スリーさんは透き通るCODEを作りたい 作:頂きに立った
やっぱオリキャラ多いって
視界に映る景色が目まぐるしく移り変わっていく。 暗い路地裏から、人の多い大通り。公園を駆け抜け、ビルの屋上へ。
ここまで遮二無二走ってきたというのに、あいつは離れるどころか、むしろ着実に距離を詰めてきやがる。
(くそっ! なんでこんな事になったんだよ!? あたしゃ何もしてねえぞ!?)
直視はしていないため確証はないが、背後から殺気を撒き散らして追いかけてきている影。あれは間違いなくあの宇和島サクナだ。
(なんでだ!? あいつは自分にちょっかいを出してくる奴にしか手を回さないはずだろ!!?)
逃げながら混乱した頭を必死に回転させ、ここ最近の自分の行動を振り返る。
万引き、脅し、カツアゲ……別段、普段と変わったことはしていない。どれもサクナ本人に直接的な被害を与えるようなものじゃないはずだ。
(なのになんでこうなった!?)
いくら頭を捻っても答えは出ない。だが、今一番重要なのは──とにかくあいつから逃げ切ることだ。
正直、サクナと正面からバカ正直に殴り合っても勝てる道理がない。腕っぷしにはそれなりに自信がある方だが、あいつは文字通り『格』が違う。だから今は、意地でも逃げ切る以外の選択肢がないのだ。
(確か、ここを右に折れれば隠し通路が──)
パーンッ!
「チィッ……!」
いつもの脱出ルートへ飛び込もうとした瞬間、足元を穿つ鋭い銃撃に動きを阻まれる。
クソッ、仕方なく進路を左へと変更するが、こちらからあいつを巻くルートなんて思いつかない。
(とりあえず、前へ進むしか──)
その瞬間だった。
──シュンッ。
高く短い、独特な発射音が耳を叩く。サイレンサーでも使っているのだろうか。あまりにも近く、唐突に響いた音。
その直後、頭部にガツンと重い衝撃が走った。遅れて激痛がやってくる。
(え……?)
急速に薄れゆく視界と意識の中、必死に音が聞こえた方角へと振り返る。
しかし──そこには、誰もいない。路地裏の空間がただ広がっているだけだ。
じゃあ、一体誰が……?
あたしの意識は、そこで完全に途切れた。
「なんか……すげぇ卑怯なことをしてる気がする……」
「卑怯もクソもあるか。資金調達にはこの方法が一番効率的だ」
「それは分かるんだけどよぉ……」
俺とサクナ──コードナンバー:ウーヌスは、先ほど仕留めた指名手配犯を観察していた。 指名手配犯が確実に気絶していることを確認し、彼女の両手足をロープで縛り上げていく。ちなみにこのロープはサクナの自腹だ。
「じゃ、アタシはこいつをヴァルキューレに突き出してくるわ」
「あぁ、またここで落ち合おう」
そう言うと、ウーヌスは指名手配犯を軽々と肩に担ぎ、疾風のような勢いで駆け出していった。 本当に人を担いで走っているのかと疑いたくなるほどの爆走ぶりだ。やはり、彼女をこちら側に引き込んで正解だったな。
「さて……少し休むか」
『クリア』カプセムを起動して透明化した俺は、壁に背を預けてそっと目を瞑る。
先ほどの指名手配犯の懸賞金はなかなか高額だったため、ここ数日は資金に困ることもないだろう。俺とウーヌスの連携も初回にしては完璧だった。
この調子で金を溜めていけば、キヴォトスでも十分に生きていけるかもしれない。
……だが、それじゃダメなんだ。
俺が目指しているのは、極秘防衛機関『CODE』の完全設立。こんなところで満足しているわけにはいかない。
どんなルートでCODEを立ち上げ、設立した後はどう運用していくのか。ある程度のビジョンは見えているが、そのためには莫大な資金が必要になる。それこそ、賞金稼ぎレベルでは到底溜まらないほどの額だ。
(……やはり、あそこを使う他ないか)
そんな思考を巡らせていた、その時だった。
カサリ、と近くで足音が響いた。 誰か来たのかと思い、とっさに物陰へ身を隠す。
だが──その足音の間隔は妙に長く、どこか弱々しい。 そしてドンッという鈍い音とともに、足音はパタリと途絶えた。
あのー、すっげー嫌な予感がするんですけど。
「スリー、お前……いくら金が必要だからって……」
ヴァルキューレから戻ってきたウーヌス(サクナ)が、俺に心底軽蔑するような目を向けた。
「お前、何か勘違いしてないか?」
「してないもクソもあるかよ」
責められる筋合いはない。その原因と言えるのが、俺たちの足元で眠っているこの少女だ。
恐らくさっき聞こえた弱々しい足音の主だろう。音が途絶えた場所に彼女が横たわっていたのだ。
倒れている人間を見てしまった以上、放置しておくわけにもいかない。俺は少女を抱きかかえ、人目のない物陰へと運び込んで応急処置をしていたわけなのだが……。
「さすがに『生徒の誘拐』は考えつかなかったぜ。それにそいつ、制服を見る感じトリニティだろ? 無事に突き返せば結構な金になるな」
もう一度、眠っている少女へと視線を落とす。
淡い桃色の髪に、腰から生えた可憐な羽。そして白い制服。コードフォンで検索した『トリニティ総合学園』の制服で間違いなさそうだ。ただ、服は全体的に泥や煤で汚れており、写真で見たようなお嬢様学校の煌びやかさはない。
「馬鹿言うな。俺は倒れていたこいつを見つけて介抱していただけだ」
「冗談だよ。分かってるって」
呆れ顔でウーヌスを諌める。……いや、本編(原作)のスリーなら本当に身代金目的で拉致しかねないが、俺にそんな酷い真似ができるわけがない。
ウーヌスも表情を神妙なものに変え、かがみ込んで少女を覗き込んだ。
「にしても、なんでトリニティの生徒がこんな所に……? 一般生徒なら、ブラックマーケットの場所すら知ってるかどうか怪しいはずだぞ」
首を傾げるウーヌス。まったくもってその通りだ。
ブラックマーケットは、前世のスラム街も青ざめる無法地帯。キヴォトス屈指のお嬢様学校であるトリニティとは、本来なら縁もゆかりもない場所のはずなのだ。
「訳ありなんだろ。何があったのかは知らんが……」
「で、こいつどうする? このまま放置ってのも後味が悪いぞ」
「それは……」
「う〜ん……」
二人で腕を組み、どう扱うべきか思考を巡らせていると──少女の指先がピクリと動いた。
(あっ……これ、もう起きる感じか!?)
「おい、こいつ起きそうだぞ! 早くクリア使え!」
「言われなくても……!」
俺は慌てて懐から『クリア』のカプセムを取り出す。 一般生徒に俺(ヘイローのない謎の男)の姿を「今」見られるのは極めてマズい!
「あ……あなたたちは……?」
『クリア』
「「あ゙」」
──起きてしまった。透明化するよりコンマ数秒早く。
少女とバッチリ目が合った直後、俺の身体は徐々に透けていき、やがて完全に透明化した。
……もう遅いです。完全に目撃されました。
「え……えええええええええええ!!???」
少女は寝ぼけ眼をカッと見開き、ブラックマーケットの路地裏に絶叫を響かせた。 無理もない。目を覚ました直後、ヘイローのない不審な男が目の前で「あ゙」と言いながら透明になって消えたのだ。状況が変すぎる。
パニックに陥った少女は、ワタワタと手を振り乱しながら、すぐ近くに立っていたウーヌスに駆け寄った。
「あ、あのっ! さっきの、一体なんだったんですか!? 見えてましたよね!?」
「あ~……なんのことだ? アタシは何も見てないぞ」
「嘘つかないでください! さっき思いっきり二人で『あ゙』ってハモってたじゃないですか!?」
う〜ん、完全に面倒なことになった。 この子、察しも筋も良さそうだから、このままシラを切り通すのは到底無理そうだ。かといって、結成したばかりの『CODE』や『ノクスナイト』の機密をこんな一般生徒に明かすわけにもいかない。
(……やはり、イレイスカプセムで記憶を消すしかないか)
そう思考を巡らせた、まさにその矢先。
「とにかく、話してくださ──あっ」
「おっと……おい、大丈夫か!?」
急に足元をふらつかせた少女の身体を、ウーヌスが咄嗟に受け止めた。
「す、すみません……っ。ちょっと、よろけただけですので……」
申し訳なさそうに身を縮め、少女はウーヌスから離れようとする──が、足元は生まれたての小鹿のようにフラフラだ。立っているだけでも限界なのが見て取れる。
「意地張ってないで、ちょっと休んでろ。ほら、水でも飲め」
ウーヌスから差し出されたペットボトルを、少女はおずおずと受け取り、喉を潤す。
……まさかこの子、水分や食べ物を碌に摂取していないのか? 知れば知るほど、この少女の置かれた状況の謎が深まっていく。
そんな俺の思考を見透かしたように、ウーヌスがクイッと手招きをした。
俺の姿こそ消えているが、彼女の優れた聴覚なら俺の立ち位置くらい容易に把握できるのだ。俺は足音を殺しながらウーヌスの隣へと移動する。
ウーヌスは少女に聞こえないくらいの小声で俺に問いかけた。
「……どうするんだよ、スリー。こいつの記憶、本当に消すのか?」
ウーヌスの問いに、俺は答えあぐねる。
イレイスカプセムを使う──つまり彼女の記憶を消すということは、俺たちが彼女の事情から完全に手を引くということを意味する。
一応、彼女の記憶を消した後にウーヌスへ対処を一任する選択肢もあるが……いや、ウーヌスはすでに『CODE』の一員だ。中途半端に関わらせるのは、彼女にとってもCODEにとっても喜ばしいことじゃない。
でも、こんな満身創痍の少女を放置して手を引くのもな……。
(どうしたものか……)
そう頭を抱えていた、その時だった。
──ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ。
路地裏の静寂を切り裂いて、盛大なお腹の鳴る音が響き渡った。 チラリと視線を向けると、少女は顔をリンゴのように真っ赤にして俯いていた。
「……なあスリー、もう全部言った方がいいんじゃないか? 腹を減らして倒れそうな奴をこのまま見過ごすなんて、アタシにはできないぞ」
ウーヌスの言葉には、強い意志が込められていた。
かつて自分が過酷な境遇にいたからこそ、弱者を見捨てられないのだろう。この顔をされたら、もう何を言っても曲げそうにない。
「……はぁ、仕方ない。トリニティへ引き渡すまでだ。それまで面倒を見てやる。戻る目処が立ったら、最後に記憶を消す」
「よし、分かった! そこからはアタシに任せろ!」
俺が渋々了承したのを確認すると、ウーヌスはパッと表情を明るくして少女の方へ戻っていった。
「待たせて悪かったな。ちょっと『あいつ』と話し合ってたんだ」
「あ、あいつって……さっきの男の人ですか?」
「そうそう。あの顔色の悪いやつ」
「お知り合いなんですよね……? そんなに悪く言って大丈夫なんですか……?」
「良くないぞ」
「ですよね……って、えぇぇ!!?」
俺は透明化を解除し、いつの間にか少女のすぐ隣に立っていた。
ごめんよ。本当ならもうちょっとエージェントらしく格好良く登場する予定だったんだが、ウーヌスがあまりにも適当なことを言うから思わず姿を現してしまった。
少女は再び大きく目を見開く。だが流石に驚き疲れたのか、先ほどよりは幾分か冷静な様子で俺を観察し始めた。
「や、やっぱりヘイローがない。大人の、男性……?」
「そんなに畏まらなくてもいいぞ。こいつ、実質アタシのヒモみたいなもんだから」
「お前はなんでいちいち誤解を招く発言をするんだ」
「なんか、思ってた大人と違う……」
少女はどこか遠い目をして、俺とウーヌスを交互に見つめる。おいウーヌス、てめぇ後で絶対に覚えとけよな。
──ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ。
またしても、聞き覚えのある可愛らしい音が路地裏に鳴り響いた。
少女を見ると、再び顔を真っ赤にして勢いよく俯く。……う~ん、デジャヴ。
「まあ……とりあえず、何か食べるか」
少女は無言のまま、コクリと顔を縦に振った。
「遅くなりましたが……この度は本当にありがとうございました」
少女は俺とウーヌスに向かって、深く丁寧に頭を下げた。
その洗練された一礼は『淑女』と呼ぶに相応しく、改めて彼女が伝統あるお嬢様学校の出身であることを再認識させられる。
俺たちはとある公園のベンチ──昨日、サクナと冷えたたい焼きを食べた、あの公園にいた。もちろん、今回もあの店のたい焼きを買ってきてある。
二人掛けの小さなベンチのため、ウーヌスと桃髪の少女が並んで座り、俺はその横に立つ格好になっていた。
「まあまあ、気にすんなって。ほら、冷めないうちにたい焼きでも食べようぜ」
ウーヌスが少女へ向けて、包みから取り出したたい焼きを差し出す。
元々姉御肌だったのだろうか。ウーヌスはこの少女と合流して以降、何かと甲斐甲斐しく気にかけていた。お陰で先ほどまでの気まずい空気もかなり和らいでいる。
「あっ、ありがとうございます。……えっと、そういえばまだお名前をお聞きしていませんでしたね」
「そういえばそうだな。アタシの名前は宇和島サクナ。今は『コードナンバー:ウーヌス』って名前でやってる。んで、横にいる怪しいやつは──」
「……コードナンバー:スリーだ」
「って感じだ。まあ一応、アタシの上司だな」
「ヒモ……ではなかったんですね」
「頼むからヒモ呼びはやめろ」
ウーヌスの余計な一言のせいで、致命的な第一印象が植え付けられていた。……手遅れになる前に訂正できて本当に良かった。
「では、次は私の番ですね。──トリニティ総合学園一年、朝霧(あさぎり)ナコと申します」
「ナコ、な! これからよろしく頼むぜー!」
ウーヌスはパッと明るい笑みを浮かべ、ナコへ親しげに語りかける。 もしこの場にウーヌスがいなかったら、俺一人でどう対応していたことか……想像するだけでも恐ろしい。
そんな俺の安堵を余所に、ウーヌスはいそいそと紙袋から人数分のたい焼きを取り出し始めた。
「よし、自己紹介も済んだことだし、あったかい内に食べちゃおうぜ!」
手際よく俺とナコに手渡していく。
一口齧ると、いつも通りの優しい甘さが口いっぱいに広がった。やっぱりすごいな、この店のたい焼きは。
それからしばらく他愛のない雑談を続けていたが、話の口火は自然とCODEのことへと移っていった。
たい焼きを買いに移動する道中、CODEの概要については一通り説明してあったのだ。つまり彼女はCODEについての一通りの知識を備えている状態にある。
まあ、最終的に記憶を消すのだから、話してしまっても問題ないだろう。
「で、そのCODEのことなんですけど……その……」
「分かる。急に防衛組織だの言われても混乱するよな。分かる分かる」
ウーヌスがウンウンと深く頷きながら、どこか遠い目をして同意していた。お前がそれでいいのか。
「なんとでも言え。俺は必ずCODEを完成させてみせる」
「じゃあ、まずはアタシのヒモから卒業しないとな」
「だからヒモ扱いはやめろ。くどいぞ」
「事実だろ!」
そんな不毛な問答を延々と続けていた。
正直、大人として問題がありすぎる気がするが、こればっかりは譲れない。あのスリーをヒモ扱いされるなんて、俺の特撮オタクとしてのプライドが断固として許さないのだ。
そんな俺たちのくだらない喧嘩を、ナコは楽しそうにあははと笑いながら眺めている。
眺めながら──。
「あ……あれ……? なんで……?」
違う。 笑ってなんて、いなかった。
ナコの瞳からぽろぽろと大粒の涙が溢れ出し、彼女の頬を濡らしていた。 ナコ本人すら、なぜ自分が泣いているのか分かっていない様子で、困惑したように目元を拭う。
俺とウーヌスは一瞬狼狽えたものの、すぐさまナコの元へと駆け寄った。
「おい、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です……っ。すぐに、泣き止めますから……っ」
「無理すんなって。とにかく、ゆっくり息吐け」
ウーヌスは背中に優しく手を添え、語りかける。
その温かい言葉と手つきに背中を押されるように、ナコは溢れ出る涙を止められずにいた。
数分が経過し、少し落ち着きを取り戻した後、ナコは恥ずかしそうに静かに口を開いた。
「……すみません。お見苦しいところをお見せしてしまって……」
「気にすんな。お前が少しでも楽になったなら、それでいいんだよ」
公園に静寂が戻る。 ウーヌスも、ここからどうやって事情を聞くべきか迷っている様子だった。
(ここは……俺が行くしかないか)
「なぁ、ナコ」
「はい……」
「もし良かったら……何があったのか、俺たちに教えてくれないか。俺たちで良ければ、話を聞くぞ」
横でウーヌスが力強く頷く。 ナコは少しの間俯き、零れ落ちそうな感情を必死に抑え込むと、何かを決心したように顔を上げた。
「……分かりました。実は、私──」
「トリニティで、いじめを受けていたんです」
UA10000感謝です
これからもよろしくお願いします