極めて合理的な性格で、部下のことも「駒」としか思っていない純然たる悪役。
(もしかしたら、できるかもしれない)
俺は今、とんでもなく馬鹿げたことを考えている。
傍から見れば、痛すぎて、笑えないような妄想だ。
それでも──
「夢は、現実を超える……」
それは仮面ライダーゼッツの主人公である、万津莫の言葉。映画は見れなかったが、きっと人の想う力は無限大という意味なのだろう。
このキヴォトスには、必ず何かが隠されている。じゃなきゃ女子高生と機械と獣人が共存する世界になるはずがない。もしかしたら、誰かが作った創作物の世界なのかもしれない。
どちらにせよ、戸籍も歴史もない俺がこの世界の「異物」であることは確実だ。きっと俺はこの世界に必要ない。
──なら、好き勝手やっても文句は言われないよな。
せっかくスリーさんの肉体に憑依したんだ。これが夢でないのなら
「やってやるか、ロールプレイ」
とは言ったものの、スリーを演じる上で決めなければいけないことがいくつかある。
本来のスリーは極めて冷酷で「コードソムニアを使って世界を管理する」という肥大化した野望を持っていた。
いくらロールプレイとはいえ、俺には少女を痛めつける趣味も、世界を征服したいという大それた欲望もない。
そんなことすれば、破滅へと一直線だろう。
しかし、本編ではスリーというキャラは比較的謎が多いキャラだ。
なぜコードにいるのか
なぜエージェントになったのか
なぜ世界を管理したいのか
ここら辺が一っっ切語られていない。
お陰でスリーが本質的にヤバい奴なのか、コードで働く内に狂っていったのか分からずじまいだ。映画見てたら少しは分かったのかなぁ……。
……よし、今回は『コードソムニアが存在しない世界線でのスリー』として振る舞おう。
目指すは中盤までの視聴者評価──「冷酷で現実主義だけど、誰よりも真面目な中間管理職」このスタンスで動くことにする。
ぶっちゃけコードソムニア無くても、組織のトップに立とうとする可能性もあるけど、それは知らん。(横暴)
少し、いや大分都合の良い解釈だけど、やっぱり少女を殺すような悪党にはなりたくないんだよ。
そして、最終的な目標は
『極秘防衛機関CODEをこの世界に設立し、キヴォトスの秩序を守る』こと。
少女たちが銃ぶっ放して抗争を繰り広げる世界だ。裏で糸を引く脅威の一つや二つあってもおかしくない。
その脅威から世界を防衛する組織を作り上げる。
目標が決まれば、あとは行動するだけだ。
まずはこの場所の探索と、何より身の安全の確保を優先しよう。食べられそうな物もないし、ここが安全かどうかも分からない。
銃弾一発が致命傷になる普通の人間である以上、まずは慎重に動くべきだ。
俺は覚悟を決め、テーブルの上のロードインヴォーカーに手を伸ばす。
その瞬間──ロードインヴォーカーが粒子となって、俺の体に吸い込まれていった。
「おわっ!? 気持ち悪っ!!」
思わず手を引くと、ロードインヴォーカーは跡形もなく消え去っていた。
(まさか……)
(出てこい……!)
そう心の中で強く念じてみる。するとどうだろう、瞬きの間に俺の手にはロードインヴォーカーが戻っていた。
「こういう仕組みなのか……? まぁ、持ち運びには便利だからいいが」
ちなみに他のカプセムやブレイカムブレイカーも同じようにできた。
科学の力ってすげー
気を取り直した俺は、出口を探して歩き出した。
この廃墟はそこまで広い建物ではなかったようだ。崩れた壁の隙間から、光が差し込んでいる。
俺は周囲の邪魔な瓦礫をどかしてルートを確保する。それにしても、スリーの身体能力はすごい。かなりの大きさの瓦礫を、大した力も入れずに持ち上げることができた。
……よし、これだけやれば十分だろう。
目の前に広がる出口の光は、まるでこれからの道を祝福するかのように輝いて見えた。
俺はもう一度、心の中に「スリー」という仮面を深く下ろし、廃墟の外へと足を踏み出した。
「……眩しいな」
ずっと暗闇にいたせいか、自然と眉間に皺が寄る。
眩しさに目を細めながら、ふと見上げた空に
それはゼッツ世界のような不気味な赤い月でも、俺のよく知る月でもなかった。
「なんだあの輪は……」
青空の向こう側に、モモッターの画像で見た生徒たちの頭上にあるような巨大な輪が、悠然と浮かんでいた。実際に見てみると、あまりの迫力に圧倒される。
本当に訳の分からない世界観だ。
「……今のうちに、これも試しておくか」
危険な無法地帯に飛び出す前に、俺は一つのカプセムを出現させ、それを手先で器用に回す。
『クリア』
カプセムから山寺ボイスが鳴り響く。
次の瞬間、俺の身体の輪郭が次第に歪み、徐々に透け始め、やがて完全に周囲の景色と溶け込んだ。
「クリアカプセム」による透明化の力だ。
姿を消した俺は静かに歩みを進める。
これが平和な世界への第一歩と信じて
「動くな、そこにいるのは分かってる」
あの〜、クリアカプセムさん?
作者はブルアカにわかなので、何かご指摘があればコメ欄へお願いします。