元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日一度目の投稿。


Chapter5 テンペスト Part3

 クアッドタワー最上部。

 

 崩壊した建物の一角に広がる広場で、レオンとヘレナは銃を構えていた。

 

 二人の視線の先に立つ男。

 

 ディレック・C・シモンズ。

 

 衣服は裂け、全身は傷だらけ、身体の至る所から血が流れている。

 

 それでも、その立ち姿から放たれる威圧感は衰えていなかった。

 

「シモンズ……!」

 

 レオンが銃口を向ける。

 

 ヘレナも隣で銃を構えた。

 

 シモンズは二人を睨みつける。

 

 その表情には、追い詰められた者の焦りなどなかった。

 

 あるのは、ただ異様な執念だけだった。

 

 その時――

 

 轟音が頭上から響いた。

 

「……!」

 

 レオンが空を見上げる。

 

 一機の攻撃ヘリが、崩壊したビル群の間から姿を現した。

 

 機体はそのまま広場へ急接近すると、空中で大きく姿勢を変え、ホバリングへ移行する。

 

 ローターが巻き起こす猛烈な風が、広場に残る瓦礫や粉塵を吹き飛ばした。

 

 ガンナー席には、次郎。

 

 操縦席には、エイダ。

 

 二人はファミリーの攻撃ヘリ部隊をすべて撃墜し、ここまでたどり着いていた。

 

 シモンズはヘリを睨みつける。

 

 そして――

 

 機体から降りることなく、こちらを見下ろす女の姿を認めた。

 

「……エイダ……!」

 

 その声が震えた。

 

 次の瞬間。

 

「エイダァァァァッ!!」

 

 シモンズが狂ったように叫ぶ。

 

「なぜ私から逃げる! なぜ私を拒む!」

 

 傷だらけの身体を震わせながら、シモンズは叫び続ける。

 

「私はお前のために、すべてを捨てた! お前のために世界を変えようとした! お前さえ私のもとへ戻れば、すべてをやり直せるというのに!」

 

 その言葉を聞いたエイダの表情が露骨に歪んだ。

 

 嫌悪。

 

 それ以外の感情はなかった。

 

「……本当に、反吐が出るほど気持ち悪い男ね」

 

 冷たい声だった。

 

 次郎も呆れたようにシモンズを見る。

 

「同感だ。ストーカーのスケールがデカすぎて同情するよ」

 

「何だと……?」

 

 シモンズの顔が引きつる。

 

 自分の妄執を完全に否定されたことが、最後に残っていた理性すら打ち砕いた。

 

「分かったような事を」

 

「貴様は、エイダとどういう関係だ……!」

 

 シモンズの身体が震え始める。

 

 筋肉が膨張する。

 

 骨が軋む。

 

 皮膚の下で何かが蠢いた。

 

「……来るわよ」

 

 エイダが操縦桿を握る。

 

 次の瞬間。

 

 シモンズの身体が大きく膨れ上がった。

 

 メリメリと肉が裂ける音が響く。

 

 腕が巨大化し、脚が太くなる。

 

 背中が盛り上がり、全身を覆うように異形の肉塊が形成されていく。

 

 顔面までもが変形し、人間の面影が失われていった。

 

 そして――

 

 巨大な肉食恐竜を思わせる姿へと変貌する。

 

 ティラノサウルスを彷彿とさせる巨体。

 

 その身体の一部には、不自然に隆起した肉塊が脈打っている。

 

「グオオオオオオオオオッ!!」

 

 咆哮がクアッドタワー全体を震わせた。

 

「来るぞ!」

 

 レオンが叫ぶ。

 

 巨大化したシモンズが地面を蹴った。

 

 瓦礫を吹き飛ばしながら、レオンとヘレナへ突進してくる。

 

 同時に、その巨体が上空のヘリへも向きを変えた。

 

「アリス!」

 

「ああ、分かってる!」

 

 エイダが機体を横へ滑らせる。

 

 左側のハッチは開け放たれていた。

 

 次郎の射界を確保するためだ。

 

 エイダは機体を大きく傾け、そのまま横向きに近い姿勢でホバリングする。

 

 猛烈な風圧が機内へ吹き込んだ。

 

 次郎はハッチから身を乗り出す。

 

 眼下には、こちらへ突進してくる巨大な怪物。

 

「そこだ」

 

 次郎はミニミ軽機関銃を構えた。

 

 照準が怪物の頭部を捉える。

 

 引き金を引く。

 

 ――ダダダダダダダダッ!

 

 凄まじい銃声が轟いた。

 

 弾丸の雨がシモンズの巨体へ降り注ぐ。

 

 頭部。

 

 首。

 

 そして、身体の各所に露出した肉塊。

 

 次郎は狙いを変えながら、猛烈な弾幕を浴びせ続ける。

 

 巨大な怪物が咆哮する。

 

 だが、次郎の射撃は止まらない。

 

 エイダも機体を巧みに操り、常に次郎の射界へ怪物を捉え続ける。

 

 地上では、レオンとヘレナが怪物の攻撃をかわしながら反撃する。

 

 上空から次郎が弾丸を叩き込み、地上から二人が攻撃を加える。

 

 シモンズとの最後の戦いが、始まった。

 

 ◇

 

 レオンとヘレナは、巨大化したシモンズの猛攻をかわしながら、屋上を駆け回っていた。

 

 シモンズは巨体を振り回し、鋭い爪を叩きつける。

 

 そのたびにコンクリートが砕け、瓦礫が宙へ舞い上がる。

 

 だが、二人も黙って追い詰められているわけではない。

 

 攻撃の隙を狙って銃弾を叩き込み、シモンズの動きを止めていく。

 

 上空からは次郎の援護射撃が続いていた。

 

「そこ!」

 

 ヘレナが叫ぶ。

 

 レオンがその隙を逃さず、シモンズへ銃弾を叩き込む。

 

 さらに次郎のミニミが火を噴いた。

 

 ――ダダダダダダダダッ!

 

 弾丸が巨大な肉体を穿つ。

 

 シモンズが大きくよろめいた。

 

 レオンとヘレナは、その隙に距離を取る。

 

「今だ、ヘレナ!」

 

「ええ!」

 

 二人が一斉に攻撃を集中させる。

 

 シモンズの巨体が屋上の端まで追い詰められた。

 

 だが――

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 シモンズは咆哮を上げた。

 

 その身体から、さらに異様な変化が始まる。

 

「……何だ?」

 

 レオンが警戒する。

 

 シモンズの肉体が膨張する。

 

 周囲に散らばっていた肉塊へ触手のような組織が伸び、それらを次々と取り込んでいく。

 

 崩れた建物の壁面。

 

 屋上に残された巨大な肉塊。

 

 そのすべてを貪るように吸収しながら、シモンズの身体がさらに巨大化していく。

 

「まだ変異するの……!?」

 

 ヘレナが息を呑む。

 

 肉が蠢く。

 

 骨格が変形する。

 

 巨大な翼のような器官が形成され、頭部も大きく変貌していく。

 

 やがて――

 

 そこに立っていたのは、もはや人間でも恐竜でもなかった。

 

 巨大なハエを思わせる、異形の怪物。

 

 巨大な複眼。

 

 歪に肥大化した頭部。

 

 全身を覆う不気味な肉塊。

 

 そして、その身体の奥で脈動する巨大なコア。

 

「グギィィィィィィィッ!!」

 

 怪物が耳をつんざくような咆哮を上げた。

 

 羽音が屋上全体を震わせる。

 

「まだやる気か……!」

 

 レオンが銃を構え直す。

 

 怪物が飛び上がった。

 

 巨大な身体が屋上を蹂躙する。

 

 その直後――

 

「アリス、狙える?」

 

「ああ」

 

 エイダは機体を旋回させた。

 

 巨大なハエ型シモンズを正面に捉える。

 

 そして、次郎が射撃しやすいよう、機体を横向きに滑らせた。

 

 左側のハッチ、次郎の前方に、遮るものはない。

 

「このまま維持するわ」

 

「頼む」

 

 エイダはホバリングを維持する。

 

 怪物がこちらへ向かってくる。

 

 次郎はミニミを構えた。

 

 照準の先には、巨大な頭部。

 

 複眼。

 

 そして、その奥で脈打つコア。

 

「食らえ」

 

 引き金を引き絞る。

 

 ――ダダダダダダダダダダッ!!

 

 ミニミが猛烈な勢いで弾丸を吐き出す。

 

 凄まじい弾幕が上空から降り注いだ。

 

 複眼を撃ち抜く。

 

 頭部を削る。

 

 そして、露出したコアへ次々と弾丸を叩き込む。

 

「ギィィィィィッ!!」

 

 ハエ型シモンズが激しく身をよじる。

 

 次郎は構わず撃ち続ける。

 

 エイダも機体を微調整しながら、常にシモンズを次郎の射界へ収め続けていた。

 

 地上では、レオンとヘレナが攻撃の隙を狙う。

 

 次郎の弾幕によって動きを止められたシモンズへ、二人の攻撃が集中する。

 

 怪物が大きくよろめいた。

 

 その瞬間――

 

 ガシャリ。

 

 ミニミから、乾いた金属音が響いた。

 

「……弾切れか」

 

 次郎が銃を見る。

 

 弾倉は空だった。

 

 同時に――

 

 ピィィィィィッ!

 

 コックピットから甲高い警告音が響いた。

 

「燃料警告……!」

 

 エイダが計器へ目を向ける。

 

 燃料計の針は、ほとんど底を指していた。

 

 これまでの戦闘で繰り返した急旋回。

 

 急上昇。

 

 急降下。

 

 そして、過酷な加速。

 

 機体は限界まで酷使されていた。

 

「もう保たないわ」

 

「着陸できるか?」

 

「やってみるわ!」

 

 エイダは操縦桿を握り込んだ。

 

 エンジンの回転が落ちる。

 

 ローターの回転速度も徐々に低下していく。

 

 機体が大きく揺れた。

 

 眼下には崩壊寸前の屋上。

 

 そして、その中央にはヘリポートが残っている。

 

「そこへ降りる!」

 

 エイダは機体を滑らせる。

 

 ハエ型シモンズがこちらへ飛びかかってくる。

 

 エイダは機体を急旋回させ、その攻撃を紙一重でかわした。

 

 そのまま機首をヘリポートへ向ける。

 

 高度が落ちる。

 

 速度も落ちる。

 

「――今よ!」

 

 エイダが操縦桿を引いた。

 

 ヘリの脚がヘリポートへ接触する。

 

 激しい衝撃。

 

 機体が跳ねる。

 

 それでもエイダは強引に機体を押さえ込み、そのまま屋上へ滑り込ませた。

 

 完全な不時着だった。

 

「降りるぞ!」

 

 次郎がミニミを捨てる。

 

 エイダもシートベルトを外した。

 

 二人は一瞬たりとも無駄にしない。

 

 ハッチから屋上へ飛び出した。

 

 直後。

 

 役目を終えたヘリは、力を失ったローターをゆっくりと止めていった。

 

 次郎は腰の鞘から刀を抜いて周囲を警戒する。

 

 エイダもクロスボウを構えた。

 

 少し離れた場所では、レオンとヘレナがこちらを見ている。

 

 四人の視線が交差した。

 

「アリス!」

 

 レオンが叫ぶ。

 

「元気そうだな、レオン」

 

 次郎が短く答える。

 

 

 四人の前で、シモンズはなおも変異を続けていた。

 

 巨大なハエのような異形。

 

 そして、次の瞬間には人間の姿へ戻る。

 

 だが、それは正常な人間の姿ではない。

 

 身体の一部を異形のまま残した、歪な人間形態だった。

 

 変異と回帰を繰り返しながら、シモンズは四人へ襲いかかる。

 

「エイダ……!」

 

 濁った声が響く。

 

「なぜ私のもとを去った……!」

 

 人間の姿へ戻ったかと思えば、次の瞬間には再び巨大な異形へと変貌する。

 

「私がお前のために、今までどれだけの物を犠牲にしてきたと思っている!」

 

 巨大な腕が振り下ろされる。

 

 レオンとヘレナが左右へ飛び退いた。

 

 床が砕ける。

 

「お前は私のものだ!」

 

 シモンズが再び人間の姿へ戻る。

 

 その顔は怒りと妄執に歪んでいた。

 

「なぜ私を拒む! なぜ私から逃げるのだ!」

 

「……いい加減にしてくれ」

 

 次郎が吐き捨てる。

 

 レオンとヘレナが攻撃の機会を窺う中、次郎はシモンズを冷ややかに見据えていた。

 

 他人の色恋沙汰に口を挟むつもりはないが、いい加減に鬱陶しい。

 

 相手の意思など一切考えず、自分の感情だけを一方的に押し付ける。

 

 拒絶されても、それを理解しようとすらしない。

 

 次郎は刀を鞘へ収めた。

 

 そして、シモンズを真正面から見据える。

 

「そんなふうに自分の感情を一方的に押し付けるから、人が離れるんだ」

 

 シモンズの動きが止まった。

 

「……何だと?」

 

「相手が望んでいないなら、身を引くことくらい考えろ」

 

 次郎の声は静かだった。

 

「自分の気持ちだけを押し付けて、それで相手が振り向くと思うな」

 

 静かな声だった。

 

 だからこそ、その言葉は容赦なくシモンズの胸を抉った。

 

 国家の中枢にいた男としてのプライド。

 

 エイダへの歪んだ執着。

 

 自分なら相手に受け入れられて当然だという思い込み。

 

 そのすべてを否定された気がした。

 

「貴様……!」

 

 シモンズの顔が怒りに歪む。

 

「私に説教をするつもりか!」

 

 身体が膨張する。

 

 骨が軋み、肉が蠢く。

 

「エイダを何も知らない貴様に……!」

 

 咆哮。

 

 シモンズが巨大な異形へ変貌すると同時に、屋上の床を蹴った。

 

 凄まじい速度だった。

 

 巨大な質量が、次郎だけを狙って一直線に迫ってくる。

 

「アリス!」

 

 エイダが叫ぶ。

 

 だが、次郎は動かない。

 

 逃げるどころか、腰を深く落とした。

 

 右手が刀の柄へ添えられる。

 

 左手の親指で鍔を押し上げ、鯉口を切る。

 

 静かだった。

 

 目の前には、巨大な怪物。

 

 それでも次郎の視線は揺らがない。

 

 ただ、迫り来る敵だけを見据える。

 

 シモンズの巨体が、さらに近づく。

 

 あと数メートル。

 

 あと数歩。

 

 そして――

 

 激突する、その瞬間。

 

 次郎の姿が消えた。

 

 殺し屋として叩き込まれた神速の体捌き。

 

 巨体の進路から紙一重で身体を外し、その側面を駆け抜ける。

 

 同時に――

 

 閃光。

 

 夜空を切り裂くような一閃が走った。

 

 ザシュゥゥッ!

 

 重い肉を断ち切る音が響く。

 

 次郎はそのまま数歩進み、静かに刀を鞘へ収めた。

 

 カチン。

 

 振り返り、残心。

 

 直後、シモンズの巨体が大きく傾いた。

 

 側面から大量の鮮血が噴き出す。

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

 深々と刻まれた斬撃。

 

 致命傷には届かないが、強固な変異肉体を深く断ち切った傷は、シモンズの動きを完全に鈍らせた。

 

 勢いのまま数メートルを滑った巨体が、屋上へ叩きつけられる。

 

 轟音。

 

 瓦礫が舞い上がった。

 

「悪いが、お前みたいなデカい奴の相手は得意なんだ」

 

 次郎は刀を鞘に収めたまま、倒れたシモンズを見下ろした。

 

 




刀を出したからには、居合は書きたいですよね。
イメージはモンハンの居合抜刀気刃斬りです。
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