スカイリムCC:釣り師の痴人   作:アーマーブレイク大好きおじさん

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まさかのブルックバス君、二回目のメイン


20ブルックバスの塩焼き

 暖かな陽射しに包まれた昼下がり。

 のんびりとした緩やかな時間の中で、私は釣り糸を垂らしていた。

 

 ここはリバーウッド。

 ホワイトラン領にある小さな村だ。

 村の中央には川が流れ、周囲は森に囲まれている。

 

 長閑な田舎ではあるが、巨大な交易都市であるホワイトランに近く、穏やかさと利便性を兼ね備えた村だ。

 

 「ふぅ……」

 

 仕掛けを水面へ落とす。

 ゆっくりと揺れる針先は、澄んだ雪解け水の表面を滑っていく。

 

 「ふにゃ~……」

 

 隣ではシズクがのんびりと日光浴を楽しみながら舟をこいでいた。

 いや、本当に舟をこいでる訳じゃなくて、ウトウトしているってことね。

 

 がさり、と静かに草むらが揺れた。

 視線をそちらへ向けると、一人の黒い老猫――カジートという猫の獣人の男がのろのろとやって来た。

 人懐っこそうな笑顔を浮かべた彼は、私の隣にやってきた。

 

 「やぁ、友よ。何か釣れたかい?」

 

 「まだ何も。川は静かだ。」

 

 私が答えると、カジートはひょいと近くの岩に腰かけた。

 

 「どんな獲物を狙っているんだね?」

 

 「……黒い竜さ。」

 

 私は釣り竿を握ったまま、ちらりと男を見る。

 

 「では、何を餌にしたんだね?」

 

 「……(ブレイズ)だ。」

 

 私が言うと、彼はふむふむと頷きながら話を続けた。

 

 「……思いがけず、ずいぶんと大きな獲物を釣ってしまったそうじゃないか。」

 

 「ああ、そうだ。」

 

 黒いカジートの男。

 彼の名前はドロカーン。

 自由気ままに放浪する行商人でもあり、私が探していた相手――ブレイズの密偵でもある。

 

 「ホワイトランの従士殿からあらましは聞いてるよ。

 なんでもすぐに会う必要があるそうじゃないか。

 早く向かわなければと思ってここまでやって来たんだ。」

 

 ドロカーンが背中の荷をゴソゴソと漁りながら話す。

 どうやら彼も釣りをするようだ。

 

 「だが、分かっていることは少ない。

 とりあえず、これをグランドマスターに渡してほしい。」

 

 そういって、私は沈む太陽の刻印が刻まれた布を差し出す。

 彼は布を受け取ると、意味深な笑みを浮かべた。

 

 「これは……なかなかに面倒くさそうなことになったようじゃないか。」

 

 「ああ。」

 

 私は頷く。

 この刻印には、相当なマジカが込められている。

 おそらくは、”深遠の暁教団”がマッドクラブ襲撃事件に関与しているのだろう。

 

 「まぁ、任せて欲しい。必要なことがあればまた伝えよう。」

 

 「助かる。」

 

 ドロカーンが布を丁寧に折り畳み、懐へしまう。

 これで、とりあえず今回の用件は終わりだ。

 

 深遠の暁教団。

 

 かつて世界を大きく揺るがしたデイドラ崇拝組織が、今になって再び動き始めているのだとすれば、放置するわけにはいかない。

 

 ブレイズに、調べてもらう必要がある。

 

 とはいえ――。

 

 いや、ここで私が考えても仕方がない。

 

 後はドロカーンと、ブレイズに調査を任せるとしよう。

 

 私は再び釣り竿へ視線を戻す。

 せっかくの穏やかな昼下がりだ。

 今は余計なことを考えず、のんびり釣りでもしていよう。

 

 「……あの。」

 

 不意に、隣から声がした。

 

 シズクだ。

 

 いつの間にか目を覚ましていたらしい。

 彼女は半分眠たそうな目を擦りながら、ドロカーンをじっと見つめている。

 

 「猫ちゃん……」

 

 そして一言。

 ドロカーンがクスリと笑う。

 

 「カジートだよ。」

 

 ドロカーンが笑う。

 

 「猫ちゃん……」

 

 シズクの目が、みるみるうちに輝いていく。

 ちなみに本物のカジートは猫扱いされると機嫌が悪くなる。

 しかしこの男は――いや、転生者カジートは別。

 わざわざキャラクリで猫を作るくらいの人種なのだ。

 

 つまるところ、転生者カジートは猫好き。

 

 だから猫扱いされても怒らないし、むしろ喜ぶ。

 猫好きの友を見つけた感覚なのだろう。

 

 「モフってもいいですか?」

 

 「もちろん。」

 

 即答だった。

 

 「わぁ……!」

 

 シズクが嬉しそうに身を乗り出す。

 その勢いに押されるように、ドロカーンも少し姿勢を正した。

 

 「さあ、好きなだけどうぞ。」

 

 「本当に!?」

 

 シズクの手が、ドロカーンの頭へ伸びる。

 

 そして――。

 

 ――もふっ。

 

 「うわぁぁ……すごい……!ふわふわです……!」

 

 「このカジートの毛並みは自慢でね。」

 

 ドロカーンが誇らしげに胸を張る。

 ちなみに、カジートは自身を三人称で呼ぶイリイズムという独特の話し方をする。

 もっとも、転生者であるドロカーンにはその必要はない。

 ……なのだが、本人はこの喋り方がすっかり気に入っているらしい。

 

 そんなこんなでシズクが猫かわいがりをしていると――

 

 ――ぴくん。

 

 「――来た!」

 

 私は反射的に竿を引く。

 それは刀の一閃の如く速い動作だった。

 

 水面下から飛び出してきた黒い影が、跳ね上がる。

 

 ブルックバスだ。

 

 光を反射して輝く鈍い銀色で大きく丸みを帯びた頭部が特徴的な魚だ。

 

 「釣れた。」

 

 私は釣り上げた魚を掲げる。

 こいつを今夜の夕食にしよう――……とは思ったものの、少々小ぶりである。

 そんな私の心を見透かすかのようにドロカーンがにやりと笑った。

 

 「なかなかやるじゃないか、友よ。でも――」

 

 ドロカーンが指を立てる

 そして釣り上げられたブルックバスを指差しながら、言葉を続けた。

 

 「カジートならより大きいものが釣れる。それは間違いない。」

 

 (こいつ……)

 

 私の気持ちを読んでたのか?

 まぁ良い。

 どのみちもっと大きいブルックバスじゃないと満足できないのは確かだ。

 

 「どれ?せっかくだ。誰が一番大きな魚を釣るか、勝負しようじゃないか?」

 

 ドロカーンは自分の釣り竿を握る。

 

 「ルールは?」

 

 「簡単だよ。日が沈むまでに、一番大きな獲物を釣った者が勝者だ。」

 

 「分かりやすいな。」

 

 だが私は釣りの仕事をしていて、そこそこ実績を積んでいる。

 どれだけ運が悪くとも最下位になるなんてことはないだろう。

 

 (この勝負、貰った。)

 

 こうして、なんとも奇妙な釣り勝負が始まった。

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 「……。」

 

 「……。」

 

 「……釣れませんね。」

 

 シズクがぽつりと呟く。

 

 「静かだね。」

 

 ドロカーンも水面を見つめている。

 先ほどまでの威勢はどこへやら。

 三人並んで釣り糸を垂らしているものの、水面には小さな波紋が広がるだけだった。

 

 だが、そんな沈黙を破るように――

 

 ぱちゃん!

 

 「――来ました!」

 

 シズクが思わず立ち上がる。

 

 ――グンッッッ!

 

 シズクの釣り竿が大きくしなる。

 

 「ふんっ……てやぁーー!」

 

 シズクが力強く竿を引く。

 黒い影が暴れるように跳ね回り、水面下から飛び出した。

 

 ブルックバスだ。(二匹目)

 

 ばしゃん、と水飛沫があがる。

 シズクは誇らしげに、自分の獲物を持ち上げた。

 

 「見てください!」

 

 私は言葉も出ず、その光景に圧倒された。

 だが、ドロカーンは落ち着いた様子でシズクを見つめている。

 

 「ふむ。これは……なかなかのサイズだな。」

 

 おおっ……。

 確かに結構大きい。

 とても悔しい。

 

 「どうですか?この勝負、私の勝ちですか?」

 

 ふふん、とシズクは得意げに胸を張る。

 対するドロカーンは、小さく首を振る。

 

 「ところがどっこい緋鯉の初恋。まだ終わりじゃない。」

 

 ドロカーンはにやりと不敵に笑う。

 ていうか、それ言いたいだけだろ(名推理)。

 私も言いたい。

 

 「次、カジートはもっと大きなものを釣ろうじゃないか。」

 

 「……言ってくれる。」

 

 私は何気なく返事をする。

 しかし――。

 

 ぱちゃん。

 

 「そら、来たぞ!」

 

 「何!?」

 

 思わず声を上げる。

 言ったそばから、今度はドロカーンの釣り竿が大きくしなったのだ。

 

 黒い影が暴れるように跳ね回る。

 そして水面下から飛び出した。

 

 三匹目のブルックバス。

 

 だが先ほどのシズクの獲物と比べて明らかにサイズが大きい。

 確実に今までの中で一番大きい。

 

 ――ドシャッ!

 

 「見たかい、友よ!」

 

 そして――。

 

 「これがカジートの実力だ!」

 

 ドロカーンの顔に笑みが浮かぶ。

 

 鈍い銀色の鱗が少し傾いた陽光を反射し身を捩る。

 ドロカーンはそれを誇らしげに掲げた。

 

 「どうだい?」

 

 「……かなり大きいな。」

 

 「ふふふ。」

 

 ドロカーンの尻尾が、ゆっくりと左右に揺れている。

 どうやら相当嬉しいらしい。

 

 「どうやら、これはカジートの勝ちのようだね?」

 

 「むむむ……」

 

 むむむ……

 

 思わず言葉をこぼしてしまった。

 確かに今まで獲物を見比べればドロカーンの獲物の方がサイズは大きい。

 けれど――。

 

 「まだ、終わりじゃない。日没まではまだ時間がある。」

 

 私は不敵に笑う。

 そして再び竿を構え直す。

 

 こうして、再び三人の間に沈黙が訪れた。

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 川面は穏やかだった。

 

 水面を滑る風。

 木々の葉が擦れる音。

 遠くから聞こえてくる鳥の声。

 

 先ほどまでの勝負が嘘だったかのような、のどかな時間。

 

 ……だが。

 

 私は知っている。

 こういう時こそ、魚は来る。

 

 釣りとは忍耐の勝負なのだ。

 

 焦ってはいけない。

 静かに。

 ただひたすら、魚が餌に食いつく瞬間を待つ。

 

 そして――。

 

 ――ぴく。

 

 「……!」

 

 竿先が僅かに揺れた。

 私は目を細める。

 

 来たか?

 いや、まだだ。

 

 今のはただの水流かもしれない。

 慌ててはいけない。

 

 もう一度。

 

 ――ぴくっ。

 

 今度は明確だった。

 

 「…………。」

 

 私は竿を握る手に力を込める。

 だが、まだ引かない。

 

 焦るな。

 

 魚が餌を咥える、その時まで――

 

 ――グンッ!

 

 「……む?」

 

 竿が重い。

 竿が想像以上に重い。

 

 明らかにブルックバスとは違う。

 

 これは、大物だ。

 竿が大きくしなり、糸が水面を切り裂くように伸びていく。

 

 「これは……!」

 

 私は両手で竿を握り直した。

 

 「大きいぞ……!」

 

 「おや。」

 

 ドロカーンも興味深そうにこちらを見る。

 

 「これは期待できそうじゃないか。」

 

 「ファイザルさん、頑張ってください!」

 

 「ああ!」

 

 私は腰を落とす。

 竿を引く。

 

 だが――。

 

 重い。

 とにかく重い。

 

 魚が暴れているというより、何か巨大なものを水底から引きずり上げているような感覚だった。

 

 「くっ……!」

 

 ぐぐぐっ、と竿が軋む。

 糸が切れそうなほど張り詰める。

 水面の下で、黒い影が大きく揺れた。

 

 「……かなりの大物だな。」

 

 ドロカーンが呟く。

 

 「これは、ひょっとすると、このカジートの記録を更新するかもしれないじゃないか。」

 

 私はさらに力を込めた。

 

 「――せぇいっ!」

 

 ――ぐんっ!

 

 水面から巨大な影が浮かび上がる。

 

 魚影だ。

 

 間違いない。

 

 魚だ。

 

 しかも――かなり大きい。

 

 「はぁぁぁっ!」

 

 私は渾身の力で竿を引いた。

 

 ――ザッパァァァン!!

 

 大量の水飛沫が舞い上がった。

 

 「――――。」

 

 「――――。」

 

 「――――。」

 

 三人の視線が、一点に集まる。

 川から飛び出したのは――。

 

 「ぐえぇぇええええ!!!」

 

 2m程もある巨体。

 発達した下あごと牙。

 筋骨隆々の緑色の肌。

 剃り上げられた頭。

 そう……これは。

 

 「……オーク、ですね……。」

 

 オークだった。

 筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。

 

 「ごぼっ!ごほっ……!」

 

 オークが大量の水を吐き出し、むせている。

 うーん、デジャブ。(9話参照)

 

 「…………。」

 

 私の手元にある釣り竿。

 その先に繋がった釣り糸。

 そして、その先にいるオーク。

 

 私はゆっくりと口を開いた。

 

 「…………私の勝ちでいいか?」

 

 「いいわけがない。」

 

 即答だった。

 しかしここで諦めてしまえば、本当に最下位になってしまうかもしれない。

 

 「食べようと思えば、食べられる。」

 

 「えぇ……やめて下さいよぉ……。」

 

 シズクが本気で嫌そうな顔をする。

 

 「それはそうと――」

 

 ドロカーンがオークへ視線を向ける。

 

 「大丈夫かい?」

 

 「ごほっ……! ごほ、ごほっ……!」

 

 オークは何度か咳き込んだ後、ようやく呼吸を整えた。

 

 「……はぁ……助かりました……。」

 

 「…………。」

 

 「本当にありがとうございます。危うく溺死するところでした。」

 

 「…………。」

 

 「いやぁ、まさか川に流されるとは思っていなくて……ははは。皆さんが引き上げてくださらなかったら、今頃どうなっていたことか。」

 

 オークはそう言って、濡れた身体を起こした。

 巨大な身体。

 隆々と盛り上がった筋肉。

 緑色の肌。

 鋭い牙。

 

 どう見ても凶悪犯罪者。

 それか、凶悪性犯罪者。

 

 オークが顔を上げる。

 

 「え……。」

 

 そして、オークの表情が固まった。

 

 「…………。」

 

 私たちも何も言わない。

 

 数秒間。

 

 川のせせらぎだけが静かに響く。

 

 オークがゆっくりと目を見開く。

 

 「…………え?」

 

 その顔には、明らかな困惑が浮かんでいた。

 オークが恐る恐る口を開く。

 

 「え……?ア〇ルー……いや、カジート!?」

 

 うん?この反応もしかして……。

 

 「それにあなたは……いや!なんて破廉恥な恰好をしているんですか!?」

 

 オークが私を見て叫ぶ。

 言われてみればハイレグである。

 もう最近誰にも突っ込まれなかったから忘れてたけど、確かに破廉恥である。

 気になる人は【D〇rk Elf Blader】で検索けんさくぅ!

 

 「まぁまぁ、落ち着くんだ。」

 

 ドロカーンがオークにやさしく語りかける。

 

 「いいですか、落ち着いて聞いてください。

 ここはスカイリムのホワイトラン地方、リバーウッド村の川辺です。」

 

 シズクの声かけに、オークはきょとんとした顔で周囲を見渡す。

 そうして気づいたのか、自身の身体をマジマジと眺め始めた。

 

 「な、なななななななななななななななな!?」

 

 オークが取り乱した声を上げる。

 

 「こ、これは一体どういうことなんですかぁあああああ!?」

 

 オークが頭を抱える。

 その巨体から発せられるとは思えないほど、情けない悲鳴だった。

 

 「まぁまぁ、落ち着いて。」

 

 ドロカーンが穏やかに声をかける。

 

 「まずは深呼吸だ。そう、ゆっくりと。」

 

 「す、すぅ……はぁ……。」

 

 「もう一度。」

 

 「すぅ……はぁ……。」

 

 「いいね。」

 

 ドロカーンは満足そうに頷く。

 

 「では、まず自分の姿を確認してみるといい。」

 

 「自分の……?」

 

 オークは改めて自身の両手を見る。

 

 緑色の肌。

 太い指。

 節くれだった巨大な手。

 そして腕を覆う、異常なほど発達した筋肉。

 

 「…………。」

 

 オークは無言になった。

 やがて、恐る恐る自分の胸板に触れる。

 

 ――ぺたぺた。

 

 「…………筋肉だ。」

 

 「うん。」

 

 「ものすごい筋肉だ……。」

 

 「うん。」

 

 「なんで……?」

 

 「オークだからじゃない?」

 

 「いや、そういうことではなくてですね!?」

 

 オークが勢いよく顔を上げる。

 どうやら少し落ち着いてきたらしい。

 だが、その顔には未だに困惑が張り付いている。

 

 「これは……夢ですか?」

 

 「夢じゃないよ。」

 

 「じゃあ、VR?」

 

 「違う。」

 

 「……ドッキリ?」

 

 「違う。」

 

 「…………。」

 

 オークが頭を抱え直す。

 

 「まぁ、その反応は普通だよ。」

 

 ドロカーンが口を挟む。

 

 「我々も最初は似たようなものだった。」

 

 「……え?」

 

 オークがきょとんとした顔でドロカーンを見る。

 

 「このカジート……いや、私も彼女らもみんな転生者さ。」

 

 「……え?」

 

 オークの目が私とシズクを交互に見る。

 最後に、ドロカーンへ視線を向ける。

 

 「…………まさか!」

 

 「そう。君も一緒だよ、オーク君。」

 

 ドロカーンがニヤリと笑う。

 オークは何度も瞬きを繰り返していた。

 

 「…………信じられません。」

 

 オークが呟く。

 確かに夢やVRであれば納得できる話だろう。

 しかし現実に起こっているのだ。

 残念ながら夢やVRではない。

 

 「本当ですよ!ほら、その証拠に――……」

 

 シズクが川べりに立って水面を見る。

 ゆっくりと流れる小川。

 陽光を反射してキラキラと輝いている。

 

 そしてシズクは――

 

 ――頭を勢いよくブンブンと振り始めた。

 

 「ほら、こんなに顔を振ってもFPSが低下しないですよ!

 どんな高級グラボを使っても、この画質で、レイトレーシングありで、こんな風に視点をグリグリ動かしてもFPSが低下しないなんて、ゲームだったらおかしいですよね!?」

 

 えぇ……?

 いや、もっと他にあるでしょ。

 確かにゲームだったら水辺でグラボに負荷がかかってFPS下がるけどさ。

 舌噛むよ。

 

 「えーー……っと、とりあえず自己紹介しないかい?私はドロカーン。見ての通りカジートだよ。」

 

 あまりに収拾がつかない感じになってしまったので、ドロカーンが強引に話題を変えてしまった。

 それに促される形で私が口を開く。

 

 「私はファイザル。ハイエルフの女だ。」

 

 「私はシズクです!ウッドエルフです!」

 

 オークはまだ少し混乱気味だったようだが、意を決したように少し姿勢を正した。

 

 「私は――」

 

 そして、綺麗に45°の角度でお辞儀をした。

 

 「村田五郎と申します。」

 

 なんか草。

 

 だってさぁ、筋骨隆々のオークが村田五郎って名乗ったら面白いでしょ。(失礼)

 ドロカーンは少し困ったように笑う。

 

 「くくく……それは、この世界では少々目立つ名前だね。」

 

 「…………。」

 

 村田五郎は固まった。

 

 「……やっぱりですか?」

 

 「うん。」

 

 「ですよねぇ……。」

 

 肩を落とすオーク。

 

 確かに。

 リバーウッドの村人に、「初めまして、村田五郎です」と名乗る2mのオーク。

 

 ……どう考えても面白い。

 

 一度やってみて欲しい。

 なんならMODの力でパッツンパッツンのスーツと黒ぶち眼鏡を掛けて、名刺を出しながら挨拶してほしい。

 

 「それなら、ゲームで使っていた名前はどうだい?」

 

 ドロカーンが言った。

 

 「ゲーム?」

 

 「君がこの世界に来る前に遊んでいたスカイリム。そのキャラクターにつけていた名前さ。」

 

 「あ……。」

 

 村田――いや、オークの男が目を見開く。

 

 「そういえば……。」

 

 「覚えているかい?」

 

 「もちろんです。」

 

 オークは少し考え込む。

 

 「キャラクターの名前は……。」

 

 そして、ぽつりと呟いた。

 

 「ラゴウ……ですかね……?」

 

 なにそれめっちゃ強そうじゃん。

 いかつい見た目に超似合ってるじゃん。

 

 「うん。それなら、この世界でも十分通用する。」

 

 ドロカーンが頷く。

 

 「少なくとも、『村田五郎』よりはずっと自然だ。」

 

 「ですよね。」

 

 オーク改めラゴウはほっとしたように胸を撫で下ろす。

 

 「では、これからはその名前を名乗るといい。」

 

 「分かりました。」

 

 彼は大きく頷いた。

 

 「そういえば……”誰かさん”は私が転生した時には、そんなアドバイスくれなかったですよねー」

 

 「う。」

 

 じっとシズクのジト目が私に向けられる。

 

 「…………。」

 

 私はそっと視線を逸らした。

 そういえば、シズクが転生したばかりの頃、私は名前について何も言わなかった。

 

 その結果――。

 

 「…………。」

 

 シズクは今も転生前の名前をそのまま使っている。

 

 「……ごめん。」

 

 「遅いです。」

 

 即答だった。

 

 「本当に今さらですね。」

 

 「いや、あの時は色々と余裕がなくてだな。」

 

 「言い訳です。」

 

 「はい。」

 

 反論できない。

 すると、そんな私たちのやり取りを見ていたラゴウが、困ったように笑った。

 

 「……なんだか、すみません。」

 

 「ラゴウさんは悪くないですよ。」

 

 シズクが即座に答える。

 

 「悪いのはファイザルさんです。」

 

 「うう。」

 

 ぐうの音も出ない。

 そんな時だった。

 

 ――ぐうぅぅぅぅぅ……

 

 ぐうの音が出ました。

 盛大な腹の音が鳴る。

 

 「しょうがないので許します!」

 

 やったぁ許されたよ。

 シズクはパッと表情を明るくして、両手を合わせる。

 

 「晩御飯の準備をしましょう!」

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 「さて。」

 

 私は焚き火を起こす。

 リバーウッドの川辺。

 少し離れた場所では村人たちが行き交い、穏やかな夕暮れの空気が流れている。

 その傍らで、私たちは簡単な調理を始めた。

 ちなみに足りない分(1人分)のブルックバスは近くの漁民から買った。

 ついでに私の小ぶりなブルックバスはシズクの大きめのブルックバスと交換してもらった。

 やったぁ。

 

 さて、まずは下処理をするとしよう。

 

 鱗を取り、腹を裂いて内臓を取り出す。

 水で綺麗に洗い流したら、布で表面の水分を拭き取る。

 

 そして塩を振る。

 

 ――ぱらぱらぱら。

 

 白い粒が魚の表面へ落ちていく。

 こういう魚は、余計なことをしない方が美味いんだ。

 

 串に刺したブルックバスを、焚き火の脇へ並べる。

 

 じりじりと火に炙られる魚。

 焦げる香ばしい匂いが周囲に充満する。

 

 皮に含まれた脂が熱で溶け出し、ぱちぱちと小さな音を立てる。

 

 ――じゅう……。

 

 ――じゅううぅ……。

 

 表面の皮が少しずつ縮み、銀色だった鱗が、こんがりとした焼き色へ変わっていく。

 

 そして。

 

 ――ぽたっ。

 

 魚から落ちた脂が火へ落ちる。

 

 ――ぼっ。

 

 炎が一瞬だけ大きくなる。

 

 「わぁ……。」

 

 シズクが目を輝かせる。

 

 「いい匂いですね……。」

 

 「ああ。」

 

 私も思わず息を吸い込む。

 香ばしい。

 焼けた魚の皮。

 脂。

 そして、塩。

 

 それだけなのに。

 不思議なほど食欲を刺激する。

 

 「そろそろいいかな。」

 

 私は串を一本抜き取る。

 

 焼き上がったブルックバス。

 

 表面はこんがりと焼けている。

 ところどころ皮が裂け、その隙間から白い身が覗いている。

 湯気と一緒に、魚の香りがふわりと立ち上った。

 

 「熱いから気をつけて。」

 

 私はそう言いながら、シズクへ手渡す。

 

 「ありがとうございます!」

 

 シズクは両手で受け取った。

 そして――。

 

 「いただきます!」

 

 ぱくっ。

 

 「…………!」

 

 シズクの背筋がぴんとした。

 

 「美味しいです!」

 

 「そうか。」

 

 「皮がパリパリしてて、中がふわふわです!」

 

 シズクが嬉しそうに頬張る。

 

 「なんというか、優しい塩味が骨身にしみるような気がするよ。」

 

 ドロカーンは爺臭いことをいってる。

 私も自分の分を手に取った。

 

 熱っつ。

 

 息を吹きかけながら、焼けた皮へ齧り付く。

 

 ――ぱりっ。

 

 皮が割れる音。

 噛んだ瞬間。

 ふわりと身がほどける。

 

 淡白な白身。

 

 そこへ、塩の味がじわりと広がる。

 噛みしめるほどに魚の旨味が出てくる。

 脂は決してしつこくない。

 むしろ、塩気と一緒になることで魚そのものの味が際立っている。

 

 そして、皮。

 香ばしく焼けた皮を噛むと、じゅわりと脂が滲み出した。

 

 「…………。」

 

 私は思わず目を閉じる。

 

 ――魚の塩焼き。

 

 ただそれだけだ。

 ただ、魚に塩を振って焼いただけ。

 

 なのに。

 

 「…………懐かしい。」

 

 ぽつりと、言葉が漏れた。

 

 日本にいた頃。

 

 夕飯の食卓に並んでいた魚。

 焼き網から漂う香り。

 皮が焦げる匂い。

 

 大根おろし。

 白いご飯。

 味噌汁。

 

 そんな光景が、ふっと頭の中に浮かんだ。

 

 もう二度と戻れない場所。

 転生してから、もう随分と長い時間が経った。

 

 この世界での暮らしにも慣れた。

 

 魔法にも。

 モンスターにも。

 ドラゴンにも。

 

 そして――。

 

 この身体にも。

 

 それでも。

 こういう何気ない味を口にすると。

 ほんの一瞬だけ、前の世界を思い出す。

 

 「……。」

 

 私はもう一口、魚の身を口へ運んだ。

 

 塩気。

 魚の旨味。

 香ばしい皮。

 そして、温かな脂。

 

 なんてことのない料理なのに。

 

 心に沁みる。

 

 「……美味しいですね。」

 

 隣から声がした。

 見ると、ラゴウもおいしそうに食べていた。

 大きな手で魚を持ち、ゆっくりと身を噛みしめている。

 

 その表情は――。

 

 少しだけ、寂しそうだった。

 

 「……昔、かぁちゃんが焼いてくれた塩焼きを思い出します。」

 

 「…………。」

 

 私とラゴウの視線が合う。

 

 「……やっぱり?」

 

 「はい。」

 

 ラゴウが小さく笑った。

 

 「味は全然違うんですけどね。」

 

 「そうだな。」

 

 「でも……なんというか。」

 

 ラゴウは焼き魚を見つめる。

 焼き魚の香りが、夕暮れの川辺に漂っている。

 

 「こういう味って、ずるいですよね。」

 

 「わかる。」

 

 私は空を見上げる。

 夕焼けの美しさはニルンも地球も変わらない。

 

 故郷を思い出すのは、少しだけ寂しい。

 

 けれど。

 

 こうして遠く離れた異世界の地でも故郷を思い出すことができるのは――。

 

 それほど悪いことではないのかもしれない。




今回もいつも通りパロディネタ&スカイリム界隈ネタ盛りだくさんです。
ちなみに、MOD製作者の方やパロディ元になった方に怒られた場合はアカウントごと爆破しますので、危険物を見るような気持ちで楽しんでいただけたら幸いです。
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我輩は寄生虫である(作者:ナスの森)(原作:バイオハザード)

名は「Ne-α」寄生体プロトタイプである。


総合評価:4234/評価:8.59/連載:9話/更新日時:2026年08月23日(日) 00:31 小説情報

五線譜と密造酒 ――1920年のアメリカ世界で、百年先の音楽を弾く(作者:生サーモン)(オリジナル歴史/文芸)

むせ返るような安葉巻の煙と、密造ウイスキーの甘ったるい匂い。▼のり弁を食べていたはずのしがない現代のDTMトラックメイカーは、気づけば1920年、冬のニューヨークで目を覚ましていた。▼手元にあるのは47ドルの全財産と、調律の狂った安物のピアノ。そして「イタリア系移民の無名作曲家」という、社会の底辺の肩書きだけだ。▼強欲な出版社にわずかな小銭で曲を買い叩かれ、…


総合評価:20383/評価:8.3/完結:20話/更新日時:2026年07月07日(火) 20:03 小説情報

転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします(作者:メスシリンダーガキ)(オリジナルファンタジー/コメディ)

俺は平凡なサラリーマン、ある日なんか異世界に転生して、なぜか女悪魔になってしまっていた。▼だから、せっかくなのでロールプレイを楽しみます。▼なんか天秤の悪魔って呼ばれるようになりました。


総合評価:18329/評価:8.69/短編:34話/更新日時:2026年08月22日(土) 18:48 小説情報

神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。(作者:スレ主)(原作:幼女戦記)

「もし生まれ変わるなら、魔法少女リリカルなのは『みたいな』世界を! ついでにレイジングハート『みたいな』最高の相棒(AI)と、可愛い幼馴染もセットでお願いします!」▼死の間際、俺が神様に放った精一杯の強欲な願い。▼目覚めた俺の脳内(システム)に、聞き覚えのある凛とした声が響く。▼『……マスター。再起動を確認。……セットアップ、オールグリーン。……全力でサポー…


総合評価:26938/評価:8.67/連載:41話/更新日時:2026年07月30日(木) 12:29 小説情報


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