スカイリムCC:釣り師の痴人 作:アーマーブレイク大好きおじさん
【悲報】カニに負けそう
「既に……こちらへ向かっているだと?」
最初に声を上げたのは、先ほどまで威勢よく拳を掲げていた鉱山労働者だった。
「待て待て待て……話が違うだろ!」
男は青ざめた顔で周囲を見回す。
「俺たちはただの労働者だぞ!
こんな危険な状況でカニと戦わされる筋合いはねぇ!」
その言葉を皮切りに、広場がざわめき始める。
「船はどうするんだ!?」
「港が襲われたら逃げ場がないぞ!」
「俺は武器なんて持ったこともない!」
先ほどまで不満を漏らしていた漁師たちも、今度は慌てふためき始める。
彼らは戦士ではない。
海へ出て魚を獲り、鉱山で汗を流して暮らしているただの市民だ。
そんな彼らに、突然命を懸けて町を守るためにカニと戦えと言われても無理な話である。
「静まれ!」
ジョットの怒声が響いた。
先ほどまで疲れ切った表情をしていた男とは思えない。
「非戦闘員は建物内へ避難しろ!
衛兵は防壁周辺へ配置!
街への侵入を絶対に許すな!」
「しかし、隊長……!」
若い衛兵が戸惑う。
ジョットは苦い顔をした。
「分かっている。予定とは違う。
だが、今は私の指示に集中してくれ。」
そう言って、衛兵たちは散っていく。
残された傭兵たちは顔を見合わせていた。
「……なぁ。」
一人が小声で言う。
「俺たち、報酬はいくらだった?」
「は?」
「いや……その。」
男は海岸方向を見る。
「命を張るには、ちょっと安すぎないか?」
先ほどまで威勢よく蟹退治を語っていた男とは思えない。
私は思わずため息を吐いた。
でもまぁ、これも当然の反応だ。
命は誰だって惜しい。
その時。
「随分と情けないことを言うのね。」
凛とした女性の声が響いた。
振り返る。
そこにいたのは二人の人物だった。
鎧を身につけた女性。
そして、その隣に立つ屈強なノルドの男。
「ブリナ……!」
スカルドの顔が険しくなる。
「ホリックまでいるとはな。」
女性――ブリナ・メリリスは気にした様子もなく歩み寄ってくる。
「首長――」
「帝国の犬が!よくワシの前に顔を出せたものだな!」
空気が一瞬で冷える。
「ウルフリック上級王に忠誠を誓うドーンスターへ、帝国の者が何の用だ?」
「今、それを言っている場合?」
ブリナの声が鋭くなる。
「街が襲われているのよ。」
「やかましい!」
――ガシャン!
スカルドは槍を地面へ叩きつけた。
「我らの誇りを裏切った者の意見など聞き入れん!」
私は頭を抱える。
……本当に、この老人は。
状況判断ができないのか。
いや。
恐らく違う。
分かっていても、譲れないのだ。
そんな頑固な老人なのだろう。
私は小さく息を吐いた。
「君。」
防衛の支度をしていた若い衛兵へ声を掛ける。
「ジョットに伝えてくれ。私は最前線に出る。」
衛兵が目を見開く。
「え……!?は、はい!」
正直、マッドクラブ程度なら負ける気はしない。
でも問題はそこではない。
「……。」
私は静かに防壁を見る。
問題は、私が勝てるかどうかではない。
もし数百の蟹が押し寄せれば。
防壁が持つかどうかだ。
大挙して押し寄せてきたのならば、上手く陽動できる保証はどこにもない。
「ファイザルさん。」
その時だった。
袖を引かれる。
振り返ると、シズクがいた。
その顔には不安ではなく、何かを決意した表情が浮かんでいる。
シズクが耳打ちする。
「ファイザルさん……救援を呼びませんか?」
「……救援?」
どこに?
「ダンパー・ウォール村なら戦力的には期待できない。ホワイトランやモーサルに行くのは……早くとも片道で半日はかかる。ウィンドヘルムなんてもってのほか――」
「違います。」
え?
「衛兵じゃありません。」
シズクは周囲を確認する。
「この世界には……バニラにはなかった場所が増えています。」
「……MOD、か。」
そうだ、この世界のこの街には、バニラになかった壁があった。
ダンスタッド村もバニラにはなかった。
なんなら私が着ているこの甲冑もMODだし、首長がさっき叩きつけた槍もMODで追加されたものだ。
私たち二人だけが理解する。
「もし、この世界のスカイリムに、私たち転生者のMODが色濃く反映されているのでしたら。」
シズクは言葉を切る。
「ドーンスターの周辺に”心当たり”があります。」
私はシズクの目をじっと見る。
「でも、確証はないはずだ。」
「はい。」
シズクの表情が曇る。
「もし何もなかったら……雪山をさまようことになります。」
今度は不安げな表情に変わる。
それでも彼女は、決意に満ちた瞳を向けてくる。
「でも私は――」
その瞳の色は、綺麗だった。
「この世界が、この世界の人が好きです。滅んで欲しくありません。」
”この世界が好きだ。滅びて欲しくない”
(ああ……)
初めてこのゲームをやった時の記憶を思い出す。
最終局面の、世界を救う理由をパーサーナックスに問われたときに返した”主人公”の言葉を。
きっと彼も同じ目をしていたのだろう。
「……南東だな。」
「はい!」
「ふふ……私もそこには”心当たり”がある。」
私は笑う。
確証がなくてもやってみようじゃないか。
私とシズクは足早に移動する。
ドーンスターの防壁。
慌ただしく動く衛兵たち。
怯えた表情を浮かべる住民。
時間は多くない。
「シズク。」
「はい。」
彼女の表情が引き締まる。
「サイレント・アバランチ号を使ってくれ。」
「え?あのお馬さんのことですか?」
シズクの目が丸くなる。
「ああ。」
そして――
「私はドーンスターの防壁を守らねばならない。」
――ごくりっ
シズクは唾を飲み込む。
「救援の要請を、頼めるか?」
緊張しているようだった。
当然だ。
彼女にとって、一人で町の外へ出るということは、大きな意味を持つ。
モーサルへ向かった時も。
その向かう道中でも。
いつも隣には私がいた。
だが、今回は違う。
単独行動。
それは、シズクにとって未知の領域だった。
加えて、今は状況が悪い。
街が襲われている最中だから当然だ。
「怖いか?」
門の手前で問いかけると、シズクは少しだけ俯いた。
「……怖いです。」
正直に答えてくれた。
「すごく怖いです。」
小さな手がぎゅっと握られる。
「この世界に来てから、何度も怖い思いをしました。」
「……。」
「山賊も、蜘蛛も、……ご遺体も……。」
シズクは顔を上げる。
「でも。」
その瞳には、もう迷いはなかった。
「この世界で出会った人たちが、困っているのを見て見ぬふりする方が、もっと嫌です。」
「……ふふっ。」
私は思わず笑った。
本当に強くなった。
少し前までは、この世界の残酷さに怯えていた少女だったのに。
それが今では、自分からその残酷さに立ち向かおうとしている。
「……分かった。」
私は厩舎から出したサイレント・アバランチ号の手綱をシズクへ渡す。
「深く考えるな。後悔なく行こう。」
「はい!」
彼女は馬へ乗る。
少しぎこちない動きだった。
そういえば――
「独りで馬に乗るのは初めてだったよね。」
シズクの顔が固まる。
「……言わないでください。」
「がんば、がんば。」
「今さら不安にさせないでください……!」
慌てながら手綱を握る姿に、思わず笑ってしまう。
「大丈夫だ。サイレント・アバランチは本当に賢い馬だ。」
私は馬の首を軽く撫でる。
そして私は防壁へ目を向ける。
その瞬間――
「来たぞぉ!!」
叫び声が響く。
見張り台の衛兵の声だった。
「接敵するぞぉ!!」
時間切れのようだ。
「行って。」
「はい!」
シズクは手綱を引いた。
最初はゆっくり。
不安定だった馬体が、次第に速度を上げていく。
――ドドッドドッドドッ
「え……?ちょっと!?」
戸惑う衛兵達を尻目に、シズクは門を抜けた。
私もシズク達に続いて門の外へ出る。
「ファイザルさん!」
振り返ったシズクが叫ぶ。
「絶対に戻ってきますから!」
私は片手を上げる。
「待ってるよ。」
短い返事。
それだけで十分だった。
白い雪原の中を、一頭の馬が駆けていく。
青い髪の少女を乗せて。
彼女にとって、この世界で初めて。
一人の意思で踏み出す一歩だった。
私はその背中をしばらく見送った。
……さて。
こちらも仕事をするとしよう。
振り返るとそこには、大量の甲殻類の軍勢。
――カチ。
――カチカチ。
――カチカチカチカチ。
不気味な音が響いてくる。
最初は数匹だった。
だが、次第にその姿が増えていく。
白い雪の上を這う、無数の甲殻。
巨大なハサミ。
鋭い脚。
そして、こちらへ向けられた敵意。
「……多いな。」
思わず呟く。
覚悟していても、多いものは多い。
数十――いや遠くまで続く影を見る限り、百を超えているかもしれない。
これが全て、マッドクラブだと言うのだから笑えない。
「全員、配置につけ!!」
ジョットの怒声が響く。
先ほどまで疲れた顔をしていた男とは思えない迫力だ。
「弓兵は防壁上へ!
近接兵は門前を固めろ!」
「了解です!」
衛兵たちが走る。
その姿を見て、私は少しだけ感心した。
さすがは衛兵長というところか。
こんな状況でも兵をまとめ上げている。
「ファイザル殿。」
ジョットが横に並ぶ。
「正面は任せても?」
「ああ。」
私は刀を抜く。
「ただし。」
「?」
「長時間は持たないだろう。」
ジョットの表情が僅かに険しくなる。
「……数が多すぎる、か。」
問題は一匹一匹の強さではない。
マッドクラブは確かに危険な生物だ。
だが、基本的には単独でも対処できる程度の相手。
しかし。
それが群れとなれば話は別だ。
押し寄せる波を一人で止めることなどできない。
負けることはなくとも、防壁を守り切れる確証はない。
「防壁を突破されれば、街中での戦闘になる。」
「その前に食い止める必要があるわけですな。」
ジョットは頷いた。
「……まったく。」
彼は小さくため息を吐く。
「なぜ私は、蟹の大群と戦う羽目になっているのでしょうか。」
「首長にでも聞いてくれ。」
「聞いても仕方ないでしょうな。」
即答だった。
確かにそうだよな。
「来ます!!」
防壁上から叫び声が響いた。
次の瞬間。
西南方の雪原を埋め尽くしていたマッドクラブが、一斉に速度を上げる。
ドドドドドドッ――。
まるで地面そのものが揺れているようだった。
「弓兵!!」
ジョットが叫ぶ。
「放て!!」
無数の矢が空へ舞い上がる。
そして。
雨のように降り注いだ。
「ギャッ!」
「ギィィィ!」
何匹ものマッドクラブが雪の上で貫かれる。
だが、止まらない。
後ろから次々と仲間を踏み越え、前へ進んでくる。
「……冗談だろ。」
傭兵の一人が呟いた。
先ほどまで余裕を見せていた男だった。
「数が違いすぎる。」
その声には、隠しきれない恐怖が混じっていた。
しかし、隣にいた別の傭兵が鼻で笑う。
「おい。」
「なんだよ。」
「報酬分はキッチリ働けよ。」
「……。」
「ここで逃げたら、蟹以下だぞ。お前。」
男は舌打ちした。
「……言いやがる。」
そして斧を構える。
「分かったよ。やってやる。」
「最初からそういう顔してろってんだ。」
そんなやり取りを聞きながら、私は前を見る。
距離はもうない。
「来るぞ。」
最初の一匹が跳び掛かってきた。
私は一歩踏み込む。
振り下ろされた巨大なハサミ。
それを紙一重でかわし、刀を横へ薙ぐ。
――キンッ!
カニの甲殻を切るなんて、オリハルコンを切るよりも容易いことだ。
だが。
休む暇はない。
二匹目。
三匹目。
次々と迫る。
「……なるほど。」
私は小さく笑う。
確かにこれは厄介だ。
一匹なら問題ない。
十匹でもまだ戦える。
しかし。
百匹以上となれば、話が変わる。
体力は削られる。
集中力も落ちる。
そして何より。
人間側には守るべき場所がある。
私は後ろに意識を飛ばす。
防壁の上。
必死に矢を放つ衛兵たち。
その下。
震えながらも武器を握る傭兵たち。
その奥。
矢や物資を運搬する漁民や鉱夫たち。
「ここを抜かせるわけにはいかない!」
――ズパンッ!
突進してきたマッドクラブを刀で切り倒す。
次々と襲ってくる影。
止まる様子はない。
「ファイザル殿!!」
ジョットの声。
「右側が薄い!」
「分かった!」
私は地面を蹴る。
雪が舞い上がる。
私は数メートル先へ跳んでいた。
迫るマッドクラブの甲殻へ刀を突き立てる。
――ドスッ。
カニがそのままが崩れ落ちる。
「……これがリフテンの赤い雷光……!」
後ろから、感嘆の声が聞こえてきた。
しかし、休む余裕はない。
次々と集まってくる影。
一匹ずつ確実に倒してはいる。
だが、戦場全体を覆う速度に追い付けていない。
防壁の上から、一人の衛兵が叫ぶ。
「ジョット隊長!!」
「何だ!」
「北の海岸側にも回り込んでいます!」
「……ッ!」
ジョットの顔が険しくなる。
「行ってくれ。」
「だが……」
「街に入られる方が問題だ。ここは私が何とかする。」
ジョットは小さく息を吐く。
「……もし、援軍の従士を酷使して死なせてしまったら、外交問題になる。」
「だろうな。」
「……生き残ってくれよ。私の胃のためにも。」
「そうしよう。」
ジョットは走り出す。
そして私は再びマッドクラブへ向き直った。
――ギィン!
切る。
――ギィン!
切る。
――ギィン!
切る。
……
…………
…………………
………………………
………………………………
何も考えない。
考える余裕がない。
ただひたすらに切りまくる。
疲労が徐々に蓄積していく。
汗が流れ出る。
息が苦しくなってくる。
それでも止められない。
守りたい人たちが――世界があるから。
「衛生兵!衛生兵!」
「矢はないのか!持ってきてくれ!」
「ポーションを!急げ!」
背の防壁から悲鳴や叫び声が聞こえてくる。
街が混乱に包まれ始めている。
「……まだ、戦える……!」
「無理をするな!下がれ!」
「勝利か、ソブンガルデかだ!!!」
防壁の一角で、木材が軋む音がした。
――ミシッ。
「まずい!このままでは……!」
衛兵の悲鳴が飛ぶ。
その時だった。
――ブォォォォオオオオオオオオン!
「角笛?」
戦場全体に響き渡る角笛の轟音。
思わず聞こえた方に視線が向く。
聞こえた方角は――
――南東。
遠目に見える旗は夕焼けに赤く照らされていた。
そこには”傾いた盃”のシンボル。
夕焼けに照らされた軍勢の先頭。
先頭の一人が剣を掲げる。
「ステンダールは汝らと共にあり!!!」
その咆哮に応えるように、後続の番人たちが一斉に武器を掲げた。
「「「ステンダールは汝らと共にあり!!!」」」
ステンダールの番人たちが雪原を駆け抜ける。
そのまま、まっすぐと群れの後方へと突き進んでいく。
ステンダールの名を叫びながら、次々とマッドクラブを叩き潰していく。
その勢いに反応するように、後方の群れが一斉に振り向いた。
扇動の魔術は単純だ。
敵とみなした対象へ、ひたすら突進する。
だからこそ。
新たな敵が近くに現れれば、そちらへ引き寄せられる。
実際、後方のマッドクラブたちは番人側へと引き寄せられていた。
群れが分断されたのだ。
先ほどまで隙間なく押し寄せていた波に、明らかな綻びが生まれていた。
「傭兵隊。」
私は後ろへ振り返る。
そこには傭兵たちが、息を切らせながらも立っていた。
全員無事のようだ。
「港の防衛へ。」
傭兵たちは顔を見合わせた。
「はぁ!?
前線を離れていいのか!?」
「いいぞ。」
そして、私は静かに息を吐いた。
刀の柄を握る指へ、ゆっくりと魔力を流し込む。
――パチッ。
微かな破裂音。
次の瞬間、刀身を赤い火花が駆け抜けた。
「……なっ」
近くの傭兵が息を呑む。
赤い稲妻。
それは刀だけでは終わらなかった。
肩へ、腕へ、胸へ――生き物のように全身へ絡みつき、迸る雷光が降り積もった雪を赫く染め上げていく。
「赤い……雷光……ッ!?」
傭兵の一人が思わず後ずさった。
私は口元をわずかに緩める。
「……ようやく、本気を出せる。」
十分だ。
カニの軍勢の底は見えた。
力を温存する必要はない。
これから先は自由に動ける。
「港は頼んだ。」
――ドォンッ!!
地面が砕けるような衝撃。
踏み込みだけで雪煙が爆発し、赤い雷を引きずったまま私は最前列のマッドクラブへ突っ込んだ。
「――《古竜の雷奔》」
刀が振り抜かれる。
その一閃は、もはや斬撃ではなかった。
――バチィィィィィィィィィィィィィンッ!!!
轟雷が雪原を裂く。
赤い電流が奔流となって走り、マッドクラブの甲殻を次々と焼き尽くしていく。
一歩。
さらに一歩。
左へ滑り込み、右へ躱し、前へ踏み込む。
刀が閃くたび、赤雷が軌跡となって雪原へ刻み込まれた。
――バチィッ!!
切断された脚が火花を散らして宙を舞う。
――バチンッ!!
雷撃を纏った斬撃が後続の群れをまとめて貫き、数体を同時に吹き飛ばした。
次から次へ。
赤い閃光が戦場を縦横に走るたび、大気が震え、雪が跳ね、焦げた甲殻の臭いが広がっていく。
さぁ、そろそろ終わりにしようじゃないか。
出し惜しみはなしだ。
なぜなら私は――
――腹が減ったのだから。
今回出てきたステンダールの番人は超大作の有名クエストMODのやつのオマージュです。
本当はア〇タノさんとか色々出したい気もするのですが、やっぱりクエストやフォロワーって作者の設定があって、キャラクターの設定があって……って考えると私が余計なキャラ付けしたくないなって思います。
ちなみに例のクエストMODですが、ガチの超大作です。
ちなみに赤い雷MODは【Ancient Dr〇gon Lightning】というめちゃくちゃかっこいい魔法MODです。