元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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気づいたら100話を超えていました。
皆様ありがとうございます。
本日一度目の投稿です。


Chapter5 テンペスト Part1

 空母全体を揺るがすほどの、異様な震動が走った。

 

 次の瞬間。

 

 カーラの肉体が、完全に崩壊した。

 

 人間としての形を失った肉塊は、白い泥のようなゲルへと変わり、甲板から船体内部へと一気に流れ込んでいく。

 

 ズズズズズッ――!

 

 恐ろしい速度だった。

 

 床を這い、壁を伝い、天井へと広がる。

 

 まるで巨大な生物そのものが、空母全体を食らおうとしているかのようだった。

 

「来るわ!」

 

 エイダが叫ぶ。

 

 壁から、巨大な触手が突き出した。

 

 次郎はアサルトライフルを構え、迫り来る泥の塊へ向けて連射する。

 

 ダダダダダッ!

 

 エイダも拳銃を撃ち込む。

 

 銃弾が次々とゲル状の肉体へ食い込んでいく。

 

 だが――

 

 効いていない。

 

 撃ち抜かれた肉壁は、一瞬で形を取り戻した。

 

 穴が塞がる。

 

 裂け目が閉じる。

 

 破壊された部分そのものが、まるで何事もなかったかのように再生していく。

 

「単発では止められないか」

 

「……厄介ね」

 

 次郎は撃ちながら後退する。

 

 普通の生物ならば致命傷になるはずの攻撃が、今のカーラには何の意味も持たない。

 

 完全にゲル状へ変化した肉体。

 

 その全体がカーラの身体であり、どこを撃っても瞬時に再生してしまう。

 

 しかも――

 

 速い。

 

 廊下の奥から押し寄せてくる泥の速度が、徐々に増していく。

 

「走るわよ!」

 

「ああ!」

 

 二人は同時に駆け出した。

 

 だが、その先でも逃げ道を塞ぐように泥が膨れ上がった。

 

 壁が蠢く。

 

 天井が歪む。

 

 そして――

 

 ボコォッ!

 

 壁の至る所から、巨大な顔が次々と形成された。

 

 それは人間の顔だった。

 

 エイダと同じ顔。

 

 巨大な目が二人を睨みつけ、大きく開いた口が迫ってくる。

 

「私の顔を使うなんて……趣味が悪いわね」

 

 エイダが銃を構える。

 

「同感だ」

 

 次郎も銃口を上げた。

 

 巨大な顔が二人を飲み込もうと迫る。

 

「不思議ね」

 

「他人に言われると、とても腹が立つわ!」

 

「すまん、他意はない!」

 

 二人の銃口が同時に火を噴いた。

 

 ダダダダダッ!

 

 パン! パン! パン!

 

 眼球。

 

 額。

 

 口の奥。

 

 そして、肉体の中心にある異様な塊へ。

 

 次郎とエイダは互いの射線を妨げることなく、狙いを集中させて撃ち続ける。

 

 巨大な顔が蜂の巣になる。

 

 白い泥が飛び散り、巨大な口が歪んだ。

 

 ギィィィィィッ――!

 

 まるで悲鳴のような音が廊下に響く。

 

「今よ!」

 

 二人は一気に走り出した。

 

 巨大な顔が怯んでいる僅かな隙を利用し、侵食されていく廊下を全力で駆け抜ける。

 

 しかし――

 

 逃げ込んだ先にも、すでに白い泥が押し寄せていた。

 

「……行き止まりか」

 

 次郎が足を止める。

 

 前方の廊下は完全に塞がれていた。

 

 左右の壁からも泥が溢れ、背後からもカーラが迫ってくる。

 

 逃げ場がない。

 

「アリス!」

 

「分かってる」

 

 次郎は周囲を見回した。

 

 そして――

 

 壁際に設置された大型のタンクへ目を向ける。

 

 表面には、液体窒素を示す表示。

 

 強固な配管とバルブに覆われた、巨大な液体窒素タンクだった。

 

 次郎は一瞬で状況を理解した。

 

「液体窒素ね」

 

「ああ」

 

「使える?」

 

「試す価値はあるだろ」

 

 二人は互いに視線を交わした。

 

 次郎がアサルトライフルを構える。

 

 エイダも拳銃を構えた。

 

 押し寄せる泥が、二人へ迫る。

 

「もう少し……」

 

 次郎は狙いを定める。

 

「今だ!」

 

 二人は同時に銃を撃った。

 

 狙ったのは、液体窒素タンクへ繋がる結合部。

 

 ガンッ!

 

 金属が弾ける。

 

 直後――

 

 シュオオオオオオオッ!!

 

 凄まじい勢いで、超低温の液体窒素が噴き出した。

 

 白い冷気が一瞬で廊下を満たしていく。

 

 押し寄せていたカーラの肉体が、その冷気に触れた。

 

 ビキビキビキッ――!

 

 白いゲルが急速に硬化する。

 

 表面が真っ白に染まり、内部まで凍りついていく。

 

 ギィィィィィィッ!!

 

 空母全体に、悲鳴のような音が響き渡った。

 

 再生していた肉壁が止まる。

 

 蠢いていた泥が、完全に動きを失った。

 

 凍結によって、カーラの再生能力が完全に停止したのだ。

 

「今しかないわ!」

 

 エイダが叫ぶ。

 

 次郎は一歩踏み込んだ。

 

 そして――

 

「ふっ!」

 

 全身の力を乗せた強烈な蹴りを、凍りついた肉壁へ叩き込んだ。

 

 ドゴォンッ!!

 

 凍結した肉壁に亀裂が走る。

 

 次の瞬間――

 

 ガシャァァァン!!

 

 ガラスのように粉々に砕け散った。

 

 開いた穴から、二人が一気に飛び出す。

 

「走れ!」

 

「ええ!」

 

 その直後だった。

 

 船内に警報が鳴り響いた。

 

『――総員退避! 船体各所で重大な損傷を確認!』

 

 遠くで爆発音が轟く。

 

 ドォォォン!!

 

 続けて別の場所でも爆発が起こった。

 

 ドォン! ドォォン!!

 

 巨大空母そのものが大きく揺れる。

 

「沈むわよ!」

 

「ああ!」

 

 二人は格納庫へ向かって走った。

 

 しかし、その途中。

 

 前方の通路から武装した兵士たちが駆けてきた。

 

「敵だ!」

 

「撃て!」

 

 ネオアンブレラの兵士たちが一斉に銃を構える。

 

 次郎は足を止めた。

 

 銃撃が飛んでくる。

 

 ダダダダダッ!

 

 次郎は身体を捻って弾丸をかわしながら、腰の刀を抜いた。

 

 次の瞬間には、敵陣の中へ踏み込んでいる。

 

 振り下ろされた銃床を刀で受け流し、返す刃で一人を斬り伏せる。

 

 続けて横薙ぎ。

 

 さらに踏み込み、柄で一人の顎を打ち抜く。

 

 倒れた兵士の銃を奪おうとした別の兵士には、振り向きざまの斬撃を叩き込んだ。

 

 その動きには一切の無駄がない。

 

 数秒後。

 

 通路には、倒れた兵士たちだけが残っていた。

 

「行くぞ!」

 

「ええ!」

 

 二人が走り出した――その直後だった。

 

 背後から、何かを引きずるような音が響く。

 

 ズズズズズ……。

 

 次郎が振り返る。

 

 通路の奥から、白い泥が押し寄せてきていた。

 

 そして、その先には先ほど倒した兵士たちがいる。

 

 兵士の一人が立ち上がろうとした。

 

 だが、その足元から白い泥が絡みつく。

 

「な、なんだ、これ!」

 

 別の兵士が銃を乱射する。

 

 ダダダダダッ!

 

 しかし、泥は止まらない。

 

 足。

 

 腰。

 

 胸。

 

 瞬く間に身体全体へ絡みつき、兵士を包み込んでいく。

 

「助け――」

 

 声が途切れた。

 

 兵士の姿が白い泥の中へ消える。

 

 さらに別の兵士も飲み込まれた。

 

 次郎とエイダは、その光景を目の当たりにする。

 

「……食ってたわね」

 

 エイダが呟く。

 

「ああ」

 

 次郎は刀を握り直した。

 

 だが、ここで戦い続ければ二人も飲み込まれる。

 

「行くぞ!」

 

「ええ!」

 

 二人は格納庫へ向かって走った。

 

 背後からは、カーラが兵士たちを飲み込みながら迫ってくる。

 

 やがて、格納庫へ飛び込んだ。

 

 その先には、エイダが確保していた脱出用のヘリがあった。

 

 エイダが乗り込む直前、次郎へ振り返る。

 

「アリス」

 

「なんだ?」

 

「私はこれからシモンズのところへ向かうわ」

 

 エイダは操縦席へ視線を向けた。

 

「そこで決着をつけるつもりよ」

 

 次郎は僅かに考えた。

 

 自分の目的は、すでに達成している。

 

 巨大空母へ潜入し、ウイルスの供給元であるネオアンブレラとカーラの最期を確認した。

 

 それならば、ここで別れるという選択肢もある。

 

 だが――

 

 次郎は崩壊していく空母を見渡した。

 

「ここで乗らなかったら、俺はこの船と一緒に沈むわけだな」

 

「そうなるわね」

 

 エイダが答える。

 

 次郎は肩をすくめた。

 

 最初から選択肢は一つしかない。

 

「仕方ない。乗りかかった船だ」

 

 そしてヘリへ乗り込む。

 

「最後まで付き合おう」

 

 エイダは僅かに笑った。

 

「そう言ってくれると思ったわ」

 

 二人が乗り込んだ直後、ローターが回転を始める。

 

 エイダが操縦桿を握った。

 

 ヘリが格納庫から飛び出す。

 

 その瞬間――

 

 ドゴォォォン!!

 

 背後で巨大な爆発が起こった。

 

 凄まじい爆風が二人の乗るヘリを揺さぶる。

 

「離れるわ!」

 

 エイダが機体を上昇させる。

 

 だが――

 

 崩壊していく空母から、白い泥が盛り上がった。

 

 カーラは、まだ終わっていなかった。

 

 巨大な触手が伸びる。

 

 さらに一本。

 

 そしてもう一本。

 

 何本もの触手が、執拗にヘリを追ってくる。

 

「しつこいわね!」

 

 エイダが機体を旋回させる。

 

 その先で、巨大な顔が形成された。

 

 エイダの顔を模した異形の顔が、大きく口を開いてヘリへ迫る。

 

「アリス!」

 

「ああ!」

 

 次郎はヘリに積まれていたロケットランチャーを手に取った。

 

 肩に担ぎ、迫り来る巨大な顔へ照準を合わせる。

 

 距離を測る。

 

 狙いを定める。

 

 そして――

 

「あばよ、地獄で会おうぜ」

 

 ドシュッ!

 

 発射されたロケット弾が一直線に飛ぶ。

 

 次の瞬間。

 

 ドゴォォォォン!!

 

 巨大な顔が爆炎に包まれた。

 

 白い肉塊が吹き飛び、伸びていた触手が力を失い、泥となって海へ落下していく。

 

 エイダが操縦桿を引いた。

 

 ヘリは炎上し、崩壊していく巨大空母から一気に離脱する。

 

 次郎は後方を振り返った。

 

 巨大空母は、至る所から黒煙を噴き上げながら沈み始めている。

 

 カーラの白い肉塊も、崩壊する船体と共に海へ飲み込まれていった。

 

 やがて、空母は闇の海へと姿を消した。

 

 次郎は前を向く。

 

「それで、これからどこへ向かう?」

 

 エイダは操縦しながら答えた。

 

「達芝(ターチィ)……」

 

「シモンズがいる場所よ」

 

 エイダは前方を見据える。

 

「私は、そこでシモンズと決着をつける」

 

 次郎は黙って頷いた。

 

 ヘリは夜空を切り裂き、崩壊する巨大空母を後にして飛び去っていった。

 

 




この章で無双みたいになっている一つの理由は第四章までは次郎が訓練をある程度サボっていたという裏設定があります。
云うて、現ではなく元殺し屋ですからね。
戦う予定もないのに馬鹿みたいに訓練はしない。
それが政府にスカウトされて公務員になって家族もいる訳です。
訓練にも身が入ります。

そしてヘリに乗り込むシーンではエイダに協力するという選択肢が一つしかない選択肢画面が表示されるイメージです。
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