元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日一度目の投稿です。
18時頃に二度目の投稿を行います。


Chapter4 地下 Part2

 異形が去った後も、地下駐車場には重苦しい静寂が漂っていた。

 

 レオンはショットガンを下ろし、大きく息を吐く。

 

「助かった……」

 

 次郎も周囲へ視線を巡らせる。

 

「まだ油断しない方がいい」

 

「あれだけの化け物が一体だけとも限らない」

 

「了解」

 

 レオンは頷くと、管理室へ向かって声を掛けた。

 

「もう大丈夫です!」

 

 扉がゆっくりと開き、店長たちが姿を現す。

 

 マービンは二人の無事を確認すると、小さく息を吐いた。

 

「さすがだな」

 

「……怪物相手によく戦った」

 

 その時だった。

 

 カツン――。

 

 地下駐車場の奥から、硬い靴音が静かに響く。

 

 全員が一斉に振り向く。

 

 暗闇の中から、一人の女性がゆっくりと姿を現した。

 

 赤いジャケット。

 

 黒いパンツ。

 

 短く切り揃えられた黒髪。

 

 その右手には拳銃が握られている。

 

 女性は次郎たちを一瞥すると、落ち着いた口調で言った。

 

「安心して」

 

「撃つつもりはないわ」

 

 レオンは拳銃を構えたまま問い掛ける。

 

「あなたは?」

 

 女性は薄く微笑む。

 

「エイダ・ウォン」

 

「FBI捜査官よ」

 

 名乗ると同時に、彼女はFBIの手帳を左手で取り出して見せる。

 

 そして、先程の異形が逃げた方角へ視線を向けた。

 

「今の化け物……あれで倒せたの?」

 

 レオンは首を横へ振る。

 

「いえ、逃げられました」

 

「だから、また現れると思います」

 

 エイダは静かに頷く。

 

「そう」

 

「なら、時間はあまりないわね」

 

 次郎は一歩前へ出る。

 

 リボルバーは下ろしたものの、警戒は解かない。

 

「FBIが、ここへ何をしに?」

 

 エイダは視線だけを次郎へ向けた。

 

「人を探しているの」

 

「名前はベン」

 

 レオンは首をかしげた。

 

「ベン……?」

 

「その人は、どういう?」

 

 エイダはレオンの反応を確かめるように一瞬だけ見つめた。

 

「新聞記者よ」

 

「この警察署の留置場に拘留されているはず」

 

 レオンは驚いたように目を見開く。

 

「留置場に?」

 

「ええ」

 

 エイダは静かに頷く。

 

「彼なら、この事件について何か知っている可能性がある」

 

「だから会いに来たの」

 

 レオンは次郎へ視線を向けた。

 

「アリスさん」

 

「まずは留置場へ向かいましょう」

 

 次郎はエイダから視線を外さないまま、小さく頷く。

 

「ああ」

 

 その仕草。

 

 視線。

 

 立ち位置。

 

 どれを取っても隙がない。

 

(FBI……か)

 

(少なくとも、ただの捜査官じゃない)

 

 次郎は心の中で警戒を強める。

 

 エイダもまた、その視線に気付いていた。

 

 二人は何も言わない。

 

 しかし互いに、相手が只者ではないことだけは理解していた。

 

 重い沈黙を破ったのはマービンだった。

 

「今は協力できる者は多い方がいい」

 

「留置場なら、この先だ」

 

 レオンは頷き、ショットガンを握り直した。

 

「巡査部長は生存者の護衛をお願いします」

 

「了解した」

 

 エイダは小さく微笑む。

 

「案内をお願いするわ」

 

 

 

 地下駐車場には、再び静寂が戻っていた。

 

 先頭を歩くのは次郎。

 

 その後ろにレオンとエイダ。

 

 薄暗い照明の下、コンクリートの床を靴音だけが静かに響いていく。

 

 レオンは周囲を警戒しながら、小声で尋ねた。

 

「エイダさん、そのベンって記者は、どうして拘留されていたんですか?」

 

 エイダは前を向いたまま答える。

 

「政府やアンブレラについて危険な記事を書いていた人物よ」

 

「警察に保護されていたのか、それとも拘束されていたのかは分からない」

 

「でも、彼なら事件について何か知っているはず」

 

 レオンは静かに頷いた。

 

「だからFBIが動いているんですね」

 

 エイダは否定も肯定もしなかった。

 

 その曖昧な態度を見て、次郎は警戒を解かない。

 

(話の筋は通っている)

 

(だが、すべてを話しているわけでもなさそうだ)

 

 そんなことを考えていると、エイダがふいに口を開いた。

 

「あなた」

 

 視線は次郎へ向けられていた。

 

「名前は?」

 

 次郎は歩みを止めずに答える。

 

「有栖次郎」

 

 エイダは一瞬だけ考えるような表情を浮かべる。

 

「……アリスね」

 

「そう。よろしく、アリス」

 

 次郎は訂正しなかった。

 

 以前から外国人にはよくあることだった。

 

 名字の「有栖」を名前だと思われる。

 

 説明するのが面倒で、そのままにしている。

 

 レオンも笑みを浮かべる。

 

「自分はレオン・S・ケネディです」

 

「よろしく」

 

 レオンは後ろから声を掛ける。

 

「アリスさん、先の様子はどうですか?」

 

 次郎は苦笑しながら振り返った。

 

「今のところ異常はない」

 

 誰も悪気はない。

 

 外国人には「アリス」が名前に聞こえる。

 

 有栖次郎で名乗っても次郎有栖で名乗っても、結局「アリス」で呼ばれる。

 

 それを何度も経験してきた次郎は、今さら訂正する気にもならなかった。

 

 渾名だと思えば良い。

 

 やがて一行は、重い鉄格子の前へたどり着く。

 

 その向こうには留置場へ続く通路が伸びていた。

 

 照明は点滅し、不気味な静けさが漂っている。

 

 次郎はリボルバーを握り直した。

 

「この先だ」

 

「警戒して進もう」

 

 全員が頷き、ゆっくりと留置場へ足を踏み入れた。 

 

 

 

 留置場へ続く通路は、不気味なほど静まり返っていた。

 

 点滅する照明が、鉄格子の影を床へ長く落としている。

 

 先頭を歩く次郎は、リボルバーを構えたままゆっくりと進む。

 

 そのすぐ後ろをレオンとエイダが続く。

 

 やがて通路の突き当たりにある監視室が見えてくる。

 

 ガラス越しに室内を確認するが、人影はない。

 

「クリア」

 

 次郎が小さく告げる。

 

 一行は監視室へ入った。

 

 机の上には食べかけのコーヒーと書類が散乱している。

 

 つい先ほどまで誰かがいたような光景だった。

 

 レオンは留置場の見取り図を見つける。

 

「この先ですね」

 

 エイダは無言で頷き、奥の鉄格子へ視線を向けた。

 

 次郎は鍵束を確認する。

 

 監視室の壁には留置場の鍵が掛けられていた。

 

 一本ずつ照合し、目的の鍵を見つける。

 

 「開けます」

 

 鍵穴へ差し込む。

 

 カチャリ。

 

 重い音を立て、鉄格子の錠が外れた。

 

 ギィィ……

 

 ゆっくりと扉が開く。

 

 その先には左右へ留置房が並ぶ長い通路が続いていた。

 

 「誰かいるか!」

 

 レオンが呼び掛ける。

 

 返事はない。

 

 しばらく進んだその時――

 

 「……おい」

 

 低い男の声が響いた。

 

 全員が足を止める。

 

 声は一番奥の留置房から聞こえてくる。

 

 鉄格子の向こうには、一人の中年男性が立っていた。

 

 無精ひげを生やし、疲れ切った表情を浮かべている。

 

 それでも瞳には理性が残っていた。

 

 「やっと生きてる人間が来たか」

 

 「それも、こんなにたくさん」

 

 男は皮肉っぽく笑う。

 

 レオンは鉄格子へ駆け寄った。

 

 「あなたがベンですか?」

 

 男はレオンを見て肩をすくめる。

 

 「そうだ。ベン・ベルトリッチ」

 

 「新聞記者さ」

 

 エイダは一歩前へ出た。

 

 「あなたには聞きたいことがあるわ」

 

 ベンはエイダを見ると、小さく目を細める。

 

 「エイダ・ウォンか」

 

 「……前から思っていたが。あんた、ただのFBIじゃないな」

 

 エイダは表情を変えない。

 

 「質問に答えて」

 

 ベンは苦笑した。

 

 「そう焦るな」

 

 「俺だってここから出たいんだ」

 

 「その代わり、取引しようじゃないか」

 

 次郎は黙ったまま周囲を警戒する。

 

 薄暗い留置場には、まだ何かが潜んでいるような嫌な気配が漂っていた。

 

 そして、その気配は少しずつ、一行へ近付いていた。

 

 

 

 エイダは鉄格子の前まで歩み寄る。

 

 「取引?」

 

 ベンは肩をすくめた。

 

 「ああ」

 

 「ここから出してくれ」

 

 「そうしたら、アンブレラが何をやってきたのか全部話してやる」

 

 レオンが眉をひそめる。

 

 「アンブレラが?」

 

 ベンは皮肉げに笑う。

 

 「そうさ」

 

 「この街がこんな地獄になった原因だ」

 

 「連中は何年も前から――」

 

 その時だった。

 

 ゴゴゴッ……。

 

 留置房の奥の壁が、小さく震えた。

 

 次郎の表情が変わる。

 

「全員、下がって!」

 

 叫ぶと同時に、自らも一歩後退する。

 

 ベンが振り返る。

 

 「……何だ?」

 

 次の瞬間。

 

 ドゴォォンッ!!

 

 壁が爆発するように砕け散った。

 

 粉塵とコンクリート片が留置房内へ飛び散る。

 

 瓦礫の中から、異様に肥大化した巨大な腕が勢いよく突き出された。

 

 「なっ――!」

 

 ベンが叫ぶ暇もなかった。

 

 巨大な手がベンの頭部を鷲掴みにする。

 

 「た、助け――」

 

 ベキィッ!!

 

 鈍く湿った音が留置場へ響いた。

 

 次の瞬間、ベンの頭部は握り潰され、鮮血が鉄格子へ飛び散る。

 

 力を失った身体が、その場へ崩れ落ちた。

 

 レオンは思わず目を見開く。

 

 「そんな……!」

 

 エイダも息を呑む。

 

 瓦礫の向こうでは、巨大な人影がゆっくりと身を引いていく。

 

 次郎はリボルバーを構え、照準を向けた。

 

 しかし、煙と粉塵の向こうに見えた異形は、そのまま壁の奥へ姿を消してしまう。

 

 静寂が戻る。

 

 残されたのは、無残なベンの亡骸だけだった。

 

 レオンは唇を噛み締める。

 

 「あと少しだったのに……」

 

 エイダは崩れ落ちたベンを見つめながら、小さく呟く。

 

 「口封じ……」

 

 次郎は壁に開いた大穴へ視線を向けたまま、静かに言った。

 

 「さっき駐車場で戦った化け物だ」

 

 「あいつはまだ、この周辺を動き回っている」

 

 重苦しい沈黙が流れた。

 

 誰も口を開かない。

 

 留置房の床には、ベンの亡骸だけが横たわっていた。

 

 やがて、エイダが静かに息を吐く。

 

 「……ここには、もう用はないわ」

 

 レオンは悔しそうに拳を握る。

 

 「この事件の真相について、聞けると思ったのに……」

 

 次郎は壁に開いた大穴から視線を外さず、耳を澄ませていた。

 

 瓦礫が崩れる音も、足音も聞こえない。

 

 異形は完全に姿を消している。

 

 「戻ろう」

 

 短くそう告げると、先頭に立って来た道を引き返し始めた。

 

 三人は監視室を抜け、地下駐車場へ戻る。

 

 管理室の前では、マービンと店長が生存者たちを落ち着かせていた。

 

 店長は三人の姿を見るなり駆け寄る。

 

 「アリス!」

 

 「無事だったか!」

 

 「何とか」

 

 次郎は小さく頷いた。

 

 マービンも三人の表情を見比べる。

 

 「……駄目だったか」

 

 レオンは静かに俯く。

 

 「ベンさんは亡くなりました」

 

 「話を聞く寸前でした」

 

 マービンは目を閉じ、深く息を吐く。

 

 「そうか……」

 

 「また一人、守れなかったか」

 

 エイダは腕を組み、静かに口を開く。

 

 「それでも収穫はあったわ」

 

 レオンとマービンが視線を向ける。

 

 「ベンは死ぬ直前、アンブレラがこの事件に関わっていると言っていた」

 

 「そしてもう一つ」

 

 「駐車場のカードキーは、彼が持っていたわ」

 

 レオンは驚いたように顔を上げた。

 

 「カードキーを?」

 

 エイダは頷く。

 

 「ええ。でも留置房に閉じ込められたせいで、自分でも取り出せなくなっていた」

 

 「カードキーは留置房の中にある」

 

 「ただし、電子制御が故障していて鉄格子を開けられない」

 

 マービンは腕を組み、記憶をたどるように呟く。

 

 「そういうことか……」

 

 「電子ロックを復旧させれば、カードキーを回収できるわけだな」

 

 次郎は静かに頷く。

 

 「電子制御なら、電子部品が必要になる」

 

 レオンもすぐに理解した。

 

 「つまり、先に電子部品を集めて留置場の制御盤を直す」

 

 「それからカードキーを回収するんですね」

 

 「その通りよ」

 

 エイダは静かに答えた。

 

 「私は別の手掛かりを探すわ」

 

 「ここから先は別行動にする」

 

 レオンが驚いて振り返る。

 

 「一緒に行かないんですか?」

 

 エイダは小さく微笑む。

 

 「私には私の目的があるもの」

 

 「また会いましょう、アリス」

 

 「レオン」

 

 そう言い残し、地下通路の暗闇へ姿を消していった。

 

 その背中を見送りながら、レオンはショットガンを握り直す。

 

 「アリスさん」

 

 「まずは電子部品ですね」

 

 次郎はリボルバーのシリンダーを開き、残弾を確認して静かに閉じる。

 

 「ああ、カードキーは場所が分かった」

 

 「後は留置場を開けるだけだ」

 

 マービンも力強く頷く。

 

 「生存者たちは俺が守る」

 

 「二人とも、頼んだぞ」

 

 「了解」

 

 二人は地下駐車場を後にし、再び警察署へ続く階段を上り始めた。

 

 目的は明確だった。

 

 留置場の電子ロックを復旧させ、ベンが残したカードキーを回収すること。

 

 そのための電子部品を探す探索が、再び始まった。

 

 そして、その警察署のどこかでは、新たな脅威が静かに目を覚まそうとしていた。

 

 

――Chapter4・完――

 




エイダと初対面で銃を突きつけあっていない為、レオンがエイダに敬語を使っています。
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