スリーさんは透き通るCODEを作りたい   作:頂きに立った

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お気づきの方もいるかもしれませんが、この作品は原作に入るまでかなりの時間を要します
ご了承ください



Case4 渇く

 

 まず最初に感じたのは、強い日差しだった。しかし、不思議と暑くはない。

 

 次に目を開いた。開けると、視界の全てにどこまでも続く砂漠が広がっていた。 右を向いても、左を向いても、砂、砂、砂。辺りには見渡す限りの砂の水平線が広がるばかりだ。

 

 最初こそ驚いた俺だったが、すぐにこの状況の答えに気がついた。

 

 

「⋯⋯ここは、誰かの夢の中か」

 

 

 俺は重い溜息を吐き出した。

 そうだ、すっかり失念していたが仮面ライダーゼッツにはこの要素があった。対象の夢の中に潜入し、極秘裏にナイトメアを始末する──文字通り「夢のエージェント」としての仕事だ。

 

(と言っても、まさか勝手に、しかも強制的に発動するとは⋯⋯っ!)

 

 当然ながら、俺は夢への潜入方法なんてまともに教わっていない。

 明晰夢の力を使って夢をある程度コントロールできるとはいえ、使いこなせていない能力の方が圧倒的に多いのだ。これも全て、ドリームラーニングの思わぬ副産物のせいだろうか。

 

 俺は己の置かれた状況に不安を覚えつつ、思考を切り替える。

 

 

「とにかく⋯⋯ここにナイトメアがいる可能性があるなら、動くしかないな」

 

 

 俺は覚悟を決め、足を取られる砂の上を歩き始めた。

 

 ナイトメア──それは人間の夢の中に現れ、宿主の望みを歪な形で叶える凶悪な怪人の総称。

 迅速に討伐しなければ、いずれ現実世界へと顕現し、爆発的に感染・蔓延してしまう。そうなれば、このキヴォトスとて世界滅亡へ直行だ。

 

 本来なら、この世界にナイトメアなど存在するはずがない。

 しかし、現実としてスリーである俺がここに存在している以上、ナイトメアが呼び寄せられている可能性は十分に考えられる。

 

 何か大きな惨事が起きてからでは遅いのだ。

 

 焦る気持ちのまま足を前へ進めていると、砂丘の向こうに巨大な緑の影が見えた。

 

 オアシスだ。 ⋯⋯いや、それだけじゃない。巨大なビル群に舗装された道路──砂漠のど真ん中に、不自然な街が存在している。

 

(もしかして、あそこにこの夢の主がいるのか⋯⋯?)

 

 街を目指して移動を開始する。その道中、俺はハッと気づいて懐から一つのカプセムを取り出した。

 

「あっ、そうだ。いくら夢の中とはいえ、素顔を見られるのはマズいからな」

 

 カプセムを手に取り、その力を発動させる。

 

『クリア』

 

 サクナの反応から、俺はキヴォトスの中ではかなり特異な人間であることが分かる。いくら夢の中でも、もしかしたら覚えられるかもしれない。

 

 なんてったって『極秘』防衛機関CODEだからな。

 

 自分の姿が完全に消えたことを確認し、また歩みを進める。

 

 

 

 オアシスへと近づくにつれて、何やら賑やかな騒がしさが伝わってくる。 緑豊かなオアシスの周囲には、多種多様な屋台や賑やかなパフォーマンスステージが立ち並び、それを取り囲むように大勢の人々が笑い合っていた。

 

 それはまるで、盛大な祭りのようだった。

 

(砂祭り、か……)

 

 通りがかった掲示板のポスターを盗み見ると、そこには大きくその名称が躍っていた。 まさかこんな一面の砂漠で大規模な祭りを行っているとは……どうやら、かなり長い歴史を持つ伝統的なイベントらしい。

 過酷な砂漠環境での祭りだというのに、これほどまでに人が集まっているのは素直に凄いと感心させられる。

 

 ……と、そこで俺はある可能性に思い当たった。

 

(もしかして……ここに『夢主』がいるんじゃないか?)

 

 夢とは、その者の深層心理や切なる願望が形となって現れる世界だ。 もし夢主の秘めたる願いが「この砂祭りの開催・成功」だったとしたら──この場に本人がいる可能性は極めて高い。

 

 

「そうと決まれば、調査開始だな」

 

 

 俺はクリアカプセムの力で透明化したまま、気配を殺して祭りの雑踏の中へと散策を開始した。

 

 

「やったね、ホシノちゃん! 砂祭り、大成功だよ!」

 

「まさか本当に実現できるなんて、夢みたいですね……」

 

 

 楽しげに華やぐ声が耳に届き、思わず足を止めて振り返る。 声のした方には、二人の少女が並んで立っていた。

 

 一人は、豊かな薄グリーンの髪をなびかせた高身長の少女。

 そしてもう一人は、ピンク色の髪をした小柄な女の子だ。

 

 会話から察するに、ピンク髪の子が『ホシノ』という名前らしい。背丈は隣の緑髪の少女の胸元ほどしかなく、その瞳は青と金の美しいオッドアイだった。

 

(まさか、あの子たちのどちらかが夢主……?)

 

 いや、早急な断定は禁物だ。

 俺は息を潜め、透明な影となって二人の後を追うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 後をつけてしばらく経ったが、二人は祭りを楽しんでいるだけで、特に目ぼしい出来事は起こらなかった。

 

 ナイトメアが現れる気配もないし、彼女たちがこの夢の主(夢主)だという決定的な証拠も掴むことができない。

 

 

(……なんの成果も、得られませんでしたぁぁぁ!!)

 

 

 心の中で某調査兵団のような絶望を叫びつつ、もう一度彼女たちに視線を動かす。

 

 緑髪の少女──ユメは、ホシノに軽く注意されながらも楽しそうに笑っていた。

 

 ホシノもそんなユメに呆れたような溜息をつきつつ、どこか嬉しそうに表情をほころばせている。

 

(いいコンビだな。喧嘩は絶えなさそうだが)

 

 二人の和やかな雰囲気に少しほっこりしつつ、別の場所を調査しようと踵を返した。

 

 ──そうして、後ろを振り向いた瞬間。

 

 

『ソレ』が、そこにいた。

 

 赤と桃色の中間、薄暗く発光する禍々しい靄のようなものを纏い、胸にはノートを想起させる歪んだ長方形状のヘイローを思わせる発光物。

 

 周囲には大勢の観客や祭りを楽しむ人々が行き交っている。

 

 その雑踏の人混みのただ中に、ぽつんと佇むソレは──あまりにも異質で、それでいて不気味なほど自然だった。

 

 自分でも何を言っているのか分からないが、そうとしか言いようがない。

 

 ゾッとするような違和感に背筋が凍りつき、混乱しながらも瞬時に屋台の陰へと身を隠す。

 

 今はクリアカプセムの力で透明化しているため、まだあちらには気づかれていないはずだ。

 

 息を潜め、荒くなりかけた呼吸を必死に整える。

 少し冷静さを取り戻すと、俺は頭をフル回転させて現状を分析し始めた。

 

(あいつはなんだ……ナイトメアか? にしては雰囲気が……いや、本編でもナイトメアの姿は多種多様だった。見た目の印象だけで判断するべきじゃない)

 

 もしかしたら、俺と同じようにこの世界に紛れ込んだ転生者かもしれない。

 

 そんな可能性すら頭をよぎった、その時だ。

 

『ソレ』が、ゆらりと足を踏み出し、ゆっくりと歩き始めるのが見えた。

 

「ゆ ゆめせ んあゆ」

 

 掠れた、壊れたノイズのような声。

 

 奴の視線の先にあるのは──ユメだ。

 

 

(あいつ、ユメを狙っている……!?)

 

 

 ターゲットを理解すると同時に、思考よりも先に身体が動いていた。

 

 透明化が解除されるのも意に介さず、俺は人混みを強引に押し分けて飛び出す。

 

「──っ!?」

 

 ソレがこちらに気づいて振り返った瞬間、俺は空間そのものを力任せに掴み取った。

 

 明晰夢の力だ。

 

 俺は夢の空間を無理やり捻じ曲げ、ナイトメア(仮)もろとも、祭りの喧噪から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

(これが『明晰夢』の力──夢そのものを書き換え、操る力か。……思い通りに扱うには、もう少し特訓が必要だな)

 

 空間を捻じ曲げて転移した先は、打って変わってとある不気味な一室だった。

 

 この景色には見覚えがある。

 ゼッツ本編の『Case 20』で登場した、あのファイブの拷問部屋だ。 薄暗く不快な視界、無機質に設置されたフェンスや鉄柱。

 明晰夢の力を使うのはこれが初めてだったはずだが、身体の感覚が覚えているのだろう。驚くほどスムーズに空間を再構成することができた。

 

(さて……第一関門はクリアだ。次は『対話』といこう)

 

 俺の目の前には、あの『ソレ』──ナイトメア(仮)が佇んでいた。

 

 急激な環境の変化に一瞬戸惑いを見せたものの、周囲の状況を把握するや否や、こちらへ刺すような鋭い殺気を飛ばしてくる。

 

 その姿はどう見ても怪物にしか見えないが、万が一俺と同じ転生者という可能性もゼロではない。誤って人間を殺してしまうなんて絶対に御免だ。

 

「おい貴様、一応聞いておくが俺と同じ転生者じゃ──」

 

「どけ、そこからどけ!」

 

 

 あー……うん、ダメですねこれ。話が一切通じない。

 もし仮に中身が人間だったとしても、こんな殺気全開で襲いかかってくる奴と協力なんてできるわけがない。

 

 俺は即座に思考を切り替え、胸元へロードインヴォーカーを装着しようと手を伸ばす。

 

 ──だが、その一瞬の隙を『ソレ』は見逃さなかった。

 

 ガァンッ! と鉄骨を蹴り飛ばす凄まじい脚力で、ナイトメアが俺の喉元へ向けて一気に跳び出してきた。

 

(速い……!)

 

 ナイトメアの速度は凄まじい。 俺がカプセムを取り出す前に仕掛けられたため、今からロードインヴォーカーを装着して擬装するのは確実に間に合わない。

 

(なら──ッ!)

 

 俺は力任せに体をねじり、跳びかかってきたナイトメアの爪撃をギリギリのところでかわす。

 頬をかすめ、わずかに痛みが走った。傷がついたかもしれないが、ここは夢の中だ。後で『ブラックケース』さえ起きなければ何の問題もない。

 

 俺は即座に体制を立て直すと、腰から『ブレイカムブレイカー』を突き出し、再びナイトメアと対峙する。

 

 ……互いに動かない。不気味な暗闇の拷問部屋に、重苦しい静寂が落ちる。

 

 互いの間合いを探り合い、視線を交錯させる牽制の時間。

 

 ──その均衡を破り、先に動いたのは俺だった。

 カプセムを取り出しブレイカムブレイカーのスロットにはめ込む。

 

 

『ブレイカムディバイド! 」

 

 

 音声が室内に響き渡ると同時に、俺はブレイカムブレイカーを上段から勢いよく振り下ろした。

 

「?」

 

 しかし、何も起こらない。端から見れば、俺がただ何もない空間に向けて虚しく空を切ったようにしか見えないだろう。

 

 だが──。

 

「……な!?」

 

 突如として、ナイトメアの身体を包んでいた黒い靄が激しく霧散した。

 

 クリアカプセムの力だ。刃そのものを透明化させ、不可視の斬撃として放つ。 

 

 間髪を入れず、俺は姿の見えない刃をナイトメアへ向けて容赦なく浴びせ続けた。

 

「これはなんだ!」

 

 不可視の連撃に晒され、悲鳴を上げるナイトメア。

 

 

「これで終わりだ」

 

 俺はもう一度、カプセムを回した。

 

 

 

 

『ブレイカムディバイド! 』

 

 

 

「ああああああああああああああああ」

 

 

 

「ごめんな さ」

 

 

 どれほど強固な怪人とて、姿の見えない刀舞に延々と晒され続ければ耐えられるはずもない。

 

 ナイトメアは最後に今までと比べて非常に小さいノイズを零しながら、ついに塵となって消滅していった。

 

 

 

 

 

 

「……はぁぁ……疲れた……」

 

 緊張の糸が切れ、その場に崩れ落ちそうになるのを必死で耐える。

 それと同時に、胸の奥から強烈な敗北感と自己嫌悪がこみ上げてきた。

 

(……それにしても、なんて酷い戦いだったんだ。あんな力押しの乱打、絶対スリーの戦い方じゃない……!!)

 

 スリーならもっとクールに、洗練された無駄のない動きでスマートに追い詰めるはずだ。

 心の中で盛大に猛省しつつ、俺は思考を撃破した『ソレ』へと切り替えた。

 

 

(……あいつは、何だったんだ……?)

 

 

 一応、状況から察して『ナイトメア』と呼んではいたが、倒した後の挙動があまりにもおかしかった。

 ゼッツ本編のナイトメアなら、消滅した後は紫の粒子となって霧散し、紫の胡蝶が舞うはずだ。しかし、今回のあいつにはそのどちらも現れなかった。

 

(カオスカプセムによって人為的に作られた個体でないのは確定として……ならあいつはナイトメアじゃないのか? だとすれば、一体……?)

 

 どれだけ思考を巡らせ、知識を引っ張り出しても、答えにたどり着ける気配は一切なかった。

 

「……ダメだ、考えても拉致が明かない。一旦、砂祭りの場所へ戻ろう」

 

 ユメ先輩とホシノの姿が頭に浮かぶ。 もしあんな異形が他にも潜んでいるのだとしたら、二人の身が危ない。

 

 俺は再びクリアカプセムを発動させて姿を消すと、集中を高めて空間を強く意識した。

 

(頼むぞ……!)

 

 明晰夢の力で現実と夢の境目を力任せに捻じ曲げ、俺は再びあの賑やかな砂祭りの会場へと空間を向かった。

 

 

 

 

 

「ユメ先輩、早く来てください! もうすぐ次のイベントが始まりますよ!」

 

「ひぃん……待ってよぉ、ホシノちゃあん……!」

 

「主催者なんですから、もっとしっかりしてください!」

 

 空間の歪みから抜け出すと、耳に飛び込んできたのは聞き覚えのある騒々しい声だった。

 

 ──良かった。どうやら二人とも無事だったみたいだ。

 

 砂祭りの会場に戻り、人混みの中に二人を見つけることができた。 二人とも先ほどまでと変わらず、あーだこーだと軽口を叩き合いながら、仲良さそうに祭りを楽しんでいる。……いや、少なくともユメ先輩の方は、主催者としての忙しさで祭りどころではなさそうだが。

 

 ひとまず、危機は去ったのだろうか。 本来、ナイトメアは『一つの夢につき一体』しか宿ることができない。もし先ほどの『ソレ』が本物のナイトメアだったのだとすれば、撃破した以上はこの夢の安全は確保されたはずだ。

 

 しかし、あの異形の正体が分からない現状では、決して手放しで安心することはできない。

 

(……取り敢えず、このまま監視を続けるか)

 

 ナイトメアの脅威を侮ってはいけない。 たった一体でも取り逃せば、いずれ現実を浸蝕し、世界を終わりに導く悪魔なのだから。

 

 ただ──そんな張り詰めた危機感も、目の前で繰り広げられる二人の騒々しくも愛おしいやり取りを見ていると、すっと自然に解けていくのが分かった。

 

 

「いい夢見ろよ」

 

 

 ぽつりと呟いた俺の言葉は、祭りの賑やかな喧噪の中に溶けていき、二人に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ……さて。

 

 二人を見守りつつ、俺はふと大きな問題にぶち当たった。

 

(……ところでこれ、どうやって現実に帰るんだ……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……寝てるはずなのに、酷く疲れた……)

 

 目を覚まし、体を起こして最初に出た感想がそれだった。

 

 あれから一時間強、俺は透明化したまま二人の監視を続けた。幸いにも、再びあの異形が襲ってくることはなかったが、その間ずっと気を張り詰め続けていたため、精神的な疲労が半端ではない。

 

 おかしいな、俺は体を休めて眠っていたはずなんだが……。

 

 重い頭を振って溜息をついていると、正面に立っていた彼女とふと視線が交差した。

 

 

「……来ていたのか」

 

「あぁ、今度はお前が答える番だぜ」

 

 

 起きたらまずは情報収集と、食料および水の確保を──などと考えていたが、そんなものはすべて後回しだ。

 

 俺はサクナへと向き直り、座っていたソファーからおもむろに立ち上がった。

 

「さて、じゃあアタシにも聞かせてくれるんだろうな? その計画ってやつを」

 

 真っ直ぐに俺を見据えるサクナの瞳には、昨夜までの迷いは微塵も残っていなかった。

 

「ああ。まずは──」

 

 俺は胸ポケットからコードフォンを取り出し、端末の液晶に一つの画面を表示させる。

 その画面をサクナの目の前へと突きつけると同時に、俺は平然とこう言い放った。

 

「まずは……こいつらから始めるぞ」

 

「これは……」

 

 画面に躍る怪しげな顔写真と提示された懸賞金額を覗き込み、サクナが眉をひそめる。

 

「指名手配犯?」

 

 

 

 

 

Our next mission

 

Secure immediate fundings(当面の資金を集めよ)

 

 





無理やりにでもブルアカ✕ゼッツ要素を入れたかった

次の更新は多分遅れます
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