観客席の男 ―ここまで遊んでくれてありがとう!   作:ザキグン

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勝てない盤面には、別の出口がある

戦争が始まった街道には、独特の匂いがあった。

土埃、汗、馬の糞、消毒薬。

それから、どこか遠くで何かが燃えている臭い。

 

フェルマータを出て三日。

宿駅で馬を乗り継ぎ、空いた荷馬車へ便乗し、使える街道を選びながら東へ進んだ。

それでも、リュームリア西部はまだ遠い。

原作のゲームマップなら、拠点を選んで行軍開始を押せば終わる距離だった。

当然、現実ではそうはいかない。

馬は疲れるし、同じく人間も疲れる。

橋が落ちれば迂回しなければならず、街道が封鎖されれば、地図に線が引かれていても通れない。

まして、戦争が始まった後ならなおさらだ。

 

「止まれ!」

 

前方から鋭い声が飛んだ。

荷馬車がゆっくりと速度を落とす。

街道を横切るように、丸太と横倒しにした荷車で簡素な柵が組まれていた。

その前には、青い外套をまとった兵士が十人ほど立っている。

リュームリア聖王国の兵だ。

ただし、どの顔にも疲労が濃い。

鎧は泥に汚れ、何人かは包帯を巻いている。

俺が意識を向ける。

 

【所属:リュームリア地方守備隊】

【任務:街道封鎖/避難民誘導/帝国密偵警戒】

【状態:疲労/混乱】

【現場指揮官:不在】

 

 

「全員、荷を降りろ!」

兵士の指示に従い、俺は御者台から地面へ降りた。

隣では、ノーチェが青銅の星盤を抱えたまま、ゆっくりと続く。

白と藍の巫女装束、腰近くまで届く淡い銀髪。

どこへ連れていっても目立つが、本人には隠れる気がない。

 

「東へ何の用だ」

兵士が尋ねた。

「行商です」

俺は背負い籠を少し持ち上げる。

籠の上には、途中の村で買った根菜と乾燥豆が載っている。

その下には、覆面装束、面頬、印用の小太刀、魔道触媒、刀の手入れ道具。

調べられれば、言い逃れは難しい。

「行商?」

兵士が俺の顔を見て、次に背負い籠を見る。

そしてもう一度、俺の顔へ戻る。

 

「何を売る」

「野菜です」

「それだけか」

「主には」

ノーチェが俺を見上げた。

嫌な予感がした。

「……黒い服も、ある」

「旅用の衣類です」

兵士の眉が上がる。

「黒い服だと?」

「防寒用です」

「……仮面も」

「それも防寒具の一部です」

「仮面がか?」

「寒風から顔を守ります」

我ながら苦しい。

 

ノーチェはさらにとんでもないことを口走ってしまった。

 

「……刀も」

「黙って」

兵士の手が剣の柄へ伸びる。

「刀とは何だ?」

「旅用の刃物です」

「籠を開けろ!」

 

そりゃ当然そうなる。

だが、ここで兵士を気絶させて突破するわけにはいかない。

王国軍の検問所を襲えば、帝国密偵どころか正真正銘の不審者だ。

素直に見せて事情を説明するか。

だが、あの装束を見られれば、《彼》との関係を疑われる可能性がある。

答えを探していると、柵の向こうから苦しげな呻き声が聞こえた。

兵士たちの後方。木陰へ敷かれた布の上に、負傷者が何人も横たわっている。

その一人が身体を折るように咳き込んだ。

 

「おい、まだ医師は来ないのか!」

「隣村から呼んでいます! ですが街道が――」

俺は負傷者へ意識を向けた。

 

【兵種:槍兵】

【HP:18/39】

【状態:左大腿部裂傷/止血不十分/軽度失血】

別の男。

【状態:肋骨骨折/呼吸困難】

 

さらに一人。

【状態:火傷/脱水】

 

今すぐ命に関わる者もいる!

「先に、あちらを見ても?」

兵士が俺を睨んだ。

「お前は医者か?」

「違います」

「なら、余計なことをするな!」

「止血くらいならできます」

「行商人がか?」

「旅が長いもので」

 

兵士は疑っていた。当然だ。

だが、負傷者の呻き声がもう一度響く。

彼は数秒迷い、俺へ顎をしゃくった。

「妙な真似をしたら斬る」

「どうぞ」

「そこで了承するな……」

 

俺は背負い籠を下ろし、手当て道具を取り出した。

覆面装束が見えないよう、布の隙間から薬と包帯だけを抜き取る。

最も危険なのは、大腿部を傷つけた兵士だった。布が血で染まりきっている。

「すみません、傷を見せてもらいますよ」

「う……ああ」

包帯を外す。

刃が深く入っているが、大きな血管は完全には切れていない。

これなら、まだ間に合う!

清潔な布を当て、圧迫する。

止血帯を締めすぎれば脚が駄目になるし、緩ければ出血が止まらない。

ゲームなら回復薬を使えば数字が戻るが、現実の傷はそうはいかない。

「ここを押さえてください」

近くの兵士に手を借りながら、傷の位置を確認し、包帯を巻き直した。

 

次に、肋骨を折っている男。

胸の片側だけが不自然に動いている。

「起こさないでください。楽に呼吸できる向きへ、ゆっくり横向きに」

「水は?」

「意識を確かめながら、口を湿らせる程度に。一度に飲ませないでください」

 

火傷した男には、清潔な水で濡らした布を患部へ当てる。

高価な回復薬は使わない。

今ここで一本使っても、重傷者全員には足りない。

それに、正しい応急処置をすれば、医師が来るまで保つ者は多い。

ノーチェは星盤を抱えたまま、俺の隣へ座っていた。

「……これ」

小さな水筒を差し出す。

「それはお前の分だ」

「……まだ、ある」

「すまない、なら貸してくれ」

ノーチェは頷いた。

負傷兵の唇を湿らせる。

 

手当てを終える頃には、検問所の兵士たちの目つきが少し変わっていた。

最初に俺を止めた兵士が、腕を組んでこちらを見る。

「本当に行商人か」

「野菜を売っています」

「そこを聞いているんじゃない」

「旅慣れているだけです」

 

兵士は納得していなかった。

それでも背負い籠を開けろとは言わなかった。

代わりに、腰へ提げていた通行札へ印を押し、俺へ差し出す。

「東へ行けば行くほど危険だ。ベルン砦の周囲は、もう戦場になっている」

「王子は?」

兵士の表情が曇った。

「西部から避難民を逃がしているという話だ。だが、帝国の増援が入った」

「増援の旗は」

「黒と銀」

 

 

最悪だった。

予想はしていた。表示でも確認した。

それでも、実際に聞きたくはなかった。

 

「ありがとうございます」

通行札を受け取る。

兵士はノーチェを見る。

「その子も連れていくのか」

「……行く」

俺が答えるより早かった。

「危険だぞ」

「……知ってる」

「巫女なら、後方で負傷者を見た方が役に立つんじゃないか」

ノーチェは少し考え、俺を指差した。

「……こっちの方が、危険」

「お前は何を基準に同行先を選んでいる」

兵士が初めて笑った。

「変わった連れだな」

「連れではありません」

「……同行判定、暫定」

「その表示を他人の前で言うな」

兵士には意味が分からなかったらしい。

 

俺たちは検問所を通り抜けた。

背後で、負傷兵の一人が声を上げる。

「行商人!」

振り返る。

大腿部を傷つけていた男が、横になったまま片手を上げた。

「助かった」

「まだ医師に診てもらってください」

「名前は?」

少し迷った。

「タナカです」

兵士は俺の顔を見つめた。

数秒後、首を傾げる。

「……もう一度、何だった?」

「忘れてください」

いつものことだった。

 

 

 

 

検問所を抜けて半日ほど進むと、街道から人の姿が消えた。

畑には収穫前の作物が残され、家々の戸は閉じられている。家畜の姿もない。

住民は避難したらしい。

遠くで煙が上がっていた。

一筋ではない、西の空に、いくつもの黒い柱が立っている。

 

日が傾き始めた頃、俺たちは街道を外れ、小高い丘へ登った。

ベルン砦周辺を見渡せる場所だ。

原作の第一章では、この丘に村人の家が一軒だけあった。訪ねると傷薬を一つ貰えた。

難易度が高いほど重要な回復資源だったので、毎プレー時には、欠かさず立ち寄った場所。

 

今、その場所に家はなかった。

代わりに、焼けた土台だけが残っている。

いつ焼かれたのかは分からない。

原作で家があったからといって、この世界でも残っているとは限らない。

もう、それくらいでは驚かなくなってしまった……。

 

「……見える」

ノーチェが丘の縁へ立つ。

俺も隣へ進んだ。

眼下に、戦場が広がっていた。

石造りのベルン砦。

外壁の一部は崩れ、内部から煙が上がっている。

砦の東門からは、避難民の列が森へ続いていた。

老人、子ども、荷車、負傷者。

それを守るように、王国兵が細い防衛線を作っている。

 

西側には帝国軍。

数は、見ただけでも王国軍の三倍以上。

弓兵、重装歩兵、騎兵、工兵。

旗の数からして、先遣隊だけではない。

 

「原作だと、南に浅い川がある」

地図と実際の地形を照らし合わせる。

川はあった……ただし、帝国工兵が仮橋を三本架けている。

 

「東の森は避難路になる」

森もあった……だが、入り口付近には火が放たれていた。煙で視界が悪い。

 

「北の見張り塔は、開始時点ですでに崩れている」

塔は立っていた。

古く、傾いてはいる……それでも帝国弓兵が上へ陣取っている。

 

原作の面影は残っている。

だが、同じではない。

同じ場所に、別の戦場が作られていた。

「増援は三ターン後、東の森から二部隊。……のはずだったんだよなぁ、原作なら」

当然、何も来ない。

味方増援が現れるはずの森からは、避難民が逃げ出しているだけだ。

俺は周囲の部隊へ意識を向けた。

 

 

【リュームリア西部守備隊】

【兵種構成:槍兵/剣兵/弓兵】

【平均等級:初級職】

【状態:疲労/士気維持】

 

 

次に、帝国側。

【ヴァイセンベルク帝国先遣隊】

【平均等級:中級職】

【状態:優勢】

 

 

ただでさえ戦力差が大きい。

アルディスがいなければ、とっくに崩壊していただろう。

青い旗の下。

淡い蜂蜜色の髪をした青年が、剣を振るっている。

 

 

【名称:アルディス】

【兵種:《ロード》】

【HP:46/64】

【状態:疲労/右肩打撲】

【個人スキル:《民を背負う者》《諦めない道》】

【兵種スキル:《王旗の号令》《剣光一体》】

 

 

生きていた。

負傷しているが、それでも、自分だけ後ろへ下がってはいない。

防衛線の中央で、兵士たちへ命令を出している。

「盾兵、前へ出すぎないでください! 二列目と交代を!」

柔らかい声なのに、よく通る。

「弓兵は砦ではなく森の端へ! 火の回っていない場所を避難路として確保してください!」

 

一人の兵士が倒れる。

アルディスは自ら駆け寄り、その肩を支えた。

「殿下! 我々へお任せください!」

「あなたを置いていく命令は出しません」

「ですが――」

「歩けますか」

「は、はい!」

「なら、後方の護衛を。まだ子どもたちが残っています」

 

倒れていた兵士が立ち上がる。

アルディスがそこにいるだけで、兵たちがもう一度動き始める。

能力値が高いだけではない。

彼は、人間を戦える状態へ戻す。

原作主人公……、何周も見たし、何度も育てた。

それでも現実に見ると、画面の中よりずっと危うかった。

 

若い。まだ十八だ。

王子ではあっても、完成された英雄ではない。

剣を握る指は震えているし、呼吸も乱れている。

それでも、避難民より先には逃げない。

「……あの人?」

ノーチェが聞く。

「アルディスだ」

「……主人公」

「その言葉をどこで覚えたんだ」

「……さっき、考えてた」

「人の思考まで読まないでくれ」

「……読んでない」

「では、どうして分かるんだ?」

「……顔」

顔に出ていたらしい。

俺は口元を押さえた。

 

その時、ノーチェが戦場のさらに奥を指差した。

「……あれ」

 

帝国軍の後方。

周囲の部隊とは明らかに違う一団がいた。

黒い……、鎧も。外套も。馬へ掛けられた装甲布まで、夜を切り取ったような黒で統一されている。

数は一個中隊ほど。

 

前線では怒号が飛び交い、負傷兵が運ばれ、伝令が走り回っている。

それでも、その一団だけは微動だにしなかった。

槍は垂直に立てられていて、軍馬もほとんど動かない。

騒がしい戦場の中に、そこだけ別の静けさがあった。

 

見間違えるはずがない。

ヴァイセンベルク帝国最精鋭。

原作終盤、帝都外郭の最終防衛線でアルディスたちを待ち受けていた重装騎士団。

《黒騎士団》

 

「冗談、だろ……」

俺は先頭近くの騎士へ意識を向けた。

 

【所属:ヴァイセンベルク帝国軍・黒騎士団】

【兵種:《黒騎士(ブラックナイト)》】

【等級:最上位職】

【HP:58】

【力:31】

【守備:34】

【技:29】

【魔防:25】

【武器熟練:槍A/剣B】

【装備:帝国魔鋼重槍/黒曜騎士盾/耐魔重甲】

 

「……はぁ?」

 

隣の騎兵。

【兵種:《黒騎士(ブラックナイト)》】

【HP:61】

【力:33】

【守備:32】

【魔防:27】

【武器熟練:槍A/剣A】

【装備:騎兵長槍《ナハトランツェ》/帝国制式騎兵剣/黒曜馬鎧】

 

さらにその後ろ。

【兵種:《黒騎士(ブラックナイト)》】

 

隣。

【兵種:《黒騎士(ブラックナイト)》】

 

もう一人。

【兵種:《黒騎士(ブラックナイト)》】

 

 

見える範囲、全員だった。

一般兵の中に上級職が混じっているのではない。

部隊そのものが、最上位職で構成されている。

勿論装備だってとんでもない。

魔鋼重槍、耐魔重甲、騎兵用の黒曜馬鎧。

どれも原作終盤、こちらが神器や特効武器を揃え始めてから相手にするものだ。

 

「終盤のステージと同じじゃないかよ……!」

思わず声が漏れた。

ノーチェが俺を見る。

「……同じ?」

「大将が鬼ステだけでもあり得ないのに、部下は全員、最上位職の《黒騎士》だぞ。当然、持っている武器も鎧も洒落になってねえ……」

原作第一章の味方戦力は、初級職と極一部の中級職だけ。

武器も鉄製が中心だし、重装特効の武器など、まともに揃ってるはずがない。

その状態で、最上位職軍団を相手にしろというのか。

難易度調整を放棄しているクソゲーだ……。

 

 

「……強い?」

「強いだけで済ませれるほうがまだ優しい……。あいつら一隊だけで、今の王国軍を全滅させられる」

「……全部?」

「あぁ……全部、だ」

個々の能力が高いだけではない。

隊列を見ればよくわかる。

盾役が前。長槍が二列目。騎兵は左右へ分かれ、突破と包囲の両方へ即座に移れる。

重装なのに、部隊全体の動きが速い。

一人が倒れても、隣が位置を埋める。

ゲームでは、能力値の高い敵集団としか考えていなかった。

それが、現実に並ぶ姿は、もっと質が悪い。

一人一人が完成した兵士でありながら、部隊として一つの生き物のように動く。

 

その軍列の中央。

 

一人だけ、騎乗していない男がいた。

 

黒曜石のような重甲冑。

 

腰へ提げた兜。

 

肩甲骨まで伸びた黒藍の髪を、低い位置で束ねている。

 

周囲の騎士より、さらに頭一つ大きい。

 

 

手にしているのは、大身槍《断界》。

 

俺は意識を向けた。

 

 

【名称:ディルク・ファルケンラート】

【兵種:《帝国槍将》】

【HP:70】

【力:38】

【魔力:14】

【守備:36】

【魔防:24】

【速さ:28】

【技:35】

【幸運:22】

【槍熟練:S】

【装備:大身槍《断界》】

【指揮下部隊:帝国黒騎士団】

 

 

数字は記憶どおりだった。

弱体化、序盤用の補正、装備の格落ち。

そういった親切な要素は、何一つない。

原作終盤、こちらが上級職へ成長し、神器と支援を揃え、ようやく正面から戦えた時と同じ。

完成したディルクだった。

 

「レベル同期くらいしろよ……」

この世界にレベル同期という仕組みがあるのかは知らない。

だが物語の序盤へ出るなら、少しくらい手加減された能力であってほしい。

 

ノーチェがディルクを見つめる。

「……強い星」

「見ないでくれ。向こうも何かに気づくかもしれない」

「……もう、見た」

「何を」

「……こっち」

 

遠すぎる。

こちらが見える距離ではない。

 

そう思った瞬間。

 

ディルクが、わずかに顔を上げた。

 

琥珀色の目が、丘の方角へ向く。

 

視線が合ったような気がした。

 

「き、気のせいだ」

「……目、合った」

「気のせいであってくれ!」

 

黒騎士団の軍旗が、一斉に持ち上がった。

ただそれだけで、周囲の帝国兵が左右へ道を空ける。

黒い軍列が、ゆっくりと前進を始めた。

蹄の音が揃っている。

鎧の擦れる音まで、一つに重なって聞こえた。

 

「……来る」

「見れば分かるって」

「……楽しみ?」

「誰が」

「……槍の人」

「俺は楽しみではない!」

 

黒騎士団が本格的に参戦すれば、確実に終わる。

王国兵はもちろん、アルディスも逃げ切れない。

倒す必要すらない。

あの部隊が一度突撃すれば、防衛線が崩れ、避難民が巻き込まれる。

 

「ノーチェ」

「……うん」

「未来を見てくれ」

彼女が星盤へ手を置く。

「全部ではない。一つだけ探してほしい」

「……何を?」

 

俺は戦場を見る。

敵を倒すことではない。

王国軍を勝たせることでもない。

今必要なのは、逃げ道だ。

 

「アルディスと避難民が、東へ抜けられる入口」

ノーチェが小さく頷いた。

左眼に、淡い金の環が浮かぶ。

風が止まったように感じた。

彼女の視線が、戦場のあちこちを移る。

「……川」

「違う」

「……橋が落ちる」

「避難民が巻き込まれる未来なら、その選択は捨ててくれ」

「……森」

「火が回っている」

「……王子が、矢に当たる」

「そこもだめだ」

 

ノーチェの眉間に皺が寄る。

星盤の光が乱れた。

「全部見なくていい」

「……でも」

「結果ではなく、入口だけでいい」

 

未来を最後まで見ようとするから、情報に呑まれる。

必要なのは、勝利した未来の完成図ではない。

状況が変わる一点だけだ。

「アルディスが東へ抜ける。その最初の一手だけ探してくれ」

ノーチェは息を整えた。

星盤へ触れる指が止まる。

しばらくして、彼女は北を指差した。

 

「……塔」

帝国弓兵が陣取る旧見張り塔。

「……あれが、倒れる」

「どちらへ」

「……街道」

 

塔が街道へ倒れれば、帝国軍の進路を塞げる。

完全に止めることはできない。だが、重装兵と騎兵が迂回するには時間がかかる。

その間に避難民は森へ入れる。

「どうやって倒れる」

「……石」

「投石か」

帝国軍の投石器が、砦へ向けて石弾を放っている。

狙いを変えれば、塔を崩すことはできる。

だが、帝国兵が自分たちの占拠した塔を撃つ理由はない。

こちらで弱点を作る必要がある。

 

「右から、二つ目」

ノーチェが塔の下部を指した。

「……支える石」

遠目では分からない。

だが未来では、そこから崩れるらしい。

「分かった」

 

俺は背負い籠を下ろした。

「……着替える?」

「見ないでくれよ?」

丘の裏へ移動し、野菜を退け、油紙に包んだ装束を取り出す。

漆黒の長外套。頭巾。面頬。籠手。

胸元と腕には、前世の戦隊ものを崩した謎の金糸紋章。

改めて見ると、この世界から浮いている。

 

「……変」

「それはもう、知っている」

「……でも」

「何だ」

「……ちょっと、格好いい」

「ちょっとをつけなくていい……」

 

ノーチェは黙った。

疑問形よりはましだった。

俺は面頬を固定し、刀を腰へ差す。

そのまま今日の制約を決める。

 

【敵兵を一人も殺さない】

【避難路の確保を最優先する】

【刀を抜くのは一度だけ】

表示が現れる。

【《自主制約》成立】

【補正:技/速さ/非致死制圧精度】

 

「……一度?」

ノーチェが聞いた。

「塔を倒すために使う」

「……槍の人は?」

「戦うとは限らない」

「……未来で、戦ってた」

「今それを言うな!」

 

刀を一度しか抜かない。

ディルクと戦わずに済むなら問題はない。

俺は丘を下り始めた。

 




能力値上限はHPのみ80、その他は上限を40。
強さのイメージは、某手ごわいシミュレーション風をご参照と頂けますと。

ディルクの武器、【装備:大身槍《断界》】のステータス案。
武器種   槍
武器ランク S
威力 22
命中 85
必殺 15
重さ 18
射程 1
耐久 40
特効 騎馬・重装
使用条件 槍S/ディルク装備時に真価を発揮

【固有効果《断界》】
攻撃時、敵の守備補正を50%無視する。
ただし、地形・支援・障壁などによって追加された守備補正のみが対象。
素の守備そのものは無視しない。

【専用戦技《断界一閃》】
大身槍《断界》専用戦技。
巨大な槍へ全体重と魔力を乗せ、防御ごと敵を貫く一撃。
威力:+12
命中:+20
必殺:+10
敵の守備を30%無視
敵の「ダメージ軽減」「盾」「障壁」を無効
使用後、ディルクの速さ-5(1ターン)
追撃不可

【個人スキル《黒曜の軍神》】
自分から攻撃した時、または敵将・指揮官ユニットを攻撃した時、
力+5、技+5。

【兵種スキル《一槍断命》】
そのターン中にまだ攻撃していない敵へ攻撃する場合、与ダメージ+20%。
敵がHP最大なら、さらに命中+15。


武器射程が1だからまだしも、射程2あったらと思うと(;゚Д゚)
ゲームの世界ではないという唯一にして、最大の好機が、進にどう影響するのか。
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