スカイリムCC:釣り師の痴人 作:アーマーブレイク大好きおじさん
ウィンドヘルム。
スカイリム最古の都市とされる街。
北東部のイーストマーチ地方を治める、ウルフリック・ストームクローク首長の居城がある場所だ。
街を取り囲む城壁は、長い年月と厳しい冬に耐え抜いてきたかのように、黒ずんだ石肌をさらしていた。
その上には分厚い雪が積もり、ところどころに垂れ下がった氷柱が、鈍い光を放っている。
城壁の向こうに見えるのは、急勾配の屋根が連なる街並み。
重厚な石造りの建物と、古びた木造家屋がひしめき合い、その奥には、ひときわ大きな建物がそびえていた。
王の宮殿。
古代ノルドの様式を色濃く残すその威容は、遠目からでも街の象徴であることを主張している。
長い歴史を積み重ねてきた都市。
その風格には、なるほど、と頷かされるものがあった。
……もっとも、景観をじっくり楽しむには、少々寒すぎるのだが。
吹きつける風が頬を撫で、吐き出した息が白く解けていく。
空はどんよりと曇り、街を覆う雪と石壁の色も相まって、全体的にひどく重苦しい印象を受けた。
その向こうから、潮の香りがかすかに漂ってくる。
ウィンドヘルムは内陸の街ではない。
北の海に面した港を抱え、交易によって人と物が行き交う都市でもある。
とはいえ、この寒さだ。
港の景色を楽しむのは、明日にしたいところである。
雪と氷に覆われた城壁を見上げながら、私は小さく息を吐いた。
リフテンからは、それなりの距離がある。
サイレントアバランチ(馬)で飛ばしてきたのだが、流石に疲れた。
そうそう、今回シズクはお留守番です。
ウィンドヘルムは、ドーンスターの比にならないぐらいノルド以外に厳しい街なのだ。
わざわざ面倒事に巻き込む必要もないだろう。
それに今回の仕事は――……少しいわく付きなのだ。
☆★☆★☆★☆★
私はサイレントアバランチ号を馬屋に預けた後、城門へと近づいた。
門の脇には、武装した衛兵が二人。
分厚い毛皮の外套に身を包み、寒風に耐えながら、出入りする者たちへ鋭い視線を向けている。
そのうちの一人が、こちらに気づいた。
まずは私の顔。
次に、尖った耳。
そして、赤と黒を基調とした鎧と、頭に載せた笠。
……うん。そうだね。見るところが多いね。
衛兵は特に何かを言うこともなく視線を戻した。
どうやら、通行を止められることはないらしい。
じゃ、お邪魔しますね。
私は門をくぐる。
ウィンドヘルムの街路は、想像していた以上に重厚な雰囲気だった。
道の両側には、黒ずんだ石壁を持つ建物が立ち並んでいる。
木材を組み合わせた壁や、雪の残る急勾配の屋根。
建物の隙間からは、さらに奥へと続く街路が覗いている。
石畳の端には、踏み固められた雪がまだ残っている。
日中のわずかな暖かさで表面だけが溶けたのか、ところどころ黒ずんだ水たまりになっていた。
空を見上げれば、薄い雲が広がっている。
雪が降っているわけではない。
かといって、日差しが暖かいわけでもない。
夕方を迎えるにはまだ少し早い時刻だが、太陽の光が弱いせいか、街全体が薄暗く感じられた。
つまり……
(おーさむっ。)
この都市、気温低すぎじゃない?
だがそんな私の考えをよそに、通行人たちは何事もない様子で行き交っていく。
荷車を引く男。
店先に商品を並べる商人。
厚手の衣服に身を包み、足早に急ぐ者たち。
街路には、それなりに人通りがあった。
雪深い土地とはいえ、街の暮らしは普段どおりに営まれているらしい。
そんな人々の間を、私はゆっくりと進んでいく。
……と、視線を感じた。
顔を向けると、道端に立っていた黒い長髪のみすぼらしいノルドの男と目が合った。
男は私の顔を見て、それから耳へと視線を移す。
さらに、鎧や笠を眺め、最後に胸へと目を向けた。
スケベじゃん。
それはさておき。
私は再び前を向き、街路を進んだ。
首長からの依頼を受けている以上、いずれは王の宮殿へ顔を出す必要がある。
しかし、今すぐ向かうべきかといえば、そうでもない。
馬を走らせてきたせいで、私もそれなりに疲れている。
あとお腹も空いた。
執政に話を通す前に、まずは一息つくべきだろう。
当然、大きな街には宿屋がある。
ゲームで見たときよりも、ずっと広く感じられるウィンドヘルムの通り。
私は見覚えのある街並みと、記憶にない建物を見比べながら、宿屋の看板を探した。
やがて目に入ったのは、木造の建物から煙突の煙を立ち上らせる、一軒の宿屋だった。
”キャンドルハース・ホール。”
ウィンドヘルムを訪れた旅人や、仕事帰りの住民たちが集まる場所である。
外からでも、人の話し声が聞こえてきた。
扉の隙間からは、暖かな橙色の光が漏れている。
私は扉を押し開けた。
――ギィ……
途端に暖かな空気と薪の燃える匂いが流れ込んでくる。
長い間、外の冷気に曝されていた身体には、それだけでありがたかった。
壁際では暖炉の火が揺れ、その周囲には食事を楽しむ客や、酒を片手に談笑する者たちの姿があった。
窓の外から差し込む光は弱く、室内の明かりがいっそう暖かく感じられる。
いいね。
〈ファイザルさんが宿屋にいいね!をつけました〉
こういう場所で飲む温かいスープは、きっと格別だろう。
そんなことを考えながら、私はカウンターへ向かった。
そこにいたのは、一人のノルドの老女だった。
彼女は私の姿を見るなり、ほんのわずかに眉を動かした。
「……いらっしゃい。食事かしら?」
声音は普通だ。
けれど、その視線は私の尖った耳へ、じろりと向けられた。
「ああ。食事と、それから一晩泊まりたい。」
「ふうん」
女性――夜明けのエルダは、あまり面白くなさそうに相槌を打った。
「わざわざこんな北の果てまで来るなんて、物好きなエルフもいたもんね」
「まぁね。」
モノ好きとはよく言われるんですよね。
結構、人を見る目はあるみたいだ。
「そうかい。まあ、ここじゃ余計な騒ぎを起こさないことだね。あんたたちの同族には、何かと厄介な連中もいるからね」
エルダはそう言って、カウンターの上を軽く拭いた。
なるほど。
サルモールのことだろう。
サマーセット諸島とヴァレンウッドを中心に、エルスウェアの諸王国も勢力下に置くアルドメリ自治領。
その支配を担うのが、ハイエルフを中心とした組織――サルモールである。
……まあ、簡単に言えば、エルフの選民思想をこじらせた連中である。
もちろん、組織に属する者が全員、同じ思想を持っているわけではない。
とはいえ、サルモールの大多数が人間を見下すような態度を取り、エルフこそがタムリエルを支配すべきだと考えているのも、また事実だった。
そして、ここスカイリムでは、彼らは特に嫌われている。
理由の一つは、タロス信仰だ。
かつて帝国とアルドメリ自治領の間で勃発した大戦。
その終結に際して結ばれた白金協定によって、帝国内ではタロス信仰が禁じられることになった。
タロスとは、かつて人間として生まれ、やがて9番目の神(エイドラ)となったとされる存在である。
ノルドにとっては、単なる信仰の対象というだけではない。
彼らの歴史や誇りにも深く結びついた神なのだ。
そんな神への信仰を禁じられたのだから、当然、面白いはずがない。
しかも、白金協定の締結後、サルモールはタロス信仰を取り締まるため、帝国内での活動を認められていた。
つまり、ノルドの目から見れば、自分たちの神への信仰を禁じた帝国。そして、その取り締まりにやってくるサルモール。
どちらも、愉快な相手ではないだろう。
ちなみにストームクロークが帝国に反旗を翻した理由にも、この問題が深く関わっている。
重ねて言うが、サルモールの中心にいるのは、私と同じ種族のハイエルフ。
……うん。
そりゃあ、警戒もされるよね。
私自身はサルモールとは何の関係もないのだけれど、尖った耳だけで、向こうからすれば十分に疑う理由になるらしい。
アメリカ人からしたら日本人は皆サムライで忍者だと思っているのと同じなんだろう。
違うんだけどなあ。
というか、毎度思うのだけど、このMODを盛に盛りまくった白い肌のRaceMenu産の私(ハイエルフ)ってちゃんとハイエルフだって分かるんですね。
たまげたなあ。
「大丈夫大丈夫。」
「ふぅん……」
エルダは素っ気なく答えた。
「食事は何にする? 泊まるなら、先に料金も払っておくれ」
「何か温かいものを。あと、宿は一晩。」
「はいはい。席は空いてるところを使いなさい。」
私は軽く頷き、そのままカウンター席に、ゆっくりと腰を下ろした。
……うん。
ちょっと嫌味を言われた気もするけれど、食事も宿も問題なく用意してもらえるらしい。
なら、いいや。
さて。
何が来るかな?
☆★☆★☆★☆★
やがて、カウンターの向こうから濃厚で優しい香りが漂ってきた。
クリームの甘い香り。
そこにバターの芳醇な香りと、魚介の旨味を思わせる潮の香りが重なっている。
……おぉ
これは、期待できそうだ。
「はい、お待ちどうさま。クラムチャウダーよ」
エルダが、大きな器を私の前に置いた。
「今朝、港に上がった貝を使ってるの。寒い日は、こういうのが一番よ」
先ほどまでの素っ気ない態度とは裏腹に、料理について語る声には、どこか自信が感じられた。
なるほど。
自信作というわけか。
私は器の中を覗き込んだ。
表面からは、白い湯気がふわりと立ち上っている。
淡いクリーム色のスープには、ぷっくりとした貝の身がいくつも浮かび、ジャガイモやニンジン、玉ねぎといった野菜がごろりと顔を覗かせていた。
スプーンですくえば、スープはとろりと重たく流れ落ちる。
……うん。
こういうの、いいね。
〈ファイザルさんが料理にいいね!をつけました〉
――ゴクリッ。
思わず生唾を飲み込んだ。
見た目だけでも十分に美味しそうなのに、香りがまた反則的だ。
クリームのまろやかさに、貝の旨味を予感させる潮の香り。
これを前にして、食べるなというほうが無理だろう。
「では、早速いただこう。」
私はスプーンを手に取り、たっぷりとスープをすくった。
――とぷ……。
まず、一口。
……ああ。
まず舌を包み込むのは、クリームのまろやかな甘みだった。
けれど、それだけでは終わらない。
すぐ後から、貝の旨味がじわりと広がってくる。
海の香りをほのかに残しながらも、生臭さはない。
貝から溶け出した出汁が、クリームのコクと見事に調和していた。
さらに、バターの豊かな風味とハーブの爽やかな香りが、後味をすっきりと整えている。
……うまい。
思わず、頬が緩みそうになった。
いや、待て。
まだ具材を食べていないぞ!
私はスプーンを動かし、今度は貝を一つ口に運んだ。
ぷりっ、とした弾力。
噛みしめると、貝の身から濃い旨味がじゅわりと滲み出した。
その塩気がクリームの甘みを引き立て、もう一口、と自然に食が進む。
続いて、ジャガイモ。
しっかりと煮込まれたそれは、スプーンで軽く押すだけでほろりと崩れた。
ほくほくとした食感に、スープがたっぷりと染み込んでいる。
玉ねぎの柔らかな甘み。
ニンジンの素朴な風味。
それらを包み込む、濃厚なクリーム。
具材を一つ口に運ぶたび、スープの印象が少しずつ変わっていく。
ただの汁物ではない。
貝の旨味を中心に、野菜と乳製品のコクが幾重にも重なった、食べるスープだ。
しかも、熱い。
冷たい風にさらされ、すっかり冷え切った身体に、温かなスープが染み渡っていく。
喉を通るたび、胸の奥から腹の底へと、温もりが広がっていった。
ああ……。
生き返る。
やっぱり、寒い土地で食べる温かい料理は格別だ。
私は黙々とスプーンを動かした。
二口、三口。
気がつけば、器の中身はずいぶんと減っている。
……なんだか、減るのが早くない?
おかしい。
さっきまで、あんなにたくさん入っていたはずなのに。
まあ、いいや。
美味しいものは、食べられるうちに食べるべきである。
私は残ったスープをすくい、最後の一口をゆっくりと口へ運んだ。
クリームのコク。
貝の旨味。
そして、身体の芯まで温めてくれる優しい熱。
名残惜しい。
実に名残惜しい。
けれど、いつまでもスプーンを舐めているわけにもいかない。
……いや、やろうと思えばできるけど。
そんな誘惑を振り切り、私はスプーンを置いた。
器は、すっかり空になっていた。
「……ごちそうさま。」
思わず、そんな言葉が漏れる。
満足だった。
胃袋だけではない。
寒さで強張っていた身体も、すっかり落ち着いている。
いい店だな、ここ。
私は空になった器を前に、しばらく余韻に浸っていた。
すると。
「……へえ」
カウンターの向こうから、声がした。
顔を上げると、エルダがこちらを見ていた。
その表情は、先ほどまでとは少し違っている。
相変わらず愛想がいいとは言い難いものの、尖った耳を値踏みするような視線は、いつの間にか薄れていた。
「ずいぶん、いい食べっぷりじゃないの」
「美味しかったからね。」
私は素直に答えた。
「貝の出汁がしっかり出ていて、クリームとの相性もいい。野菜の火の通し方もちょうどよかった。」
「……あら。ずいぶんと詳しいのね」
「まぁね。」
そう答えると、エルダは小さく鼻を鳴らした。
「ふぅん……」
口調は相変わらずぶっきらぼうだ。
けれど、先ほどのような棘は感じられなかった。
「おかわりが欲しけりゃ、言いなさい。まだ鍋に残ってるわ」
……お。
おかわり、あるんですか。
私は思わず、鍋のある方向へ視線を向けた。
「もっと欲しい。」
「はいよ」
エルダは短く返事をすると、器を手に取り、鍋の中の温かなご馳走を入れてくれる。
「ほら、おかわりだよ」
――ことり。
再び、私の前に置かれる器。
白い湯気がふわりと立ち上り、クリームと貝の香りが鼻をくすぐった。
「ありがとう。」
「はいはい。熱いから気をつけな」
私は軽く頭を下げてから、スプーンを手に取った。
「おーいエルダさーん。エールのお代わり!」
「はいはい、今行くよ!」
慣れた足取りでカウンターを離れ、別の客のもとへ向かっていく。
私はその背中を見送った。
さて、二皿目。
今度は少しゆっくり味わおう。
……いや、やっぱり本能の赴くままに食べるのが礼儀なのだろうか?
そんなことを考えながら、私は熱々のスープを口へ運んだ。
周囲では、客たちの話し声が絶え間なく続いている。
誰かが酒の味を褒め、別の誰かが仕事の愚痴をこぼす。
時折、陽気な笑い声が上がり、暖炉の薪がパチリと音を立てた。
窓の外は、相変わらず薄暗い。
けれど、ここには寒さも、旅の疲れも、ひとまず忘れさせてくれる温もりがあった。
私はスプーンを動かしながら、ぼんやりと店内を見回した。
さっきまでは、少しばかり居心地が悪かったのだけれど。
今は、そうでもない。
エルダも、先ほどほど露骨にこちらを警戒している様子はない。
周りの客たちも、私の耳を気にすることなく、それぞれの時間を過ごしていた。
まあ、全員がそうとは限らないのだろうけど。
それでも、今この場所において、私は異物ではなさそうだった。
ただの旅人として、温かい食事を楽しむ。
それだけでいい。
……うん。
キャンドルハース・ホール。
なかなか、いい宿屋じゃないか。
私は二皿目のクラムチャウダーを、心ゆくまで堪能することにした。