スカイリムCC:釣り師の痴人   作:アーマーブレイク大好きおじさん

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15ハーブティー

 「市民よ。協力に感謝するぞ。」

 

 正午だというのに相変わらず霧が出ていて幽玄な雰囲気のモーサル。

 その近郊にある沼で、私とシズクは大きなたんこぶを作った馬鹿三人衆――釣り勝負の布告を出していたブルティウスと二人の山賊崩れが、モーサルの衛兵に連行されていくのを見届けた。

 

 ヴィリアから依頼されていた件。

 釣り勝負のからくりは、対戦相手を人気のない釣り場に呼び出して、潜ませておいた山賊に襲撃させるというものだった。

 幸いにも私が相手だったので、拳骨を数発喰らわせて黙らせた。

 

 しかし被害は既に出ており、現に付近の沼から幾つかの遺体が発見されている。

 

 「こんなの……ひどすぎます……。」

 

 シズクが俯き加減に言う。

 まだこの世界に転生してきて間もない彼女にとって、残酷な事件だっただろう。

 兎やオオカミの死体ですら、まだ気分が悪そうにしていたというのに。

 人間の――それも無実の人間の死体を前にした彼女が、平静であるわけがない。

 

 震えが止まらない彼女を、ぎゅっと抱き寄せる。

 私自身も、今回の事件には強い憤りを感じていた。

 モーサルの衛兵たちも、青筋を立てて馬鹿三人衆を連行していく。

 

 その表情は相当に硬く、怒りに満ちているようだ。

 当然だろう。

 こんな残酷で卑怯な真似を許すわけにはいかない。

 

 どこまでも続く霧の向こうへ消えていく馬鹿三人衆。

 その背中を見送っていると、シズクが小さく息をついた。

 

 「……心配しないでください。私、大丈夫ですから。」

 

 彼女は笑おうとしているのだろうが、目元に浮かんだ涙が滲み出て止まらない。

 私が彼女を抱きしめる手に力を込めると、彼女は少しだけ安堵したように微笑んだ。

 

 この世界は残酷だ。

 

 無実の人間があっさりと死ぬ。

 生きていく上で、自己防衛のための武器や魔法が必要不可欠だ。

 そして、それらがない者は、簡単に食い物にされて――潰される運命にある。

 そんな残酷な現実を突きつけられ、私もシズクも心が重かった。

 

 私は霧の向こうへ視線を向けた。

 どこまでも白く霞む湿地。

 そのどこかで、この事件の犠牲になった人たちは最期を迎えたのだろう。

 

 「ファイザルさん……」

 

 シズクが私の胸元に額を預けたまま、小さく呟く。

 

 「亡くなった人たちにも……家族がいたんでしょうか。」

 

 その言葉に、私はすぐには答えられなかった。

 きっと、いただろう。

 

 父や母。

 夫や妻。

 あるいは子ども。

 もしくは飲み仲間。

 

 帰りを待つ人が、誰か一人くらいはいたはずだ。

 いや、居たに決まっている。

 

 「……いただろうね。」

 

 それ以上の言葉は見つからなかった。

 

 慰めにもならないのは分かっている。

 でも安易な慰めなんかいらないと思ってる。

 

 「待ってる人がいるのに……。」

 

 「うん。」

 

 「もう帰られないなんて……。」

 

 座り込んでしまったシズクから静かな嗚咽が漏れる。

 私はその小さな背中を、ゆっくりと撫でた。

 その言葉には今回の犠牲者を悼む気持ち以上のモノが含まれているのがわかる。

 

 

 

 ”もう帰られない”か。

 

 

 

 寂しい言葉だ。

 

 そしてそれは”私たち自身への言葉”でもある。

 

 

 

 「……そうだね。」

 

 その言葉を口にした瞬間、不意に胸の奥がちくりと痛んだ。

 

 私たちも、また――元居た世界に”もう帰られない”存在なのだ。

 

 父さんも。

 母さんも。

 学生時代に馬鹿ばかりしていた友人たちも。

 

 もう二度と会えない。

 

 向こうでは、私という人間はどうなったのだろうか。

 

 行方不明として扱われているのか。

 それとも、既に葬儀まで終わっているのか。

 

 今となっては知る術もない。

 

 忘れたことはない。

 忘れられるはずもない。

 

 ただ――。

 

 「シズク。」

 

 「はい。」

 

 風が吹く。

 

 「私はね。

 まだ家族のことを思い出すよ。

 また会いたいって思う。

 もう一度帰りたいって思う日もある。」

 

 シズクは何も言わなかった。

 ただ静かに、私の言葉を聞いていた。

 

 「でも、私が望むことは一つだけ。」

 

 私はゆっくりと目を閉じる。

 白い霧の向こうへ、真っ直ぐに願いを送った。

 

 「……元気で居て欲しい。

 ……それだけ。」

 

 瞼の向こうに、幻視する。

 

 鋼鉄の塔が並びたち、自立する馬車が黒く継ぎ目のない道を行く。

 赤や青の光が点滅し、空に鋼鉄の鳥が消えていく科学の町。

 

 私の故郷の――二度と戻れぬ日本の姿を。

 

 「……向こうも同じだと思う。」

 

 私の声に反応するように、風が強くなった。

 

 「もし、どこかで生きているなら、新たな生を受けたなら、元気に生きていなさい。ってね。」

 

 私はゆっくりと立ち上がり、視線を霧の向こうへ向けた。

 

 「時間は、悲しみを消してはくれない。

 けれど、”悲しみを抱えたままでも歩いて行ける”ということは教えてくれる。」

 

 振り返ると、シズクも同じように立ち上がっていた。

 

 その表情は暗くはなかった。

 大きな目には、決意の炎が宿っているように見える。

 

 「……私も忘れられない人がいます。

 きっと、ずっと私の心の中に居続けるんでしょうね。」

 

 シズクが呟く。

 その声はどこか凛々しく、力強い。

 

 「だから。精一杯生きるんですね。」

 

 シズクの言葉に、私は静かに頷いた。

 

 「だからちゃんと食べて。」

 

 「ちゃんと笑って。」

 

 「幸せな気持ちを感じられるように。」

 

 そう――向こうにいる家族や友人たちへの想いを胸に秘めて、今日も元気に過ごすのだ。

 

 「失礼。取り込み中だったかな?」

 

 突然背後から声がかかる。

 振り返ると、モーサルの衛兵が立っていた。

 

 「今日中に飲まなきゃならんハーブティーがあったんだ。

 手伝ってくれないか?」

 

 そういって、温かなハーブティーが入った水差しとコップを渡された。

 

 「飲み終わったらムーアサイドのジョナにでも渡してくれ。

 じゃあな。風邪ひく前に戻って来いよ。」

 

 衛兵はそう言うと、足早に去って行った。

 私とシズクは互いに顔を見合わせる。

 

 「……ふふ、冷めちゃう前に飲んじゃいましょうか。」

 

 シズクはそう言って、水差しを傾ける。

 

 ――こぽこぽこぽ……

 

 湯気が立つ。

 最初に鼻を抜けたのは、カモミールにも似た甘い香り。

 その奥から、湿地に自生するハーブ特有の青々とした香気が静かに広がる。

 

 味見をするように一口含む。

 

 ほろ苦さの中に優しい甘みが感じられるお茶だった。

 

 「……あったかいですねー」

 

 シズクが両手でコップを包み、小さく息を吐く。

 白い湯気がモーサルの深い霧へと溶けていった。




一旦ここまでで区切りです。
いっぺんに書いていっぺんに投稿するスタイルになると思うので、しばしの別れです。
まぁ、基本的には単話完結でいきたいと思いますが。

ChatGPTの画像生成について、OpneAI側は著作権はクリアしているとのことで、参考画像(食べ物やキャラクターの見た目)を生成して掲載することは可能らしいのですが、皆さんの意見が知りたいです。念のため、挿絵の要望が多くても絶対に挿絵を生成するとは約束しませんし、挿絵反対が多くても絶対に挿絵を生成しないとは約束しません。極論、すべてを運営に任せるのが一番ですが、皆さんの意見を聞きたいです。

  • 生成AIで挿絵を作るべきではない
  • 料理は生成しても良い
  • キャラクターは生成しても良い
  • 両方生成してよい
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