観客席の男 ―ここまで遊んでくれてありがとう!   作:ザキグン

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幕間  止まっていた雷が、再び動く

雷は、落ちる場所を選べない。

かつてのヴェスナは、そう思っていた。

空へ昇った熱が雲を作り、雲の内側で力が膨れ上がり、耐えきれなくなった瞬間に地上へ落ちる。

誰がそこにいるのか。

何を焼くのか、何を失うのか。

雷そのものは、そんなことを考えない。

ならば、自分も同じでよいのだと。

求められた場所へ立ち、命じられた相手を撃つ。

皇太子の隣で、帝国の敵を焼く。

それが天才として生まれた自分の役割なのだと。

 

 

三年前までは。

 

 

「――《天雷収束》」

ヴェスナが右手を掲げる。

ヴァイセンベルク帝国魔導院の演習場。

黒い石板で囲まれた広大な区画の中央に、十六基の標的が並んでいた。

人型、騎兵型、結界型と様々な標的。

そして、その間には、味方役として白い布を巻かれた人形が配置されている。

薄曇りの空に、青白い光が走った。

一条……、二条……、いや、違う。

最初は一本に見えた雷が、落下の途中で十六へ分かれた。

 

轟音と共に、人型の標的だけが砕ける。

騎兵型は馬を模した部分を傷つけず、騎手の胸だけを穿たれた。

結界型は外殻の魔力膜だけが焼き切れ、内部の標的は無傷。

味方役の白い布を巻かれた人形には、煤一つついていない。

 

最後の雷光が消える。

空気に残っていた魔力の震えも、ヴェスナが指を閉じると同時に静まった。

演習場の外周で見守っていた魔導士たちが、しばらく声を失う。

やがて、年嵩の男が息を吐いた。

「見事です、ヴェスナ殿」

帝国魔導院の上級術師……宮廷から派遣された監督役でもある。

「広域雷術を十六へ分割。そのうえ標的ごとに威力を変え、味方役への誘導を完全に除外するとは」

「標的ですもの」

ヴェスナは上げていた手を下ろした。

青紫を帯びた淡い銀髪が、残った風に揺れる。

「動かない相手なら、この程度は当然です」

「この程度、とおっしゃる」

男は苦笑した。

「帝国広しといえど、雷術であなたに並ぶ者は数えるほどでしょう」

 

並ぶ者は数えるほど……、三年前なら、その言葉に満足していたかもしれない。

いずれは誰も届かない場所……、帝国最強の魔術師へ。

皇太子の隣へ立つに相応しい存在へ。

それが自分の進む道なのだと、疑わなかった。

だが、今は違う。

 

強くなったのは間違いない。

以前の自分なら、一つの標的を焼き尽くすことしかできなかった。

今は、撃つ相手を選べる。

威力を選べるし、途中で止めることもできる。

雷の進路を決めるのは、空ではない……自分だ。

それを知った……いや、知ってしまった。

 

けれど。

どこへ落とすべきなのか、それだけが、今も分からない。

「本日の演習は以上でよろしいでしょうか」

ヴェスナは尋ねた。

「ええ。宮廷への報告には、また最高評価を記すことになるでしょう」

「ご随意に」

一礼し、背を向ければ、見学していた若い魔導士たちが、道を開ける。

その視線には、尊敬、羨望、そして畏れ……、いくつもの感情が混ざっていた。

 

雷公。

帝国の切り札。

皇太子殿下の婚約者。

次代の宮廷筆頭魔導士。

 

呼ばれ方はいくつも増えた。

けれど、そのどれもが、自分の名前より先に役割を告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

演習場を出ると、帝都の冬の空気が頬を撫でた。

白い石造りの塔。

幾重にも重なる城壁。

遠くに見える皇宮の尖塔。

街路には軍用馬車が行き交い、魔導院の制服を着た術師たちが忙しなく歩いている。

 

リュームリア侵攻が始まった。

 

軍部の動きに合わせ、魔導院にも補給用魔石と攻城術具の追加生産命令が下りている。

ヴェスナ自身にも、出陣要請が届く可能性は高い。

皇太子の婚約者として、帝国有数の雷術師として、断る理由はない。

少なくとも、表向きには。

 

皇太子との関係に問題などない。

帝国の方針へ異論などない。

自分は忠実で、有能で、期待どおりの女。

そう見えるように振る舞うことは、雷を十六へ分けるより簡単だった。

 

「ヴェスナ様」

背後から声をかけられれば振り返ると、そこには、皇太子付きの文官がいた。

「何かしら」

「魔導院宛ての戦闘報告です。西部戦線で未登録の風術および印術が確認されたため、分析をとのことです」

差し出された書類を受け取る。

一番上に、黒い封蝋の跡。

 

ヴァイセンベルク帝国軍、西方軍臨時司令部。

署名。

ディルク・ファルケンラート。

 

「黒曜の軍神から?」

「はい。ベルン砦周辺での交戦記録です。王子アルディスの捕縛には失敗したとのことです」

「まさか、ディルクがいて?」

思わず、問い返した。

帝国軍最強の槍将。

大陸に名を馳せる黒騎士団。

 

その二つが揃った戦場から、若い王子が逃れた。

 

その衝撃は、尋常ではない。

「正体不明の者による妨害があったと。詳細は報告書に」

「分かったわ。私が確認します」

「お願いいたします」

文官が去るが、ヴェスナはその場で封を開かなかった。

歩調を変えずに自室まで戻り、扉を閉め、施錠まで行い、さらに遮音結界。

そこで初めて、書類へ目を落とした。

 

 

 

 

 

彼女の机の上には、一冊の厚い帳面が置かれていた。

黒革の表紙は、角は擦れ、何度も開かれた跡がある。

ヴェスナが誰にも見せたことのない調査帳。

 

帝国各地の闘技場。

国境の宿場。

傭兵組合。

地方領主が催した武術大会。

無名の闘士。

黒い装束。

東方の片刃剣。

 

書かれているのは、一人の男を追った三年間だった。

 

最初の頁に、日付を記載。

場所、帝都外縁の闘技場。

その下に、短い記述。

平凡な顔立ちで黒髪。目を離すと、細部を思い出せなくなる。

戦術知識は異常で、未来を知っている可能性。

そして、決して名乗らず。

 

 

頁をめくる。

南部第三闘技場、黒い外套をまとった闘士の噂。

東方型片刃剣を使用、該当者かは不明。

 

 

皇都北区、地下試合場。

負傷した対戦相手へ回復薬を渡した無名闘士。

素顔の証言は一致せず。

 

 

国境街道。

野盗を無傷で制圧した旅人、黒髪。

平凡な顔で、翌朝には宿を出ていた。

 

 

どの線も途中で消えている。

追いついたと思えば、別人。

確証を得たと思えば、数か月前の噂。

闘技場へ現れたという報せを受け、私兵を使わず自ら赴いたこともある。

到着した時には、もういなかった。

名簿にも名前がなく、観客の証言も曖昧。

 

「黒い男だった」

「いや、灰色の外套だった」

「若かった」

「もっと年上に見えた」

「顔は普通だった」

「普通とは、どんな顔だった?」

「……思い出せない」

 

神出鬼没、その言葉は、あの男のためにあるのかもしれない。

三年間、礼を言うために……、そう思っていた。

なぜ自分の未来を知っていたのか、問いただすため……、そう言い聞かせていた。

なぜ救っておいて消えたのか。

なぜ自分だけを選択の途中へ置き去りにしたのか。

それを聞かなければならないから、だから探している。

 

そう……、ただ、それだけ。

他の理由などない。

 

ヴェスナは、机の前へ座った。

ディルクの報告書を開けば、最初は、通常の軍事記録として読む。

一つ一つの報告内容を、一行ずつ追う。

 

『旧見張り塔は、敵対者による支柱切断後、我が軍投石を誘導され崩落』

 

続きを読む。

 

『当該敵対者は、帝国兵へ致命傷を与えず、武器破壊および非致死制圧を優先』

 

胸の奥で、何かが小さく鳴った。

敵を倒せる力がありながら、殺さない。

 

報告書を持つ指へ、わずかに力が入った。

『使用武器は東方型片刃剣。ただし交戦時には再抜刀せず、鞘、体術、風術、印術を併用』

『片刃剣、複数系統を操り、状況に合わせた切り替えしが得意』

 

鼓動が速くなる。

 

 

『装束は黒で、外套内側に緋色。顔面を覆う面頬を使用』

 

『通称、《彼》』

 

 

息が止まった。

三年前のあの時……、その男が身につけていた、黒い装束と、内側に覗いた緋色。

見間違えるはずがない。

 

「……あなた」

 

声が漏れた。

報告書にあるのは《彼》。

ヴェスナが探していたのは、素顔の男。

だが、その二つが同一人物である可能性を、彼女はずっと疑っていた。

 

続きを読む。

 

当該敵対者は、ディルク・ファルケンラートと長期交戦。勝敗、決せず。

 

思わず、報告書を机へ置きかけた。

ディルクと、あのディルクと長期交戦して引き分ける。

ヴェスナとて、帝国軍の演習で彼を見たことがある。

 

完成された武人、その一言に尽きる豪傑。

 

魔術師である自分とは戦い方が違うとはいえ、正面から相対したいとは思わない相手だった。

その男と、勝敗が決まらなかった。

三年前のあの男は、確かに強かった。

けれど、帝国最強の槍将と並ぶほどとは……。

 

報告書の末尾へ視線を移す。

確認された奥義名――《緋月・無刀返し》。

知らない技、聞いたこともない。

帝国の武術書にも、東方の剣技録にも載っていない。

その場で編み出したのか、それとも、以前から持っていたのか。

 

けれど、ヴェスナの頭に浮かんだのは、ある光景だった。

追い詰められ、格好をつけ、勢いで技名を口にし、終わった後で、ひどく後悔する平凡な男。

彼の事をまだ知らないはずなのに、なぜか、3年前の踵を返す際に足をくじいた彼の様子から、容易に想像できてしまった。

 

報告書には、ディルク自身の追記があった。

 

なお、当人は技名を記録へ残すことに強く反対した。

 

ヴェスナの唇から、小さく笑いが漏れる。

ようやく届いた確かな記録。

その最初の感想が、笑いになるとは思わなかった。

 

「なんだか、あなたらしいわ」

声は、誰もいない部屋へ消えた。

 

 

 

 

 

 

報告書の添付資料を読む。

未知術式の分析依頼内容だった。

風術の出力は小さく、印術も大規模ではない。

だが、戦場の既存要素と組み合わせることで、結果だけを最大化しているように見える。

 

魔力の量ではない。

何を使い、いつ使い、何と組み合わせるか。

 

三年前、あの男が話していたことと同じだった。

――強い駒を、強い場所へ置く。

 

最初は、駒として扱われたのだと思った。

正直に言うと、言われた時はとても不愉快だった。

自分は人間で、盤上の木片ではない。

 

けれど、彼は続けた。

――置く場所を決めるのは、使う側だけじゃないだろ。

 

あの日の声が蘇る。

彼は、まるで一度見た物語を語るように、ヴェスナのその先を知っているかのように告げた。

初対面にしては、あまりに無礼で、あまりに荒唐無稽で。

それなのに、何故か……、否定できなかった。

その未来へ向かっている自覚が、どこかにあったから、だろうか。

 

「どうすればいいの」

あの時、ヴェスナは尋ねた。

本当は、答えを期待していた……、明確な道を求めたく。

けれど、男は肩をすくめただけだった。

 

「知らない」

 

当然腹が立った。

好きなことを勝手に語っておいて、肝心の答えは知らないと。

 

「ただ、お前は強いんだから、置かれる場所くらい自分で選べばいいんじゃないか」

 

その一言で、それまで他人の決めた道を走っていた時間が止まった。

初めて、自分で道を選ばなければならなくなった。

きっと、救われたのだと思う……、そう思いたい。

もし、あの言葉がなければ、今頃の自分は、もっと火力だけを求めていた。

撃たない場所を選ぶ術も、止める方法も、そして、味方を守る精度も。

学ぼうとは思わなかっただろう。

 

強くなった、帝国でも指折りだという自負がある。

誰にも見せないが、誇りもある。

あの日の自分とは違う。

もし再び会えたなら、少しは驚かせられるかもしれない。

けれど、進むべき道は、まだ決められていない。

 

自分には、抱えるべきもの、守るべきものが多くある。

宮廷の上層部が誤っているからといって、全てを焼き捨てることはできない。

自分の力なら、できてしまうからこそ……、選べない。

迷いは、誰にも見せない。

皇太子にも、魔導院にも、そして……家族にも。

胸の奥底へ押し込めている。

あの男へ会えば、答えが見つかる。

そんな保証なんてないし、彼は、また「知らない」と言うかもしれない。

それでも……、もう一度会わなければならない。

 

 

 

 

 

 

翌日、ヴェスナは軍部庁舎を訪れた。

報告書の魔術分析に必要な確認。

そう理由をつければ、誰も不審には思わない。

西方軍から帰還したディルクは、庁舎奥の作戦室にいた。

 

机には戦場地図と、黒騎士団の部隊編成案。

ヴェスナが入室すると、ディルクは顔を上げた。

「珍しいな、そなたが来るとは」

「魔導院へ回された報告について、確認があるの」

「術式か」

「それもあるわ」

 

ディルクは向かいの椅子を示したが、ヴェスナは座らない。

その代わり、報告書を机へ置く。

「この《彼》という人物」

「ああ」

ディルクの目が、わずかに変わった。

厳格な軍人のものから。

何かを思い出した武人のものへ。

「普段は、どこにでもいそうな顔をしている可能性はあるかしら」

「覆面だった」

「覆面を外した時の話よ」

「知らぬ、見ていないから。目を離すと細部を思い出せないし、名を聞いても、誤魔化すか忘れろと言う」

 

ディルクが尋ねる

「そなたは、《彼》を知っているのか?」

ヴェスナは答えなかったが、代わりにこう尋ねた。

「強かった?」

「あぁ、強い」

「あなたより?」

「勝てなかった」

そこには、躊躇がなく、誇張も勝敗を取り繕おうとする気配すらなかった。

ただ、事実だけを述べる声……、それが、何よりも確かな証明になった。

 

あの男だ。

三年間探していた。

闘技場に現れては消え、力を見せつけず、必要な時だけ手を出し、終われば、何事もなかったように去る。

ディルクと戦ったのに、敵兵を殺さなかった。

そんな男が、他にいるはずがない、そう信じた。

 

「……そう」

「そなたも探していたのか」

「ええ」

「いつからだ?」

「三年」

ディルクの眉が僅かに上がる。

「ならば、先を越されたな」

「あなたが見つけたのではないでしょう?」

「会ったのは事実だ」

「向こうから現れた。それだけよ」

「同じではないか」

「違うわよ」

 

思ったより強い声が出た。

ディルクが、珍しいものを見るかのように、少しだけ目を細める。

ヴェスナは普段、感情を荒らげない。

 

「あなたは、彼がどこへ行ったか知らない?」

「知らぬ」

「素顔も?」

「見ていない」

「本名も?」

「聞いたが、答えなかった」

「なら、出会っただけじゃない」

「そなたも出会っただけではないのか?」

「私は――」

 

言葉が止まった。

何だというのか。

救われた、置き去りにされた、三年探した。

それだけ、そう……それだけのはずだ。

 

ディルクの口元へ、わずかな笑みが浮かぶ。

「なるほど」

「何がよ?」

「いや」

「言いなさい!」

「お前がそこまで感情を見せる相手とは、興味深い」

「勘違いしないで!」

「ふむ、何をだ?」

「……何でもないわ」

 

自分で墓穴を掘った。

ヴェスナは再び、報告書へ目を落とす。

 

【添付された目撃情報。銀髪、星盤、十六歳ほどの少女。同行者と推定】

 

そこだけ、何度読んでも視線が止まる。

「この少女は何?」

「離れた場所から支援していた」

「関係は?」

「知らぬ」

「そう」

「気になるのか?」

「術式分析に必要よ」

「星盤は使っていたが、風術と印術は《彼》のものだ」

「……そう」

 

術式分析には、関係など必要ない、それは……、分かっている。

でも、何故だか無性に……、腹立たしい。

 

「あなたは、次に会うつもりなの?」

「それは当然だ」

「軍務として?」

「それもある」

「他には?」

 

ディルクの目に、少年のような光が宿る。

「次は、あの剣を抜かせてみせる」

ヴェスナはしばらく彼を見た。

それから、ため息をつく。

「あなたも大概よね……」

「何がだ?」

「何でもないわ」

 

似た者同士だと言われるのは不本意だった。

自分は再戦を求めているわけではない。

会って、問いただして、礼を言って……。

それから……。

それから、どうしたいのか。まだ分からない。

 

「報告書の追記について、確認するわ」

ヴェスナは言った。

「技名を残すことへ、本人が反対したという部分」

「ああ」

「どの程度?」

「何度も忘れろと言われた。黒騎士団副官が表記確認を求めた際には、声を荒らげていた」

ヴェスナは口元へ手を当てた。笑いを隠すため。

「何がおかしい?」

「別に」

「知っている人物なのだろう?」

「まだ、確かめていないわよ」

「確かめればよいではないか」

 

全く……、簡単に言う。

 

「そうするわ」

 

 

 

 

 

 

 

夜……、帝都の窓には、無数の灯りが見えた。

皇宮、軍部、魔導院、商業区。帝都は眠らない。

巨大な国家の心臓は、夜も動き続ける。

 

自室へ戻ったヴェスナは、机へ座る。

三年間の調査帳の最後の頁を開く。

 

そこには、数か月前の曖昧な噂が書かれていた。

 

北方の闘技場に黒衣の男出現。該当者か不明。

 

その次の白紙の頁を開き、ヴェスナはペンを取る。

 

『リュームリア西部、ベルン砦』

 

『《彼》を確認』

 

『ディルク・ファルケンラートと夜明けまで交戦。勝敗つかず。帝国兵の死者なし』

 

『銀髪の星詠みを同行』

 

ペン先が止まる。

同行……、どういう関係なのか。

三年間の間に知り合ったのか、それとも、彼女も救われたのか、自分のように。

 

「……関係ないわ」

 

誰に言うでもなく呟く。

重要なのは、現在地を追うための手がかりとして。

そう、それだけ……そう、自分へ言い聞かせる。

 

最後に。

 

【次の目的地、不明。ただし、東方へ退いた可能性】

 

これまでの頁は、全て過去を追うものだった。

数か月前。半年前。一年前。

聞いた時には、すでに消えている痕跡ばかりだった。

 

けれど、今回だけは違う。

今につながる足跡、止まっていた線が、再び伸びる。

 

自分の指先に、そっと青白い雷が走った。

机を焦がさないし、紙も焼かない。

細い一筋だけが、爪先から手首へ昇り、消える。

完全に制御された雷。

三年前より遥かに強く、三年前より遥かに静か。

けれど、その奥にある感情だけが、あの頃より激しかった。

 

ヴェスナは窓辺へ立ち、帝都の夜を見下ろす。

三年前の言葉が蘇る。

 

――強い駒ほど、置く場所を選べ。

 

礼を言う。そして、問いただす。

自分がどこまで来たのか、見せる。

そして……、なぜ自分を救ったのか。

なぜ置いていったのか。

今度こそ、答えを聞くために。

ヴェスナは、誰にも聞かれない声で告げた。

 

 

「私は、あなたを絶対に見つけてみせるわ」

 

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