スカイリムCC:釣り師の痴人   作:アーマーブレイク大好きおじさん

11 / 15
11ホワイトランの晩餐会

 「あ……あれがホワイトラン……!」

 

 じーん、という擬音語が聞こえてきそうなほど感動しているシズク。

 眼前の”ホワイト川”を隔てた向こう側に大きく、立派な街と宮殿が見える。

 太陽の輝きに照らされたそれらは、スカイリムの栄華を象徴するかのように美しかった。

 

 スカイリム随一の交易都市。

 ホワイトラン領の都”ホワイトラン”。

 

 ここまで、ショールストーン、ヴェルニムウッド、アモル村を経由して計三日を要した。

 

 ショールストーンはともかく、

 ヴェルニムウッド、アモル村は原作未登場の場所だったので、

 シズクも初めて目にしたわけだが、どちらも人口の少ない田舎町なのでテンションは控えめだった。

 

 しかし、ついに目の前に現れたホワイトランは、期待以上の素晴らしさだったに違いない。

 

 いつもは南のリバーウッドから上ってくる経路を使用しているが、この北東のアモル村から来た道も中々良い。

 ホワイトラン平原とホワイトラン市街、そして首長の宮殿”ドラゴンズ・リーチ”を一望できる景色は壮大で美しい。

 

 南回りルートだと”世界の喉”付近で雪山越えがあるため、シズクには厳しいと思い、少し遠回りでも雪山を越えないこの北東ルートを選んだのだが……。

 

 「これは……壮大だな……」

 

 たまには気分を変えて、遠回りするのも悪くないかもしれない。

 なんて思えるような景色であった。

 

 私たちはホワイトラン市街へ向かって進む。

 街道では黄色い肩布をかけたホワイトラン衛兵が警備を行っており、歩行者や馬車なども見受けられた。

 

 「すごい……まだ街じゃないのに、活気があります!」

 

 感動した様子で周囲をキョロキョロと観察するシズク。

 確かにこの時点でも、他の場所と比べて活気がある。

 このホワイトラン領は経済的に裕福で、治安も良好。

 

 ホワイト川に架けられた橋を渡り、”ホニングブリュー蜂蜜酒醸造所”を越えたあたりからは、さらに一際華やかな風景が広がっていく。

 

 立ち並ぶ石造りの城壁。

 大きくて立派な農園。

 そして、通りを行き交う人々。

 商品を運ぶ馬車。

 その全てが、繁栄を象徴するかのように活気に溢れている。

 

 「おぉ~!」

 

 シズクが手を叩き喜んでいる。

 

 「これがホワイトラン……すごいです!」

 

 何度目かの同じ台詞。

 だが感動の気持ちは変わらずに伝わってくる。

 経済的に発展している場所は確かにある。

 北西部の”ハーフィンガル領”のスカイリムの首都――”ソリチュード”や北東部の”イーストマーチ領”の都――”ウィンドヘルム”などがあるが、ここまで開放的な街は他に存在しない。

 

 何より政治的な問題を一切抱えず、平和で安定した統治体制が整っている点が大きい。

 帝国文化を積極的に取り入れたソリチュードとも、古きノルドの誇りを守るウィンドヘルムとも一線を画す、両者の良いところを融合させたかのような街だ。

 

 「ぜひ、見て回りたいですね!」

 

 シズクが嬉しそうに言う。

 そして――

 

 その言葉に水を差すような言葉が耳に飛び込んできた。

 

 「まったく、田舎者丸出しだな……ホワイトランに来るなんて百年早い」

 

 馬車から降りてきた中年男性が、私たちを見下ろしながらそんなことを言った。

 レッドガード人特有の浅黒い肌に嫌味な表情を貼り付けた男――”ナゼーム”。

 

 「雲地区に行きたいのか?おっと、馬鹿な質問だったな。もちろん行けないに決まってる。」

 

 ナゼームは冷笑しながら私たちにそう告げた。

 

 「むぐぐぐ……」

 

 シズクは悔しげに頬を膨らませている。

 ホワイトラン領内にある雲地区は、いわばホワイトランの心臓部だ。

 そこには首長の宮殿ドラゴンズ・リーチが存在している。

 故に一般の市民や行商人は、約束がないと立ち入ることが許されず、上流階級の者たちのみが足を踏み入れることができる場所だ。

 ゲームでは普通に立ち入ることができたが、現実になったこの世界では当然と言えば当然だ。

 

 ナゼームはあからさまにバカにするような態度を取り続ける。

 

 「今日、宮殿で晩餐会がある。

 こんなこと田舎者に話しても仕方ないか……。

 私のような成功者しか呼ばれないんだよ。」

 

 ナゼームは鼻で笑いながら言う。

 

 「だが……どうしても、と言うなら……」

 

 ナゼームの目がチラリと私の胸に向く。

 欲望の入り混じった視線。

 

 「特別に取り計らってやることもできる。」

 

 挑発するような笑みを浮かべながらそんな提案をするナゼーム。

 お前、既婚者だろ?

 なんて思わず突っ込みたくなってしまうが、我慢する。

 

 「失礼。今夜は我々も用事が入っているので、残念ながら。」

 

 私は冷静に返答する。

 ナゼームは不機嫌そうに鼻を鳴らし、馬車へと戻って行った。

 

 ――カラカラカラ……

 

 馬車は走り去り、シズクが深々とため息をつく。

 

 「ゲームの時よりもウザさ四割増しです!」

 

 プリプリと怒っているシズク。

 確かにちょっと面倒な人物だったが、

 ここまで露骨な態度を取られると気分が悪い。

 

 「でも、スカイリムじゃマシな方だ。

 この世界では差別や偏見なんて当たり前だ。」

 

 文明レベルは結構高いタムリエル大陸だが、

 どうしても前世の価値観と比べてしまう。

 異種族の差別は当たり前。

 性別による差別もある。

 身分による差別もある。

 国家間の争いも絶えず、多くの人々が戦場で命を落としている。

 

 それが現実なのだ。

 こんな些細なことで気を落としているわけにはいかない。

 私はシズクの頭をポンと叩き励ました。

 

 「しかし、夕食は贅沢出来そうだな。」

 

 「え?」

 

 私がそう言うと、シズクは目をパチクリさせる。

 

 「我々もドラゴンズ・リーチの晩餐会に出席しよう。」

 

 「え゛え゛!!」

 

☆★☆★☆★☆★

 

 ――コンコンコン

 

 夕焼けが街を染め始めた時間帯。

 私たちはホワイトラン市内のある一軒の民家を訪れていた。

 

 「やぁ、ルべリウス。」

 

 「お、久しぶりじゃないか。」

 

 玄関を開けたのは壮年のノルドの男――ホワイトランの従士の一人”ルべリウス”。

 白髪交じりの黒髪に、人相の悪い悪人面。

 見る者に威圧感を与える風体だが、実際には善良な人物である。

 

 そして彼は――転生者でもある。

 

 ホワイトランの首長は実力者を囲い込む。

 たとえ、出自が不明な者でも実力さえあれば、相応の地位を与える。

 そんな人物だ。

 

 「あー、悪いな。実は今夜、用事があってなぁ。

 一緒に飯でもと思ったんだが。」

 

 「晩餐会に出席するつもりだろう?」

 

 私の言葉にルベリウスはニヤリと笑う。

 

 「ああ、そうだ。なんだそれを知っているということはもしかして……」

 

 「我々も晩餐会に行きたい。」

 

 私の言葉にルベリウスは目を丸くする。

 

 「ぶぁっはっはっはっ!そんなことだろうと思ったぜ!この食いしん坊!」

 

 豪快に笑うルベリウス。

 確かに食べることが好きな方ではあるが、

 ここまで大げさに笑われるとちょっとムッとする。

 

 「いいぜ!なんとかしよう。

 でも、ドレスコードは守ってもらう必要があるからな。

 とにかく中に入ってくれ。

 ファイザル、……と……?」

 

 「シズクです!よろしくお願いします!」

 

 「そうかそうか!よろしくなシズクちゃん!」

 

☆★☆★☆★☆★

 

 「あら、いい感じじゃない。

 よく似合ってるわよ、二人とも。」

 

 そう言ってくれたのは茶髪のインペリアル人の女性――エイドリアン・アヴェニッチ。

 鍛冶屋の女性であり、ホワイトランの執政――プロベンタス・アヴェニッチの娘である。

 私たちは晩餐会用に貸し出されたドレスを身に纏っていた。

 私は赤を基調としたドレス――『Vergi F〇shion』に含まれる美しいロングドレスと灰色の肩掛けケープを。

 シズクは白を基調とした同MODの清楚なドレスを着ている。

 この世界における正式な夕食パーティーの際には、男女問わずドレスコードが定められている。

 その中でも特に格式高いものだ。

 そして、我々は先ほどルべリウスから正式に参加が認められたとの連絡を受けた。

 

 「あ……あまり着なれていないので……なんだか恥ずかしいですぅ……」

 

 もじもじと頬を染めるシズク。

 確かに似合っているのだが、自分に自信が持てないようだ。

 私は優しく微笑み、シズクの背中をポンと叩く。

 ここは先輩として優しく励ましてあげよう。

 

 「大丈夫だ、シズク。

 私も初めてレオタードを着たときは緊張したが、

 いまでは毎日レオタードだ。

 今になっては着こなしているとさえ言えるだろう。」

 

 「ええ……どうなんですか……それ」

 

 シズクは複雑な表情で首を傾げる。

 いやいやだって、ゲームでよく使ってた装備なんだから。

 転生したら着なくなるっていうのは前世のプレイを不意にしたような気分になるじゃないか。

 

 そんな会話をしていると――

 

 「お?二人とも結構似合ってるな!」

 

 ルベリウスが入ってきた。

 例にもれず彼もおしゃれなコートを纏っている。

 一見して良い物を身につけていることがわかる。

 でもごめんね。男物の服装MODは分からないんだ。

 

 「さて、準備も整ったことだし行こうぜ。」

 

 ルベリウスに先導されて私たちはドラゴンズリーチへと向かった。

 

☆★☆★☆★☆★

 

 「おおぉ~、ここが……ドラゴンズリーチ……!」

 

 宮殿ドラゴンズ・リーチに足を踏み入れた途端、シズクが感動の声を上げる。

 ホワイトラン市内で最も高い場所に位置する建物であり、空高くそびえ立っている。

 

 「ファイザル様。シズク様。

 お待ちしておりました。

 こちらへどうぞ。」

 

 案内役の侍女が私たちに顔を向ける。

 

 ――ギィ……

 

 重々しい音を立てながら、大きな扉が開かれる。

 

 高級そうな長い絨毯を進む。

 左右には高くそびえる木柱。

 柱には精巧な彫刻が施され、その隙間から黄金色の篝火が揺らめいている。

 吹き抜けになった天井は高く、一本一本の梁にはノルドの歴史を物語る彫刻が刻まれていた。

 

 奥には首長バルグルーフの玉座。

 

 その背後には巨大な竜の頭骨が飾られ、ドラゴンズリーチの名に恥じぬ威厳を放っている。

 

 「すごい……。」

 

 シズクは思わず息を呑んだ。

 ここには市場のような喧騒はない。

 代わりに漂うのは、静かな緊張感。

 招かれた商人、有力地主、従士、学者、宮廷魔術師。

 

 皆が上質な礼装に身を包み、静かに談笑している。

 

 給仕に促されて私たちはルベリウスの隣の席へと案内された。

 周りの視線を感じつつ着席する。

 

 給仕たちが最後の確認を終えると、宮殿の空気がふっと静まった。

 自然と談笑が止み、誰もが玉座の方へ視線を向ける。

 

 ゆっくりと歩み出たのは、ホワイトラン首長――バルグルーフ。

 黄金の肩当てを纏い、堂々と長卓の正面へ立つ。

 

 「諸君、本日はよく集まってくれた。」

 

 低くよく通る声が宮殿に響く。

 

 「今年もホワイトランには多くの実りがあった。

 平原は実り、商人は往来し、職人は腕を振るい、兵は民を守った。

 その全ては、この街を支えてくれる諸君のおかげだ。」

 

 一度会場を見渡す。

 その視線は商人にも、従士にも、使用人にも等しく向けられていた。

 

 「今宵は古くからの客だけではない。

 新たな友も迎えている。

 ホワイトランは力ある者、誠実な者を歓迎する。

 今宵は身分も立場も忘れ、ホワイトランの豊穣を共に祝い、大いに飲み、大いに食べてほしい。」

 

 首長は蜂蜜酒の杯を掲げる。

 

 「カイネの加護と、ホワイトランの繁栄に。」

 

 会場中の杯が一斉に掲げられた。

 

 「乾杯!」

 

 「「「乾杯!」」」

 

 透き通るような杯の音が宮殿いっぱいに響き渡る。

 その余韻が静かに消える頃、給仕たちは一斉に最初の料理を運び始めた。

 磨き上げられた銀器が燭台の灯を受けて輝き、一切無駄のない動きで料理を運んでいた。

 

 「料理が来る見たいですね。」

 

 シズクがそう言うと、ちょうど給仕が銀の盆を持って近付いてくる。

 白い手袋を嵌めた使用人は一礼すると、私たちの前へ最初の皿を静かに置いた。

 

 白磁の皿。

 

 その中央には、淡い象牙色をしたスープが注がれている。

 表面には艶やかな生クリームが細く円を描き、刻まれたリーキが鮮やかな緑を添えていた。

 

 「リーキとジャガイモのクリームスープでございます。」

 

 静かな声で料理名だけを告げる。

 余計な説明はしない。

 料理が語るということなのだろう。

 

 木製の匙を手に取り、音を立てないように気を付けながら静かに口へ運ぶ。

 

 ――スッ……

 

 「……これは。」

 

 思わず目を閉じた。

 最初に感じるのは、じゃがいもの柔らかな甘み。

 丁寧に裏ごしされたのだろう。

 舌へ触れた瞬間、とろりと溶けていく。

 

 続いてリーキの香り。

 

 火を通すことで辛味は完全に姿を消し、代わりに青々とした爽やかさと、玉ねぎにも似た甘い味わいだけが残っていた。

 

 濃厚なのに重くない。

 

 乳のコクが全体を包み込みながらも、一口ごとに優しく胃を温めてくれる。

 

 「美味しい……。」

 

 シズクも目を細めていた。

 

 「今まで食べたスープとは全然違います。」

 

 「素材の味を消さない程度に、最低限しか味付けしていないんだろう。」

 

 濃厚だが、くどさはない。

 最初の一皿として、胃をゆっくりと目覚めさせるには理想的だった。

 

 やがて使用人が皿を下げ、代わりに細長い銀皿が運ばれてくる。

 

 薄く切られたサーモン。

 淡い朱色の身には美しい脂の筋が入り、表面には桜色の燻煙がうっすらと色付いていた。

 

 その横にはレモンに似た柑橘と、ディルという名のハーブ、それに刻んだジュニパーベリー。

 

 「ホワイト川サーモンの燻製でございます。」

 

 私はフォークで一切れ持ち上げる。

 燻製にしてなお、身は驚くほどしっとりしていた。

 

 では、一口。

 

 「……!」

 

 燻煙の香りが最初に鼻へ抜ける。

 何の木で燻したのだろうか。

 力強い香りではなく、魚を引き立てる柔らかな燻香。

 風の女神キナレスの寵愛を受けているかのような爽やかさ。

 その奥から、とろけるような脂が舌へ広がった。

 ホワイト川を遡上するサーモン特有の濃厚な旨味。

 それを燻製にすることで余分な水分だけが抜け、旨味だけが凝縮されている。

 

 そこへジュニパーベリーを少し添える。

 爽やかな森の香りが加わり、脂の甘さがより際立った。

 

 「これ……止まりませんよぉ……」

 

 シズクは夢中になってフォークを動かしている。

 

 「酒が欲しくなる味だ。」

 

 思わず本音が漏れた。

 ルベリウスが肩を揺らして、くくくと笑う。

 

 絶妙なタイミングで、三皿目が運ばれてきた。

 大きな木のプレート。

 そこには数種類のチーズが美しく並べられている。

 

 若い白いチーズ。

 黄金色に熟成した硬質チーズ。

 青い筋が走るクセの強そうなチーズ。

 

 さらに木の実、干しイチジク、蜂蜜、胡桃まで添えられていた。

 

 「これは……壮観ですね。」

 

 シズクが感嘆の声を漏らす。

 私はまず白いチーズを一切れ口へ運ぶ。

 

 柔らかく、ミルクの甘みが素直に広がる。

 食感はほどよく、ふわっと口の中で解けていく。

 目をつぶれば、”私が搾られました”と、脳内に牛の顔が浮かんでくる気がした。

 

 次に熟成した硬質チーズ。

 こちらは噛むほどに旨味が濃く、わずかな塩味が舌へ心地良い余韻を残した。

 食べ終われば、どこか芳醇な香りが口内に留まる。

 

 最後に青黴の入った一片。

 独特の香りが鼻へ抜けるが、不思議と嫌な感じはしない。

 蜂蜜を少し垂らして食べると、塩気と甘みが美しく調和し、まるで別の料理へ姿を変える。

 

 「チーズって、こんなに種類があるんですね……。」

 

 「ホワイトランは交易都市だからな。」

 

 私はワイングラスを軽く揺らしながら答える。

 

 「ここにはスカイリム中の物資が集まる。

 だから首長の晩餐会では、その豊かさを料理で示すんだ。」

 

 ルベリウスが付け加えるように言葉を足した。

 テーブルの上には、まだ前菜が並んだばかり。

 しかし、その一皿一皿には、ホワイトランという街の豊かさと誇りが、静かに込められているようだった。

 前菜とはいえ、侮ることはできない。

 どれも素材の味を活かしつつ、丁寧に調理された、最高品質の食事だ。

 

 空いた皿が静かに下げられる。

 給仕たちは慌ただしく動くこともなく、一糸乱れぬ所作で新しい食器を整えていく。

 

 その頃合いを見計らったように、一人の使用人が琥珀色の酒瓶を抱えて現れた。

 

 透明なガラス瓶には、黄金色の液体が揺れている。

 

 「ホニングブリュー醸造所より献上されました、

 特別醸造の蜂蜜酒でございます。」

 

 静かな声とともに、グラスへ酒が注がれる。

 

 とくとく、と小気味よい音。

 

 琥珀色の液体は燭台の灯を受け、まるで溶けた黄金のように輝いた。

 グラスを鼻へ近づける。

 蜂蜜の優しい甘い香り。

 その奥に、野花を思わせる爽やかな芳香。

 さらに微かな樽香が重なり、実に上品だ。

 

 「乾杯。」

 

 ルベリウスが小さくグラスを掲げる。

 私たちもそれに応えた。

 

 口へ含む。

 

 甘い。

 

 だが、ただ甘いだけではない。

 蜂蜜本来の豊かな香りのあとを追うように、程よい酸味が舌を引き締める。

 後味は驚くほど軽く、自然と次の一口を誘ってくる。

 

 「これが……ホニングブリュー蜂蜜酒。」

 

 シズクは感心したように呟いた。

 

 「思ってたより飲みやすいです。」

 

 「癖が少ないな。」

 

 私はグラスを静かに置く。

 その瞬間。

 宮殿の奥から、ゆっくりと大きな銀盆が姿を現した。

 

 思わず会場中の視線が集まる。

 

 十数名の使用人が息を合わせ、慎重に運んできたそれは、一頭の獣がそのまま載っているのではないかと思うほど巨大だった。

 

 「……おぉ!。」

 

 誰かが思わず感嘆の声を漏らす。

 銀盆の中央に鎮座していたのは、巨大な炭火焼きマンモス。

 炭火でじっくりと焼き上げられた肉は、美しい飴色へと変わり、表面には艶やかな肉汁が浮かんでいる。

 

 ところどころに刻まれた焼き目が、さらに食欲を刺激した。

 切り分けられた断面は、ほんのりと桜色。

 肉汁がゆっくりと滴り落ちている。

 

 周囲には黄金色のローストオニオン。

 炭火で焦げ目を付けた太いリーキ。

 焼き上げられた人参。

 皮付きのベイクドポテト。

 

 そして彩りを添えるように、ホワイト川流域で採れる香り高いハーブが散らされていた。

 

 銀のソースポットには、深い赤紫色のソース。

 ジュニパーベリーを潰し、赤ワインと肉汁を合わせて煮詰めた濃厚なソースらしい。

 

 「炭火焼きマンモスでございます。」

 

 給仕が恭しく一礼する。

 各々の皿へ、厚切りに切り分けられた肉が盛り付けられていく。

 

 ナイフを入れる。

 

 ――スッ……

 

 驚くほど抵抗がない。

 ゆっくりと刃を引くだけで、繊維がほろりとほどけた。

 

 「長時間焼いてあるな。」

 

 私は思わず呟く。

 

 強火ではなく、炭火の遠火だけでゆっくり火を入れたのだろう。

 だからこそ、水分を失わず、ここまで柔らかく仕上がる。

 

 ジュニパーベリーソースをたっぷり絡め、一口。

 

 「……。」

 

 言葉が出ない。

 

 最初に感じるのは、炭火の香ばしさ。

 続いて、マンモス肉特有の濃厚な旨味。

 牛よりも力強く、それでいて鹿ほど野性味は強くない。

 じっくり焼かれた脂は口の中で静かに溶け、肉汁とともに旨味を何倍にも膨らませていく。

 

 そこへジュニパーベリー。

 

 森を思わせる爽やかな香りが脂を引き締め、最後に赤ワインの酸味が全体を美しくまとめていた。

 

 「すごい……。」

 

 シズクが目を丸くしている。

 

 「きっと今まで食べたどんな肉より柔らかいぞ」

 

 ルベリウスは静かにグラスを傾ける。

 

 次にローストオニオンを口へ運ぶ。

 飴色になるまで火を入れられた玉ねぎは、もはや繊維すら感じない。

 舌へ乗せた瞬間、とろりと崩れ、濃縮された甘みだけを残して消えていく。

 

 焼きリーキは外側が香ばしく、中は驚くほど瑞々しい。

 炭火の香りと野菜本来の甘さが見事に調和していた。

 

 人参は噛むたびに蜜のような甘みを返し、ベイクドポテトは粉雪のようにほろりと崩れる。

 

 そこへ肉汁をまとわせれば、それだけで立派な一品だった。

 

 「ノルドの王様の料理、って感じですね。」

 

 シズクが嬉しそうに言う。

 私はもう一度、蜂蜜酒のグラスを手に取った。

 甘く芳醇な香りが立ち上る。

 

 肉を一口。

 続けて蜂蜜酒を含む。

 

 炭火の香ばしさと濃厚な肉の旨味を、蜂蜜酒の柔らかな甘みが優しく受け止める。

 口の中で二つが溶け合い、まるで一つの料理になったかのようだった。

 

 ふと周囲を見渡す。

 

 長卓には従士、戦士、商人たちが並び、豪快に肉を切り分けながら杯を交わしている。

 

 銀食器や豪奢な装飾こそ宮殿の品格を示しているが、料理の本質は実にノルドらしい。

 豊かな土地が育んだ大地の恵みを、惜しみなく盛り込み、豪快に食らう。

 それは華美な技巧を競う帝国の宮廷料理とは異なる、厳しい北の地を治める者だけが持つ誇りと豊かさを、一皿に込めた料理だ。

 

 メインが終わると、長卓は一度片付けられ、今度はテーブルへ色鮮やかな料理が次々と並び始めた。

 ここからは自由に歩き回り、歓談を楽しみながら食べる立食形式。

 

 「わぁ……!」

 

 シズクが目を輝かせる。

 

 「ああ、スイートロール。焼きたてのスイートロール……!」

 

 どうやら甘いものには目が無いようである。

 焼きたてのスイートロール。

 表面には蜂蜜の艶。

 ほんのりシナモン。

 砕いたナッツ。

 白い砂糖が雪のように振られている。

 

 一口食べる。

 

 ――サクッ

 

 外はさっくり。

 

 ――もちゅっ

 

 中は驚くほどしっとり。

 

 バターと蜂蜜の香りが口いっぱいに広がる。

 

 「スイートロールって、すごいですぅ……。」

 

 「盗まれるくらいの代物だからね。」

 

 銀の小鉢には温かなクリーム煮。

 ホイップではなく、

 濃厚な生クリームでコーティングされている。

 

 そこに焼きリンゴも添えられている。

 酸味と甘味のバランスが絶妙だ。

 

 お次はチーズケーキ。

 熟成チーズを使った濃厚な焼き菓子。

 

 ――もきゅもきゅ

 

 柔らかい食感と、濃いチーズの風味。

 蜂蜜を少しかけると、ますます美味しさが引き立つ。

 

 そこへ食後酒。

 

 コロビアン・ブランデー。

 ストロスエムカイ・ラム。

 ファイアブランドワイン。

 スリリー兄弟のワイン。

 

 スカイリムではめったに見られなさそうな高価な酒が、思う存分楽しめる。

 

 各自好きな酒を片手に、料理を楽しむ。

 会場全体が和やかな雰囲気に包まれる。

 

 「もう食べられません……。」

 

 シズクは幸せそうにお腹を押さえている。

 と、そこに――

 

 「ほう……。

 ずいぶん楽しんでいるようじゃないか。」

 

 少し酔った足取りの男。

 

 ナゼームだ。

 

 ワイングラス片手に近付いてくる。

 その顔は赤い。

 

 「結局、ルベリウス殿のコネだったそうだな。」

 

 会場が少し静かになる。

 

 「コネというものは便利だな。

 田舎者でも宮殿へ入れる。」

 

 シズクがムッとする。

 私は手にはめていた指輪を見せようとした、その時。

 

 「ナゼーム!」

 

 力強く低い声にナゼームは慌てて振り返る。

 その声は首長――”バルグルーフ”のものだった。

 

 「それ以上はやめておけ。」

 

 ナゼームは慌てる。

 

 「し、しかし……。」

 

 するとルベリウスが笑う。

 

 「ナゼーム殿。

 俺は紹介状を書いただけです。

 招待すると判断したのは首長ですよ。」

 

 ナゼームが固まる。

 

 「……え?」

 

 バルグルーフは静かにグラスを置いた。

 

 「お前は何か勘違いしているようだな。

 私は誰彼構わず宮殿へ招くほど愚かではない。」

 

 ナゼームが青ざめる。

 

 「彼女は――リフテンの従士”ファイザル”。」

 

 ――ざわっ……

 

 ルベリウスの言葉に周囲がざわめく。

 空気が変わる。

 せっかくなので、私の指に嵌められた指輪を見せる。

 ダガーをクロスさせた装飾――十字ダガーのシンボル。

 

 「あの……リフテンのスクゥーマ密売組織を単身で壊滅させたっていう……。」

 「赤い鎧を纏った凄腕の剣士……。」

 「”赤き雷光ファイザル”……。」

 

 そうなんですよ。

 実はリフテンの従士なんですよ。

 そして面白半分で中二病な二つ名を付けたら、まさか本当に流布しちゃったという……。

 ちょっと後悔してる。

 

 「その功績は私の耳にも届いている。」

 

 首長が静かに言う。

 周囲の視線が私へ集まる。

 

 「英雄を食事へ招く。

 それは当然のことだ。」

 

 ナゼームの顔色が変わる。

 

 「そ、それは……。」

 

 バルグルーフは冷たい目で見下ろしている。

 ナゼームは何かを言おうとするが、声は出ない。

 

 「お前も理解しているだろう。

 自分の発言には責任を持つべきだ。」

 

 ナゼームは悔しげに俯く。

 シズクは目を丸くしている。

 

 「え……。ファイザルさんって……そんなに有名だったんですか?」

 

 シズクの問いに私はうなずく。

 

 「食べ歩いてたら、いつの間にかね。」

 

 「ただの食いしん坊じゃなかったんですね……。」

 

 どんな評価だよ。




というわけで、新転生者3人目です。
ただまぁ、スタメンではなくてちょい役のつもりです。

そして主人公の従士設定ですが、はい、完全に後付け設定です。
見ての通り一通り書いてからの予約投稿なので、前の話を変更するのもありかなって思ったのですが、めんどくさかったのでやめました。

ちなみに従士の設定ですが、各都市複数の従士がいる設定です。
なのでドヴァキンも従士ですし、他の従士もいます。


ついでに従士の証の指輪ですが、これもMODです、
なんのMODだったかな……

ChatGPTの画像生成について、OpneAI側は著作権はクリアしているとのことで、参考画像(食べ物やキャラクターの見た目)を生成して掲載することは可能らしいのですが、皆さんの意見が知りたいです。念のため、挿絵の要望が多くても絶対に挿絵を生成するとは約束しませんし、挿絵反対が多くても絶対に挿絵を生成しないとは約束しません。極論、すべてを運営に任せるのが一番ですが、皆さんの意見を聞きたいです。

  • 生成AIで挿絵を作るべきではない
  • 料理は生成しても良い
  • キャラクターは生成しても良い
  • 両方生成してよい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。